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学校設定科目subject

課題研究を支える「国際理解」(学校設定科目)及び「ESD」


(1)「学校設定科目『国際理解』の設置」:本事業における「課題研究」の総合化を図るため,現行の「現代社会」2単位のうち1単位を削減し,1単位科目「国際理解」を置く。
・課題研究の4領域を取り上げ,本校教員及び大学派遣教員がTT方式で授業
・生徒による課題研究の報告(英文サマリーを提出し報告)及び質疑・討論
  科目「国際理解」では,本校が卒業研究で設定する4領域をもとに,特に国連で課題とされている諸問題を取り上げ,そのような国際問題について複数の国の立場から討論を行い,相互協力の道を探る。現時点で具体的なテーマとしては対人地雷の撤廃・先住民の権利に関する国際連合宣言の再検討・原子力発電の安全基準の強化についての是非・難民の受け入れの是非について話し合った。
 討論に先立ち,小集団ごとに担当国を割り振り,担当する国については人口や経済状況,外交関係などについて外務省の提供するデータなどを利用して事前に調査を行う。これらの情報をもとにして,自国の方針と矛盾しない形で各々が提案を作成し,他の集団に対し説明及びPRを行ったのち投票を行うという形式をとっている。(写真1・2:自国の提案を説明する生徒の姿)

写真1             写真2
 これらの取り組みを通して,実際の国際問題に対しての気付きを促し,問題分析能力・論理的思考力を磨くとともに,独善的にならない相互理解や協調性の涵養を目指す。

(2)「教科『ESD』の開設」:生徒の理解促進を図るため,各教科等で取り扱われている「持続可能な開発のための教育」の内容を合科的に学ぶ教科「ESD」を置く。
・持続可能な開発の視点から教育内容を構成
・本校教員が教科の枠を超えて,一部TT方式で授業
・生徒による探究的学習を盛込む

4.ESDの授業づくりにおいて必要なもの(教材研究)
 ESDの授業づくりは,この水の授業にかかわらず,膨大な資料を集めることから始めた。実際に授業では,豊富な資料をもとに考えさせる。ただしこれは多くの資料を集めれば生徒の議論の質が高まることを意味していない。さまざまな立場の見解やデータを見せることで,そこから自分の意見の論拠となるものを見つけ出せる工夫を施す必要がある。一方的な見解や偏ったデータのみを提示してしまうと,生徒の思考は自ずと一定方向に収束してしまう。したがって豊富な資料の精選がポイントになってくると考えられる。加えて生徒が議論をして提案したものなどを全体で共有した後のフィードバックも重要である。授業によっては前時の議論をもとに自己の意見を再構築するものもある。「自分の考えや意見が授業を通して変化した」というふりかえりも少なくなかった。以上,「水を問い直す〜ローカルな水からグローバルな水へ」の授業実践を事例に授業の実際を2つの観点から述べてきた。身近なテーマからグローバルなテーマまで,生徒が考えたくなるような良質な問いと教材を準備することが求められる。

5.2015年度の取り組み
・独自設定科目ESD(持続可能な開発のための教育)は,実施2年目で,3年生を対象に社会科が中心となって,他教科の協力を得ながら合科的に実施している。SGHにおける学びの準備段階として位置付けており,課題研究を核とした教科横断型体系的グローバル人材育成の学びの基礎を担うものである。
・11月 「ESD」授業公開(国際理解教育学会企画)
・12月 ユネスコスクール全国大会ESD研究大会報告
・2月  本校SGH年次報告会で授業を公開

