ICT活用コンテンツ
授業形態の多様化時代における大学授業デザインの考え方
― 対面・ハイブリッド・遠隔をどう設計するか ―
🟦 第2章 対面授業 ―BYODを活用した授業デザイン
1. 対面形態(BYOD活用)とは
対面形態は、これまで大学で主に実施されてきた通りの、教員と学生が同じ教室に集い、同じ時間を共有して行う授業形態です。これまで対面授業は、一斉講義や板書、口頭でのやり取りを中心に展開されてきましたが、近年は BYOD(Bring Your Own Device) の普及により、対面授業の中で可能な学習活動の幅が大きく広がっています。
BYODとは、「学生が自身のノートPCやタブレット、スマートフォンなどの情報端末を授業に持ち込み、学習に活用すること」を指します。
大学全体で無線LAN環境やLMS、クラウドサービスが整備されたことで、対面授業においても、デジタル教材の活用、即時的な情報共有、記録の蓄積などが日常的に行えるようになっています。神戸大学では2019年からBYODが始まっており、基本的に学生は授業にデバイスを持ち込むことができる状況にあります(大月ほか 2019)。
BYODを活用した対面授業では、以下のようなことが可能になります
- 紙のノートや配布資料に代わり、デジタル資料を参照しながら学ぶ
- 学生がその場で考えを入力・共有・可視化する
- 授業中の活動やメモが授業後の振り返りや復習につながる
一方で、学生がデバイスに向かっていると、学生が授業以外の何らかの活動をデバイス上で行っていても教員はその状況を知り得ることが困難です。また、学生は重いデバイスを持参したにも関わらず使用用途が不明瞭であると、辛い思になるでしょう。そのため、BYODを前提とした対面授業では、デバイスをどの場面で、どのような目的で使うのかを意図的に設計することが重要になります。
これまで、対面授業における授業の工夫に関する知見はさまざまな場所で紹介されているので、本コンテンツでは対面授業の中で、学生自身のデバイスをどのように活かすのかに焦点化し、BYODによって拡張される学習活動や支援の可能性について整理し、授業デザインや実践に活かす視点を示します
2. 神戸大学生の授業中のデバイス活用状況
神戸大学生は、現在授業中にどの程度デバイスを使用しているでしょうか。この調査は2025年の前期に授業中のデバイス活用状況についてたずねた調査で、主に全学共通教育の授業で実施しました。305名の結果です。
まずは、図5の授業中に使用しているデバイスの種類を見てみましょう。こちらは複数回答の結果ですが、学生が授業中に使用しているデバイスは主に、ノートPC、タブレット、スマートフォンの3つに集約できます。305名の回答中291名がノートPCを持ってきているという結果なので、ほとんどがノートPCを持参しているということがわかります。
次に、ノートPC、タブレット、スマートフォンを持参している学生がそれぞれのデバイスで授業中にどのような用途で使用しているのかをみてみましょう(図6)。ノートPCとタブレットは一見機能が似ているように思いますが、興味深いことに使用用途の傾向は少し異なっています。
ノートPCの使用用途は、資料の閲覧、課題の遂行(作成から提出)、資料の検索の順で、その次にノートテイクがあります。一方タブレットでは、多くがノートテイクの用途で使用されていることがわかります。このことは、これまでのノートにおける手書きのノートテイクに代えて、タブレットとペンを用いたデジタルのノートテイクを行っていることが推察されます。また、スマートフォンについては、資料の検索の用途で使用されていることが目立ちます。教員世代からすると、「資料検索は画面が広くて、複数のページを同時に開けることができるノートPCの方が便利なのに」、「ノートテイクはタイピングの方が早いのに」と思われるかもしれませんが、デジタルネイティブの学生にとっては、普段操作が慣れているスマートフォンの方が良いのかもしれませんし、これまで紙とペンでノートテイクをしてきた経験から、手書きライクのデジタルペンによるノートテイクが好みなのかもしれません。
次に学生が実際に授業で、どのように自分のデバイスを使用しているのかについていくつかご紹介します。こちらは2025年11-12月に学生にインタビューを行った結果です。インタビューでは、【授業中に使用しているデバイスの種類・授業中のデバイスの典型的な使い方・BYODに対して感じているメリットとデメリット】などをたずねました。ここでは典型例として3名のインタビュー結果をご紹介します。表3にその一覧を示します。
インタビューに答えてくれた学生の所属学部や学年は異なりますが、使用している端末やその用途もバラバラなのがわかります。BEEF+などによって提供されるPDFの授業資料は、紙に印刷することなく、自分自身のノートPCで閲覧することが多いようです。ですが、授業中のノートテイクは、三者三様です。以下学生の発言は斜体で示します。
