庄司 浩一(しょうじ こういち)
その場反転プラウの設計と展開 写真は当時のもので、センターのC温室をベースに実験していた2004年頃です。耕うん方法の一種であるプラウ(犂)がけをすると、土が上下反転しながら右側へ寄ってしまいます。広い畑ならまだしも、狭い水田では土を寄せなおす手間がネックで犂が衰退した一因といわれていました。土が寄らないようにするには、土が反転中に宙に浮かせて裾払いをかませばよいと先人たちは試みましたが、結果はよく詰まって実用に耐えなくなるのがほとんどでした。そこで考え方を変え、一定速度で走行させて慣性で反転させてしまうシンプルな構造を提案しました。センターの土のように粘土を多く含むと土が崩れずにきれいに反転しましたが、砂の多い六甲の土ではなんとなくの結果でした。ですが2015年にナミビアに渡航したとき、南アフリカ製のハロープラウ(一本の軸に椀型のディスクを連ねて少し斜めに配置したもの)が、完全な砂地でその場反転風の仕上がりになることを発見して愕然としました。 研究としては単純に機械側からのみアプローチしたため、作物側から見た応用面での展開をできずに単なる試作に終わったのが大きな反省点でした。その場反転プラウの経験をもとに、耕うん機(2輪トラクタ)用の一発畝立て機(Disc ridger)を製作して栽培試験、単純な亀裂発生装置(チゼルプラウ)を試作してダイズ生育中に根を切る実験を行うなどの共同研究を行っています。
コンバインに搭載する収量センサの開発 穀物の収量は乾燥調製してからでないと計算できないのが常識でしたが、コンバイン上で穀物の流量を測れれば、GPSなど測位装置と組み合わせて収量をマップ化できると1990年頃から欧米で研究開発が始まりました。現代でいうスマート化のはしりです。一筆の面積が小さい日本ではマップ上で収量の高低を表現するよりも、水田ごとに正確な収穫量を測るほうに特化しようと考えました。穀粒タンクに大きな電子天秤(ロードセル)をつければよいとすぐ思いつきますが、構造変更や大型ロードセル価格の問題があります。そこで穀粒タンクに吐き出される穀粒の一部を小型ロードセル(納得のいく形を自分で削って作りました)につけた板に当て、その衝撃を収穫量に換算する方式をとりました。その後農機メーカーと共同研究を進め、2015年に市販化されました。写真は2007年頃、センターのコンバイン予備機に収量センサを磁石で付けただけの状態で実験しているところです。農家出身ながらコンバインの運転は初心者だったため、踏み倒したイネを無理やり刈り取ろうとして石を多く拾ってしまい、籾摺機が壊れそうだと技術員さんらからお叱りをうけた実験でした。 現在は上記の力学的なセンサに代わり、安価なマイクロホン(実質はイヤホン)を用いた音響学的なセンサを開発し、収穫量のみならず水分や品質の推定ができないか試しています。
機械除草の研究-株間の雑草をどう引き抜くか この話に先立つ2000年頃、センターの水田の凸凹(最大で10㎝程度の差)が気になって調べると、深いところはタンパク質含有率が高い(食味が悪い)代わりに収量が高いことがわかりました。2011年に兵庫県がコウノトリ育む農法拡大のために、市販除草機の性能比較実験を篠山で実施しました。除草剤を打たない水田で典型的にみられるのが水生雑草のコナギです。水田の凸凹の経験から、浅・深に分けて調査してみると、写真の除草機のみが深いところでコナギがほぼゼロでした。難しい株間(除草機の進行方向に沿って現れるイネの株と株の間)でうまく除草できている証左です。作物への傷害を抑えながら雑草を防除できることを選択性といい、移植水田での株間の機械除草の場合は根の長さの違いを利用しています。写真のカゴ輪の前方に株間除草用の傾いた羽根車があるのですが、のちにわかったのは、水深が大きくなると水の抵抗で羽根車の回転が落ち、泥を引きずって雑草を引き抜く作用が増大する機構でした。それならと、羽根車の回転をモータで制御する実験も重ねたのですが、時を同じくしてほぼ同じ発想の除草機が市販されてしまいました。ちなみに現在は豊岡から離れたセンターの水田にもコウノトリが時々飛来します。彼らの餌となる小動物を増やせる無除草剤の水田も作っていこうと取組み中です。
不耕起栽培での田植機、播種機、除草機 水田では代かきをしない、畑地では耕うん整地をしない不耕起栽培は、日本でも1980~90年代に省エネや省力の観点から研究がなされましたが、広く普及には至りませんでした。FAOが保全農業(Conservation Agriculture)を推奨する現代では、土壌表面の攪乱を抑える不耕起栽培の意義が改めて見直される一方で、すでに不耕起栽培が必然的に行われるスポットがあります。干拓地での大型機械の沈下を防ぐために代かきをしない、有機水稲農家が上述のコナギ対策のために(酸素が多い環境では発芽しないため)不耕起にこだわるといった例です。そこで2018年に改めて既存の田植機に作溝装置(そのまま植えると浮き苗になるので)を追加した田植機を試作して試験場で栽培しました。少しずつ改良して2021年にはセンターで試行しましたが、栽培に慣れないこともあって逆にヒエ類の襲撃にあいました。現在は、オプション感覚で装着できる簡便な作溝装置を開発中です。ですが2022年、ついに何の改造もなしに不耕起移植に成功している人に出会いました...技術の奥は深い。