神戸大学 海事科学部 グローバル輸送科学科 ロジスティクスコース

教育内容

ロジスティクスとはどのような学問領域か

1. ロジスティクスに対するイメージ

皆さんは「ロジスティクス」と聞いて、どのようなことを想像しますか。普段はあまり聞きなれない言葉なので、全く想像もできないという人も多いのではないでしょうか。また、想像できたとしても、おそらくトラックや港湾、貿易といった「モノを運ぶ」ことに関わるキーワードを想像する人が多いかもしれません(図1)。

図1

たしかにトラックや港湾などはロジスティクスにとって欠かせないものですが、ロジスティクスでは社会のより広い範囲の活動を対象としています。

このページでは、ロジスティクスとはどのような学問領域なのか、また、社会におけるロジスティクスの役割を簡単に概観します。その後、海事科学部グローバル輸送科学科のロジスティクスコースで何を学ぶことができ、どのような人材を育てたいと考えているのかについて説明したいと思います。

2. 社会におけるロジスティクスの役割

ロジスティクスとは?(ロジスティクスの語源)

まずはあまり聞き慣れないロジスティクスの語源から見ていきましょう。

ロジスティクスとは、日本語で兵站(へいたん)と訳され、軍事用語の1つあり、本来は「目的を実現するための一連の活動やそのためのしくみ」等の後方支援活動を意味します。これはもともと「ストラテジー(戦略)」、「タクティックス(戦術)」と並んで利用されていました。

有名な豊臣秀吉の天下統一事業にも「ロジスティクス」は深く関わっていました。興味があれば、次の折り返しを開けてください。

豊臣秀吉が用いたロジスティクス
図2

豊臣秀吉が得意とした「兵糧攻め」は、敵の補給線を断つことで戦わずして相手に勝つ方法です(図2参照)。どんなに兵士の士気が高くても食料や軍事物資が前線に届かなければ、戦いを続けることはできません。

また、兵站の実現のためには、最前線では必要なモノに関わる情報を後方に正確・迅速に伝え、後方では、それらの情報をもとに、必要な時期に必要なモノを必要な量だけ送り込むことが重要です。このように軍事の分野で発達したロジスティクスの考え方とは、前線の戦闘部隊が戦争を行うためのあらゆる支援を行うことを言います1。「兵糧攻め」の他にも図2のように豊臣秀吉は様々なロジスティクスを活用して、天下統一に向けた戦いを行いました(詳しくは、湯浅など(2011)『図解でわかる物流とロジスティクス』アニモ出版168頁を参照してください)。

ビジネス・ロジスティクス

この軍事用語であるロジスティクスの考え方やテクニックが、企業経営の分野など商業用に利用されることになり、それが現在の「ロジスティクス(ビジネス・ロジスティクス)」と呼ばれているものです。「ロジスティクス」を簡単に説明すると、メーカーが原材料の調達から完成させた製品を市場に流通させるときに発生する物の動きを円滑にコントロールする活動のことです。

現代では、「ロジスティクス」以外に、ロジスティクスと関連の深い「物流」や「サプライチェーン」という言葉も同義語として使われることがあります。これらの言葉の意味は若干異なりますが、興味があれば、次の折り返しを開けてください。

ビジネス・ロジスティクス、物流、サプライチェーン

「ロジスティクス」と「物流」の定義は、日本工業規格の物流用語によると以下のようになります。

【物流】
「物資を供給者から需要者へ、時間的及び空間的に移動する過程の活動。一般的には、包装、輸送、保管、荷役、流通加工及びそれらに関連する情報の諸機能を総合的に管理する活動。調達物流、生産物流、販売物流、回収物流(静脈物流)、消費者物流など、対象領域を特定して呼ぶこともある。」

【ロジスティクス】
「物流の諸機能を高度化し、調達、生産、販売、回収などの分野を統合して、需要と供給との適正化を図るとともに顧客満足を向上させ、併せて環境保全、安全対策などをはじめとした社会的課題への対応を目指す戦略的な経営管理。」

