2015年度

クレイグ・エルウッドの住宅建築における架構形式—ケース・スタディ・ハウスにみる建築の規格化と地域性の融合に関する研究—

末包 伸吾・増岡 亮

本論文は,エルウッドの住宅建築における架構形式について,構造材の表現として機能するだけではなく, 建築に秩序を与え,空間構成の重要な要素として骨格を決定づけるものと考え,内外における架構形式の 類型と経年的移行を明らかにすることで,彼の架構形式を重視した建築の特性の一端を示すことを目的と するものである.エルウッドの架構形式に着目し,分析項目を「架構の構成」,「主要立面における架構」, 「内部空間における架構」の 3 点とした.分析の結果,50 年代は内外空間で梁に方向性をもたせ,かつ表 出させることで空間に秩序を与える構成,60 年代は外部に明確に柱梁を表出させることで建築の骨格を形 成し空間に秩序を与える構成としていることが明らかになった.

住まいにおける新しい郷土像の展開―H・デフリースによる1920年代後半のドイツで住宅建設計画を中心に―

山本一貴・中江研

本論考は、H・デ・フリースによる1920年代後半の一連のジードルンク計画を考察対象に、『未来の住宅都市』で提出された理念と手法が実際の空間形成にいかに応用されているかを明らかにすることを目的とするものである。本論考を通じて、第一次世界大戦直後の住宅困窮期におけるドイツ住宅建設をめぐって追求された新しい郷土像の一容態を明らかにすることを目指す。1920年代後半の計画についての考察を通じて以下の結論を得た。個々の住戸の建築計画には『未来の住宅都市』で掲示したメゾネット型住宅の手法の展開が見られる一方で、その際にはなかった南面採光を重視する立場や家族団らんのある住まいを目指す姿に、『未来の住宅都市』での郷土の追求に共通した視点を見出すことができる。

持続的な地域空間・環境形成に関する計画論的研究

山崎寿一・山口秀文・朴延・張然・内田大輝・宮崎毬加􀁧􀁩􀁤􀀶􀁜􀂖

本稿では、指定課題2)空き家・空地問題に対する研究、4)持続的な住環境の創成に関する研究、を意識して研究を行った。具体的には、(1)歴史的集落の事例として韓国の安東・河回村と順天・楽安邑城、(2)過疎地域の事例として能登半島の被災集落・道下、(3)成熟住宅地の事例として奈良県青山自然住宅地を対象にしている。(1)韓国の歴史的集落においては、歴史的環境及び景観の保全は、居住スタイルと社会構造、特に共同性の形態によって大きく影響を受けていることが明らかとなった。(2)の能登半島地震後に高齢者の移転が危惧された道下集落においては、高齢者の居住継続が行われていること、震災後、被災した空き家を撤去したことに伴う空き地の管理について、近隣及びコミュニティによる維持管理の実態が明らかになった。(3)の奈良青山自然住宅地においては、敷地内の緑についてその維持管理をすることにより緑に対する愛着が増し、さらにその管理も維持されている実態が明らかになった。これらの研究を通じて、持続的な地域空間・環境形成の要因を明らかにした。

縮退都市における空地緑化の戦略的展開に関する考察

The purpose of this research is to analyze strategic implementation of Vacant Lot Greening for Shrinking City. For City scale vision and approaches, City of Philadelphia, Detroit and Pittsburg’s Vacant Lot management and planning methodologies analyzed. Further, in Philadelphia PHS(Pennsylvania Horticulture Society’s Land Care Program is analyzed in detail. Through case study analysis of selected Vacant Lot Greening, current conditions and problems towards Strategic implementation of Vacant Lot Greening for Shrinking City revealed.

防火・避難安全情報の設計者とユーザーとの共有のあり方

大西一嘉・岡田尚子・中出 聡・田島和幸・佐藤博臣

高齢者福祉施設では,スプリンクラー設備の設置等の強化が図られ,一定の成果が表れている.一方,多くの施設ではスプリンクラーの消火に頼るあまり,防火・避難安全対策が不十分な面も見受けられ、職員が防火避難設計上の意図を十分に理解できてない可能性が窺える.過去の研究においても火災時の排煙設備や防煙上の扉の役割等について職員が十分に理解できていない状況が報告されている.したがって,設計時に考えられた防火・避難安全対策が正確に職員まで伝達されることは,施設の防火安全性を高める一つの手法であると考えた.そこで本研究では,①高齢者福祉施設の設計者が設計においてどのような防火・避難安全対策を考え,②その意図をどのように伝達しているのかその実態を把握し,③課題点を整理した上で防火・避難安全上の設計意図を伝達する有用な手法,職員向けの教育ツールを提案する.