学生Aの「パソコンで打つよりも、手で書いた方が自分の頭の回転に合っている感じがします。打とうとすると、どうしても考えるより操作の方に意識がいってしまうので。」という発言からはも、理解を深めるためには手書きを好んでおり、ノートテイクには手書きを採用していることがわかります。授業資料はweb上にアップロードされていると、授業が始まる前にダウンロードして授業の内容をざっと予習できることを魅力に感じていたようです。
学生Bは、1年生から試行錯誤してさまざまなツールを用いたようですが、端末の特性を活かしてデバイスを2台持ちすることに落ち着いたようです。ノートテイクは、タブレット(iPad)とデジタルペンで手書きするだけではなく、授業資料で重要だと思ったところをスクリーンショットによって転写し、そこに自分なりの解釈を書き込んでデジタルノートを作成していました。つまり、単に先生の板書を書き写すノートテイクではなく、自分で聴講した内容を再構成して、自分なりの学習資料を作成していたのです。学生Bは、このように自分の学習資料を作成する理由を、「iPadやパソコンに一つにまとめておけば、『この授業の資料はここ』って決まっているので、テスト前にそれを見れば勉強が完結する、というのが大きいです。」と語っており、資料を自分なりに一元化しておくことでテスト前の勉強にも役立てていることがわかりました。
学生Cは、ノートテイクを業の性質によって変えているようでしたが、紙とペンによる手書きノートとPDF資料への書き込み(PDFのコメント機能などを使用)を併用していました。まず、手書きのノートについては「自分はタイピングが遅くて、授業のスピードに追いつけないので、手で書いた方が速いと感じています。」というように、授業のスピードについていくために手書きを採用していることがわかります。一方で、PDFへの書き込みについては、「資料はPDFで、図だけが貼られているスライドが多いので、その図の横に直接書き込んだ方が分かりやすいです。」と発言しており、それらの使い分けは「図に関係するポイントはPDFに、授業全体の内容や細かい説明はノートに書いています。」のように、授業全体を理解する上で、自分なりにデバイスや紙を柔軟に使い分けていることがわかります。
このように、授業中のデバイス利用は三者三様であることが示されました。また自分の学習特性や、テストなどを見越した学習に必要な資料について自分で理解しており、使い分けていることがわかりました。従来の大学の授業では、全員が同じ提示資料を見て、適宜板書や先生の発言から紙でノートテイクをするという画一的な受講スタイルでしたが、BYODの導入により、学生は自分で自分の学習を管理するようになったのではないかと思います。教員は、授業をデザインする際には、このように様々な受講スタイルがあることは理解しておく必要がありそうです。
ただしBYODには、まだ課題もあります。ここでデメリットとして挙げられているように、1年生は授業がたくさんあり、5限目になるとバッテリーが足りなくなることもあります。また、上回生になるとノートPCが古くなってきてバッテリーが劣化することが懸念されます。さらに、教室によってはwi-fi環境が不十分で思うように使用できないこともあるようです。BYODを授業で活かすためには、やはりこれらの課題は大学組織として対応していく必要はありそうです。
3. 学生のデバイス利用を活かした授業デザインのポイント💡
BYODが前提となった対面授業では、学生はそれぞれ異なるデバイスを用い、異なる方法で学習に取り組んでいます。そのため、授業デザインにおいて重要なのは、「どのデバイスを使わせるか」ではなく、「デバイスを用いてどのような学習活動をするか」 という視点です。
(1)大人数講義でも学習成果を共有できる設計
Googleスライドや共同編集可能な資料を用いることで、グループで話し合った内容を1グループにつき1枚に書き込むことで、即時に全体で共有することができます。これにより、教室のどこに座っている学生の議論内容であっても、全体で参照・紹介することが可能になります。大人数講義であっても、学習活動を「一部の発表者」に限定せず、全員の思考を場に開くことができます。
(2)アウトプットへのフィードバックを前提とした活動設計
Padlet等を用いて学生のアウトプットを並べて可視化することで、限られた授業時間の中でも、教員がコメントや全体講評などのフィードバックを行うことができます。発表形式に頼らず、全員の成果物を対象としたフィードバックを実現できる点は、BYODを活用した対面授業の大きな利点です。
(3)即時的な反応共有による理解調整