6.ESDの授業実践における成果と課題
 今年度のESDの授業実践における成果と課題について整理したい。成果については,生徒の学びの成果として夏休み前に実施したESDの学びを絵で表現し,どのような意図で描いたのか解題をつける課題および12月に実施した授業評価アンケートから述べる。生徒の学びの成果を明らかにする課題は成田(2015)などで示されたエスノグラフィーの手法を援用した。自己の学びを丁寧に整理するなかでESDの学びを再認識することを主眼に置いている。生徒の実際の作品を読み解くと,多様な価値観を認め,議論する学び(生徒の作品A)や当事者性意識が表れた学び(生徒の作品B)などさまざまな学びが生まれている。また,多様な価値観の受容に関してもある程度達成されていると考えられ,多様な意見や価値観を個人の学びに還元し,さまざまな知識や思考と組み合わせる(組み替える)なかでオルタナティヴな考えを生み出そうとする態度も見え始めた点は成果である。
 次に授業評価アンケート(アンケート項目は※を参照)から,ESDの授業の成果を検証したい。これを見ると,おおむね授業を肯定的にとらえている生徒が多いことがわかる。とりわけ質問6の項目では,90%以上の生徒が肯定的な評価をしていることは特筆に値する。毎回の授業においてグループで議論をしていることが,この評価につながっていると推察される。一方で質問4の項目では,改善の余地があるといえる。これにはESDには「答」がないから何を書いてもよいといった認識の生徒が少なからずいることが影響していると考えられる。
 課題としては以下の点を指摘できる。第一の課題として,当事者性意識のもたせ方である。グローバルな諸課題はそれ自体が空間的にも内容的にも大きく,多様な価値観が絡み合うゆえ,それらを咀嚼し,自己の課題として結びつけることは容易ではない。そのような課題に対して,真正面から向き合えるだけの基礎を築くことはESDの授業実践における最大の目的である。今後は,授業で学び取るものだけに終始せず,課題を解決に導くための方法知の習得や自身の経験知を結びつけて,それぞれの課題への自身の向き合い方を思案する「深い思考の時間」が必要になってくると考えられる。第二の課題として,「問い」を自ら立て,その問いと向き合う手立てが挙げられる。これには教師による教材(素材)の一方的な提供という学習スタイルも影響しているといえる。生徒との双方向のやりとりのなかから「問い」が生まれ,持続的に学び合っていくようなものにESDの学び自体も進化していく必要があろう。
最後に今後の展望を述べておきたい。ESDは環境学習や国際理解学習,防災学習などさまざまな領域を包含している。したがって効果的なESDの授業実践を行うためには,それぞれの領域の専門的知識を有する他教科の教員との連携が欠かせないことは明らかである。今後は教員間でESDの理念を共有し実践することのできる,「実践コミュニティ」の形成が重要であるといえる。ESDの授業実践を通して自己の考えや生き方と向き合い,考え方の異なる人と協力してより良い社会を構築できる人物の育成を目指していきたい。



図2:生徒の作品A
ああああああああああああ図3:生徒の作品B


1.ESDの位置付け
 本校は,平成27年度よりSGH(スーパーグローバルハイスクール)に指定され,地球安全保障への提言を目指す「グローバルキャリア人育成神戸モデル」を目標に掲げている。ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)はそのSGHにおける学びの準備段階として位置付けられている。すなわち課題研究を核とした教科横断型体系的グローバル人材育成の学びの基礎を担うものである。本校のESDの実践は以下の2つの取組を柱としている。一つが3年生におけるESDの授業実践であり,もう一つが全校的な取り組みとしてのESDの実践である。前者の授業実践は,3年生社会科の週1時間(秋学期は週2時間)を学校設定科目ESDとして位置付けて行うものである。後者は,ユネスコスクールや文部科学省指定研究開発学校(地理基礎・歴史基礎),ESD日米交流プログラム,アートマイルなどの取組である。

2.ESDの目標・概要
 今年度は以下の2つの目標を掲げて授業実践を行った。
@グローバルな諸課題を自己の課題として捉え直し,正確かつ批判的に分析・考察する力を身に付け,その課題に対して独自の解決案を提案することができる。
A他者の価値観や考え方の受容から,建設的な議論を促し,オルタナティヴな思考力や提案力を身に付ける。

このような目標を設定した背景には,加速度的に進行するグローバル化のなかで生まれる諸課題の複雑性から目を背けることなく,真正面から向き合い,その課題解決のためにさまざまな価値観の人と建設的に議論ができる人物の育成が大切であると考えているからである。上記の目標を達成するために今年度は事前にカリキュラムを作成し,授業実践を行った。ESDで学ぶ内容は,社会科で扱う内容とも親和性が高いため,カリキュラムの作成においては,既存の社会科の内容との住み分けを担当者間で事前に行った。授業は,基本的にローカルな内容(身近なもの)を学んだ後,徐々にスケールを広げ,最終的にグローバルな課題へと発展させる形で構成した。すなわち,あらゆるグローバルな諸課題が自分たちの生活と切り離されたものではないことを生徒が段階的に学び取れるようにしている。

このESDの授業実践は,ESDの理念を学校で共有する上で,中核的な役割を果たしていると考えられる。また,今年度は日本国際理解教育学会など外部の団体や他教科の教員(美術や栄養)との連携を積極的に図ることで,授業実践の質的な向上も見られた。

3.授業の形態(手法)
ESDの授業実践では,教師が知識を伝達する時間を中心に構成する,いわゆる講義形式の授業ではなく,生徒自身が個人で考え,その後グループで考える(議論する)時間を中心とした授業スタイルになっている(写真1)。また,グループで議論するだけでなく,議論したものをホワイトボードに記入し,全体で共有する(写真2)。ただしこれは講義形式を否定したものでない。議論をするための前提として必要な知識基盤は,議論の質を高めるものであるといえるため,授業の前半で生徒との対話を通じて担保する。また,全体での共有後,再び個人の思考に還元するサイクルで行うことにより,思考の循環を促すような仕組みとしている。さらに今年度は,マインドマップやドーナツチャートなどさまざまな学習方法を用いた。