多世代シェア居住の者の住意識と交流実態

押部健之・近藤民代

本研究は多世代シェア居住に着目し、居住者の住意識の特性と住居内における交流実態を明らかにした。
①多世代シェアハウス居住者と単身者向け・母子世帯向けシェアハウス居住者の住意識を比較すると、前者はライフスタイルに合う住環境という項目を重視して住まいを選択し、居住している現在も同項目に対する高い満足度をもっている。これに対して後者の入居動機は主に経済合理性であり、住生活改善を意識したグループに限定するとライフスタイルに合う住環境に対する満足度指数が高い。入居時の動機は異なるものの、多世代シェアハウス居住者と住生活改善を意識した単身者向け・母子世帯向けシェアハウス居住者は、シェア居住を各々のライフスタイルに合致した住まいとして評価している。
②多世代シェア居住の共用空間における交流は、個室における設備完備や建築計画によって異なる傾向を示す。居住者のみによるリビングにおける団欒に加えて、共用部分が地域に開放されている事例では子育て期の母親同士の情報交換が行われている。多世代シェア居住の共用空間では血縁関係がない疑似家族による団欒が行われると同時に、1家族=1住宅モデルによって孤立化を含めてきた子育てという行為が地域住民によって共同化されている。

集合住宅の構造性能改善によるBCP向上と資産価
値評および住宅・地域の安全・安心向上への活用

大谷恭弘・穴井 佑

現行の不動産鑑定評価では、地震に対するリスク評価において建物の損傷みを考慮したPMLが使用 ・参照されている場合もあるが、 建物被害がもたらす生活継続のために必要なコストは考慮されておらず、地震によっもたらされる被害損失の経済的評価が不十分であると思われる 。 本研究では新たな地震被害損失の経済的評価指標として、地震ハザード情報を活用した地震LCCを考え、既存不適格の集合住宅の改修に関してケーススタディを行い、地震LCCの有効性を検討する。

戸建住宅の建物配置と通風量の関係に関する研究

竹本優貴・竹林英樹

本研究では,実在住宅モデルを対象として開口面積や主風向と換気回数の関係を分析した.更に,モデル化した住宅街区を対象として隣棟間隔や角地などの住宅配置と平均通風量比の関係を分析した.標準的な住宅団地では,南側と北側の住宅間の換気回数に大きな差が生じるが,隣棟間隔を広くするか,雁行配置にすると,住宅団地全体の通風状態が改善される.主風向に応じて換気回数が大きくなる場合とあまり変化しない場合があるため,対象地域の主風向に応じて配置の検討を行う必要がある.芦屋市内の住宅団地の様に整列配置の住宅団地モデルに配置パターンが類似している場合には計算結果の傾向と概ね一致する.ただし,周辺のオープンスペースやわずかな形態の違いにより,換気回数が大きく変化する場合もあるため,周辺の住宅配置や街区特性の局所的な影響にも配慮する必要がある.

環境シミュレーションを用いた住宅設計プロセスの実践

近年、意匠設計者が操作が簡便なアプリケーションソフトを用いてコンピュー ター上で環境シミュレーションを行うことが可能になっている。本研究では実 際の住宅設計を事例として、設計の初期段階における設計案について環境シミュ レーションツールを用いて分析し、得られた結果を設計案の選択に反映させて いく手法の実践を試みた。その結果、環境シミュレーションを設計の初期段階 から行うことによって、従来は経験的、感覚的に選択されてきた住宅の環境性 能を目に見える分析結果として明らかにすることが可能となり、この手法は環 境に配慮した細やかな設計を行う上で非常に有効であることが示された。

