過去の学術セミナー・講演会

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2012年度

【生物学専攻・学術セミナー】

演 題: Pheromonal research in Drosophila: some answers and many questions
日 時:7月27日(木)午後3時30分~5時

講 師:Jean François Ferveur 博士(Universite de Bourgogne/CNRS)
場 所:理学部C棟1階116室

要 旨:
 30年来、キイロショウジョウバエを使ったフェロモン研究は、成虫が用いる接触化学的性フェロモンの特徴づけに始まる先駆的研究に端を発して、最近の、それらのフェロモン分子に対する受容タンパク質の発見へと発展してきた。 フェロモン交信に関係する研究は、フェロモンの産生とフェロモンの認識、の2方面から、分子生物学的、細胞学的、生化学的、生理学的、行動学的、審化学的アプローチを以て、様々な試行的実験により行われてきた。 発生の、あるいは、環境の影響が、炭化水素(成虫が用いる接触化学的性フェロモンの実体)の産生と、それらの受容認識における”柔軟性”を裏付けるしくみも、また、調べられてきた。 この2,3年は、cis-Vaccenyl acetate (cVA),(クチクラ体表面物質ではない、揮発性のフェロモン)に焦点を当てた研究が勢いよく進んできたが、一方で、不揮発性ないし難揮発性のフェロモンとして用いられるクチクラ体表ワックスに含まれる54炭化水素成分についての論文も発表されている。   ここに至って、多くの基本的な疑問が残されている:

  1. What is the exact role of pheromone in Drosophila speciation ?
  2. How can the pheromonal system which involves both the production and the perception of sensory signals, evolve without the communication between the sexes breaking down8 ?
  3. Do larvae also produce and respond to pheromones9 ?
  4. Can pheromone exposure during larval or early adult11 development change mature adult behavior ?

これらの疑問に関わる、最近の新知見について考え、ディスカッションしたい。

【生物学専攻・学術セミナー】

演 題:花弁を形作る分子機構
日 時:7月12日(木)午後3時~4時30分

講 師:武田 征士 博士(京都府立大学 生命環境科学研究科)
場 所:理学部C棟5階509室

要 旨:
 高等植物は美しい花をつけ、ハチなどの花粉媒介者や我々ヒトを惹き付ける。花器官の中で最も目立つのが花びら(花弁)であり、種によって様々な色や形をとる。花弁形成は、大まかに (1) 原基形成 (initiation)、(2) 原基成長 (growth)、(3) 急速な伸長 (elongation) の各プロセスに分ける事ができ、それぞれに関わる遺伝子がシロイヌナズナを中心に同定されてきている。 セミナーでは、花弁の形成メカニズムを段階的に理解する事を目的に、各プロ セスにどのような分子機構が関わっているのかを紹介し、花弁がどのように形 作られていくのかを考える。

【生物学専攻・特別講義】

「現代の生物学 I」
 光合成システムとしての葉を解剖する:
 なぜ柵状組織と海綿状組織があるのか?
 なぜ陽葉は陰葉より厚いのか?
 なぜ葉は緑色なのか?
日 時:2012年7月10日(火)13:30 ~

講 師:寺島 一郎 博士(東京大学理学系研究科・教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 光合成の場としての葉は複雑な構造をもっています。いわゆる「かたち」を観察するだけでは、葉の構造の意義を明らかにするのは困難です。私は、葉の内部の光合成環境(光吸収パタン、二酸化炭素濃度分布など)を測定して、それらとの関連において、葉の構造(細胞のかたち、葉の厚さ、そして色・・・)の意味を考えてきました。生物の示す興味深い現象を前に、「How? いったいどういうメカニズムでこれをやっているの?」と訊く事も大切ですが、「Why?いったいそもそも何でこんなことをやっているの」という疑問をもつことも大切です。私は、これらを車の両輪として、30年近くかけて、葉の光合成システムに切り込んで来たつもりです(あるいはドツボにはまったとも言えるかもしれませんが)。この講義/セミナーでは、そのいくつかを紹介して、議論をしたいと思います。

【生物学専攻・特別講義】

「現代の生物学 I」 小分子RNAの機能 ~遺伝子発現のセントラルドグマの新たな認識~
日時:平成24年6月29日13:20~(15:00~ 先端セミナー)

講師:齋藤 都暁 博士(慶應義塾大学医学部分子生物学教室・講師)
場所:理学部C棟509号室

要旨:
 RNA interference(RNAi)は、配列特異的に遺伝子発現を抑制する手法の一つとして広く利用されている。しかし、RNAiの発見の重要性はむしろ、発生や生殖細胞の維持などの高次生命現象にRNAi関連分子装置が必須の役割を果たすという発見につながった点にある。このメカニズムにおいて中心的な役割を果たす蛋白質はArgonaute (AGO)ファミリー蛋白質であり、microRNAを代表とする内在性小分子RNAと結合する。AGO蛋白質は結合した小分子RNAをガイド分子として利用し、RNAiと同様、標的遺伝子の発現を負に制御する。従来の遺伝子発現のセントラルドグマは蛋白質が作られるまでの正方向の流れを示している。しかし現在では、次々と内在性小分子RNAが発見され、それらの膨大な生理機能が明らかになっている。それに伴い、内在性小分子RNAによる負の制御カスケードの重要性が広く認知され、遺伝子発現のセントラルドグマの認識に変化が生じている。
  我々はAGOの分子機能研究過程で、モデル動物ショウジョウバエの生殖細胞で特異的に発現するAGOファミリー蛋白質群が、転移因子に由来する小分子RNA群と結合することが明らかにした。また、遺伝学的、生化学的解析から、小分子RNA及びAGO蛋白質が生殖細胞において転移因子の発現を抑制しゲノムの品質管理を担う因子であることを提唱した。この機構は動物及び植物においても広く保存されており、ゲノムの安定な次世代継承システムの一つと考えられる。本講義・セミナーでは、内在性小分子RNAが如何にして作られ、機能するかを、発見の歴史と技術的背景を含めて解説する。さらに、モデル動物ショウジョウバエを用いて我々が得た最近の知見を紹介し、小分子RNAが担う生理機能と作用機序を議論する。

【生物学科・特別講義】

「生物学のすすめ I, III」 生物学の博士号が活かせる意外な仕事:マーケティング会社の例
日 時:2012年6月22日(金)13:20 ~

講 師:羽原 靖晃 博士 (株式会社エム・シー・アンド・ピー・臨床研究サポートチームマネージャー/神戸大学 連携創造本部・客員教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 理科系の博士号を取得した方は、特定分野の専門家としての職業を選択する人が大半です。一方で、一部の方は、元々の自分の専門とは全く違う領域で、研究で培った能力を上手に使って仕事をされています。サイエンスライターや弁理士など、イメージしやすい職業もありますが、マーケティング・広告の業界での仕事はなかなかイメージしにくいと思います。この講義では、私の経験を例に紹介させていただく予定です。
 講義前半では、大学で行っていた研究(スプライシング反応)について、簡単に紹介します。その後、医薬品マーケティング会社の業務内容の説明、なぜそこに博士、研究歴のある社員が必要なのか、どのように活躍しているのかを、私自身の経験を交えてお話いたします。
 最先端の研究を行う過程で修得した能力である論理的思考力、既存資料(既知の事実)の調査分析能力、文章力、プレゼンテーション能力などは、ビジネスの世界で応用することも十分可能であり、特に企画力や調査力が問われる領域では力を発揮します。キャリアパスを考える上で一助となれば幸いです。

【生物学専攻・特別講義】

「現代の生物学 I」 植物の性型の進化と特殊な性型雄性両性異株の維持機構
日 時:2012年6月20日(水)13:20 ~

講 師:岡崎 純子 博士 (大阪教育大学・准教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 被子植物の示す性表現は、植物種群の多様性を生みだす重要な分類形質であるとともに、次世代を生み出す親としての繁殖戦略となっている。花の性は単純に雄花、雌花、両性花の3種類であるが、この3種の組合せについては個体レベル、種レベルでさまざまな組み合わせがあるだけでなく、その形態と機能の不一致や「性の揺らぎ」のような量的質的な変動が見られ、植物の繁殖生態を考える上で重要で興味深いテーマとなっている。
 このような性表現の多様性の具体例を示しながら、植物の性型の進化についての議論を紹介する。特に非常に稀な性型とされる雄性両性異株の進化について演者の研究を取り上げる。この性型はモデル的に進化条件が厳しいため、繁殖生態学者の間で一度はその存在が否定された。しかし、関西の里山に普通にみられる亜高木樹種マルバアオダモ(モクセイ科)で、この珍しい性型が見られることが明らかになった。この性型の研究史とその維持機構についての繁殖生態学的研究を紹介する。

【生物学科・特別講義】

「生物学のすすめ I, III」 高次脳機能のシステム的研究:サルのニューロン活動とヒトの脳機能発達
日 時:2012年6月8日(金)13:20 ~

講 師:辻本 悟史 博士 (神戸大学 人間発達環境学研究科・准教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 ヒトを含めた霊長類は、抽象的なルールや方略に基づいて、複雑な社会や環境に柔軟に適応することができる。このような高次の脳機能には、大脳新皮質、特に前頭前野が重要な役割を果たすと考えられている。しかし、それがどのような神経メカニズムによって実現されているのか、さらには、生後発達の過程でどのように変化していくのかなど、詳細はほとんど分かっていない。本セミナーの演者は、これらの問題にアプローチするために、サルを被験体としたinvivoでのニューロン活動記録、ヒト幼児を被験者とした脳機能イメージングなどの方法を組み合わせて、研究を行ってきた。今回のセミナーでは、それらの研究のいくつかをピックアップし、サルやヒトを対象とした高次脳機能のシステム的研究の一端を紹介するとともに、それらの成果を統合した仮説を提案する。

【生物学専攻・学術セミナー】

演 題:Myosin V Transports Secretory Vesicles via a Rab GTPase Cascade and Interaction with the Exocyst Complex
日 時:2012年4月11日(水)15:30 ~

講 師:神 唯 博士 (Life Sciences Institute, University of Michigan, USA)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 細胞分裂時、核・染色体を含めた細胞生育に必須な因子の多くが、能動的に輸送/配置されることが知られている。私達は、新しく生み出される娘細胞への細胞小器官輸送の分子機構解明を目指し、モデル生物出芽酵母を用い研究を進めている。出芽酵母において、分泌小胞、ミトコンドリア、液泡、ペロキシソーム、ゴルジ体、紡錘体、小胞体、mRNAなど多様の分子群がアクチン繊維を介し、ミオシンモーターにより娘細胞に輸送される。本セミナーにおいては、ミオシンモーターMyo2によるRab small GTPase、Ypt31/32 (Rab11)とSec4 (Rab 8/10)への結合、さらに膜融合前段階に重要な働きをするexocyst複合体への結合が、分泌小胞輸送に必須であることを明らかにした研究成果を発表する予定である。