写真1:小集団学習の様子
aaaaaaaaaa写真2:ホワイトボードによる共有

4.ESDの授業づくりにおいて必要なもの(教材研究)
 ESDの授業づくりは,この水の授業にかかわらず,膨大な資料を集めることから始めた。実際に授業では,豊富な資料をもとに考えさせる。ただしこれは多くの資料を集めれば生徒の議論の質が高まることを意味していない。さまざまな立場の見解やデータを見せることで,そこから自分の意見の論拠となるものを見つけ出せる工夫を施す必要がある。一方的な見解や偏ったデータのみを提示してしまうと,生徒の思考は自ずと一定方向に収束してしまう。したがって豊富な資料の精選がポイントになってくると考えられる。加えて生徒が議論をして提案したものなどを全体で共有した後のフィードバックも重要である。授業によっては前時の議論をもとに自己の意見を再構築するものもある。「自分の考えや意見が授業を通して変化した」というふりかえりも少なくなかった。以上,「水を問い直す〜ローカルな水からグローバルな水へ」の授業実践を事例に授業の実際を2つの観点から述べてきた。身近なテーマからグローバルなテーマまで,生徒が考えたくなるような良質な問いと教材を準備することが求められる。

5.2015年度の取り組み
・独自設定科目ESD(持続可能な開発のための教育)は,実施2年目で,3年生を対象に社会科が中心となって,他教科の協力を得ながら合科的に実施している。SGHにおける学びの準備段階として位置付けており,課題研究を核とした教科横断型体系的グローバル人材育成の学びの基礎を担うものである。
・11月 「ESD」授業公開(国際理解教育学会企画)
・12月 ユネスコスクール全国大会ESD研究大会報告
・2月  本校SGH年次報告会で授業を公開

6.ESDの授業実践における成果と課題
 今年度のESDの授業実践における成果と課題について整理したい。成果については,生徒の学びの成果として夏休み前に実施したESDの学びを絵で表現し,どのような意図で描いたのか解題をつける課題および12月に実施した授業評価アンケートから述べる。生徒の学びの成果を明らかにする課題は成田(2015)などで示されたエスノグラフィーの手法を援用した。自己の学びを丁寧に整理するなかでESDの学びを再認識することを主眼に置いている。生徒の実際の作品を読み解くと,多様な価値観を認め,議論する学び(生徒の作品A)や当事者性意識が表れた学び(生徒の作品B)などさまざまな学びが生まれている。また,多様な価値観の受容に関してもある程度達成されていると考えられ,多様な意見や価値観を個人の学びに還元し,さまざまな知識や思考と組み合わせる(組み替える)なかでオルタナティヴな考えを生み出そうとする態度も見え始めた点は成果である。
 次に授業評価アンケート(アンケート項目は※を参照)から,ESDの授業の成果を検証したい。これを見ると,おおむね授業を肯定的にとらえている生徒が多いことがわかる。とりわけ質問6の項目では,90%以上の生徒が肯定的な評価をしていることは特筆に値する。毎回の授業においてグループで議論をしていることが,この評価につながっていると推察される。一方で質問4の項目では,改善の余地があるといえる。これにはESDには「答」がないから何を書いてもよいといった認識の生徒が少なからずいることが影響していると考えられる。
 課題としては以下の点を指摘できる。第一の課題として,当事者性意識のもたせ方である。グローバルな諸課題はそれ自体が空間的にも内容的にも大きく,多様な価値観が絡み合うゆえ,それらを咀嚼し,自己の課題として結びつけることは容易ではない。そのような課題に対して,真正面から向き合えるだけの基礎を築くことはESDの授業実践における最大の目的である。今後は,授業で学び取るものだけに終始せず,課題を解決に導くための方法知の習得や自身の経験知を結びつけて,それぞれの課題への自身の向き合い方を思案する「深い思考の時間」が必要になってくると考えられる。第二の課題として,「問い」を自ら立て,その問いと向き合う手立てが挙げられる。これには教師による教材(素材)の一方的な提供という学習スタイルも影響しているといえる。生徒との双方向のやりとりのなかから「問い」が生まれ,持続的に学び合っていくようなものにESDの学び自体も進化していく必要があろう。
最後に今後の展望を述べておきたい。ESDは環境学習や国際理解学習,防災学習などさまざまな領域を包含している。したがって効果的なESDの授業実践を行うためには,それぞれの領域の専門的知識を有する他教科の教員との連携が欠かせないことは明らかである。今後は教員間でESDの理念を共有し実践することのできる,「実践コミュニティ」の形成が重要であるといえる。ESDの授業実践を通して自己の考えや生き方と向き合い,考え方の異なる人と協力してより良い社会を構築できる人物の育成を目指していきたい。



図2:生徒の作品A
ああああああああああああ図3:生徒の作品B


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