東日本大震災における復興プロセス
—宮城県気仙 沼市大沢地区における戸建てコーポラティブ方式よ住宅再の実践—

槻橋 修・友渕貴之

2011年10月より気仙沼みらい計画大沢チームとして復興まちづくり活動を行ってきたが、震災5年目を迎える本年は、集団移転による住宅再建がおおよそ完了する予定である。本チームでは、2011年より集団移転による居住地再建に関する話合いが行われるようになり、2013年から住宅相談会を開始し、集団で移転するという特性を活かした住宅再建方法として、戸建てコーポラティブ方式による住宅再建方法を検討・実施してきた。既に本方式による住宅再建が完了し、住居を移した世帯も現れ始めた。初めての試みであり、課題等もあるが、再建プロセスを紹介することで、集団移転による居住地再建に対する知見を提供できると考え、1つの節目として紹介したい。

景観との調和を意識した津波避難タワーの研究

高麗憲志・遠藤 秀

本研究では、近年急増している津波避難タワーについてのガイドラインや法的制度である景観計画についてまとめ、現状の津波避難タワーがどのような基準で設計されているかについて考察した。結論として、景観に対する配慮については津波避難タワーに係るガイドラインにはほとんど記載がなく、景観計画については一定の範囲で景観への配慮が見られるが、津波避難タワーの多くは景観計画策定団体ではないため、景観に対する配慮についてのきまりはほとんどないことを明らかにした。
また、本年についてもよりデータを充実させるため、高知県中土佐町と土佐清水市を対象に調査を行い、環境に配慮した津波避難タワーを検討した。現在2 案検討中であり、詳細まで検討した提案とする予定であるが、発表は別の機会に行う予定である。

住宅地における景観上重要な建築物の利活用に関する研究
-兵庫県下の個人所有の住宅を事例として-

本研究は,兵庫県下の自治体で景観条例に基づき指定されている景観上重要な建築物を対象に,基礎データの整理と分析を通して,景観重要建築物の特性を考察し,地域への公開性という役割が求められている景観重要建築物指定制度の今後の対策を提示することを目的とする。研究の方法は,210 件の景観重要建築物に関するデータベースを作成し,データの集計・分析を行い,地域への公開が確認できた住宅の個人所有者等へのヒアリング調査を実施した。調査対象3件について、建築物の現状、施設の開設経緯、公開場所、維持管理、地域との関わり、公開への抵抗感、運営上の課題を明らかにした。景観重要建築物は、点の保全であり、線や面への広がりの効果は薄い。一方で、地域に親しまれている建築物という特性が評価され、指定を受けている状況がみられ、景観まちづくりに寄与する制度である。結論として、公開が困難である住宅の一時公開の可能性と、リノベーションの際の住宅から文化施設への用途変更は、資金と担い手の確保の点で慎重に検討する必要がある点を指摘し、まとめとした。
2014年度

非血縁者による住まいとコミュニティ創生に関する研究―シェアハウジングと住み開きの実態分析―

押部 健之・澤井 浩臣・近藤 民代

本稿では関東圏で実践されている多世代型のシェア居住、関西圏で実施されている住み開きの事例について報告する。シェアハウジングの実態分析では、多世代型シェアハウジングの居住者は、どのような動機で多世代型シェアハウジングを選択し、どのような点を評価しているのか。シェアハウジングは住み手にとってどのような住まいになり得るのか。入居事由は、居住費節約型と交流重視型に大別できるが、入居事由がどちらであっても共用部分の空間の質の高さや、ゆるやかな交流、助け合いが生活満足度の向上に有効に働いていることが明らかになった。住み開きの実態分析では、住み開きの概要、利用者像、「住み開き」に対する評価を把握した上で、利用者の「住み開き」住宅の周辺地域への愛着度の変化を測定し、その要因を考察した。その結果、「運営者の人柄」「地域住民の人柄」「イベントの満足度」の評価が高ければ、その周辺地域に対しての愛着度が増加することが示された。

