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課題研究research

神戸大学附属中等教育学校 SGH課題研究

1)課題研究内容
@全体テーマ『神戸から発信する「地球の安全保障」への提言』
A4研究領域

震災・復興とリスクマネジメント
国際都市神戸と世界の文化
提言:国際紛争・対立から平和・協力へ
グローバルサイエンスと拠点都市神戸


 

研究領域

領域ごとの特色

 

地球の安全保障

(全体:共通)

グローバル化した社会の諸課題を,地球の安全保障という複合的視点(災害,共生,協力,科学,健康等)から考察する。

震災・復興とリスクマネジメント

阪神淡路大震災20年を踏まえ,「災害・復興,感染・防疫開発・保全」等のテーマについて,文理融合的な視点から考察する。

国際都市「神戸」と世界の文化

神戸港開港150年を前に,神戸港と阪神間モダニズムの伝統と現状を踏まえ,自国文化と異文化(多文化共生)について考察する。

提言:国際紛争・対立から平和・協力へ

神戸にある領事館や国際機関及び大学の国際協力研究科と連携し,「ポスト2015年開発アジェンダ」を中心に考察する。

グローバルサイエンスと拠点都市「神戸」

灘五郷の酒醸造から京コンピュータに至るサイエンス&テクノロジーを確認しつつ,先端科学・安全・健康の視点から考察する。



2)実施方法・検証評価

@「課題研究」
「課題研究T」では,グループ研究による研究基礎力の養成に取り組み,「課題研究U・V」では,個人研究による課題の探求,個人論文ならびに英文サマリーの完成及びプレゼンテーション発表を行うと共に,3年間を通して「課題研究アクションプログラム」と連動することにより,地球の安全保障に関する認識の深化を図る。

A「課題研究アクションプログラム」
研究意欲の向上並びに国内外の高校生との交流促進に資するとともに,課題研究の成果を発表する場として,国内外でのワークショップ並びにフォーラム等を開催する。特に「高校生グローバルフォーラム」は,本事業の総括的取組として,EUやASEAN等の世界の地域連合をテーマに,企画・交渉から開催まで生徒自身の手で実現させることで,「グローバルキャリア力」習得の集大成とする。

B「課題研究を支える学校設定科目等」
課題研究を高いレベルで実施するために,学校設定科目「国際理解」及び教科「ESD」を教育課程に設ける


1)「課題研究T」について
 1年間の取組を大きく3つに分けて行った。1つ目は,「課題研究とは何か」を理解するために,山田剛史,林創著『大学生のためのリサーチリテラシー入門』(ミネルヴァ書房,2011年)を理解させることである。ただし,大学生が卒業論文を書くために説明された本であるため,4年生には難しい。そこで,『同書』で説明されたことを,具体例をあげたり練習したりできるワークシートを章毎に作成し,個人またはグループで考えさせることで,そのテキストを理解させるようにした。
 2つ目は,学校を越えた所で学ぶ機会を設けることである。例えば,資料を探すことを目的に学年全員を神戸大学図書館に連れていき,司書から説明を受けて専門書を読む機会を設けた。また,神戸を代表する企業を訪問し,震災・復興,グローバル社会での取組等について講話を受けた。訪問した企業は,白鶴酒造,ネスレ日本,コープこうべ,きんでん,カワノ(株)である。
 3つ目は,各個人の興味にもとづき個人研究させることである。ここでは,個人が研究したいことを教員のアドバイスを受けながら研究し,ポスターでの中間発表,6,000字程度の論文,プレゼンテーションソフトを用いた最終発表を行う,いわば5・6年生が行う「課題研究」の縮小版である。課題設定のために,地球安全保障,国際紛争・対立,平和・協力,震災・復興など18語のキーワードから複数を選択させることで,課題を明確にさせ,個人研究の指針とした。