1 この例は湯浅など(2011)『図解でわかる物流とロジスティクス』アニモ出版168頁より引用しています。

図3

[出所] 斎藤陽一郎「物流用語集」より筆者作成
http://www.ab.auone-net.jp/~turemari/index.html

これだけではわかりにくいので、メーカー(自動車やテレビなどをイメージしてください)を対象とした図3を用いて、説明すると以下のようになります。

まず、自動車やテレビなどの製品が、原材料を調達してから商品となり、消費者の手元に届くまでには、複数の段階を経ていることがわかると思います。この一連の流れの内、

(ビジネス)ロジスティクスは

  • 自社内で行う生産や組立のための原材料の調達を行い、
  • 完成した製品を流通業者(卸売業者や小売業者)に配送する

までの一連の活動のことを言います。また流通業者との取引の際に発生する

  • 商流の管理(受発注、金融、情報)の管理

もロジスティクスの重要な活動です。

物流は自社内のロジスティクスの活動の内、

  • 組立、または生産された製品を「必要なときに必要なだけ届けるための活動」

だと言えます。ここでは考えられるのは、以下の6つの項目です。

  1. 輸送や集配送のような商品の空間的移動(→輸配送)
  2. 倉庫などで商品を保管する時間的移動(→保管)

を基礎として、これに関連する活動には、

  1. 商品に値札をつける・商品の納入先のニーズに合わせて商品を詰め合わせる(→流通加工)
  2. 商品を段ボールに詰めるたり包装紙で包む(→包装)
  3. 輸送時や保管時に商品を積み下ろす(→荷役)
  4. 商品の受注や発注を行う・商品管理のために商品の情報を把握する(→情報)

という機能を持ちます。

以上のことから、ロジスティクスは、物流より広い概念だと言えます。

また現在、ロジスティクスは国内に限定されることなく、世界規模で行われていることから、輸送/物流活動に伴って地球温暖化、エネルギー問題、環境汚染が深刻化しており、環境面へ配慮した輸送/物流ネットワークの構築もロジスティクスの対象となっています。また、消費者から生産者への逆流する方向の活動として、廃棄物の廃棄・回収があり、それらをうまくコントロールするための段取りを対象としているのが「グリーン・ロジスティクス」と呼ばれる活動です。

最後に、ロジスティクスよりもさらに広く、自社内のことだけではなく原材料や部品の供給業者から最終顧客、最終ユーザーに向かう供給活動のつながりを「サプライチェーン(供給連鎖)」と呼びます。また、市場環境の変化にサプライチェーンを俊敏に対応させ、この連鎖間にある企業間取引の寸断を回避するように管理することを「サプライチェーン・マネジメント(SCM)」と言います。これは製品やサービスを消費者にできる限り速く、安く届ける仕組みづくりのことです。そのために、サプライチェーンを構成する各企業が、物流、在庫管理、販売、情報に関わる業務について、部門ごと、企業ごとの部分最適化にとどまらず、サプライチェーン全体の視点から供給活動の連鎖を見直し、全体最適化に向けた連携を通じてスピードとコスト効率の向上を図っています。

ここまでメーカーを例に「(ビジネス)ロジスティクス」とそれに関連する「物流」、「サプライチェーン」の活動範囲を説明してきました。実は、これらの説明は教科書的な説明と考えてもらって結構です。現在のロジスティクスの活動範囲は、常にこの説明で述べた範囲だとは限りません。最近では、メーカーと最終消費者の間に位置する卸売業者や小売業者といった流通業者を抜く「中抜き」が頻繁に行われていますし、原材料の調達自体をメーカーで行うケースもあります。そのような場合は、ロジスティクスの対象とする範囲は上で説明したものよりも大きくなります。また、これら用語に関する定義は、関連する実務家や研究者によってもまちまちで、原材料の生産や調達から消費者の販売までの全てを指して「ロジスティクス」という人もいます。「ロジスティクス」とそれに関連する「物流」、「サプライチェーン」の違いを理解することは重要ですが、あまりその定義に惑わされずに、原材料の調達から完成させた製品を市場に流通させるときに発生する物の動きを円滑にコントロールする活動を「ロジスティクス」と呼ぶと考えたほうがいいかもしれません。