ハインリヒ・デ・フリース著『未来の住宅都市』にみる第一次世界大戦後のドイツにおいて目指された大都市の住まいの計画理念と手法

山本 一貴・中江 研

本論考は,第一次世界大戦後のドイツにおいて目指された大都市の住まいの計画理念と手法について,H・デ・フリースの著書『未来の住宅都市』(1919)に焦点を当てて,ベーレンスとの共著『倹約建設について』(1918)との比較を通じて明らかにしようとするものである。『未来の住宅都市』は,デ・フリースが,都市部の住宅問題の解決策として,低層住宅ではなく,高層賃貸住宅の建設を現実的であると見なし,都市部における新しい高層賃貸住宅のあり方を模索して,その理念と手法を具体的に提案したものである。具体的には所謂メゾネット型住宅であるが,郷土感覚の再生をめざし,住戸の内部空間と空地の外部空間を,活動や休息の性格に応じて互いに結び付くよう工夫がなされていることは注目される。

社会福祉施設の介護単位と避難安全に関する事例的研究

大西 一嘉・岡田 尚子・田島 和幸・久保 洋

避難誘導手法のひとつに水平避難を考える上で,出火ユニットから避難するとともに他ユニットへ煙が拡散しないような区画を形成することが望ましい。しかし,介護上の必要性から普及している介護ユニットが,防火面での区画単位が必ずしも一致してないのが現状である.そこで現地調査により,断面性能としての排煙・防煙区画に関する構成を把握し,避難安全対策との関係性を事例研究し,ユニット型をはじめとする高齢者福祉施設等の避難安全についての空間的評価を検討する.

災害時等の状況下におけるadhocな小屋の建設―C型鋼のリユースによる構築可能性の検討―

足立 裕司・木上 理恵

Adhocismという視点は、工業化社会の論理を補完する考え方として、特に社会のシステムが通常通り働かなくなった緊急時においては未だに再考する余地を残している。ここでは、震災後に大量に供給された軽量鉄骨系の仮設住宅のリユースを目的として、専門性を持たない個人レベルでの建設を念頭に置きながら、何段階かのより高度な可能性も含めて考察する。
なお、専門性を持たない個人が建設するに際し、建築基準法等の法令上の規則の対象外となっている10㎡未満の小屋(shed)を検討する。その日本的な原型として鴨長明の「方一丈」の庵にもられた仮設性、移動可能性、そして何よりもその精神に立ち返った原型として、現在社会に置き換えても建設可能な「小屋」を構想する。素材は市販されている汎用性のある最低限の部材と最小限の工具による。

景観画像を構成する要素の抽出に関する研究―2次元フーリエ変換とクラスタリングを用いて―

木上 理恵・足立 裕司

本研究では2次元フーリエ変換による画像処理の手法を用いて、景観を構成している要素が持つ特徴を解析し、その特徴を示す値をクラスタリングすることによって、画像から景観構成要素を抽出する試みを行った。その結果、本研究で用いた分析対象画像からは、「空」と「近景の植物」が最も良く抽出できた。また、景観構成要素が持っている特徴の中で、方向性を示す値がクラスタリングに最も影響を与えていることが分かった。

景観との調和を意識した津波避難タワーの研究

高麗 憲志・遠藤 秀平

近年、構造性、機能性を最優先とした津波避難タワーが地域ごとに同様の形態で益々増加傾向にあり、周辺の町並みや景観への影響が懸念される。本研究では、津波避難タワーの景観の中での実態を定量的に分析し考察した上で、新しい津波避難タワーを提案することにある。今回は、西日本で津波避難タワー件数が最も多い高知県について追加で調査を行い、得られたデータを考察した結果、①面的(素材)不連続性、②高さ方向の不連続性、③形状(ボリューム)の不連続性の3つの不連続性が指摘された。これらの結果をふまえ、同県黒潮町に敷地を設定し、与条件を設定した上で、施工性、汎用性などの観点からも広く検討を行い、菱形十二面体構造ユニットによる津波避難タワーを提案した。構造的な部分及び経済的な部分で課題が残り、今後さらに詳細について検討が必要だが、一つの可能性として提案を行った。