■ 課題研究Tテーマ例
@「大震災被災地に位置する中等教育学校における震災・減災・復興をテーマとした学校間交流による生徒の意識の変容」
A「カンボジアにおける水問題による下痢患者を減らすには−簡易浄水器を含めたプロジェクトの提案−」
B「京都市交通局・近畿日本鉄道・山陽電気鉄道・阪急電鉄・阪神電気鉄道におけるATPの統一」
C「アニュアルレポートを用いて投資すべき企業は分かるか−株価の変動を指標として−」
D「明石市立図書館があるべき姿について−再開発による駅前移転を通して−」
E「自転車を利用した地域活性化−神戸市役所コベリンの事例から−」
F「洗剤メーカー各社の『油汚れに効く』ことを売りにした商品の洗浄能力の比較」
G「害虫と人とのつきあい方〜ナメクジの実験から考える農薬に頼らない栽培方法〜」
H「ラトルバックの反転運動−単純化した形状での再現−」
I「魚の尾鰭の形状によるエネルギー効率の解析実験」


2)「課題研究U」について
 研究課題は4研究領域(震災・復興とリスクマネジメント/国際都市「神戸」と世界の文化/提言:国際紛争・対立から平和・協力へ/グローバルサイエンスと拠点都市「神戸」)を参考に,各個人が自由に課題を設定した。課題設定が急だったこともあり,生徒の希望があれば上記にあてはまらないテーマも許容した。教員は課題の似た生徒3〜9名程度を担当した。研究は個人で進め,最終的には18,000字の課題研究(卒業)論文を提出する。
 実際の研究指導に当たっては,2〜3か月ごとに発表会を行ったり,中間論文を提出させたりすることで,全体での研究を進めていくペースを設けた。授業時間中は,生徒同士で議論して研究を主体的に進めていくことを目標とした。
 また,神戸大学の大学院生をTAとして雇用し,論文の添削や研究相談を行った。

時期

内容

指導の方針

4年生

2

新書を入り口に,自分の興味を探す

自分の興味からテーマを考え,関連する書籍を読んでみる。

3

テーマの決め方・絞り方についての講義・実習

5年生

4

春休み課題レポート提出

テーマに関連した先行研究を調査し,自分の研究で解決する「問い」を立てる。

5

ゼミ(テーマ設定について)

6

テーマ設定発表会(口頭発表)

テーマ設定論文(3000字)提出

7

ゼミ,担当教員と個別相談

「問い」について「結論」をとりあえず出し,論文を一通り最後まで書く。

8

夏休み成果発表会(口頭発表)

夏休み課題論文(8000字)提出

9

ゼミ

論文の体裁を整える。

※文化祭や修学旅行があり,集中して取り組むのが難しい期間である。

10

秋休み成果発表会(ゼミ内口頭発表)

秋休み課題論文(10000字)提出

11

ゼミ

12

ゼミor論文執筆

自分で出した「結論」について,より結論の妥当性を高めるために再検討し,必要なデータをさらに集める。

1

冬休み課題論文(15000字)提出

2

ゼミor論文執筆

3

課題(卒業)研究中間発表会(ポスター発表)

課題研究(卒業)論文第1稿(18000字)提出

6年生

4

論文校正

論文の構成や体裁をきちんと整え,細かい部分で追加のデータを集める。

また,発表の準備を行う。

5

論文校正

6

課題研究(卒業)論文完成稿提出

7

課題(卒業)研究最終発表会(口頭発表)

課題(卒業)研究優秀者発表会(口頭発表)


■ 課題研究U・V「論文」テーマ例
<震災・復興>
・大震災被災地に位置する中等教育学校における震災・減災・復興をテーマとした学校間交流による生徒の意識の変容
・減災アクションカードゲーム神戸版の開発・試行と教育的効果の測定
・東日本大震災における震災遺構の残し方と活用方法について