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2011年度

【生物学専攻・学術セミナー】

日 時:2012年3月8日(木) 16:00 ~
演 題:「シロイヌナズナにおける茎頂分裂組織の形成機構」

講 師:相田 光宏 博士(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科・特任准教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 植物の茎の先端部には、未分化な細胞からなる小さな組織(茎頂分裂組織)があり、これが成長のための細胞の供給源として働く。茎頂分裂組織は中央部に幹細胞を含み、さかんに細胞分裂をおこなうことで葉や 茎、枝、花といった器官・器官系をからだの先端部に次々と付け加えていく。茎頂分裂組織は胚発生において最初に形成され、発芽直後の栄養成長期にはまず葉や枝の原基を形成し、続いて生殖成長期になると花の原基を形成するようになる。本セミナーでは、分裂組織の形成時において細胞増殖と器官分化のバランスがいかにして保たれているのか、そして分裂組織から形成される原基のアイデンティティーがどのように決定されるのか、といった問題に対する我々の近年の取り組みを紹介する。

【生物学専攻・学術セミナー】

日 時:2012年1月25日(水) 16:00 ~
演 題:「植物−根圏土壌微生物の相互作用によるフィチン酸の利用」

講 師:信濃 卓郎 博士((独)農研機構 北海道農業研究センター・上席研究員/北海道大学農学研究院・客員教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 植物は自らフィチン酸を生合成するにも関わらず土壌中のフィチン酸を直接は利用できない。しかしながら土壌系で添加したフィチン酸を利用できる現象が認められることがあり、この現象は土壌微生物によるフィチン酸の分解が重要な役割を果たしていると想定される。そこで、我々はメタゲノム解析手法を土壌微生物遺伝子に応用することにより、実際に根圏土壌においてフィチン酸を利用する事に資する機能性遺伝子の変動を観測した。

【生物学専攻・学術セミナー】

日 時:2011年11月25日(金) 13: 30 ~ 15:00
演 題:小さなRNAが働くしくみ

講 師:泊 幸秀 博士(東京大学 分子細胞生物学研究所)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 microRNAやsiRNAは、RNA-induced silencing complex (RISC)と呼ばれるエフェクター複合体を介し、標的mRNAの発現を抑制する。これらの小分子RNAは、二本鎖RNAとして作り出されたあと、RISCのコアタンパク質であるArgonauteに取り込まれる。引き続き、二本のRNA鎖が引きはがされ、片方の鎖のみがArgonauteに残ることにより、標的mRNAを認識できる成熟体RISCが完成する。興味深いことに、Argonauteへの二本鎖RNAの取り込み ― 見かけ上はArgonauteとRNAが単に結合するだけの反応 ― にはATPが必須であるのに対し、Argonaute内での二本鎖RNAの引きはがし ― 20個程度の塩基対がこわされる反応 ― はATPを必要としない。我々は最近、Hsc70/Hsp90を中心とするシャペロン装置が、Argonauteへの二本鎖RNAの取り込みに必要であることを見いだした。これは、かさ高い小分子RNA二本鎖を取り込むためには、Argonauteのダイナミックな構造変化が必要であり、シャペロン装置がATPを消費することによってその構造変化を媒介していることを強く支持するものである。本講演では、RISC形成の原動力としてのシャペロン装置の役割に注目しながら、現在明らかになっているRISC形成過程の全体像について概説したい。

【生物学専攻・学術セミナー】

日 時:2011年11月25日(金) 16:00 ~ 17:30
演 題:植物科学における画像定量解析のアプローチ

講 師:馳澤 盛一郎 博士(東京大学新領域創成科学研究科・教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 生物のあらゆる生理機能はその形態に依存しています。植物細胞の細胞内構造もその例外ではありません。細胞内構造はその形態により膜系と繊維系に二分されますが、それらは機能的にも構造的にも相互依存の関係にあります。そのため、細胞生物学の研究においては、両者の構造と機能をバランス良く解析していくことが重要と考えています。本研究室では植物の形態形成に関係の深い細胞骨格(微小管・アクチン繊維)や液胞を主な解析対象とし、それらを細胞分裂周期、分 化・形態形成過程、環境応答の各過程における動態をリアルタイムで観察すると共に、得られた画像情報から定量的な解析を進めてきました。
 ここで行ってきた画像定量解析よりスピンオフした技法から、今日の画像の多様化や多量化に対応した可塑性・適応性の高いシステムを構築し、画像解析の効率化を目指しています。

【生物学科・特別講義】

日 時:2011年11月4日(金) 13:20~
「生物学のすすめ II, IV」 
 生物多様性情報と生態系管理
 ~もう博物館行きとは言わせないために~

講 師:三橋弘宗 先生(兵庫県立人と自然の博物館)
場 所:理学部 Z 棟102号室

内 容:
 昨年の10月に名古屋で開催されたCOP10において「生物多様性条約愛知ターゲット」が採択された。しかし、実際にどのように生物多様性の保全や生態系管理を推進するかについてのフレームワークは未だ確立しておらず、現時点においても、模索の段階である。生物多様性に関する情報すら整理されていない状況下にもかかわらず、市民からの要望そして参画の期待も大きい。こうしたなかで、地方の博物館が果たすべき役割、とくに生物学を学んだ学芸員にとってどういった貢献が可能であるのかを解説する。
 今回の講義では、できるかぎり、兵庫県内で実施されている事例として、コウノトリの野生復帰、鳥獣害の対策、武庫川や千種川での河川生態系の保全計画などを取り上げて、身近なところで実践されている事業の裏側のしくみと自然史博物館の貢献について紹介する。

【研究環重点研究チーム学術講演会(蛋白質のシグナル伝達機能研究)】

日 時:2011年11月4日(金) 16:00 ~ 17:00
演 題:「小分子RNAを介した植物ゲノムとゲノム寄生因子の攻防 」

講 師:佐藤 豊 先生(名古屋大学大学院生命農学研究科・准教授 )
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 トランスポゾンの転移は挿入変異や染色体異常など、宿主ゲノムを不安定にする原因となる。このため、多くのトランスポゾンは宿主により不活性な状態に維持されている。RNAサイレンシングはトランスポゾンやRNAウィルスなどのゲノム寄生因子に対する宿主側の防御機構として働くことが知られている。トランスポゾンに由来するshort interfereing RNA (siRNA)と呼ばれる24nt前後の小分子RNAがトリガーとなり、トランスポゾン遺伝子座のDNAをメチル化することによりトランスポゾンを不活性化している。一方、トランスポゾンはその利己的な振る舞いにより自己のコピーを宿主ゲノム上に増殖させており、このためトランスポゾンは多くの真核生物においてゲノムを占める最大の構成因子になっている。このことは宿主のサイレンシングを抑制あるいは回避することによりトランスポゾンが活性化する機構が存在することを意味している。
 イネのマイクロRNA (miRNA)の一種であるmiR820はCACTA型トランスポゾンの中から産出され、DNAメチル基転移酵素遺伝子を標的とする。DNAメチル基転移酵素は一般に遺伝子サイレンシングの確立と維持に機能することから、miR820は遺伝子サイレンシングを抑制すると予想される。このことはmiR820がゲノム寄生因子に対する宿主の遺伝子サイレンシングを回避する機構に関与することを示唆している。本発表ではmiR820によるDNAメチル基転移酵素遺伝子の発現制御が遺伝子サイレンシングに及ぼす影響を解析した結果を紹介し、ゲノム寄生因子がmiR820を使い宿主の防御機構を回避する経路の存在に関して考察する。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2011年7月26日(火) 13:20~
「現代の生物学I 干潟のカニ類の求愛・配偶行動と繁殖生態 」

講 師:古賀 憲庸先生(和歌山大学・教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 カニ類の配偶行動についての生態学的研究は、まず主に水産重要種を含む海生のグループで行われたが、1970年代以降の行動生態学の興隆とほぼ時を同じくして陸生・半陸生のグループで盛んになった。特に干潟に高密度で棲息するスナガニ科(旧称)には行動生態学の実証的研究に適した特徴を幾つも持つものが多く、配偶行動や繁殖戦略に関連した研究が 数多く行われている。シオマネキ属を含むスナガニ科の配偶行動は極めて変異に富み、代替交尾戦術の頻度やオス間競争・メスの配偶者選択の程度 が、空間的・時間的に、またエサ条件や捕食のリスクに反応して変化することが明らかにされている。本講ではカニ類の配偶行動および生態学的に 関連の深い分野について最近の動向をまとめて紹介し、今後の展望について受講生と語り合いたい。

【生物学科・特別講義】

日 時:2011年7月8日(金) 13:20~
「生物学のすすめ I, III」 驚きの宝庫「フジツボ」—偉人たちはフジツボを通じて何を見たのか—

講 師:倉谷 うらら
場 所:理学部 Z 棟201, 202号室

要 旨:
 貝のように見えるフジツボ…実はエビやカニと同じ、甲殻類.フジツボは紀元前から、世界の錚々たる博物学者たちの興味をひいてきました.しかし、「動かぬ証拠」がおさえられ、甲殻類としての生活史が明らかになったのは19世紀の前半になってから.その後、チャールズ・ダーウィンがフジツボ学の基礎を築きます.ダーウィンは種の起原を著す前、8年間もフジツボ類の研究に没頭し、化石のフジツボから,現生のフジツボまで詳しく研究しました.地味なイメージとは違って、実際のフジツボは見た目も様々,大きさも数ミリから30センチ超まで.付く場所もウミガメの甲羅,イルカの歯の上,カイメンの中,ウミユリの茎,クラゲの上,はたまたウミヘビの尻尾の先にまで付着する多様な生物です.「フジツボ」という小さな生きものを例に、研究の歴史、その興味深い体の構造、不思議な生態、近年の研究動向について紹介します.

参考:岩波科学ライブラリー「フジツボ 魅惑の足まねき」
    朝日新聞DIGITAL「コラムの森」において「ながぐつ日誌」を連載中

【研究環重点研究チーム学術講演会(蛋白質のシグナル伝達機能研究)】

日 時:2011年7月5日(火) 15:30~17:00
演 題:開始因子eIF4GとeIF3e/Int6による翻訳制御メカニズム

講 師:浅野 桂 先生(カンザス州立大学 生物学部)
     Dr. Katsura Asano (Kansas State University Division of Biology)
場 所:理学部 C 棟509号室

要 旨:
 翻訳開始反応とは、リボソームのPサイトにmRNA開始コドンと開始メチオニンtRNAをセットする反応であり、真核生物では10以上の開始因子によって媒介される複雑な反応である.この過程においてmRNAは、末端の特有な修飾5’m7Gキャップ構造とポリ(A)配列を介して細胞質キャップ結合複合体eIF4Fにより40Sリボソームに導かれる.eIF4Fとリボソームの相互作用の橋渡しになるのがヒトで13のサブユニットからなる巨大因子eIF3である。ここでは、出芽酵母をモデルとして用いた実験から、eIF4FのアダプターサブユニットであるeIF4GとmRNA、そして他の開始因子eIF5, eIF1との相互作用が、どのようにして安定な前開始複合体をmRNA 5’末端に形成し(48S複合体)、スキャニングによる開始コドンの認識を促進するのか、その分子メカニズムについて報告する. また、近年の研究から、キャップ依存性翻訳機構がどのようにしてmRNA特異的な翻訳制御を達成するのかが明らかになりつつあり、そうした制御の中でeIF3の役割が注目されつつある.分裂酵母をモデルとした研究からもeIF3e/Int6サブユニットを中心としたeIF3の一部が転写因子Atf1など、ストレス応答性遺伝子の発現を促進することが明らかになっている.これらの研究から提唱されるeIF3 mRNPアダプター仮説について考察したい.