兵庫県下の景観上重要な建築物の現況と地域による利活用に関する研究

本研究は,兵庫県下の自治体で景観条例に基づき指定されている景観上重要な建築物を対象に,基礎データの整理と分析を通して,景観重要建築物の特性を考察し,地域への公開性という役割が求められている景観重要建築物指定制度の今後の運用上の課題を提示することを目的とする。研究の方法は,210件の景観重要建築物に関する情報を整理しデータベースを作成し,データの集計・分析を行い,地域への公開が確認できた建築物の所有者へのヒアリングを実施した。景観重要建築物の指定の推移について,指定制度の運用後指定件数が増加しないタイプがあり,制度の運用が停滞している状況を明らかにした。景観重要建築物の現在の用途は約56%が住宅であり,地域への公開性を求めるのは困難である。また竣工時と現在の用途を比較すると,文化施設への用途変更が約40件と多くを占めている。竣工時に住宅であったものがそれ以外に用途変更し,地域への公開という役割を持つものはわずか20件であった。ヒアリング調査より,商家住宅は地域交流スペースへの用途変更に大きな抵抗感がないが,日々の維持管理の大変さと,建築物を維持し続けていくことについて,コストと担い手の点で不安があることを明らかにした。

持続的な地域空間・環境形成に関する計画論的研究―親子世帯の居住スタイルに着目した千里ニュータウン・津雲台における事例―

山崎 寿一・山口 秀文・奥 彩奈

本研究は、開発から約50年経過した千里ニュータウンの津雲台地区を対象に、計画的住宅地の土地利用や住宅の変化と親子の居住動向や住宅取得との対応に着目して、住宅地と家族の居住の持続性に関する新たな知見を得ようとするものである。対象住宅地の空間変容から住宅形態の多様化の実態を明らかにし、NT内での親子関係からみた家族の居住動向を明らかにするため、入居からの家族構成の変化、住宅形態、親子世帯の同居・隣居・近居・遠居に関するヒアリング調査・分析を行った。その結果、①調査世帯の約半数が近居の形態をとっていること、②親子関係からみた5つの居住変遷のパターンが存在すること、③建替えによる集合住宅(新たな住宅ストック)が子世帯の近居先の受け皿となる側面があること、④同居・隣居・近居という居住形態が世帯構成だけでなく親世帯の住宅形態に大きく関わっていること、を明らかにした。さらに、各世帯の住宅レベルでの居住サイクルと、それらを地域で重ね合わせた近隣地域全体レベルという二つの居住サイクルを見いだせ、住区内やNTと周辺地域内、近接市内の範囲での親子関係に基づいた住民の移住(居住サイクル)が多様な住宅形態をもとに成り立っていることを指摘し、年月を経たNTにおいて、自然発生的な改変を住宅地の発展を促す変容として認識し見直すことが今後の計画的な住宅地の維持には必要であると考察した。

地域の気候情報に基づく戸建住宅の通風可能性評価に関する研究

竹本 優貴・竹林 英樹

単純住宅モデルを用いた住宅団地モデルを対象として,CFDシミュレーションを実施し,角地などの立地条件が住宅の通風性能に及ぼす影響を考察した.北,南の風向の場合,風上側と風下側で換気回数の差が大きくなった.北東,北西など住宅団地に対して風向が45度の場合,風上側の角地の換気回数が最も大きくなった.西,東の風向の場合,開口面積の大きい南側開口が道路に面しているため、南側の住宅の換気回数が大きくなった.隣棟間隔を大きくするか,雁行配置にすると,整列配置の場合に生じていた風上側と風下側の住宅間の換気回数の差が小さくなった.従来の配置形態では南側と北側の住宅間の換気回数に大きな差が生じるが,隣棟間隔を広くするか,雁行配置にすると,住宅団地全体の通風状態が改善される.

東日本大震災後の集落帰還に向けた取り組みについて―宮城県気仙沼市大沢地区における住民と専門家の連携に着目して―

友渕 貴之・槻橋 修

2013年度

住み開きによる家族を超えた地域共生の住まい—セカンドハウスにおける住生活の共同化

近藤 民代・郷原 詩乃

本稿では住み手が自らの戸建住宅を他者に対して開き、彼らと住生活を共同化している事例を報告する。誰が、どのような動機で、自らが居住する住宅を、誰に対して開いているのか。開かれた住宅は、どのような住まいとして機能しているのか。その住まいを訪れる人の住生活はどのように変化しているのか。事例を調査した結果、地縁や選択縁による人々が1LDKに相当する私的空間に集い、そこが地域共生の住まいとして機能していることが明らかになった。住まいを訪れる人の立場でみると、彼らが家族と行う食事や団欒などの住生活行為が、自宅を超えてセカンドハウスにまで拡張している。このような居住者による要請に加えて、地域共生の住まいは既存住宅ストックを重視した住宅政策、高齢単身世帯が住まう過大住宅への対応という社会的要請に応える新たな住まい方として期待される。

