学術セミナー・講演会

理学部生物学科・理学研究科生物学専攻の特別講義および関係するセミナー・講演会を紹介しています。

2012年度|2011年度2010年度2009年度2008年度

【生物学専攻・学術セミナー】

演 題: Pheromonal research in Drosophila: some answers and many questions
日 時:7月27日(木)午後3時30分~5時

講 師:Jean François Ferveur 博士(Universite de Bourgogne/CNRS)
場 所:理学部C棟1階116室

要 旨:
 30年来、キイロショウジョウバエを使ったフェロモン研究は、成虫が用いる接触化学的性フェロモンの特徴づけに始まる先駆的研究に端を発して、最近の、それらのフェロモン分子に対する受容タンパク質の発見へと発展してきた。 フェロモン交信に関係する研究は、フェロモンの産生とフェロモンの認識、の2方面から、分子生物学的、細胞学的、生化学的、生理学的、行動学的、審化学的アプローチを以て、様々な試行的実験により行われてきた。 発生の、あるいは、環境の影響が、炭化水素(成虫が用いる接触化学的性フェロモンの実体)の産生と、それらの受容認識における”柔軟性”を裏付けるしくみも、また、調べられてきた。 この2,3年は、cis-Vaccenyl acetate (cVA),(クチクラ体表面物質ではない、揮発性のフェロモン)に焦点を当てた研究が勢いよく進んできたが、一方で、不揮発性ないし難揮発性のフェロモンとして用いられるクチクラ体表ワックスに含まれる54炭化水素成分についての論文も発表されている。   ここに至って、多くの基本的な疑問が残されている:

  1. What is the exact role of pheromone in Drosophila speciation ?
  2. How can the pheromonal system which involves both the production and the perception of sensory signals, evolve without the communication between the sexes breaking down8 ?
  3. Do larvae also produce and respond to pheromones9 ?
  4. Can pheromone exposure during larval or early adult11 development change mature adult behavior ?

これらの疑問に関わる、最近の新知見について考え、ディスカッションしたい。

【生物学専攻・学術セミナー】

演 題:花弁を形作る分子機構
日 時:7月12日(木)午後3時~4時30分

講 師:武田 征士 博士(京都府立大学 生命環境科学研究科)
場 所:理学部C棟5階509室

要 旨:
 高等植物は美しい花をつけ、ハチなどの花粉媒介者や我々ヒトを惹き付ける。花器官の中で最も目立つのが花びら(花弁)であり、種によって様々な色や形をとる。花弁形成は、大まかに (1) 原基形成 (initiation)、(2) 原基成長 (growth)、(3) 急速な伸長 (elongation) の各プロセスに分ける事ができ、それぞれに関わる遺伝子がシロイヌナズナを中心に同定されてきている。 セミナーでは、花弁の形成メカニズムを段階的に理解する事を目的に、各プロ セスにどのような分子機構が関わっているのかを紹介し、花弁がどのように形 作られていくのかを考える。

【生物学専攻・特別講義】

「現代の生物学 I」
 光合成システムとしての葉を解剖する:
 なぜ柵状組織と海綿状組織があるのか?
 なぜ陽葉は陰葉より厚いのか?
 なぜ葉は緑色なのか?
日 時:2012年7月10日(火)13:30 ~

講 師:寺島 一郎 博士(東京大学理学系研究科・教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 光合成の場としての葉は複雑な構造をもっています。いわゆる「かたち」を観察するだけでは、葉の構造の意義を明らかにするのは困難です。私は、葉の内部の光合成環境(光吸収パタン、二酸化炭素濃度分布など)を測定して、それらとの関連において、葉の構造(細胞のかたち、葉の厚さ、そして色・・・)の意味を考えてきました。生物の示す興味深い現象を前に、「How? いったいどういうメカニズムでこれをやっているの?」と訊く事も大切ですが、「Why?いったいそもそも何でこんなことをやっているの」という疑問をもつことも大切です。私は、これらを車の両輪として、30年近くかけて、葉の光合成システムに切り込んで来たつもりです(あるいはドツボにはまったとも言えるかもしれませんが)。この講義/セミナーでは、そのいくつかを紹介して、議論をしたいと思います。

【生物学専攻・特別講義】

「現代の生物学 I」 小分子RNAの機能 ~遺伝子発現のセントラルドグマの新たな認識~
日時:平成24年6月29日13:20~(15:00~ 先端セミナー)

講師:齋藤 都暁 博士(慶應義塾大学医学部分子生物学教室・講師)
場所:理学部C棟509号室

要旨:
 RNA interference(RNAi)は、配列特異的に遺伝子発現を抑制する手法の一つとして広く利用されている。しかし、RNAiの発見の重要性はむしろ、発生や生殖細胞の維持などの高次生命現象にRNAi関連分子装置が必須の役割を果たすという発見につながった点にある。このメカニズムにおいて中心的な役割を果たす蛋白質はArgonaute (AGO)ファミリー蛋白質であり、microRNAを代表とする内在性小分子RNAと結合する。AGO蛋白質は結合した小分子RNAをガイド分子として利用し、RNAiと同様、標的遺伝子の発現を負に制御する。従来の遺伝子発現のセントラルドグマは蛋白質が作られるまでの正方向の流れを示している。しかし現在では、次々と内在性小分子RNAが発見され、それらの膨大な生理機能が明らかになっている。それに伴い、内在性小分子RNAによる負の制御カスケードの重要性が広く認知され、遺伝子発現のセントラルドグマの認識に変化が生じている。
  我々はAGOの分子機能研究過程で、モデル動物ショウジョウバエの生殖細胞で特異的に発現するAGOファミリー蛋白質群が、転移因子に由来する小分子RNA群と結合することが明らかにした。また、遺伝学的、生化学的解析から、小分子RNA及びAGO蛋白質が生殖細胞において転移因子の発現を抑制しゲノムの品質管理を担う因子であることを提唱した。この機構は動物及び植物においても広く保存されており、ゲノムの安定な次世代継承システムの一つと考えられる。本講義・セミナーでは、内在性小分子RNAが如何にして作られ、機能するかを、発見の歴史と技術的背景を含めて解説する。さらに、モデル動物ショウジョウバエを用いて我々が得た最近の知見を紹介し、小分子RNAが担う生理機能と作用機序を議論する。