【学術講演会】

日 時:2011年6月30日(木) 16:00 ~ 17 : 30
演 題:生殖細胞ゲノム品質管理に関わる小分子RNAの生合成と機能

講 師:塩見 美喜子 博士(慶応義塾大学医学部 分子生物学教室)
場 所:自然科学1号館2階204号室

要 旨:
 20−30塩基長の小分子RNAが介在する遺伝子発現抑制機構をRNAサイレンシングと総称する。RNAiの発見以来、RNAサイレンシング研究は飛躍的に進み、この機構が、発生や代謝、ウイルス感染防御といった、生命に欠かせない多くの現象を制御していることが明らかになってきた。ある種の癌の様に、RNAi関連分子の機能異常が発症原因として疑われる疾患も次第に見つかってきている。これまでの精力的な基礎研究によって、RNAサイレンシングに関わるタンパク質因子は数多く同定された。その中で最も中核的な役割を担う因子はArgonauteタンパク質である。多くの高等生物は複数のArgonauteを発現する。我々はショウジョウバエ個体において発現する5種類のArgonaute(AGO1、AGO2、AGO3、Aubergine、Piwi)に関して研究を進める事によって、各Argonauteが異なった小分子RNAと結合し、独立したRNAサイレンシング機構で機能する事を明らかにしてきた。 また、それぞれの小分子RNAの生合成にも着目し、その解析を進めている。特に最近はPIWI-interacting RNA(piRNA)と呼ばれる生殖細胞特異的に発現する小分子RNAに焦点をあてている。piRNAは生殖細胞特異的に発現するArgonauteタンパク質AGO3、Aubergine、Piwi(PIWIタンパク質と総称される)と結合する事によってpiRISCを形成し、ゲノムの品質管理に携わる。piRNA生合成あるいはPIWIタンパク質の発現を抑制するとtransposonが自分のコピーをゲノムに挿入するが、これによってDNA損傷が生じる。生殖細胞のゲノムにこの様な変異が生じると次世代に謝った遺伝情報を伝える事になり、ひいては種の保存を脅かす。よって、生物はtransposonを抑制する仕組みを獲得したが、その主要を担うのがPIWI-piRNAによるRNAサイレンシング機構である。本セミナーにおいては、このpiRNAの生合成及びその機能に焦点をあて解説する。

【生物学科・特別講義】

日 時:2011年6月17日(金) 13:20~
「生物学のすすめ I, III」 「動物の心をさぐる」

講 師:佐倉 緑(神戸大学大学院理学研究科生物学専攻・講師)
場 所:理学部 Z 棟201, 202号室

要 旨:
 内容:私は昆虫などの無脊椎動物の神経系を研究しています。特にこれらの小さな動物が示す様々な行動が、どのような神経機構によって実現されているのかに興味をもっています。今思えば、私がこの分野に興味を持ったのは、大学時代の授業で「チョウはヒトには見えない紫外線が見え、野に咲く花も我々とは全く異なって見えている」と講義で習った時のわくわくした気持ちからはじまりました。彼らにとっての「世界」が私たち人間の「世界」とどう違うのかを知りたい、そんな思いで研究を続けてきました。今回の講義では、昆虫をはじめとする動物が環境からどのような情報を得て、どのように行動を選択しているのか、様々な事例を示しながら解説してみたいと思います。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2011年6月10日(金) 13:20~
「現代の生物学I ゲノム疾患研究の現状と未来」

講 師:井倉 毅(京都大学放射線生物研究センター突然変異機構研究部門 クロマチン制御ネットワーク研究分野)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 生体は、放射線、紫外線あるいは化学物質によって様々なストレスを受ける。生体は、それらストレスに対する優れた防御機構を兼ね備えている。遺伝情報の源であるゲノムは、こういったストレスのターゲットになり、ゲノムに生じる損傷は、時としてがんや神経疾患などの疾病につながることから、ゲノムストレスに対する防御機構の解明は疾患予防の観点からも非常に重要と考えられている。今回は、様々なストレスに対して細胞の核内での転写、複製、組換え、修復といったDNA 代謝が、どのような仕組みでゲノムの不安定化を解除し、ゲノム環境を司る染色体の恒常性を維持しているのかについて、これまでのゲノム研究の歴史を顧みながら最新の知見を紹介したい。ヒトゲノムプロジェクトやプロテオーム解析といった最先端研究は、我々に分子の目で生物を解析する機会を与えてくれているが、ゲノム疾患研究においても分子レベルでの詳細な機構が明らかにされつつある。我々が得た膨大な基礎的な知見をいかに疾患研究へと発展させ、応用展開していくべきか、ゲノム疾患研究から観た現代の生物学の現状と将来展望についてもお話したい。

【生物学科・特別講義】

日 時:2011年6月3日(金) 13:20~
「生物学のすすめ I, III」 「科学技術政策に求められる研究者コミュニティーの参画」

講 師:吉田 明(生理学研究所・教授)
場 所:理学部 Z 棟201, 202号室

(第1部)13:20~14:50 学部学生を対象とした一般的な話
(第2部)15:10~16:40 学部学生、大学院生、教員すべてを対象とした(ちょっと)専門的な話

要 旨:
 元々生物学科出身で研究畑を歩んできた私が、現在では、研究を離れて研究プログラムの管理や科学技術政策のお手伝いをしています。今回の講義では、こうした私自身の例をあげながら、特に日本は海外の状況とまだかなり異なっているという点、しかしそうした役割が重要視されるようになってきている点などを交えて、研究以外のキャリアパスの例についてまずお話しします。後半は、政府の科学技術予算の全体像から、いくつかの個別研究プログラムの成り立ちや運営方法など、こちらも事例を中心にご紹介します。その上で、大学の本質的に担うべき「学問の自由」の在り方について、参加者とディスカッションしたいと考えています。

【学術講演会】

日 時:2011年6月2日(木) 15:30 ~ 17 : 00
演 題:減数分裂期mRNA分解 - 保存された分化抑制機構か?

講 師:杉山 智康 博士(筑波大学大学院生命環境科学研究科、筑波大学若手大学人育成イニシアティブ、科学技術振興機構さきがけ研究員)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 減数分裂は、受精に先立ち正しく染色体数を半減させると同時に、相同染色体間に高頻度の組換えを誘発して遺伝情報の交換・多様性をもたらす極めて重要なステップになっている。分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)における性分化、つまり減数分裂の開始および実行に必要な遺伝子群のmRNA(減数分裂期mRNA)は、通常の増殖状態では殆ど存在していない。以前は、このような低レベルの発現状態は転写を不活化することによりなされていると考えられていた (1)。しかしながら、減数分裂期mRNAは増殖期にも転写されており、これらが積極的に分解されることで発現レベルが低く保たれていることが報告され、転写後調節による減数分裂の抑制機構の存在が明らかとなった (2)。
 我々は、細胞内局在を指標にしたスクリーニングにより新規因子Red1を同定し、Red1が減数分裂期mRNA分解に必須の因子であることを見出した (3)。本セミナーでは、Red1の機能、減数分裂期mRNA分解におけるポリA鎖付加の重要性を他のグループの発見 (4)も含めて紹介するとともに、同様のmRNA分解機構が進化的に保存されている可能性についても議論したい。

参考文献

  1. Mata et al, (2002). The transcriptional program of meiosis and sporulation in fission yeast. Nature Genetics. 32(1):143-147.
  2. Harigaya et al, (2006). Selective elimination of messenger RNA prevents an incidence of untimely meiosis. Nature. 442(7098):45-50.
  3. Sugiyama and Sugioka-Sugiyama, (2011). Red1 promotes the elimination of meiosis-specific mRNAs in vegetatively growing fission yeast. The EMBO Journal. 30(6):1027-1039.
  4. Yamanaka et al, (2010). Importance of polyadenylation in the selective elimination of meiotic mRNAs in growing S. pombe cells. The EMBO Journal. 29(13):2173-2181.

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2011年5月26日(木) 13:20~
「現代の生物学I ゲノム疾患研究の現状と未来」

講 師:村田 和義(自然科学研究機構生理学研究所)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 電子顕微鏡は生体分子を直接拡大して可視化できるユニークな装置である。 しかし、試料を真空中に置かないといけないため、水を多く含む生体分子をそのままの状態で観察することはできない。クライオ電子顕微鏡では、急速凍結 した試料を凍ったままの状態で観察する。このことにより、アーティファクトのない試料本来からの電子線の散乱を直接画像化することができる。さらに、 これに試料傾斜や種々の画像解析法を応用することで、投影像からもとの三次 元構造を再構築することができる。本講義では、生体分子構造を立体再構築す るために必要な電子顕微鏡の原理、計測法、解析法について解説し、位相差電 顕法や光顕電顕相関法を含む最新の電子線3Dイメージング法を例を使って紹介する。

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2010年度

【学術講演会】

日 時:2011年2月10日(木) 13:20~
演 題:神戸に建設中の京速コンピュータ「京」とゲノム多型解析

講 師:三澤 計治 博士(理化学研究所・次世代計算科学研究開発プログラム)
場 所:理学部 Z 棟201, 202号室

要 旨:
 近年のDNA配列決定技術の進歩により、大量のゲノム配列が解析されるようになりました。ヒトのゲノム配列は2倍体で6GBあります。ゲノム配列は、種間・種内ともに違いがあります。これを利用し、バイオバンクジャパンプロジェクトでは、数万人に対して、疾患と遺伝子の関係を解析しています。海外では1000人分の全ゲノム配列を決定するプロジェクトも始まっています。がん細胞ゲノムを正常細胞ゲノムと比較する研究も始まっています。また、ヒトに限らず様々な生物でゲノムの大規模解析が始まっています。
 このような大量のゲノムのデータを解析するためには、高速計算が不可欠です。現在、次世代スパコンと呼ばれる、普通のパソコンの数十万倍の計算能力を持つ京速コンピュータ「京」が神戸ポートアイランドに建設されています。そのプロジェクトの中で、私は、表現型と遺伝子頻度の関連をゲノム全体にわたって検定する、ゲノムワイド関連解析のためのプログラムParaHaploを開発しています。今回の講演では大量のゲノムデータを分割し、大量の計算ユニット上で解析する方法についても解説し、現在世界で行われているゲノム多型解析研究の現状も紹介します。

【生物学専攻・学術セミナー】

日 時:2011年2月7日(火) 13:30~15:30
演 題:昆虫の複雑な行動を支える神経機構

講 師:佐倉 緑 博士(神戸大学大学院理学研究科生物学専攻)
場 所:理学部 C 棟416号室

要 旨:
 昆虫は少数の神経細胞しか持たないにも関わらず、時に非常に複雑で適応的な行動を示す。本セミナーでは、生存に不可欠である帰巣行動と闘争行動を例としてその神経基盤について述べる。多くの昆虫は帰巣の際に天空の偏光パターンを利用するが、彼らはそれを自らの向いている方向の情報として脳内に表現することで、長距離のナビゲーションを実現している。また、昆虫の行動はしばしば個体の置かれた状況に応じて変化する。オスコオロギはメスや餌をめぐって他のオスと激しい闘争を行うが、個体の攻撃性は発達段階や直前の闘争経験によって変化する。これまでに、脳内の一酸化窒素シグナルとその下流で働く生体アミンによって攻撃性が制御されていることが明らかとなった。