ハインリヒ・デ・フリースの『未来の住宅都市』にみる「ハイマート」の理念とかたち

本論考は,ハインリヒ・デ・フリースの著書『未来の住宅都市』(1919)を主たる考察の対象に,大都市の住環境における「ハイマート」の理念とかたちを明らかにするものである。考察の結果,デ・フリースの『未来の住宅都市』は,賃貸兵舎と呼ばれる大都市の高層住宅の劣悪な住環境に対して,「ハイマート」としての感覚が得られる新しい住まいを創造することを喫緊の課題と認識し,その解決に寄与するべく,具体的な住戸や住棟の建設方法を提案したものであること,デ・フリースの「ハイマート」の理念は,家族が家族でいる感覚を得られる空間を指すものであり,郷土保護運動によって保護される「ハイマート」とは全く異なる視点に立つものであること,社会の近代化のなかで都市での生活を選択し続けなければならない人々のためにも,大都市に居住することを肯定的に捉え直す意義を有していると見て取ることができることを指摘した。

工業化住宅の構法についての研究—Albert FarWell Bemis The Evolving House III Rational Design”巻末付録を通して—

玉垣 俊・足立 裕司

工業化住宅は発生から現在に至るまで住宅における技術的発展の中心的な位置にあった.国際的に見ても第2次世界大戦前後の応急住宅や,復興期の住宅需要の急増以降,各国で強く要求されるよう1 )になった.戦後は,1960年代を中心に研究開発され,その関心は現在でも薄れていない.
この一連の研究開発は量産のシステムの開発としてモデュラーコーディネーション(以下、MCと略す)を中心に行われており2 ),その成果は欧米において発展した構法に適用されている.しかしながら、その構法についての起源や歴史については概説的なものや事例の紹介にとどまるものがほとんどであり、空間的な評価がなされていないのが現状である。
本研究では,工業化住宅の空間的・構法的な評価軸を得るため、現在の工業化住宅成立以前の空間と構法の関係を着眼し,どのような技術と空間構成の素地の上に成り立っているかを明らかにする.これによって現在の工業化住宅の成立の原点を捉え,その視座を得ることを主たる目的としている.

工業化住宅のリノベーションに関する一提案—環境に開かれた心地よい住宅を目指して—

木上 理恵・足立 裕司・福岡 孝則

持続可能な社会において、既存の住宅を活用していくことは重要である。日本の人 口が減少に転じている一方で、新築される住宅数は増加し続けており、今後住宅が 余って空き家が増加していくことは容易に想像できる。スクラップ・アンド・ビル ドからストック型社会へと時代が変わる中で、建物に新たな価値をもたせるために 行われるリノベーションは、今後ますます需要が高まると予想される。また近年、 地球環境問題に対する関心が高まり、資源やエネルギーに依存しすぎることなく、 自然が持つ力を有効に利用しながら快適さを得る暮らしが求められている。本論で は、住宅を取り巻く社会的な状況に鑑みて、1970年代以降多く建てられた工業化住 宅を取り上げ、住宅の屋内外の関係に着目し、自然環境を屋内に有効に取り入れて 心地よさを得ることができる住宅を目指し、またそれと同時に、生活の中で楽しみ を見出すことができる空間を持つ住宅を目指して、リノベーションの提案を行う。

戸建住宅を対象とした通風シミュレーション結果のデータベースに基づく通風可能性評価に関する研究

竹本 優貴・竹林 英樹

様々な開口パターンを有する実際の戸建住宅モデルを対象として,CFD シミュレーションを実施し, データベースを作成することで,簡易な通風性能の検討が可能となるシステムの構築を目指す. 更に,建築計画の初期段階において通風利用による室内温熱環境の改善を簡易に提案する方法に ついて考察する.また,データベースの分析を通して,通風性能を向上させる重要なパラメータ を提示することで,自然通風を積極的に採用する住宅の新たな設計指針としての利用を検討する. 各方位に開口面積が大きく取られている場合は,明確な通風輪道が形成され換気回数が大きくな る.主風向側の開口部の面積が増加すると換気回数が増加するが,南側開口面積と換気回数には 関係が確認されない.玄関方位などのプランによる影響より,地域の主風向による影響が大きい.

