准教授:影山 裕二(かげやま ゆうじ)
学位:博士(理学)
担当授業科目
(学部)分子生物学基礎、生物学演習II、生物学実験IIIA,B、特別研究A,B
(大学院)生化学特論II、生命情報伝達特論II、先端融合科学特論II、論文講究I,II、特定研究I,II、特定研究
(全学共通教育)生命の営みと成り立ち(生命の科学)
研究の興味
胚発生において、均一な細胞集団から様々な細胞が分化し複雑な器官が形成されていく様子は、生命の驚きの一つである。器官形成においては、近傍の細胞から発せられたシグナル分子の情報をもとに個々の細胞が自分自身の正確な位置価を決定し、それに基づく形態形成運動を行うことにより達成されると考えられてきた。しかしながら、近年のショウジョウバエの研究により、器官形成にはこれらの局地的なシグナルだけではなく、胚全体に拡散するステロイドホルモン(エクジソン)も必要であることが示されている。我々の直近の興味は以下のようなものである。
1. ショウジョウバエの各種器官形成におけるエクジソンの生理的役割は何か?
2. 全身性のエクジソンのシグナルがなぜ局地的な器官形成の制御に必要なのか?
エクジソンは昆虫を含む節足動物の脱皮・変態を制御するホルモンとして以前からよく知られているステロイド分子である。変態は動物界で普遍的に見られる現象であり、孵化直後の幼生から成体へと形態変化させることで効率よく摂食や生殖を行うための優れた生態戦略でもある。エクジソンは、栄養状態や外部環境に合わせて適切な時期に変態が起こるよう、後胚発生の時期的な制御を行うマスター分子と言える。一方で、脱皮や変態時のみならず、胚発生期においてもエクジソンが検出されることがいくつかのモデル昆虫で報告されており、これらの胚発生期におけるエクジソンの役割については長らく不明のままであった。2000年代に入ってから、エクジソンの生合成に関わる代謝酵素遺伝子の変異系統がショウジョウバエで単離され、これらの系統は全て胚致死であり、多くの器官において形態異常が観察されることが報告されている。これらの事実は、胚発生期の器官形成においてもエクジソンが重要な役割を果たしていることを強く示唆している。
私達はこれまでに表皮細胞の分化や細気管支細胞の分化にエクジソンが重要な役割を果たしていることを分子レベルで明らかにしてきたが、エクジソンはそれ以外にも消化管形成や神経発生などの多くの器官で必要であることがわかっている。これまで生活環境に依存した後胚発生の制御因子と考えられてきたエクジソンが、胚発生のような環境の影響を受けにくい現象に直接関わっているというのは、一見すると辻褄が合っていないように思える。胚発生期においてもエクジソンは決まった時期に合成・分泌されており、エクジソン受容体の活性化が胚全体で見られることから、エクジソンは胚発生においても時期特異的かつ全身性のシグナルであることは疑いようがない。なぜ時期的な制御因子が胚発生にも必要であるのか、なぜ全身性の制御因子が器官特異的な形態形成に必要であるのかについては全く謎である。胚発生期における多彩なエクジソンの機能の詳細を解析し、統一的な分子メカニズムを明らかにすることにより、器官形成の本質を明らかにしていきたい。
主な研究テーマ
ショウジョウバエ上皮細胞の形態形成におけるペプチド遺伝子の生理機能に関する研究
ショウジョウバエ中枢神経系における高分子ノンコーディングRNA の生理機能に関する研究
最近の代表的な論文
- Taira, Y., Wada, H., Hayashi, S. and Kageyama, Y. (2021)
polished rice mediates ecdysone-dependent control of Drosophila embryonic organogenesis.
Genes Cells 25: 269-281. https://doi.org/10.1111/gtc.12841 - Jérôme Bohère, Mancheno-Ferris, A., Al Hayek, S., Zanet, J., Valenti, P., Akino, K., Yamabe, Y., Inagaki, S., Chanut-Delalande, H., Plaza, S., Kageyama, Y., Osman, D., Polesello, C. and Payre F. (2018)
Shavenbaby and Yorkie mediate Hippo signaling to protect adult stem cells from apoptosis.
Nat. Commun. 9, 5123. DOI: 10.1038/s41467-018-07569-0 - Hélène Chanut-Delalande, Hashimoto, Y., Pelissier-Monier, A., Spokony, R., Dib, A., Kondo, T., Bohere, J., Niimi, K., Latapie, Y., Inagaki, S., Dubois, L., Valenti, P., Polesello, C., Kobayashi, S., Moussian, B., White, K.P., Plaza, S., Kageyama, Y.*, and Payre, F.* (2014)
Pri peptides are mediators of ecdysone for the temporal control of development.
Nat. Cell Biol. 16: 1035-1044. - Yuji Kageyama, Kondo, T. and Hashimoto, Y. (2011)
Coding vs non-coding: Translatability of short ORFs found in putative non-coding transcripts. (review)
Biochimie 93: 1981-1986. - Takefumi Kondo, Plaza, S., Zanet, J., Benrabah, E., Valenti, P., Hashimoto, Y., Kobayashi, S., Payre, F. and Kageyama, Y. (2010)
Small peptides switch the transcriptional activity of Shavenbaby during Drosophila Embryogenesis.
Science 329: 336-339. - Takefumi Kondo, Hashimoto, Y., Kato, K., Inagaki, S., Hayashi, S. and Kageyama, Y. (2007)
Small peptide regulators of actin-based cell morphogenesis encoded by a polycistronic mRNA.
Nat. Cell Biol. 9: 660-665.
連絡先
建物・部屋番号: 理学部X棟301号室
電話: 078-803-5950
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