普段の生活に密着したロジスティクス

私達が日常生活を送る中で、ロジスティクスは必要不可欠になっています。自動車やテレビといったメーカーの例(折り返し部分参照)以外にも、皆さんがコンビニエンス・ストアで購入する飲み物、品質の良い服を安く購入できるファストファッション、回転寿司で1皿100円(正確には税込108円)でまぐろのお寿司など、これの商品を着ることや、口にできるのはロジスティクスのおかげであり、消費者ニーズにうまく答えることが出来た事例と考えて下さい。ファストファッションが皆さんの手元に届くまでに、ロジスティクスがどのようにかかわっているか、関心のある人はその次の折り返しを開けてください。

ファストファッションのロジスティクス
図4

図4を見てください。ファストファッションの服は原材料を調達して、これらを工場に輸送して縫製作業を行い、Tシャツやセーター、ズボンといった皆さんにおなじみの洋服に出来上がります。これらは、すぐに消費者の手元に届くわけではありません。工場で値札を付けたり、ビニールに入れるなど流通加工を施された洋服(商品)は、段ボールなどに梱包され、売れ行きに関する情報をもとに一旦、倉庫(在庫拠点)に保管されます。そして夏物なら春先、冬物なら秋口といった形で販売するのに適した時期に倉庫から配送を目的とした物流拠点(配送拠点)を経由して小売店に配達され、最終的に皆さんの手元に届くわけです。このように安価で良質な服がちょうどいい時期に皆さんの手元に届くためには、上記の一連の活動(ロジスティクス)が必要であり、これらのどこか一つが欠けても達成されません。

ロジスティクスで考えることとは?
図5

まとめると、ロジスティクスの活動とはモノを作って売るための戦略です。これは図5のように、原材料を「いつ、どこから(調達先、配置)、どうやって(輸送手段)運び」、そして「加工され」、出来上がった商品を「いつ、どこから(調達先、配置)、どうやって(輸送手段)運ぶか」を考えることと言えます。このような「適切な時間に、適切な場所に、適切な価格で、適切な数量と品質」を考えることをまとめて「ロジスティクスの5R (Right Time, Right Place, Right Price, Right Quantity and Right Quality)」と呼びます。5Rのためにいろいろな要素を選択しなければなりませんが、コスト、速さ、リスクなどを考慮に入れると、この選択の可能性は膨大な組み合わせになります。したがって膨大な組合せから最もよいものを素早く選んで、いかに効率的・持続的・強靭な輸送・管理システムを作れるかが企業の経営を左右すると言っても過言ではありません。

ロジスティクスとは、普段の生活からはあまり見えない後方支援的な活動ではありますが、これがなければ社会の基盤活動は成立しません。「原材料の調達から生産活動を経て最終消費者に至る」という“一連のモノの流れ”を対象にしたこの学問領域は、社会の至るところで、あらゆる場面で必要とされています。

3. ロジスティクスコースの研究・教育

ロジスティクスの研究について

法学や医学といった学問分野とは異なり、ロジスティクスという特定の学問分野はありません。あくまで研究対象としてそれが位置付けられます。では、ロジスティクスを研究するとは、何をすることになるのでしょうか。

ロジスティクスの研究は、広範囲で複雑な領域を含むものに変化してきています。

  • ロジスティクスのマネジメント論としての展開
  • ロジスティクスを市場ととらえ、その市場に対してどのような経営活動を行うかという運輸業界での経営的かつマーケティング的な展開
  • 行政の施策として、ロジスティクスを広い領域における財(商品、貨物)のフロー(流動)と考え、その公的な効率化、高度化を運輸構造なども含めて展開するもの

などが研究対象範囲といえます。ロジスティクスを研究するとはどのようなことか、詳細に興味があれば、次の折り返しを開けてください。

ロジスティクスにかかわる問題を考える研究分野
図6

ロジスティクスの問題解決するために必要な研究分野としては、工学、OR(オペレーションズ・リサーチ)、経営工学(経営学)、経済学、情報工学といった学問分野が挙げられます。このように、現在のロジスティクスの研究は理工学系もしくは社会科学系どちらかに属するものではなく、広く両方の知識が必要とされる学際的な分野と言えます。これに合わせて、本コースの教員はロジスティクスに関わる様々なバックグラウンドを持った教員が集まっています(図6参照)。大きく分けると、