クリッカーや即時アンケートを用いることで(Microsoft 365のformsにクリッカーの機能があります)、学生の理解度や意見をその場で共有することができます。具体的には、質問フォームのQRコードをスクリーンに投影し、学生は自分のスマートフォンなどのカメラで読み取って操作をします。全員の前では発言しにくい学生も参加しやすく、教員はその結果を踏まえて説明の深さや進度を調整できます。これは、対面授業の即時性とBYODの可視化機能を組み合わせた実践と言えます。
(4)学習成果を「その場限り」にしない設計
授業中に作成された資料や課題投稿は、授業後も参照可能な学習資源となります。学生はそれらを振り返りや復習に活用し、自分なりに学習を再構成することができます。授業を1コマで区切るのではなく、科目全体として何を学ぶのかを念頭に置いて、授業の終盤に振り返りセッションを設けることで知識の定着を図ります。デジタルの蓄積と共有の要素を活かすことで、対面授業での学びを継続的な学習プロセスへとつなげることが可能になります。
ツールレシピ:
Googleスライド(共同編集):「大人数でも“全員の思考”を場に出す」大学のGoogleアカウントで使用可
向いている使用目的:グループの議論の可視化/全体共有/比較/概念整理
強み:1グループ1枚で「同時に編集できる」、教員が前方で全体を見せて講評できる
使い方事例:1グループ1枚「議論の可視化スライド」
○準備(教員):
事前にスライドを用意(例:全30班なら30枚)
1枚目にルールを明記したテンプレートを作成
・「自分の班のページ以外は編集しない・消さない/移動しない・追記は(色)で」など
・各ページ上部に「班番号」「役割(司会・記録・発表)」枠を作る
○授業中(学生):
・LMSや前方のスライドに掲示されたQRコード or 短縮URLからアクセス →何列目に座っているかによってどのページを担当するといった工夫をする
・議論内容を記入
○授業中(教員):
・前方でスライドをスクロールしながら、例を拾って全体講評
・似た意見を横並びで比較(“違いが学び”になる)
○授業後:
PDF化してBEEF+に置く
Padlet:「全員のアウトプットを“並べて”フィードバックする」(無料アカウントの場合作成枚数に制限あり)
https://padlet.com/
向いている目的:短文投稿/画像・資料共有/質問の収集/ギャラリーウォーク
強み:投稿が一覧化され、教員が拾ってコメントしやすい(発表に頼らない)
- 授業中
- 各班「成果物(画像/要点3行)」を投稿
- その後5分で「他班2つにコメント」 例:①良い点 ②改善案(各1行)
- 教員の講評
Microsoft Forms(クリッカー的利用):「理解のズレを即時に見える化」 大学のMicrosoftアカウントで利用化
○準備(教員):
・目的を1つに絞る
例:理解確認(誤概念の把握)/意見分布の可視化(討議の材料)/進度調整(次の説明が必要か判断)
・設問は“少数・短時間”で設計
1回あたり 1〜3問(60秒〜2分で終わる量)
選択式中心(単一選択・複数選択)+必要なら最後に自由記述1問
・質問の作り方(コツ)
「知識の丸暗記」より 判断が分かれる選択肢にする(誤解が見えやすい)
選択肢は「よくある誤答(誤概念)」を意図的に混ぜる
運用のしかたを決めておく
記名/匿名(迷う場合はまず匿名でOK。発言しにくい学生も参加しやすい)
授業中に結果を投影するか/回収だけして後で扱うか
○授業中(学生):
・QRコードの提示 or 短縮URLをLMSに掲示、からアクセス
・学生が回答(スマホでもPCでも可)
・結果を表示(投影)して解説
4. 「やりすぎない」BYOD活用のための注意点
BYODは、対面授業における学習活動の幅を大きく広げる一方で、活用の仕方によっては、かえって学習の妨げになる場合もあります。ここでは、BYODを効果的に活かすために、あえて「やりすぎない」ことの重要性について整理します。
(1)デバイスを使うこと自体を目的にしない
BYODを前提とした授業では、「何かしらデバイスを使わせなければならない」と感じてしまうことがあります。しかし、デバイスはあくまで学習を支える手段であり、目的ではありません。内容によっては、【教員の説明を聞く・板書を見ながら考える・紙や付箋に手で書いて整理する】といった活動の方が、理解を深める場合もあります。重要なのは、「この場面では本当にデバイスが必要か」を問うことだと思われます。
(2)複数のツールを同時に使わせすぎない
BYOD環境では、クラウドツールやアプリを自由に使えるため、授業内で複数のツールを次々に切り替える設計になりがちです。しかし、上にあげたようなクラウドツールであるBEEF+、Googleスライド、Padlet、アンケートツール、などを短時間で行き来させると、学生は「学習内容」よりも「操作」に注意を奪われてしまいます。各ツールの役割を明確にして利用することが重要です。また、授業中に現在何のツールを用いて何をすべきなのかを明確にするために情報を一元化して BEEF+などに示すことも必要です。