なお、本セミナーは生物学専攻「生体分子機構特論 II 」の一環として行います。

【生物学専攻・学術セミナー】

日 時:2011年2月1日(火) 15:00~16:30
演 題:イノシトール代謝制御による次世代組換え植物の作出

講 師:吉田 薫 博士(東京大学大学院農学生命科学研究科)
場 所:理学部 C 棟509号室

要 旨:
 イノシトールは動植物の成育に必須なビタミンの一つであり、様々な代謝系に関与することが知られている。実際、イノシトール代謝産物には、細胞膜成分であるイノシトールリン脂質、細胞壁成分であるグルクロン酸、リンや多くのミネラルの貯蔵物質であるフィチン酸の他、近年、様々な植物ホルモンレセプターの補因子であることが明らかになってきたイノシトールリン酸類や、活性酸素除去系で働くアスコルビン酸、ストレス耐性に関与する適合溶質であるラフィノース族オリゴ糖など、植物の成長やストレス耐性に重要な働きをする物質が多く存在する。本セミナーでは、こうしたイノシトール代謝経路を人為的に制御することで、環境ストレス耐性の増強や作物の増産に結びつく組換え植物、および環境浄化植物といった次世代の組換え植物の作出が可能であるかについてお話ししたい。

なお、本セミナーは生物学専攻「生体分子機構特論 II 」の一環として行います。

【生物学専攻・学術セミナー】

日 時:2011年1月18日(金) 15:30~17:00
演 題:平らな葉をちぢれ葉にしてわかったこと

講 師:小山 知嗣 博士(京都大学大学院生命科学研究科 特命助教)
場 所:理学部 C 棟 416号室

要 旨:
 私は植物の葉の発生や形態の多様性について興味をもって研究を進めています。本セミナーでは、植物に保存されたTCP遺伝子群に着目した研究を紹介します。まず、シロイヌナズナTCP遺伝子の機能阻害したところ、破壊された遺伝子数に応じて、葉の形態が段階的にちぢれることを見いだしました。逆に、TCP遺伝子を過剰に作用させたところ、野生型で認められる鋸歯(きょし)がなくなり、平らな縁を形作ることを明らかにしました。
  興味深い事に、TCP遺伝子はシュートメリステム(茎頂分裂組織)の形成にも関わることがわかりました。7遺伝子阻害株では、シュートメリステムが異常な場所で形成されました。逆に、TCP遺伝子をさらに強く過剰発現させると、シュートメリステムが形成されないことがわかりました。これらの結果から、TCP遺伝子群は葉の滑らかな形をつくる働きと、シュートメリステムの形成を阻害する働きの、2つの役割を持つことを明らかにしました。
  次に、TCP遺伝子が転写因子をコードすることから、下流遺伝子の探索を行いました。その結果、葉の発生を促進する遺伝子や植物ホルモンであるオーキシン応答を制御する遺伝子などを、TCP転写因子が直接的に制御することを明らかにしました。さらに、これら遺伝子が「くびれ」形態を形成する遺伝子を発現抑制することを明らかにしました。つまり、TCP転写因子は複数の情報伝達系を用いて、「くびれ」遺伝子を発現抑制すると考えています。さらに、TCP転写因子による「くびれ」遺伝子の制御系について議論する予定です。

参考文献:
Koyama et al. (2010) Plant Cell, 22:3574-3588.
Koyama et al. (2007) Plant Cell, 19:473-484.

なお、本セミナーは生物学専攻「生体分子機構特論 II 」の一環として行います。

【学術講演会】

日 時:2010年12月3日(金) 15:00~
演 題:Functional insights into microRNA-mediated repression

講 師:Dr. Marc R. Fabian(Department of Biochemistry, Goodman Cancer Centre, McGill University, Canada)
場 所:理学部 C 棟 509号室

講演要旨:
MicroRNAs (miRNAs) inhibit mRNA expression in general by base pairing to the 3'UTR of target mRNAs and consequently inhibiting translation and/or initiating poly(A) tail deadenylation and mRNA destabilization. We established a mouse Krebs-2 ascites extract that faithfully recapitulates the miRNA action in cells. We demonstrated that the let-7 miRNA inhibits translation of reporter mRNA at the initiation step. Translation inhibition is subsequently consolidated by let-7-mediated deadenylation, which requires both the poly(A) binding protein (PABP) and the CAF1 deadenylase, proteins that interact with the let-7 miRNA-loaded RNA-induced silencing complex (miRISC). Importantly, we demonstrated that GW182, a core component of the miRISC, directly interacts with PABP via its C-terminus and that this interaction enhances miRNA-mediated deadenylation. Interestingly, while PABP is essential for miRNA-mediated deadenylation, it is not involved in recruiting the deadenylase machinery to miRISC-targeted mRNAs. We will discuss progress made regarding how the miRISC recruits the deadenylation machinery in a PABP-independent manner.

なお、本セミナーは生物学専攻「生命情報伝達特論 II 」の一環として行います。

【生物学科・特別講義】

日 時:2010年11月26日(金) 13:20~
「生物学のすすめ II, IV」 水道の水質管理における生物学

講 師:井上 亘 博士(兵庫県企業庁水質管理センター所長兼水質管理課長)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 水道水は水質基準を満足していることが法律で求められています。水質基準はほとんどが化学項目で、検査を行うのもほとんどが化学が専門の者です。しかし、浄水場で現実に問題やトラブルを起こすのはほとんど生物がらみのものです。水道水を飲用して起こる事故は、ここ数十年すべて感染症です。水道水にかびくさい臭いをつけるのも貯水池で発生した藍藻が原因です。貯水池で大量の藻類が発生した場合、そのような水を浄水処理すると、消毒剤の塩素と有機物が反応して発がん性のあるトリハロメタンなどの消毒副生成物が生成されます。また、浄水の凝集処理を阻害したり、ろ過池を詰まらせたりするのもプランクトンの仕業です。さらに、近年大きな問題になっているのが、塩素で死なない寄生虫、クリプトスポリジウムです。これは原生動物の仲間ですが、感染すると激しい下痢を引き起こします。環境圧力に非常に強いオーシストが、感染個体から便とともに環境中に大量に排出され、これが浄水場の原水に混入し、新たに広範囲に感染症を引き起こします。1993年にアメリカのミルウォーキーで40万人が感染するという、史上最大の集団感染を引き起こしました。 日本でも、1996年に埼玉県越生町で8,000人以上が感染する事故が起こっています。クリプトスポリジウムはその検出法や宿主特異性、生死判定、分類など、監視するために困難な課題が多く、対応には生物学的なセンスが求められます。
 悪さをする生物が多い中、役立っているものもあります。その主要なものは、魚を使った水中毒物の監視です。水質検査は間隔をおいて行うので、魚による常時監視は重要です。ただ、魚に異常が出る時は水質基準ははるかに超過しているのではないかと考えられます。そこで、より高感度の監視装置を開発しようということで、神戸大学の洲崎先生とともにタイヨウチュウを用いた水質監視装置の共同研究も行っています。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2010年11月26日(金) 15:30~
「現代の生物学II」植物オルガネラのRNA編集

講 師:杉田 護 先生(名古屋大学遺伝子実験施設・遺伝子解析分野 教授)
場 所:理学部C棟C509号室

要 旨:
 植物のミトコンドリアと葉緑体でmRNAの特定のシチジン(C)がウリジン(U)に変換される「RNA編集」という奇妙な現象が発見されてから20有余年になる。RNA編集は植物の生育に必須な現象であるにもかかわらず、RNA編集の分子メカニズムは未だ不明である。最近、RNA編集にペンタトリコペプチドリピート(PPR)タンパク質が重要な働きをすることが分かってきた。植物オルガネラのRNA編集とPPRタンパク質に関する最近の話題を紹介する。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2010年11月24日(水) 13:30~16:00
「現代の生物学II」感覚受容体を通してみるヒトを含む霊長類の多様性
~行動、感覚の分子生理学と、生 態、多様性、進化の領域にまたがるトピックスを最先端の研究 にもとづいて紹介する~

講 師:今井 啓雄 先生(京都大学霊長類研究所・遺伝子情報分野)
場 所:理学部C棟C509号室

要 旨:
 動物は、周囲の環境情報を感覚として受容し、行動に反映させている。視覚・嗅覚・味覚などは、感覚受容細胞に発現している多様なGタンパク質共役型受容体(GPCR)を窓口として様々な環境情報に適応しているため、それぞれの種や個体で受容体の配列や性質も様々である。本講義では、主にヒトに近い霊長類の視覚や味覚受容体の遺伝子配列やタンパク質の性質、個体の行動などを例として紹介し、動物がど のように環境情報を利用しているかについて解説する。

【生物学科・特別講義】

日 時:2010年11月5日(金) 14:00~
「生物学のすすめ II, IV」 ためしてガッテン「基礎医学研究者」 医者/研究者の端くれとして生物学に関わって・・・

講 師:酒井 規雄 先生(広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 神経薬理学研究室)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 私は、今から25年ぐらい前に神戸大学医学部を卒業し、神経内科の医者になろうと修行をしておりました。そんなある日、学生時代に出入りしていた薬理学教室(基礎医学の一分野)の大学院に来ないかと誘われ、大学院に入学したのが研究者になるきっかけとなりました。医者としての研鑽を積むかたわら、大学院に入って研究をすることは、医学部の世界では、さほど珍しいことではありません。また、その頃は、基礎医学の大学院で学ぶのも普通でした。ただ、大学院を卒業してからも、ずっと基礎研究を続ける人は今も昔もほとんどいません。どういうわけか、私は、そのほとんど進む人のない道を行くこととなり、現在に至っています。
  医学部を卒業した時には、このようになるとは予想もしませんでした。もとより、「まあ、どないかなるわい。」と楽観志向で道を歩んできた私ですが、多少は物を考えているように思います。振り返ると、基礎研究を続けようと思ったのには、いくつか理由があったように思います。一つ目に研究という行為自身が好きであったこと。二つ目に、私は神経内科の医者をしていましたが、脳の基礎研究でわかったことが神経難病を直すきっかけにならないかと思ったこと、三つ目には生命の普遍的な法則をみつけ、その謎を解き明かすことに魅力を感じたことにあったと思います。この三番目の理由が今日の授業のテーマ「生物学のすすめ」にピッタリ当てはまるのかもしれません。大学院を卒業した後しばらくは、神戸大学バイオシグナル研究センターで、研究三昧の日々を送っていました。その時には、多くの生物学科の学生さんとも一緒に仕事をさせてもらいました。
  平成14年からは、医学部の世界に戻り、医学医療を意識する機会が増え、研究の方向性は、2番目の理由にシフトしているかもしれません。しかし私の研究志向の根本には3番目の理由、「生物学」との関わりがあるのは間違いありません。
 皆さんとはちょっと違う異質の世界からの出身者ですが、何か皆さんにメッセージを伝えることができればと、この授業を引き受けさせていただきました。もとより、難しい話をするのは苦手です。どうか、気軽に授業にお付き合いください。

