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2006年4月1日 更新

Cr, Sb共ドープTiO2光触媒の励起キャリアダイナミクス

神戸大学・科学技術振興機構CREST・東京理科大学
池田俊達・野本知理・加藤英樹・工藤昭彦・大西洋

化石燃料を代替するクリーンなエネルギーとして太陽光が注目されています.太陽光を利用して水を水素ガスと酸素ガスに効率よく分解する。この夢を実現すれば水素燃料という無窮のエネルギー源が誕生します。

光触媒に太陽光を照射して水を水素と酸素に分解する化学反応をおこそう。光触媒発祥の地である日本の研究者は、水から水素を作る触媒の研究において世界のトップを走っています。太陽光の代わりに紫外光を使ってもよければ、水から水素ガスを作りだす効率は50%を越えました。10年前には考えられなかったほど高い数字です。

次のステップは、太陽光エネルギーの大部分を占める可視光線を利用する触媒材料の開発です。この関門をクリアする方法として、紫外光で動作する光触媒に異種元素をドープして可視光を吸収させることが提案されています。たとえば、光触媒として有名な酸化チタン(TiO2)は白色粉末で可視光を吸収しません。酸化チタンにCrなどの遷移金属を数%加えると着色して可視光を吸収するよう改質できます。しかしCrを単独でドープした酸化チタンはまったく触媒活性を示しません。光触媒反応をひきおこす主役である光励起電子と光励起正孔が互いを消滅させてしまうからです。この望ましくない反応を電子と正孔の再結合とよびます。ドーピングした酸化チタンで再結合が起きる理由は(1)酸素原子欠陥のような不規則な構造が触媒中に作られてしまう(2)ドーパントであるCrに電子と正孔が捕捉されるため両者が出会う確率が高くなることが考えられます。ところがCrとSbを同時にドープした酸化チタンは可視光を吸収し、なおかつ、光触媒反応を起こす能力を失いません。光励起電子が赤外線を吸収することを利用して、光触媒中に発生した励起電子が再結合によって消滅していく速度を測定しました(図1)。CrとSbを最適比でドープした触媒(赤線)は、ドープしない酸化チタン(黒線)にくらべて、電子の消滅速度が低下しています。共ドープが再結合を抑制することを直接確認したはじめての例です。

ドーパント添加による再結合はCr特有の現象ではなく、可視光で動作する光触媒の開発に立ちはだかる一般的な課題です。共ドープ触媒ではなぜ再結合が起きにくいのか? この疑問に答えて、触媒開発に役立つ新しいコンセプトを提供する糸口となる研究成果です。

図1 CrとSbをドープした酸化チタン光触媒の励起電子減衰


この研究は2006年3月20日に第97回触媒討論会で発表します。触媒学会から注目発表に選定されました。

長さ3ページの予稿を触媒 48 (2006) 116-118でご覧いただけます。

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