【生物学科・特別講義】

「生物学のすすめ I, III」 生物学の博士号が活かせる意外な仕事:マーケティング会社の例
日 時:2012年6月22日(金)13:20 ~

講 師:羽原 靖晃 博士 (株式会社エム・シー・アンド・ピー・臨床研究サポートチームマネージャー/神戸大学 連携創造本部・客員教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 理科系の博士号を取得した方は、特定分野の専門家としての職業を選択する人が大半です。一方で、一部の方は、元々の自分の専門とは全く違う領域で、研究で培った能力を上手に使って仕事をされています。サイエンスライターや弁理士など、イメージしやすい職業もありますが、マーケティング・広告の業界での仕事はなかなかイメージしにくいと思います。この講義では、私の経験を例に紹介させていただく予定です。
 講義前半では、大学で行っていた研究(スプライシング反応)について、簡単に紹介します。その後、医薬品マーケティング会社の業務内容の説明、なぜそこに博士、研究歴のある社員が必要なのか、どのように活躍しているのかを、私自身の経験を交えてお話いたします。
 最先端の研究を行う過程で修得した能力である論理的思考力、既存資料(既知の事実)の調査分析能力、文章力、プレゼンテーション能力などは、ビジネスの世界で応用することも十分可能であり、特に企画力や調査力が問われる領域では力を発揮します。キャリアパスを考える上で一助となれば幸いです。

【生物学専攻・特別講義】

「現代の生物学 I」 植物の性型の進化と特殊な性型雄性両性異株の維持機構
日 時:2012年6月20日(水)13:20 ~

講 師:岡崎 純子 博士 (大阪教育大学・准教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 被子植物の示す性表現は、植物種群の多様性を生みだす重要な分類形質であるとともに、次世代を生み出す親としての繁殖戦略となっている。花の性は単純に雄花、雌花、両性花の3種類であるが、この3種の組合せについては個体レベル、種レベルでさまざまな組み合わせがあるだけでなく、その形態と機能の不一致や「性の揺らぎ」のような量的質的な変動が見られ、植物の繁殖生態を考える上で重要で興味深いテーマとなっている。
 このような性表現の多様性の具体例を示しながら、植物の性型の進化についての議論を紹介する。特に非常に稀な性型とされる雄性両性異株の進化について演者の研究を取り上げる。この性型はモデル的に進化条件が厳しいため、繁殖生態学者の間で一度はその存在が否定された。しかし、関西の里山に普通にみられる亜高木樹種マルバアオダモ(モクセイ科)で、この珍しい性型が見られることが明らかになった。この性型の研究史とその維持機構についての繁殖生態学的研究を紹介する。

【生物学科・特別講義】

「生物学のすすめ I, III」 高次脳機能のシステム的研究:サルのニューロン活動とヒトの脳機能発達
日 時:2012年6月8日(金)13:20 ~

講 師:辻本 悟史 博士 (神戸大学 人間発達環境学研究科・准教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 ヒトを含めた霊長類は、抽象的なルールや方略に基づいて、複雑な社会や環境に柔軟に適応することができる。このような高次の脳機能には、大脳新皮質、特に前頭前野が重要な役割を果たすと考えられている。しかし、それがどのような神経メカニズムによって実現されているのか、さらには、生後発達の過程でどのように変化していくのかなど、詳細はほとんど分かっていない。本セミナーの演者は、これらの問題にアプローチするために、サルを被験体としたinvivoでのニューロン活動記録、ヒト幼児を被験者とした脳機能イメージングなどの方法を組み合わせて、研究を行ってきた。今回のセミナーでは、それらの研究のいくつかをピックアップし、サルやヒトを対象とした高次脳機能のシステム的研究の一端を紹介するとともに、それらの成果を統合した仮説を提案する。

【生物学専攻・学術セミナー】

演 題:Myosin V Transports Secretory Vesicles via a Rab GTPase Cascade and Interaction with the Exocyst Complex
日 時:2012年4月11日(水)15:30 ~

講 師:神 唯 博士 (Life Sciences Institute, University of Michigan, USA)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 細胞分裂時、核・染色体を含めた細胞生育に必須な因子の多くが、能動的に輸送/配置されることが知られている。私達は、新しく生み出される娘細胞への細胞小器官輸送の分子機構解明を目指し、モデル生物出芽酵母を用い研究を進めている。出芽酵母において、分泌小胞、ミトコンドリア、液泡、ペロキシソーム、ゴルジ体、紡錘体、小胞体、mRNAなど多様の分子群がアクチン繊維を介し、ミオシンモーターにより娘細胞に輸送される。本セミナーにおいては、ミオシンモーターMyo2によるRab small GTPase、Ypt31/32 (Rab11)とSec4 (Rab 8/10)への結合、さらに膜融合前段階に重要な働きをするexocyst複合体への結合が、分泌小胞輸送に必須であることを明らかにした研究成果を発表する予定である。