【学術講演会】

日 時:2010年10月28日(木) 15:30~
演 題:「小さなORFの大きな役割~ショウジョウバエpolished rice遺伝子の機能~」

講 師: 影山 裕二 博士(自然科学研究機構・岡崎統合バイオサイエンスセンター)
場 所: 理学部 C 棟 509号室

講演要旨:
 真核生物の転写産物の中には、明確なORFを持たず、いわゆるnon-coding RNAと考えられているものが大量に存在している。しかしながら、一見non-coding RNAのように見えても、実際にはごく短いORFが翻訳され、小さなペプチドを生産している例もまた知られている。今回のセミナーでは、我々のnon-coding RNAに関する研究から見つかってきた、非常に小さなペプチドをコードする遺伝子についての解析結果について紹介したい。
 polished rice (pri)遺伝子は、4つのごく小さなペプチド(11あるいは32アミノ酸)をポリシストロニックにコードするユニークな遺伝子である。胚発生期では、priは、転写因子Shavenbabyの活性制御を介して、ショウジョウバエ幼虫の上皮細胞(歯状突起細胞)の分化に関与している。また、変態期においては、ステロイドホルモンである脱皮ホルモンとその核内受容体に依存した遺伝子発現制御に重要な役割を果たしている。これらのpri遺伝子活性には、わずか11アミノ酸のORFで十分である。遺伝子とは何か、タンパク質をコードするとはどういうことかを考える契機としていただければ幸いである。

なお、本セミナーは生物学専攻「生命情報伝達特論 II 」の一環として行います。

【生物学科・特別講義】

日 時:2010年7月30日(金) 13:20~
「生物学のすすめ I, III」 医学・薬理学を支える生物学のちから – 創薬研究20年の経験からの検証:イオンチャネル研究からサル行動研究まで -

講 師:池田 和仁 先生(大日本住友製薬・総合研究所・スペシャリスト)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 生物学は、その名の通り生き物を対象にした学問であり、観察・記録を手法とする博物学を起源としています。皆さんもご存知のフランスの博物学者ジャン・アンリ・ファーブル(1823年~1915年)による『ファーブル昆虫記』は古典的な生物学の代表的産物といえます。また、ほぼ同じ時代に刊行されたダーウィンの『種の起源』(1859年)では、「自然選択説」として知られる「仮説」が提唱されていますが、これも当時としては検証不可能な洞察を観察・記録に加えたに過ぎないものでした。19世紀の物理学や化学が検証可能な科学としてそれぞれの理論を通して自然を操るちからを有し始めたのに対して、生物学は近年までそのようなちからを持ち合わせていませんでした。生物学に大きな転機をもたらしたのは、 1953年4月25日付け Nature誌に掲載された僅か2頁の論文、ワトソン・クリック両博士による『DNA二重らせん構造』の発表です。ここから生物学は自然を操るちからを持つ分子生物学的思考・手法を獲得することになりました。これにより、医学・生物学の各分野である生化学、生理学、細菌学、免疫学、脳・神経学などは、独自の伝統的な思考・手法に分子生物学的手法を取りいれることで、さらなる理解が深まることになりました。
 本講義では、皆さんと同じ神戸大学・生物学科を卒業後、製薬会社の研究所で20年間研究している私が、生物学のちからを駆使して脳・神経関連の創薬研究にどのように関わってきたかを具体的に紹介いたします。遺伝子工学的に作製された神経栄養因子を用いた神経網膜研究、イオンチャネル遺伝子を発現させた細胞にパッチクランプ法を用いることで研究を進めた疼痛(痛み)研究、現在進めている、霊長類で遺伝子改変疾患モデルとして注目されているコモン・マーモセットを用いたサル行動研究などのお話をいたします。さらに、研究者の金の卵である皆さんに対して、僭越ながら20年先輩の現役研究者として、余談を交えながら、研究の厳しさ、楽しさ、そして研究の心構えを伝えることができるよう講義できればと思っております。

【生物学科・特別講義】

日 時:2010年7月9日(金) 13:20~
「生物学のすすめ I, III」 神経生理学の歴史と背景

講 師:森田 光洋 先生(神戸大学大学院理学研究科生物学専攻・准教授)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 神経生理学の歴史をたどりながら科学を取り巻く状況(時代背景)が研究に及ぼす影響について考察する。理学部・理学研究科の幅広い学生に私が本学でこれから取り組もうとしている研究を紹介するとともに、私が経験してきた科学研究の実際を伝える機会としたい。神経生理学は神経信号の物理的性質を測定し、現象の背景にあるメカニズムを数理科学的(シミュレーション)および分子生物学的なアプローチによって解明すること目指している。感覚、運動、記憶、思考、情緒といったマクロな生命現象は神経細胞の電気的な活動を単位として営まれており、神経生理学は長い歴史をかけてこの情報処理の実態を解明しつつある。イカの巨大軸索(神経線維)上における電気信号(活動電位)の伝播、カエルの神経筋接合部位(細胞間のシナプス)における電気信号の伝達、 アメフラシの行動学習に伴う電気信号の増強、微小電流測定技術(パッチクランプ法)の開発によるイオンチャンネル電流の同定などがヒト脳機能の理解と疾患の克服につながる成果としてノーベル賞医学・生理学賞を受けている。近年はカルシウム感受性色素やfMRIといった技術革新により、神経細胞集団の活動をダイナミックに測定することが可能となってきた。これに伴い、神経生理学はガラス電極を細胞体に挿して測定することから、複雑な構造を持つ神経突起における電気信号の統合、神経細胞集団が形成する回路網の活動といったより高次なレベルに広がりつつある。神経生理学を含む生命科学研究の発展は、キリスト教哲学から科学の独立、国家と科学・技術の結びつき、研究費の飽和、細分化した科学の限界、といった科学を取り巻く状況と密接な関係を持っている。 また、明治において確立した日本型大学システム、戦後日本の独特な科学文化(研究費分配や研究者評価のシステム)を抜きにしてわれわれの大学における研究のあり方を議論することはできない。この講義が科学と社会的要請の密接な関係を考える機会になることを願っている。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2010年6月29日(火) 15:10~
「現代の生物学 I」シロイヌナズナ重力屈性における重力受容の分子機構

講 師:森田(寺尾)美代 博士(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科・准教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 芽生えた場所で一生を過ごす植物は、植物は環境の変化を鋭敏に察知し、器官形成や成長の制御を行うことで環境の変化に対応している。固着生活の中にあっても、植物はある程度「動く」ことにより、生きるために必要な光合成に使う光、水、二酸化炭素を少しでも利用しやすいように、体の位置を変えている。また、生きていくのに不都合なストレスから遠ざかろうとしたり、次の世代を残すために少しでも有利になるように、体の位置を調節したりする。
  私達が研究している植物の運動は、重力に応答する、方向性を持った成長運動で重力屈性という。地球上では重力の方向や大きさはほとんど変わらないので、植物の重力屈性は、重力の方向をめじるしにして自分の体の傾いていることを認識し応答する、姿勢制御運動といえる。重力に応答する茎や根などの器官では、ある特定の細胞(重力感受細胞)で重力刺激を感知する。その刺激は生化学的なシグナルに変換され、細胞内、また細胞をこえて伝達される。そして器官全体が、一定の方向性を持って屈曲するのである。
  私達はこの重力屈性の分子機構を理解する目的で、シロイヌナズナの花茎において重力屈性異常を示す突然変異体を多数単離し、分子遺伝学的研究を行ってきた。その過程で、地上部においては内皮細胞が重力感受細胞として機能すること、重力感受細胞中に含まれるアミロプラストと呼ばれるデンプンを多量に蓄積した色素体が、重力方向に移動することが重力感受に重要であることなどを示してきた。我々が単離した重力屈性異常変異体の多くは、アミロプラストが重力方向に沈降しないという異常を示した。そのような変異体の原因遺伝子の解析から、内皮細胞の体積のほとんどを占める液胞の機能やその動態が、アミロプラストの重力方向への移動に密接に関係することを見出した。また最近、液胞機能や動態を介したアミロプラスト動態制御とは異なる機構で、アミロプラスト動態を制御する分子機構についての知見が得られたので紹介する。重力の方向を制御することができない地球上で、重力刺激応答を研究する苦労話や工夫も紹介したい。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2010年6月25日(金) 15:30~
「現代の生物学 I」核内構造体の形成とRNAダイナミクス

講 師:谷 時雄 博士(熊本大学大学院 自然科学研究科 生命科学講座 教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 真核細胞の核内は、核小体をはじめ様々な構造体が存在する高度に区画化された空間である。それら核内構造体のうち、核スペックルは多数のスプライシング因子やpoly A+ RNA (mRNA及びnon-coding RNA)が局在化し、遺伝子の転写活性に応じてダイナミックな形態変化を示す構造体である。遺伝子発現に密接に関連した構造体であるにも関わらず、その詳細な機能や膜構造を持たない核スペックルが動的な構造を維持する機構については未だに不明な点が多い。我々は、核スペックルの機能と形成機序を解明するため、HeLa細胞におけるスプライシング因子SF2の核スペックル局在、並びにpoly A+ RNAの核スペックル局在に影響を与える天然化合物のスクリーニングを行った。約3,500種類の放線菌培養上清サンプルの中から、SF2やpoly A+ RNAを核スペックルから拡散させる、核スペックルを肥大化させる、細胞質にSF2やpoly A+ RNAの凝集体を形成させるなど、核スペックルの形成とRNA動態に様々な影響を与えるサンプルを十数種類見いだした。 それらの培養上清サンプルのいくつかは、選択的スプライシングの阻害もしくは促進効果を示した。同定した阻害化合物を用いて得られた、核スペックルの機能と細胞内RNAダイナミクスに関する最新の知見及び今後の展望について議論したい。

【生物学科・特別講義】

日 時:2010年5月7日(金) 13:20~
「生物学のすすめ」 市民参加調査からわかってきた西日本のタンポポの分類と分布

講 師:鈴木 武 先生(兵庫県立大学自然環境科学研究所/兵庫県立人と自然の博物館)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 研究者と市民が協力して行う生き物調査では、広範囲から大量のデータが得られる。「タンポポ調査・西日本2010」では19府県からのタンポポ情報が集まりつつあり、思いもかけないことが次々と明らかになってきている。身近な植物であるタンポポでも、従来の分類体系では理解できないタンポポがいくつも見つかっているほか、カンサイタンポポなどの分布も今まで認識されていなかった偏りが明らかになりつつある。今回の講義では、近年の調査から明らかになりつつあるタンポポに関する新知見に加え、在来種と外来種の雑種タンポポの形成、外来種の花粉により在来種の種子生産量が減少する繁殖干渉など、植物の世界で起きている大きな研究課題について、タンポポ調査から明らかになった話題にふれる。

【大学院・集中講義】

日 時:2010年5月6日(木)~7日(金)
大学院集中講義「生命情報伝達I」相同組換えの分子機構

講 師:胡桃坂 仁志 先生(早稲田大学先進理工学部・研究科 教授)
場 所:理学部Z棟402号室

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2010年5月7日(金) 13:30~
博士後期課程「生命情報伝達特論I」対象セミナー
 エピジェネティクスの分子機構解明を目指した、ヌクレオソームの構造・機能解析