輸送系
輸送・集配送のような商品の空間的移動や倉庫などで商品を保管する時間的移動について専門的に研究する分野
情報科学系
商品の受発注や商品管理のために商品情報を把握する技術を扱う分野
経済・経営系
企業・消費者の行動や企業間の商取引を把握したり、社会的・環境的な側面から社会全体のコストを最小にすることで全体最適化を考える分野

という3分野から、ロジスティクスの研究・教育を行っています。

ロジスティクスコースで学ぶこと

ロジスティクスコースで学ぶこととは、ロジスティクスに関連する「輸送」分野、「情報」分野、「経済・経営」分野を分析するために必要となる、理工学系から社会科学系に渡る近接領域について学ぶことを指します。また、3つの分野の内どの分野を専門とするかにより、ロジスティクスコースで学ぶ内容(履修科目とキャリアパス)は変わってきます。ロジスティクスを学ぶために必要な近接分野や各分野の履修モデルについて興味がある人は、次の折り返しを開けてください。

ロジスティクスを勉強するための近接領域

ロジスティクスに関する学問の近接領域にあるものとして、商業・流通に関するもの(例えば、商業学、流通論など)、経済学に関するもの(例えば、ミクロ・マクロ経済学、公共経済学など)、情報工学・数学(例えば、OR(オペレーションズ・リサーチ)、AI(人工知能)、統計学・多変量解析など)に関するもの、その他関連領域(例えば、会計学、保険、法律関係など)が挙げられます。グローバル輸送科学科「ロジスティクスコース」とは、こうした学問領域についてロジスティクスというキーワードを利用して、体系的に勉強できるコースです。例えば、「輸送」分野、「情報科学」分野、「経済・経営」分野を勉強したいと思う人のコース配属後の履修モデルおよび想定される就職先は、図7のようになります。

図7

4. ロジスティクスコースが求める人材

図8

ロジスティクスに限らず、現実に起こっている問題の解決する際に、ある特定分野の見方だけでは、対応できないことが多々あります。一般に学問分野は、大学の学部などの分類で代表されるように、工学や経済学など明確に分かれています。しかし、一歩社会に出ると、特定分野からだけではなく、多方面の分野も含めた学際的な見方が必要になります。そこでロジスティクスコースでは、理工学と社会科学の両方からロジスティクスに関連する諸問題を勉強します。それは当然のこととして、さらに学生に期待することは、自分が得意とする学問分野を1つ以上持つだけでなく、多方面からの物事を見て考えることが出来て、複数の分野の架け橋になれるような人材になって欲しいということです(図8参照)。ここでは、さまざまな学問分野がどのような役割を果たしているのかを、ロジスティクスを題材に考え、トレーニングする場所であるともいえます。

5. 最後に

海事科学部グローバル輸送科学科は、海を中核としながらも、陸海空にわたる地球規模のヒト・モノ・情報の流れを考える、先端的な教育/研究を行うところです。ロジスティクスは、社会を動かす動脈のような存在であり、限りなく進化を遂げる可能性を秘めた、非常に将来性のある分野です。2013年4月にスタートした本学部グローバル輸送科学科「ロジスティクスコース」は、陸海空運を専門とする理工学系から社会科学系までの総勢17名の教員を擁した、わが国で唯一のロジスティクスに特化したコースです。つまり、多様な分析対象(陸海空)と分析手法(工学、情報学、経済学、経営学)の中から、あるいはそれらを組み合わせて、現代に求められている高度なロジスティクスを勉強できるわが国で唯一のコースだと考えます。国際性豊かなこの神戸大学海事科学部という舞台で、これからのロジスティクスについて、是非、私達と一緒に取り組みましょう。

教育内容

ロジスティクスとはどのような学問領域か

  • ロジスティクスに対するイメージ
  • 社会におけるロジスティクスの役割
  • ロジスティクスコースの研究・教育
  • ロジスティクスコースが求める人材
  • 最後に

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