Graduate School of Agricultural Science, Kobe University Division of Applied Chemistry in Bioscience Functional Phytochemistry Lab 本文へジャンプ
神戸大学大学院農学研究科
応用生命化学
  植物機能化学分野
 
 
  「最近の研究活動
    杉本 幸裕 【すぎもと ゆきひろ】

基礎研究を通して得た知見の応用を目指して

根寄生雑草の発芽調節への関心から、様々なSLを単離し構造を明らかにしてきました。宿主作物に代わって発芽刺激物質を人為的に畑に施与すれば、根寄生雑草種子の発芽を誘導することができます。発芽した種子は周囲に宿主となる作物がいないため、僅かな貯蔵養分を使い尽くして数日のうちに死に絶えます。この自殺発芽誘導により根寄生雑草の種子を減らすことが可能となります。このアイディアはstrigolの発見後まもなく提唱されました。その後、膨大な数の類縁体が合成され、ストライガおよびオロバンキ種子に対する発芽刺激活性が評価されてきました。しかし、天然の発芽刺激物質と比較すれば構造が単純な類縁体も、大量に合成することは容易ではありません。圃場レベルでの実証試験を試みたのは、私たちのほかには、Zwanenburg教授のグループだけでした。彼らはNijmegen-1と名付けた合成SLによる自殺発芽誘導がオロバンキの防除に有効であることを示しました。私たちは、次に記すように、ストライガについて自殺発芽誘導が有効であることを、圃場レベルで実証しました。

平成21年度にJICA/JST地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)に採択され、ストライガのホットスポットであるスーダンで応用研究をすることが可能となりました。私たちは,シャーレ内での発芽刺激活性の高さとともに合成の容易さを重視し,天然の発芽刺激物質の構造を大胆に簡略することで,合成が容易なT-010(図2)を新たに開発した。シャーレ、プラスティックカップでの発芽誘導活性を確認したのち、ポット試験を行いました。20 kgの風乾土を入れ,土壌表層5 cm5 mg(約1000粒)のS. hermonthica種子を混和した、内径36 cmのポットを用意しました。数日おきに潅水しながら,18日間にわたりコンディショニングした後に,土壌表面から00.11および10 kg a.i. ha-1に相当するT-010水和剤を水に懸濁して施与しました。水和剤施与後6日目からソルガムを栽培しました。予めT-010で自殺発芽処理したポットでは、ほとんどストライガの出現が認められませんでした(写真8)。続いて、人工的にS. hermonthica種子を混和した圃場でも,T-010水和剤による自殺発芽誘導の効果を検証しました。数日おきに潅水しながら,16日間のコンディショニング後に,土壌表面から00.11および10 kg a.i. ha-1に相当するT-010水和剤を水に懸濁して施与した。水和剤施与後6日目からソルガムを栽培しました。ソルガム生育初期(播種後49日目)のS. hermonthica出現数は、T-010水和剤を施与しない区画(ソルガム1株あたり5.6)に対して、0.1 kg a.i. ha-1以上の水和剤を施与した区画では有意に減少しました(p<0.05)(図4)。栽培期間中のS. hermonthica出現数は播種後76日目に最大に達し、T-010水和剤を施与しない区画(ソルガム1株あたり45.0)に対して、0.1 kg a.i. ha-1以上の水和剤を施与した区画では3040%減少しました(同27.431.5)(図4)。また、T-010水和剤を施与した区画では、施与しない区画と比較してS. hermonthicaの出現開始時期が遅れたため、開花に至るS. hermonthica個体数は僅かでした(写真9)。ソルガム穂重は、T-010水和剤を施与しない区画ではS. hermonthicaの被害を受け96 g m-2であったのに対し、水和剤を施与した区画では274326 g m-2と有意(p<0.05)に大きくなりました(表1)。T-010水和剤による自殺発芽誘導により土壌中のストライガ種子密度が低下し,S. hermonthicaの出現が遅れ、出現数も減ったことで、ソルガムへの被害が軽減できたと考えられます(Samejima et al. 2016)。