講 師:胡桃坂 仁志 先生(早稲田大学先進理工学部・研究科 教授)
場 所:理学部Z棟402号室

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2009年度

【最終講義】

日 時:2010年3月9日(火) 15:00~16:30
鶴見 誠二教授 最終講義「オーキシンとクロモサポニン」

場 所:瀧川記念学術交流会館 2階大会議室

【生物学科・特別講義】

日 時:2010年1月29日(金) 13:20~
「生物学のすすめ」 生きものリテラシーの向上に向けて: 博物館における研究とインタープリテーション

演 者:八木 剛先生(兵庫県立人と自然の博物館 主任研究員)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 博物館は、図書館が書物を収集保管するように、実物資料やそれに付随する情報を集積し、研究者がオリジナルな調査研究を行っている。博物館の資料収集や研究の成果は、広く市民の学習支援や、行政の政策立案に活用される。この講義では、とくに、生きもの、環境に関するリテラシーの向上という視点から、博物館の行う調査研究と学習支援事業を紹介する。2010年は「国際生物多様性年」で、「生物多様性」がキーワードとなるが、社会の認知度は低い。同じく漢字5文字の「地球温暖化」に比べて、概念が抽象的でわかりにくいことが理由である。ではどうすればよいのだろうか?
 ・ヒメボタル=「テーマ型アプローチ」の例 比較的生きものや環境に関心の高い層に対するアプローチの手法。ヒメボタルは、わが国固有の陸生のホタルで六甲山にも生息しているが、ゲンジボタルやヘイケボタルに比べて知名度が低い。ヒメボタルを知ってもらうためにはどうすればよいか? 調査研究を進めながら全国に支持者を増やす取り組みを紹介する。
 ・佐用町昆虫館の再生=「地域型アプローチ」の例 より関心の低い層に対するアプローチの手法。財政難、人材難で廃止となった昆虫館を、NPO法人が「秘密基地」を合い言葉に復活させる試み。事務局は神戸大農学部昆虫学研究室にある。Act locallyを地でいく取り組み。少年野球やサッカークラブのように、各地に「秘密基地」を増やすことができるだろうか? 

【大学院・集中講義】

日 時:2010年1月14日(木)~15日(金)
大学院集中講義「生物多様性II」 湖沼やため池の生態系の特徴、生物多様性評価、および 生態系再生の視点について

演 者:高村 典子先生

(独立行政法人国立環境研究所)
場 所:C棟509号室

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2009年12月11日(金) 15:30~
「現代の生物学 II」陸上植物の祖先「シャジクモ藻類」の進化学: 分類、生態、植物の多細胞体制進化を中心に

演 者:坂山 英俊先生(神戸大学大学院理学研究科)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 陸上植物は約4.8億年前に緑色藻類から進化した。これまでの研究の結果から、シャジクモ藻類のシャジクモ類が陸上植物に最も近縁だと考えられている。陸上植物系統(ストレプト植物)の進化において多細胞体制の獲得は2回生じている。1回目はホシミドロ類とシャジクモ類の間で生じ(1倍体世代における多細胞化)、2回目はシャジクモ類からコケ植物が進化する過程(2倍体における多細胞化)において生じた。 したがってシャジクモ類は、コケ植物、ホシミドロ類とともに植物の多細胞体制進化解明の鍵となる極めて重要な生物である。また、シャジクモ類は古くから細胞生理学のモデル生物としても用いられている。このように非常に興味深い生物であるにもかかわらず、分類学的には最新の手法を用いた研究が近年まで実施されていなかったため、非常に種の分類、識別が困難な分類群の一つである。さらに近年の淡水生態系の悪化により世界的に絶滅の危機にも瀕している。 したがって、特に野外におけるシャジクモ類の分類、生態学的研究は急務といえる。本セミナーでは演者がこれまで実施してきた分類、生態学的研究と、最近着手し始めている比較ゲノム学的研究を中心に紹介する。

【生物学科・特別講義】

日 時:2009年11月27日(金) 13:20~
「生物学のすすめ」 ママ記者になったフラフラ女子大生

演 者:蘆原 千晶先生(中日新聞)
場 所:理学部Z棟201、202号室

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2009年11月13日(金) 15:30~
「現代の生物学 II 」維管束組織構築における低分子ペプチドを介した細胞間コミュニケーション

演 者:福田 裕穂先生(東大大学院理学系研究科)
場 所:理学研究科C棟509号室

要 旨:
 多細胞生物は細胞間のコミュニケーションを通して、統一のとれた組織や器官を形成することができる。植物ゲノム上には、そうした細胞間シグナル伝達を担うと考えられる受容体型キナーゼ遺伝子が600以上あるが、そのほとんどはリガンドも働きもわかっていない。
 2006年に私たちは、ヒャクニチソウ木部細胞分化誘導培養系を用いて、木部の形成を抑制する新規低分子ペプチド、TDIF(Tracheary Element Differentiation Inhibitory Factor)を発見した(Ito et al., 2006)。TDIFは3つのうち2つのプロリンに水酸基の修飾をもつ、12個のアミノ酸からなる新規のペプチドで、30 pMという極めて低濃度で作用した。このペプチドは植物特有のCLEファミリーに属し、遺伝子産物のC末がプロセスされてつくられることが分かった。 シロイヌナズナには32のCLE遺伝子があり、同じファミリーのCLV3も12アミノ酸のペプチドとして機能した(Kondo et al., 2006)。TDIFの植物体での作用機構を調べるために、その受容体を単離同定したところ、細胞外にロイシンリッチリピート構造をもつ膜貫通型のセリンスレオニンキナーゼであり、TDR(TDIF Receptor)と名付けた(Hirakawa et al., 2008)。TDIF遺伝子とTDR遺伝子の発現場所の決定、TDR遺伝子のノックアウト表現型の解析、TDIFの投与実験から、篩部でつくられたTDIFが維管束の幹細胞に働いて幹細胞からの木部の分化を抑制するという篩部と木部のクロストークが明らかになってきた。また、最近、TDIF以外のCLEペプチドもまた木部形成に関与することを見いだした。本セミナーでは、これらの結果について紹介し、植物におけるペプチドの細胞間コミュニケーションにおける重要性について議論したい。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2009年11月6日(金) 15:10~
「現代の生物学 II 」ミトコンドリアの網羅的プロテオーム解析と機能同定

演 者:遠藤 仁司先生(自治医大医学部生化学講座)

場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 ミトコンドリアは、生活習慣病、老化、神経変性疾患、がん等に密接な関わりがある。特にミトコンドリア膜画分は、ATP産生、活性酸素産生、アポトーシス誘導のみならず、ミトコンドリアヌクレオイドと複製・遺伝子発現等の装置、ミトコンドリア膜形態調節装置等が存在するミトコンドリアの重要な機能が集積した場である。我々は、ミトコンドリア膜に特化した網羅的プロテオーム解析を起点に、多数の機能未知タンパク質を同定した。これらのタンパク質の新たな機能を解明することで、創薬ターゲットを同定することを目標としている。今回、解析例を二つ例示する。
1)ミトコンドリアと核をシャトルする多機能分子PHB2の同定:エストロゲンレセプターの抑制因子として単離されたPHB2は、主にミトコンドリアに局在することを同定した。機能解析から、抗アポトーシス作用、膜電位調節作用、ミトコンドリア形態維持作用を同定した。またミトコンドリアと核をシャトルする初めての分子であることを同定した。
2)新規ミトコンドリアヌクレオイド構成因子の同定と解析:網羅解析より同定したタンパク質が、ミトコンドリアDNAの維持や発現等に果たす役割を解析した。近年、老化した骨格筋、神経細胞、がん細胞などでミトコンドリアDNAの後天的な変異の蓄積が報告されており、今後これらとの関与の解明が期待される。

【生物学科・特別講義】

日 時:2009年10月9日(金) 13:20~
「生物学のすすめ」- お薬を開発するということ ~ 生物学のエッセンスがあちらこちらに ~

演 者:川島 一剛 博士(田辺三菱製薬株式会社開発本部 グループマネージャー)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 お薬の小さな一粒のなかにサイエンスがいっぱい詰まっています。単なる化合物をお薬にするためにいろいろな専門家が知恵を絞って、10~15年かけて開発し、患者様に届けられることになります。医療ニーズの探索や、標的分子の見極め、化合物の合成、病気の動物モデルの開発、薬理試験、安全性試験、実験動物と人とをつなぐトランスレーショナルリサーチ、人での試験(臨床試験)、お薬の開発過程のどれをとっても生物学の基本を理解していなければ進めることが出来ません。このような、お薬の開発過程の中で私の専門は臨床薬理学です。臨床薬理学は、薬物治療の科学性を追及することを通じて、合理的薬物治療を志向する学問領域です。 合理的な薬物治療とは、科学的に裏づけのある薬物治療であり、薬物治療と安全性を最大限に高めるという意味を含んでいます。治療の手段は病気の種類によりさまざまですが、皆さんがご存知の通り、薬物が使用される頻度は非常に高くなっています。その薬物治療が古くは医師の経験に依存した勘に頼るところが大きく、医師のさじ加減によって効果が大きく変わっていたというのが現状でした。しかし、名医の「個人能力」や「経験」を、多くの医師にも利用できるように普遍化した知識にする必要があります。臨床薬理学は薬物治療を「経験」から「科学」へ成長させるための学問領域です。
 お薬を人に投与する臨床試験においては、まず、人に投与されて安全かどうか、体内に吸収されたお薬がどのような経緯で体外に排泄されるかを確認することから始まります。その上で、動物で得られた薬物の作用がヒトでも再現できること、つまり、人での効果が証明できるのかを検討します。そのために、健康なボランティアの方、あるいは少数の患者さんに協力をお願いしています。今回は、臨床薬理試験の具体例とともに、製薬企業で、人での効果や安全性を科学的に証明するために、どのような組織体制で臨んでいるか、どのような専門性が必要かなどをご紹介いたします。
 皆さんの先輩方も製薬会社に勤めておられる方がたくさんおられます。製薬会社での仕事の内容を理解していただいて進路の参考にしていただければと思っています。

<内容>
I. 薬の開発過程
II. 薬の開発におけるプロジェクトマネージメントについて
III. 臨床試験について
IV. 臨床薬理学とは
V. 世界の中の日本の製薬企業

【生物学科・特別講義】

日 時:2009年7月3日(金) 13:20~
「生物学のすすめ」- 技術の戦略とマネジメント ~ 生物学を基盤とした商品開発の実際 ~

演 者:栗木 隆先生(江崎グリコ株式会社取締役常務執行役員、研究部門統括研究本部長、生物化学研究所長)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
I. 技術の戦略とマネジメントがいかに大切か

  1. 事業構造の変革と収益基盤の強化にどう取り組むか
  2. 研究部門統括として研究本部長として
  3. 「多様性」と「選択と集中」をいかに両立させるか
  4. 研究本部各部門の使命
  5. 研究テーマとプロジェクトの進捗管理 ― 生物化学研究を例に
    ① 理念と社内ミッションの明確化  ② コアコンピタンス  ③ Only one戦略
  6. 研究開発のリニアモデルからの脱却
  7. 技術シーズベースの発想では経営戦略は成り立たない
  8. 全社経営ヴィジョンからの技術戦略

