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2010年4月22日更新

神戸大学自然科学系先端融合研究環 創製分子光科学セミナー

2010年5月14日(金)14:30-17:20 理学研究科Z402講義室

自己集積化単分子膜:作製・分析およびその応用
一井崇博士(京都大学工学研究科)14:30-15:40

自己集積化単分子膜 (Self-assembled monolayers; SAM. 自己組織化単分子膜とも呼ばれる) とは、特定の官能基を有する有機分子と、それと親和性の高い官能基を反応させる事で得られる有機単分子膜である。金や銀等の貴金属基板上の有機硫黄分子SAM、SiO2 などの酸化物基板上における有機シランSAMなどがよく知られている。SAMは簡便な作製プロセスでありながら、劇的に表面物性を変化させる事ができ、さらに高配向な単分子膜である事から、基板表面形状を保持したままで被覆する事が可能である。また、同じく単分子膜として知られるLangmuir-Blodgett 膜と異なり、複雑な基板形状に対しても対応できるという特徴を有する。これらの特徴から、SAM は数多くのグループにより様々な研究がなされてきた。本講演では、筆者がこれまで行ってきたSAM に関する研究のうち、以下の2つについて主に発表する。まず一つ目はAu(111)表面上の有機カルコゲン分子SAM についてである。チオールやジスルフィドに代表される有機硫黄分子は上述のとおり、貴金属表面上にSAM を形成し、その研究例は極めて多い。これに対し、硫黄と同じく第16 族元素であるセレンやテルルを含む分子も同様にSAM を形成する。これらについても研究は進められているが、その研究例は有機硫黄分子に比べてはるかに少ない。本講演では、alkylthiolate SAMとalkylselenolate SAM について、走査プローブ顕微鏡を用いる事で、分子レベルの構造評価およびナノレベルでの電子物性評価を行い、これらの構造と物性について詳細に比較を行った結果について発表する。もう一つは、Si(111)上への直接結合型SAM についてである。末端にビニル基やアルデヒド基・ヒドロキシル基などを有する分子は、Si-C 結合もしくはSi-O-C 結合を介してSi と結合し、SAM を形成する。これらの分子は、分子とSi との間にSi 酸化膜を介さない事から、直接結合型SAMと呼ばれ、研究が進められている。同じくSi 上のSAMとして知られる有機シランSAM と比較してこのSAM はフッ酸などへの化学的耐久性が高く、われわれはこの特徴を利用して、走査プローブリソグラフィにおける極薄レジストへ応用を進めている。本講演ではSi 直接結合型SAM の製膜プロセスとこれらの応用例をあわせて発表を行う。

周波数変調方式原子間力顕微鏡による自己組織化単分子膜上の溶媒和構造解析
日浅巧(神戸大学理学研究科博士後期課程)15:40-16:10

固液界面では、液体は固体表面の影響を強く受けバルクとは異なった性質を示すことが知られており、こうした「溶媒和」した液体分子が界面で発現する様々な機能に重要な寄与を果たしているといわれている。近年、周波数変調方式の原子間力顕微鏡(FM-AFM)の高感度な力検出技術を応用し、探針に働く力の空間分布を精密に計測することで、固液界面における溶媒和構造を解析する試みがなされてきている。講演では、こうした最新のAFM技術を用い、アルカンチオールSAM上に種々の溶媒が形成する溶媒和構造を計測した結果について紹介する。

酸化物基板表面上の平面支持脂質二重膜:形成過程、構造と分子拡散挙動への固体表面の影響
手老龍吾博士(分子科学研究所)16:30-17:20

固液界面に形成された支持平面脂質二重膜(supported planar lipid bilayer; SPLB)は細胞膜反応を調べるためのモデル反応場として、また2次元流動性材料として注目されている。柔らかくて壊れやすい脂質膜を安定に取り扱うことができ、表面科学的実験手法を用いることができる利点がある。また表面微細加工技術を利用して膜の構造・物性を制御することも試みられている。脂質膜から約1 nmの距離に固 体表面が存在することによってフリースタンディングな二重膜と異なる特異的な現象が現れることが知られており、脂質膜と固体表面との相互作用を詳細に理解することが重要である。本講演では TiO2、SiO2、マイカなどの酸化物表面上でのSPLBの形成過程および膜内での相分離や膜内
分子拡散といったダイナミクスについて、蛍光顕微鏡および原子間力顕微鏡を用いた研究結果を紹介する。

ご来聴を歓迎いたします     

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