既存戸建住宅を活用した小規模福祉ホームの火災安全評価法の開発

大西 一嘉・岡田 尚子・田島 和幸・葛本 知里

住宅火災による死者は火災による死者全体の9割に上るが、戸建住宅の防火対策は個人の責任と されている。住宅用火災警報器の義務化以外に有効な対策は講じられず、防火研究の取り組みも 火災事例や火災実態の分析が中心であり、住宅防火性能評価については十分な研究が行われてい ない。住宅の総合的防火対策が求められる一方、小規模居住福祉施設(グループホーム等)とい った「住宅」の多様化が進んでおり、多様化した「住宅」の防火対策は大きな課題である。そこ で、住宅防火の観点から小規模福祉ホームの火災安全性評価手法を提示する。

津波火災により類焼した津波避難ビルの上階延焼危険性に関する模型実験の試行

西野 智研・北後 明彦

津波火災により類焼した津波避難ビルの上階延焼危険性を把握するための基礎実験を 行った。ここでは,津波火災が津波避難ビルに漂着し建物の一室に類焼した状況を,原 型の 1/10 に相当する模型で表現し,屋内と屋外の両火災によりもたらされる外壁付近の 温度分布の測定,および,開口噴出火炎の観察を行った。

津波避難施設の可能性に関する研究―周辺環境、景観に配慮した新しい「津波避難タワー」の提案―

高麗 憲志・遠藤 秀平

津波避難タワー(以降タワー)は東日本大震災以降、防災意識の高まりや補助金制度の整備が進んでいることから、その数が急激に増加している。一方で、これまで建設されてきたタワーを省みると、周辺環境、景観に配慮されたものは少なく、そのような先行事例のカーボンコピーが急増しているように思われる。本研究の目的は、周辺環境、景観に配慮した新しいタワーを提案することである。はじめに、既存のタワーについて現地調査を行い、タワーがどのような周辺環境にあり、景観の中でどのようにあるのかについて定量的な分析を試みた。次に、分析結果から明らかになったまち並みとの不連続性とタワー形状の2つの問題点について、解決案を検討し、3つの提案を行った。続いて、典型的な敷地として和歌山県串本町串本地区を選定し、設計与条件を設定し、最後に、前述した3つの提案の組み合わせにより5つのタイプのタワーを提案した。それぞれのタイプに一長一短があり、日常利用やコストの問題が課題として残るが、いくつかの新しいタワーの可能性の提案を試みた。

気仙沼市大沢地区における住空間と生活行為に関する研究-東日本大震災以前の住空間に関するヒアリング調査-

友渕 貴之・槻橋 修・小川 紘司・小山 駿介

東日本大震災により被害を受けた地区の多くは、震災前の街の様子を把握することは容易では無く、住民においても過ぎ行く月日の中で当時の様子を思い起こすことは難しくなっている。復興を行っていく中で、震災前の地域の特性を把握し、計画へと活かしていくことは重要な課題である。本研究では、震災直後より復興まちづくり支援活動を行う気仙沼市大沢地区を対象に震災前の個々の住空間である間取りに着目し、間取りの形態と傾向、そしてその中での生活行為は如何なるものであったのかということを調査・分析することで、現在行っている復興計画へと繋げることを目的としている。大沢地区における間取りは、大きく5種類に分類された。分類毎に生活行為が異なっていることが明らかとなった。また、室内空間における各部屋の役割と利用状況を整理することにより、最近の大沢地区における生活の推移も明らかとなった。ここで得られた震災前の間取りと生活行為の特性と傾向を如何に復興計画の中に取り込んでいくのかということがこれからの課題である。また、本研究は住宅系研究報告会※1にて発表を行ったものを基に作成している。

