琉球列島久米島の鮮新統宇江城岳層からピクライト玄武岩の発見

Picrite basalts from the Pliocene Uegusukudake Formation in Kume-jima, Ryukyu islands

伊藤純一・白木敬一

Jun'ichi Ito and Keiichi Shiraki

地質学雑誌 105 11 810-813 

Abstract : 

 Picrite basalts containing MgO up to 16wt.% were found in the lowest part of the Pliocene Uegusukudake Formation on the north coast of Kumejima island ; in the close proximity northwest of the island lies an active back-arc basin, Okinawa Trough. The high Fo (92.2) of olivine and Cr2O3 (56.5%) of spinel in the picrite baslts indicate the existence of magma with 13% MgO and 0.15% Cr2O3. The Kumejima picrite basalts are tholeiitic arc picrites having relatively high SiO2 and Low incompatible element abundances. They may have formed accompanying the opening of the Okinawa Trough.   

 

琉球列島久米島の火山岩

‐特にピクライト玄武岩とバハアイト質高Mg安山岩‐

 琉球列島久米島の宇江城岳層最下部から島弧としては極めて希なMgO 16 .5 % に達するピクライト玄武岩を発見した。ピクライトは一般に、高いMgO含有量から高い部分溶融度が必要であり、高温で形成されたと考えられている。久米島ピクライトは年代およびその地質学的位置から約200万年前より活動を再開し、現在の活動的背弧海盆である沖縄トラフの早期の火成活動を表していると考えられる。このピクライト玄武岩の発見により沖縄トラフは、少なくともMgO:13%以上の初生マグマが存在し、1300℃以上の高温で活動を開始したと考えられる。

さらに、久米島の東に隣接する奥武島からSrが高くYに乏しい高Mg安山岩を見出した。この特異な化学組成はバハカリフォルニアで最初に発見され、地名にちなんで名づけられたバハアイトと類似する。バハアイトの産出は、世界でも稀で、日本では久米島の他に、北部北上山地に産出したバハアイトの二つの報告しか例がない。バハアイトの成因はアダカイト(Sr/Yの高い岩石)質マグマにマントルウェッジのカンラン岩が反応してできたと考えられている。アダカイトは25Ma以下の若いスラブが沈み込んでできたと考えられている。しかし、琉球弧の下に沈みこんでる西フィリピン海盆は、フィリピン海プレートのうち最も古く(>80Ma)、6Maの琉球弧においてスラブ自体の高温による溶融は考え難い。もしアダカイト質マグマの生成にスラブの溶融を必要とするならば、スラブの沈み込んだマントル自体が高温であったと考えられる。

また、久米島の火成活動は中新世・阿良岳層と鮮新世・宇江城岳層の火山岩の二時期からなるとされ、この奥武島の高Mg安山岩は宇江城岳層に属すとされてきた。 しかしその特異な化学組成をもつバハアイトは、他の宇江城岳層火山岩と関連づけることはできない