ごあいさつ―ドイツ語への招待―

ドイツ語は、ドイツだけでなく、オーストリア、スイス、リヒテンシュタインでも話されており、ヨーロッパ中央部のほぼ9,000 万人がドイツ語を母語としています。ヨーロッパのその他の大きな言語圏、たとえば英語(6,100 万人)、フランス語(5,900 万人)と比較すれば、ドイツ語人口がいかに多いかがわかるでしょう。
ドイツ語はヨーロッパの諸言語の中では英語、オランダ語、北欧の諸言語(フィンランド語を除く)と系統的には姉妹関係にあり、同じゲルマン語という似た性格を持っています。英語に一番近い言語、それがドイツ語なのです。しかし英語がブリテン島に嫁ぎ別の所帯を持ったのに対し、ドイツ語はゲルマン語家に伝わる古くからの伝統を保っています。英語がすでに忘れてしまったゲルマン語家の伝統を姉妹のドイツ語を通して学べば、英語の真の姿がよりよく見えてくるでしょう。
もとよりドイツ語は、英語と似た点も多いものの、まったく一緒という訳ではありません。語彙や文法に は重なるものもありますが、異なる点も少なくありません。表面的にはほぼ一緒のように見える表現や文法でも、実は使われ方が異なるケースも非常に多いのです。ですから英語の感覚のままでドイツ語を話すことはできません。したがって共通点ではなく、相違点に注目するのが、ドイツ語学習のコツだと言えます。また、たとえば語順においてドイツ語は、主文における動詞の位置を除けば、実は日本語と共通点も意外に多いのです。日本語・英語・ドイツ語を別々のものとして考えるのではなく、それぞれを比較しながら自分の言語能力全体を高めるのがもっとも望ましいでしょう。
一方、ヨーロッパ連合(EU )の諸国では近年、複数の言語が使用される社会を目標とする実用的な言語学習の開発が進みつつあります。ドイツ語圏の諸国でも、現代社会と言語学習に適したe-ラーニング教材、ネットテレビなどが非常に豊かになってきました。授業と教科書での学習のみならず、諸メディアをも積極的に利用すれば、そして何よりもハブ教室などでドイツ語圏から来ている留学生と交流すれば、日本でもドイツ語と日常的に触れ合う環境が自分でも作れます。また、そういう環境が整っているのが、大学という空間です。神戸大学でドイツ語を履修したことをきっかけに、ドイツ語を自分の得意言語にしてください。
ドイツ語は古くから、特に18世紀以降、哲学、芸術、医学、エンジニアリングなどの分野において学問の言語として中心的な役割を果たしてきました。現在は、ドイツ語圏の諸国がヨーロッパ統合の中心国として、環境、エネルギー政策、介護、少子化、外国人労働者など、日本にも共通の今日的な諸問題に先進国として取り組んでいます。ドイツ語を学びながら、現代世界のさまざまな問題について一緒に考えてみませんか。