(3)常に画面を見続ける状態をつくらない
対面授業の強みは、教員や他の学生と同じ空間を共有し、非言語的な情報も含めて学べる点にあります。BYODを使いすぎると、学生が終始画面に向かい、教員の説明を聞かない、周囲の議論に参加しにくい、といった状況が生じることがあります。そのため、「ここは画面を見る時間」、「ここは顔を上げて議論する時間」といったように、デバイスを使わない時間を意図的に設けてメリハリをつけることが大切です。
(4)学習以外への注意分散を前提に設計する
学生が自分のデバイスを使用している以上、通知や他のアプリへの誘惑を完全に排除することはできません。そのため、「私語や内職を防ぐ」という発想ではなく、学習に集中しやすい活動を設計することが重要になります。例えば、短時間でのディスカッション、途中経過や成果物を共有する活動、短い時間でアウトプットが求められる課題、フィードバックが返ってくる構造、などは、自然と学習に注意を向けさせる効果があります。
(5)学生の多様な学習スタイルを尊重する
前節で示したように、学生のデバイス利用の仕方やノートテイクの方法は三者三様です。 BYODを活用した授業では、全員に同じツール・同じ方法を強制する「このやり方が正解」と決めつけるのではなく、複数の取り組み方を許容する設計が求められます。 例えば、手書きノートとデジタル資料の併用、PC中心でも、タブレット中心でも成立する活動、など、柔軟性をもたせることで、学生は自分に合った学び方を選択できます。
(7)トラブルを前提に「代替が可能な設計」を用意する
BYODを活用した対面授業では、学生や教員がそれぞれのデバイスを使用するため、機器や通信環境に関するトラブルを完全に避けることはできません。例えば、学生のノートPCやタブレットの不調、バッテリー切れや充電不足、教室のプロジェクタや音響機器の不具合、無線LAN(Wi-Fi)が不安定、または接続できない、といった状況は、どの授業でも起こり得ます。そのため、BYODを前提とした授業では、「すべてが正常に動くこと」を前提にするのではなく、一部が使えない状況でも学習が継続できる設計が重要になります。 BYODを活用した対面授業では、「トラブルが起きても学びが止まらない」設計 が、授業の質と安心感を大きく左右すると言えるでしょう。
5. 授業デザイン事例
学生のデバイスを活用する授業の授業デザイン事例を紹介します。
授業名:高等教育と情報化社会
| 授業名 | 授業の流れ | |
|---|---|---|
| 1 | 現代大学教育の現状 |
・講義 ・ミニディスカッション個人で数分考える → ペアで共有→ 全体でいくつかのペアにマイクを向けて全体共有】 ・授業後、BEEF+でふりかえりを提出 |
| 2 | 大学教育とアクティブラーニング |
・講義 ・ミニディスカッション【個人で数分考える → ペアで共有→ 全体でいくつかのペアにマイクを向けて全体共有】 ・授業後、BEEF+でふりかえりを提出 |
| 3 | 大学教育におけるオンラインの活用 |
・講義 ・ジグソー法によるグループディスカッションを実施(1チーム1枚のGoogleスライドに議論内容を同時編集で記入・教員がスライドを前方に提示し、全体で内容を共有・整理) ・授業後、BEEF+でふりかえりを提出 ・授業後、オンライン教材の事例をBEEF+に提出(他者と共有) |
| 4 | オンライン授業が大学教育に与える影響 |
・講義 ・ミニディスカッション【個人で数分考える → ペアで共有→ 全体でいくつかのペアにマイクを向けて全体共有】 ・授業後、BEEF+でふりかえりを提出 |
| 5 | インストラクショナルデザインの理論 |
・講義 ・KJ法によるグループディスカッションを実施(分類結果をGoogleスライドに書き込み、全体で一覧・共有) ・授業後、BEEF+でふりかえりを提出 |
| 6 | 授業設計の実践①〈目標と評価〉 |
・講義 ・個人ワークで授業設計を考案 ・ペアで共有し、フィードバック ・授業後、BEEF+でふりかえりを提出 ・授業後、授業中にできなかった部分をBEEF+で補完 |
| 7 | 授業設計の実践②〈計画〉 |
・講義 ・個人ワークで授業設計を考案 ・授業後、BEEF+でふりかえりを提出 ・授業後、授業中にできなかった部分をBEEF+で補完 |
| 8 | 情報化社会と大学教育のまとめ |
・学生による発表とフィードバック ・リフレクションラシートによる振り返り ・授業後、最終ふりかえりと授業設計実践課題をBEEF+で提出 |