<神戸と世界の文化>
・宝塚歌劇の新源氏物語から見る日本舞踊の要素とその影響
・義務教育を対象にした浮世絵プロジェクト型授業の実践−グローバル社会における伝統文化教育の推進を目指して−
・中等美術教育にアートセラピーを取り入れる方法

<国際紛争・対立から平和協力へ>
・日本が国連常任理事国に参加するためには
・EUで急増するシリア難民と医療組織新設の提案とこれからのEUの動向考察
・NPOができるカンボジアの教育改善

<グローバルサイエンス>
・ジオパーク教育の郷土教育的側面について:その効果と傾向−鳥取県岩美町の高校生を例に−
・魚の尾鰭の形状によるエネルギー効率の解析実験
・植物の生育環境の変化が花弁の濃淡に及ぼす影響
・六甲嵐が神戸市における冬季気温分布に及ぼす影響

■卒業研究要旨

「建築素材における低圧縮型木片コンクリートが与える未使用木材利用の可能性」

 森林大国である日本では間伐材が大量に発生するが、その処理が進まず、続いて間伐されることがなくそのまま森が荒廃してしまう状況が続いている。本研究では木片コンクリートという建築素材の利用可能性を示し、そのような未使用木材の有効活用を示唆する。
 本研究では、二種類の大きさの木片(以下チップ中、チップ小)に対しそれぞれ砂利と砂とセメントを混合させ、モールドに入れて乾燥させることで、木片コンクリートの試験体を自作した。比較対象として木片を混ぜないコンクリート(以下、一般)を製作し、3、7、28日後の密度と圧縮強度を測定した。圧縮強度変化は手動式一軸圧縮試験機S-234を使用し、試験体を圧縮して破壊に耐える最大荷重を測定し、圧縮強度を求めた。
 この実験を行った結果、密度比{28日後密度}/{3日後密度}は、一般0.999、チップ中0.989、チップ小0.965であった。28日間の養生に伴う強度の平均上昇率[N/(mm2 day)]は一般0.623、チップ中0.5125、チップ小0.464であり、最終の強度[N/mm2]は一般36.433、チップ中31.106、チップ小25.069であった。
 国の定める耐久設計基準強度のうち、チップ中は計画共用期間の級が長期の級を満たし、チップ小でも標準の級を満たす。また、強度変化と最終の強度に大きな差はみられなかった。したがって木片コンクリートは実用に供する可能性が示唆された。
 今後の課題として、木片特有の欠点であると思われる腐食に対する耐久性の検証が挙げられる。


「若者の投票率を上げるための政治教育とは−模擬選挙を用いた実験の投票率から見る情報刺激の効果−」

 現在日本では若者の投票率の低さが問題となっている。2016年7月の参議院選挙より有権者年齢が18歳に引き下げられ有権者の一部に高校生が含まれるようになったが、現時点で高校において選挙に向けた有権者教育が実施できていない。
 本研究の目的は、情報刺激と投票行動の関連性を調査し、選挙における若者の投票率向上のための効果的な政治教育のあり方を提案することである。方法として500名の生徒を対象に、政治的情報刺激と利益刺激の観点から実験を行い、模擬選挙を実施して投票率を調査した。また、政治に関する意識等を調査し、その結果と模擬選挙における投票行動との関連性についても分析した。
 その結果、政治的情報刺激として政党に関する情報について「政党相性診断」を受けさせた場合より「政党比較表」の形で提示した場合、利益刺激として景品を与えた場合に投票率が高く、投票に参加した生徒の中には「過去に受けた政治に関する授業で『時事問題に関する授業』が最も印象的であった」と回答した者の割合が高いことがわかった。
これらの結果から、@時事問題に興味を持てるような授業を展開すること、A生徒自身が自らの考えを確立させる場を提供し、教師が授業の結論を提示しないこと、B限られた情報ではなく、多元的な情報を与えること、が若者の投票率向上に効果的であると結論付けた。 
 今後は実際の選挙における投票行動と情報刺激の関連性を調査する予定である。


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