II. 生物学を基盤とした商品化の例

  1. POs-Ca(リン酸化オリゴ糖カルシウム)の開発と特定保健用食品デンタルガム「ポスカム」と「POs-Ca」
  2. 研究者のセレンディピティーがいかに大切か
  3. シクロアミロース
  4. クラスター デキストリン
  5. 酵素合成アミロースの量産化と利用

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2009年6月26日(金)  15:10~
「現代の生物学 I」 分裂酵母の細胞内小胞輸送経路の解析と異種タンパク質生産への応用

演 者:竹川 薫先生(九州大学大学院農学研究院生物機能科学部門)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)は単細胞真核微生物であり、出芽酵母とは異なり分裂によってその細胞数を増やしている特徴的な酵母である。分裂して増殖するという特徴的な性質が高等真核細胞のそれと類似していることから、細胞分裂の モデルとして分子遺伝学的・細胞生物学的な研究発展してきた。しかしながら細胞内の小胞輸送経路の解析などは出芽酵母を中心に研究が進展してきたことから分裂酵母ではほとんど解析が行われてこなかった。
 今回は分裂酵母細胞内におけるタンパク質の小胞輸送経路と糖鎖付加などの修飾機構について、出芽酵母や高等動物と比較しながら解説したい。さらにその応用例として異種タンパク質生産に基礎的な研究結果をどのように利用しているか我々の成果を中心に紹介したい。具体的には以下の項目について話をする予定である。

  • 酵母粗面小胞体(ER)内の品質管理機構について
  • ゴルジ-液胞間の小胞輸送経路と異種タンパク質の細胞内への蓄積にいて
  • 酵母の糖鎖合成経路と糖鎖の機能について
  • 酵母の異種タンパク質生産性に影響を与える因子とその改変について

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2009年6月23日(火)  15:10~
「現代の生物学 I」 水生植物コウホネ属(スイレン科)の自然史:分類・系統・進化・生態・保全

演 者:志賀 隆先生(大阪市立自然史博物館)

場 所:理学部C棟509号室

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2009年6月5日(金)  15:10~
「現代の生物学 I」 緑藻クラミドモナスの鞭毛に関わる細胞学的研究

演 者:中村 省吾先生(富山大学理学部)
場 所:理学部C棟509号室

【生物学科・特別講義】

日 時:2009年5月29日(金) 13:20~
「生物学のすすめ」- 遺伝学からゲノム生物学へ

演 者:田畑 哲之先生(かずさDNA研究所)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 過去40年の間に、生物学に二度の大きな出来事が起りました。一度目は、DNAクローニングと塩基配列決定の技術が開発されたことによって、それまで実体が曖昧であった「遺伝子」やその変異がDNAの塩基配列やその変化として規定され、その結果、遺伝学が情報学の一部として明確に位置づけられたことです。そして、二度目は、全ゲノムの解読や遺伝子発現の網羅的解析などのゲノム解析技術が普及し、生命現象を遺伝子発現の大規模なネットワークの帰結として捉えることができるようになったことです。この二つの変化によって、生物の進化や生命現象の背後で起っている分子レベルでの出来事について、それまで想像がつかないほど大量の情報を得ることができるようになりました。その結果、生命現象に関する知識は大きく進みましたが、私たちの予想をはるかに上回る複雑なしくみが存在することも次々とわかってきました。さらに、ゲノム研究は、生命を理解するという学術的な興味だけではなく、医療や農業など産業活用の点からも大きな期待がよせられています。
 本講義では、古典遺伝学が分子遺伝学を経てゲノム生物学へと進化してきた道筋を、分析技術の進歩と関連させながら平易に概説します。また、ゲノム生物学の最新の成果や、大量に蓄積するさまざまなゲノム関連情報をどのように整理・理解すれば生命現象の解明に結びつけることができるかという生物学の本質に関わる新たな課題についてもお話しします。さらに、産業活用の一例として、ゲノム研究が、植物の品種改良を通してわれわれ人類の将来にどのような貢献ができるかを考えます。

【生物学科・特別講義】

日 時:2009年4月24日(金)  13:20~
「生物学のすすめ」― Plant Scientist になるまで ―

演 者:アビドゥール・ラーマン博士先生(岩手大学寒冷バイオフロンティア研究センター)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 “サイエンス”という言葉は、知識を意味するラテン語の “scientia” に由来します。論理的に組み立てられた実験や思考を通じて得られた知識、それがサイエンスです。従って、サイエンスは真理を発見し理解しようとする人々の絶え間のない努力の積み重ねです。サイエンスは、宗教的、政治的、文化的、哲学的な観点とは別のものです。サイエンスにおいて重要なことは、観察や実験によって得られる情報を解析し、仮説を立て、そして仮説を論理的に証明することです。サイエンスの力は巨大であり、人の生命の仕組や何億光年も離れた銀河についてさえも解明しようとしています。サイエンスは私の人生にも様々な影響を与え、私はPlant Scientistとなりました。そして、Plant Scientist であることを誇りに思っています。
 私の主な研究テーマは、2つの重要な植物ホルモンであるオーキシンとエチレンが植物の成長において示す様々な働きについての研究です。この研究のためには、生理学、生化学、分子生物学、細胞生物学、タンパク質化学、画像解析など様々な手法が必要です。私達は、天然の化合物がオーキシンの細胞への取込みを担う輸送体の制御因子として作用することを初めて証明しました。また、変異体を用いることによって、根におけるオーキシンとエチレンの複雑な関係を分子レベルで説明することができました。更に、異なる種類のオーキシンに対して異なる抵抗性を示す変異体を発見しました。最近は、根のストレス応答におけるオーキシンとエチレンの働きの解明を目指しています。
 講義の前半では、私がPlant Scientist となった過程を振返りながら、サイエンスが私の人生に与えた影響について話し、後半では私の研究について話をする予定です。

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2008年度

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2009年2月13日(金)  15:30~
「現代の生物学 Ⅱ」 線虫 C. elegans における記憶や学習を規定する神経回路とその分子基盤

演 者:森 郁恵先生(名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻 分子神経生物学グループ; CREST-JST)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 情動、認識、記憶や学習といった生命活動を制御する脳神経系の情報処理メカニズムを解明することは、神経科学において最重要課題のひとつです。我々の研究室では、この神経科学の最重要課題の解明に向けて、線虫C.elegansが飼育温度を記憶・学習する行動について、分子、細胞、回路、個体レベルでの研究を包括的に行っています。本セミナーでは、従来までの研究成果とともに、新しい概念に基づいた解析の試みについても紹介します。

【生物学科・特別講義】

日 時:2009年1月9日(金)  13:20~
「生物学のすすめ」 ― 神経発生学の10年の歩みとこれからの脳科学研究 ―

演 者:花嶋 かりな先生(理化学研究所CDB)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 生物学は幅広い学問分野ですが、私たちは学生時代を含め、何度か自分の研究テーマを選ぶチャンスがあります。私は大学院で血管新生に関する研究で博士号を取得しましたが、その後の進路であえて神経発生学という分野を選択しました。複雑な生物の機能を理解するためには、その機能を担う構造がどのようにできているのかを知る必要があります。中枢神経系の中でも大脳は極めて分化した三次元構造を示し、哺乳類では数千万から百億個もの神経細胞が織りなすネットワークにより認知、記憶、思考などの高次機能が実現されますが、この複雑な機能構造もはじめは単純な神経上皮のシートからつくられます。今回私は、発生の観点から脳のしくみを知ることを探求し続けた約10年間の研究の歩みとともに、最新の神経発生研究ではどこまでわかっているのか、そしてこれからの脳科学研究がどう変わっていくのかについて紹介していきます。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2008年12月19日(金)  16:00~
「現代の生物学 Ⅱ 分子から見た視覚の進化

演 者:久富 修先生(大阪大学大学院理学研究科)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 我々は、光の波長を弁別することができるし、明るいところでも暗いところでも物体を識別することができる。それは、少しずつ性質の異なる複数種の視細胞が網膜内に存在することによるところが大きい。この視細胞の多様性は何によって決まるのであろうか。我々は、視細胞での光情報伝達に関与する酵素カスケード(光情報伝達カスケード)を担う十数種の機能性タンパク質(光情報伝達系タンパク質)群を一つの”システム”としてとらえ、分子系統の解析と性質の比較を行った。その結果、これらタンパク質には複数種のアイソフォームが存在し、それらが少しずつ異なる性質を持つことを示した。そのことから、脊椎動物の視細胞の多様化には、複数種のアイソフォームの存在とその発現調節が重要な役割を果たしていると考えられた。また、各アイソフォームの発現は、生息環境に合わせて動的に変化していることも示唆された。講義では、このような光情報伝達系タンパク質の分子進化を説明するとともに、分子進化を生物の進化と関連づけて議論する。

【生物学科・特別講義】

日 時:2008年12月5日(金)  13:20~
「生物学のすすめ」 ― 無節「藻」と暮らした36年 ~黄色植物の眼を捜して~ ―

演 者:片岡 博尚先生(東北大学大学院生命科学研究科)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 私は1969年に神戸大学理学部生物学科を卒業し、大学院は大阪大学理学研究科に進みました。無節藻とはフシナシミドロ(Vaucheria)をふざけて呼んだ名前ですが、大阪時代から現在に至るまでフシナシミドロ一筋に研究してきた私は何と節操ある研究者でしょう!  私たちはフシナシミドロから、新しいタイプの青色光(BL)受容体を発見し、オーレオクロム(AUREOCHROME)と名づけました[Takahashi et al.(2007)PNAS 104:19625-19630]。オーレオクロムは青色光で活性化する転写因子で、何と1972年頃私が発見した、青色光を照射された部位に新しく枝が発生するという、1種の光細胞形態形成反応の受容体だったのです。36年前に発見した反応の光受容体を自分たちの手で解明するという幸運はそうざらにはありません。その後、オーレオクロムは褐藻やケイ藻など、光合成をする黄色植物(stramenopiles)に特有の光受容体であることがわかりました。今回は、1)フシナシミドロが魅せてくれる超能力の一端を紹介し、2)黄色植物の世界と、 3)植物の代表的な青色光受容体を概観し、4)オーレオクロムの発見、そして、5)フシナシミドロを特徴づける多核細胞という生き方についてお話しします。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2008年11月14日(金)  15:10~
「現代の生物学 Ⅱ」 染色体DNAの複製開始制御

演 者:升方 久夫先生(大阪大学大学院理学研究科)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 遺伝情報を担うDNAを複製し均等に分配することは、生命の継承に必須である。DNA複製は普遍的に必要な反応であるため、バクテリアからヒトまで基本的なしくみは保存されている。真核生物では、細胞分裂のたび巨大なDNA領域をただ一度だけ複製するため、染色体上に数多くの複製開始点が存在し、そこでの複製開始反応は細胞周期によって巧妙に制御されている。複製開始点では複製因子の集合と活性化が段階的に進行し、複製開始点の活性化と再複製の防止が制御されている。一方、真核生物染色体はテロメアやセントロメアなどの特殊機能領域をはじめ複雑な染色体構造をとっており、ヒストン修飾や特異的結合タンパク質がエピジェネティックな染色体情報を担っている。これらの染色体構造と複製制御がどのようなしくみで連携しているかはよくわかっていない。我々は、高等動物に類似した染色体構造をもつ分裂酵母をモデルとして用いて染色体複製開始の時間的空間的制御のしくみを明らかにしたいと考えている。染色体上複製開始点の網羅的解析によって領域特異的に複製開始が制御されていることが明らかとなり、 また一般的に複製が遅いと考えられているヘテロクロマチン領域でありながらセントロメアは初期に複製するという分子メカニズムの解明を通して、染色体DNAの複製制御機構を考察したい。

【生物学科・特別講義】

日 時:2008年10月31日(金)  13:20~
「生物学のすすめ」

演 者:奥田 一雄先生(高知大学黒潮圏海洋科学研究科)
場 所:理学部Z棟201、202号室

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2008年7月11日(金)  13:20~
「現代の生物学 Ⅰ(第3回)」 創薬シーズ開発を指向したケミカルバイオロジー研究

演 者:掛谷 秀昭 博士(京都大学大学院薬学研究科 教授)
場 所:遺伝子実験センター・5階研修室

要 旨:
 ケミカルバイオロジー(化学生物学)とは、化学を基盤として複雑な生命現象を解明していく生物学であり、なかでも基本となるのは、ケミカルジェネティックス(化学遺伝学)である。ケミカルジェネティックスは、古典遺伝学で利用・解析してきた“変異“を 生理活性小分子(バイオプローブ)に置き換えた方法論であるが、最近では、ゲノムワイドにケミカルゲノミクスに発展しつつある。ここで用いる生理活性小分子の化学構 造および生物活性の多様性・新規性は、ケミカルバイオロジーにとって最も重要なファクターの1つであり、生化学ツール開発・創薬シーズ開発に直結するといえる。 当研究室では、1) 創薬リード化合物の開拓を指向した新規生理活性物質の天然物薬学研究、2) 多因子疾患(癌、神経変性疾患、免疫疾患、糖尿病、心疾患等)に対する次世 代化学療法の開発を目指したケミカルバイオロジー研究、3) ケモインフォマティクス・ バイオインフォマティクスを活用したシステムケモセラピー研究、4) 有用物質生産・ 創製のための遺伝子工学的研究(コンビナトリアル生合成研究)、 5) 生理活性小分子リガンド-受容体の迅速同定システム(プラットフォーム)の開発研究、を中心的な研究課題とし、“創薬シーズ開発”を指向した先端的ケミカルバイオロジー研究・ケミカルゲ ノミクス研究を展開している。これまでに、我々の成果を基盤にして、複数の生理活性小分子が生化学試薬として市販されている。 本特別講義では、創薬シーズ開発を指向した微生物代謝産物由来の生理活性小分子の 開拓研究とケミカルバイオロジー研究の現状を我々の研究成果を中心に紹介する予定である。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2008年6月17日(金)  15:10~
「現代の生物学 Ⅰ(第2回)」 細胞内リサイクルシステム ー オートファジー研究の展開 ー

演 者:大隅 良典博士(基礎生物学研究所 教授)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 生命活動は、絶え間ないタンパク質の合成と分解のバランスによって支えられており、分解過程の理解は極めて重要である。細胞内の分解は主としてユビキチン/プロテアソーム系とリソソーム/液胞系によって担われている。後者は危険な分解過程を分解コンパートメント内に限局する戦略であり、必然的に分解基質を分解酵素群にアクセスさせるための膜動態を伴う。
 オートファジーはその最初の記載から既に50年を経過しているが、長らくその分子機構は謎のままであった。その解明には優れたモデル系としての酵母が大きな貢献をしている。我々はほぼ20年前に酵母が飢餓に晒されると、高等動物と同様なオートファジーが誘導されることを見いだし、この領域にはじめて遺伝学的アプローチを試み、オートファジーに必須な遺伝子として、現在の ATG遺伝子群を同定した。
 現在オートファジーの最も重要な過程である膜による細胞質及びオルガネラの囲い込み、すなわちオートファゴソーム形成過程には18個の Atg因子が関わっている。それらは大半が高等動植物でも保存されていることが示されている。オートファゴソーム形成の関わる膜新生は、従来から知られるいわゆる小胞輸送とは異なる作動原理を持っていると思われる。この過程に必須な役割を演じている5つの機能単位、すなわち Atg1キナーゼとその制御因子、PI3キナーゼ複合体、2つのユビキチン様結合反応系(Atg12系と Atg8脂質結合系)などの機能解析の現状を紹介する。
 膜動態の分子機構とともにオートファジーに関して明らかにされるべき課題は分解の選択性と誘導機構を巡る問題である。本来オートファジーは栄養飢餓などによって誘導される細胞質の非選択的で大規模な分解系であると考えられるが、栄養の感知とそのシグナル伝達などまだ不明な点が多い。一方現在多くの注目を集めている神経細胞におけるオートファジーは、飢餓とは無関係に構成的な細胞質のクリアランスに大きな演じていることも明らかになりつつある。
 オートファジーによる選択的なタンパク質やオルガネラの除去機構も進展しつつあり、ペルオキシソーム、ミトコンドリアの量的、質的管理機構としての役割とメカニズムの解析の解明が待たれる。これらのオートファジーの基質選択性についても課題と将来の展望について議論を進める。

【生物学科・特別講義】

日 時:2008年6月6日(金)  13:20~
「生物学のすすめ」ー創薬研究への応用をめざした疾患モデルショウジョウバエの開発―

演 者:山口 政光博士(京都工芸繊維大学大学院・応用生物学部門 教授)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 全ゲノム配列解読により、がんをはじめとするヒト疾患原因遺伝子の約7割のオルソログがショウジョウバエにも存在することが明らかとなった。多数の個体を同時に取り扱えるショウジョウバエは、マウスでは容易でない遺伝学的相互作用因子のゲノムワイド探索や疾患治療薬のハイスループットスクリーニングが容易に行なえる。筋ジストロフィーモデルショウジョウバエの開発をめざして樹立したbeta-サルコグリカン遺伝子ノックダウン系統の示す表現型とbeta-サルコグリカンの細胞内局在、新しく発見したその生体内機能などを中心に紹介する。

【生物学専攻・大学院講義】

日 時:2008年5月30日(金)  15:00~
「現代の生物学 Ⅰ(第1回)」 サンゴ礁における藻食性スズメダイ類と藻類との共生

演 者:畑 啓生 先生(近畿大学農学部水産学科)
場 所:理学部C棟509号室

要 旨:
 サンゴ礁は、熱帯雨林と双璧をなし、この地球上で最も生物の多様性に富んだ生態系である。そこでは、多様な生物たちが稠密に生息し、極めて複雑な種間関係のネットワークを築いている。本講義では、それらの生物間相互作用をとりあげ、生物たちがどのように互いに影響を及ぼしあい共存しているのかを考えていく。なかでも、サンゴ礁の藻類と、それを食べるスズメダイとの、本来食う-食われるという拮抗的な関係にあるはずの両者の間に芽生えた共生関係について、 発表者らのこれまでの研究で明らかになったことを紹介する。藻食性のスズメダイ類は、その多くがなわばりを防衛し、自らの摂餌の場となる海藻の畑を維持している。中でもとりわけ草丈のそろった畑を持つクロソラスズメダイは、餌として最も適した糸状紅藻イトグサの一種のみを、他の藻類を除藻することで繁茂させていた。スズメダイのなわばり内外から藻類を採集すると、このイトグサはなわばり外では全く見られず、クロソラスズメダイの畑のみで生育していることが分かった。実験的にクロソラスズメダイを取り除くと、このイトグサは除藻され ていた藻類に覆い尽くされ、また他の藻食者に食べ尽くされ、すぐに消失してしまった。一方クロソラスズメダイもこのイトグサを主な食物としており、両者は、ヒトと栽培植物のように、管理と防衛という奉仕と、光合成産物という報酬を交換しあう栽培共生にあったのだ。このような、藻類と藻食者との高い種特異性と、互いに依存しあう共生関係は、藻類をそのDNA配列を用いて詳細に分類することで始めて明らかとなった。このように、種のレベルで生物間の相互作用 ネットワークを紐解いてゆくことで、多様なサンゴ礁の生物たちのくらしや、それらが織りなすサンゴ礁生態系のより鮮明な姿が、私たちの前に立ち現れてくるに違いない。

【生物学科・特別講義】

日 時:2008年5月9日(金)  13:20~
「生物学のすすめ」ー生物学の研究が楽しい10の理由―

演 者:佐藤 賢一 博士(京都産業大学・工学部・生物工学科 教授)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 私は1984年に神戸大学理学部生物学科に入学しました。その後、修士課程と博士課程をへて、1991年に遺伝子実験施設(現・遺伝子実験センター)の助手となり、それから昨年3月まで神戸大学に勤めていました。神戸大学で23年間を学生あるいは社会人として過ごしたことになります。神戸大学を“卒業”して、去年の4月から京都産業大学での新たな研究生活をはじめています。さて、私は受精とがんをテーマにして研究をしています。全く異なる2つテーマを並行して扱っているように思われるかも知れませんが、実はそうでもありません。この研究を通して、生物の誕生・発生と病気・死、言い換えると「生物はどのように生まれ、どのように育ち、そして死んでいくのか」という問題に取り組んでいます。この講義では、受精やがんの分野でどういうことが昔から考えられてきたのか、そして現在何が問題となっているのかを紹介します。私が感じている研究の楽しさを皆さんに少しでも感じ取ってもらえたらと思います。

【生物学科・特別講義】

日 時:2008年4月25日(金)  13:20~
「生物学のすすめ」 ーポリフェノール化合物研究の魅力―

演 者:田中 隆治博士(サントリー株式会社 技術監 、サントリー生物有機科学研究所 副理事長)
場 所:理学部Z棟201、202号室

要 旨:
 21世紀は生命科学の世紀といわれ、ライフサイエンスは、人類の病の克服や食品・環境問題、さらにはエネルギーの問題解決など人々の生活に直結した「よりよく生きる」、「よりよく食べる」「よりよく暮らす」の領域での貢献が期待されている。我が国においては、人口減少・少子高齢化や、食料の安定供給・健康と安全の確保、さらには地球温暖化・エネルギー問題を克服しつつ、激しい国際競争の下で持続的な発展を可能とする国を実現するためには、国力の源泉としての科学技術に取り組むことが不可欠である。特にライフサイエンスへの期待の大きい環境の分野では、自然と共生し環境と調和する循環型社会の実現にも応えられるものと考えられている。 今後、我が国は産官学の適切な役割分担を踏まえ、産官学の連携強化等により、国際競争力を強化していかなければならない。また、中国、韓国等のアジア諸国の台頭で熾烈な競争に直面する我が国が競争力を確保するためには、我が国発の付加価値の高いイノベーションを生み続ける科学技術に取り組むことが重要である。 本日は私がサントリー(株)に1971年に入社し、36年、企業での研究開発で何をしてきたのか、どのような先生、組織との出会いから研究者生活を続けてこられたかをお話し、理学部、生物学科で勉学、研究を志される後輩の皆様方の多少のご参考になればと考えています。

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