持続的な地域空間・環境形成に関する計画論的研究

山崎寿一・山口秀文・馮旭・朴延・松本愛子・奧彩奈

本研究は持続的な地域空間・環境形成に関する計画論的研究である。本年度は、1)歴史的集落 の保全と持続性(2 章、3 章)2)緑の維持を通じた計画的住宅地の持続性(4 章、5 章)につい ての研究をまとめ報告する。1)歴史的集落の保全と持続性では、2 章で国家級歴史文化名鎮であ る李荘鎮(四川省宜賓市)を対象に、中国西南地方における歴史文化村鎮の展開と保護計画の特 徴を明らかにした。3 章では、韓国の世界遺産河回村(慶尚北道安東市)を対象とする住民の生活 に着目した歴史的集落の景観保全に関する研究であり、特に、「居住」と「生業」面から、住民の 生活実態を把握し、歴史的集落環境の景観の保全・管理・活用の仕組みについて考察した。2) 緑の維持を通じた計画的住宅地の持続性では、4 章で、フィンランド・タピオラガーデンシティー を研究対象にした自然環境の空間構造と屋外空間におけるアクティビティの関係を明らかにした。 5 章では、1990 年代初頭に計画された計画的郊外住宅地・三田カルチャータウン内の兵庫村を対 象として、その空間的特徴と自治会・管理組合などの住民組織・住民自身による住環境の維持管 理・交流実態を明らかにし、コミュニティの成熟過程について考察した。

神戸市山麓住宅地における景観特性に関する研究

栗山 尚子・三輪 康一・津組 達哉

日本は斜面にまちが形成されていることが多いが、山麓住宅地は斜面という地形条件から、まちの更新の困難さ、高齢化の進行、アクセシビリティの困難さが着目されやすいが、日照・眺望・強固なコミュニティなどの山麓住宅地特有の住環境上の利点が明確にされておらず、良好な住環境を有した住宅地であるという評価が得られにくい。本研究は、山麓住宅地に住環境の利点の1つである眺望景観を含む景観に着目し、神戸市の山麓住宅地を研究対象として、山麓住宅地の景観の特性に関する研究である。神戸市山麓住宅地の4地区47 の階段について現地調査を行い、階段の段数と勾配により4つの類型を設定することができ、類型によって、階段の作られ方や眺望景観の特徴が異なることを明らかにした。また、各タイプ2事例について詳細な分析を実施し、土地性・鑑賞性・眺望性・多様性・自然性という5つの景観特性を設定し、階段景観の評価を行ない、特に勾配のきつさが土地性と眺望性の評価に影響するという傾向を得た。本研究で得た知見を活かして、今後も山麓住宅地の景観特性と景観保全・管理手法についての研究を展開する予定である。

米国・ポートランド市における 持続的雨水管理 を核にしたグリーンインフラ適用策

福岡 孝則・加藤 禎久

The purpose of this research is to analyze current situation of Green Infrastructure implementation in City of Portland. From nation to citywide perspectives, chronological histories of Green Infrastructure implementation as well as city’s Sustainable Stowmwater Management organization, holistic perspective from vision to implementation revealed. Through case study analysis of selected Green Infrastructure projects, current conditions and problems towards future Green Infrastructure implementation discovered.

東南アジアのスラムにおける経済成長に応じた住環境整備手法の研究—バンコク都クロントイスラムを事例とした簡易的インフラシステムの設計—

高橋 良至・遠藤 秀平

発展途上国の大都市におけるスラムは,産業革命以降の外から強いられた開発によって巨大都市 へと膨らむ過程で,都市貧困者層の居住地区として急増してきた。しかし近代化に伴い幾度とな くスラムクリアランスと都市への再還流を繰り返した結果,現在における都市スラムの大半が水 道や電気などの公共インフラに接続しており,情報通信の普及率においてはフォーマルな地域に 引けをとらない水準となっている。つまり都市スラムの多様化が急速に進行しているといえる。 今後経済の成熟化によって世界規模でスラム地域の安定化,減少傾向が予想される中,これまで 行われてきた大規模インフラ整備によるハードとしての住環境改善には莫大な予算と時間が必要 とされるため,スラムの開発手法のオルタナティブを提案することに意義があると考える。そこ で本論文では,過渡期にある都市スラム地域において住民参加型の小規模なインフラシステムを 用いたスラムアップグレーディングを行うことで衛生環境の向上の他,防災や住空間改善,環境 意識の向上などトータルな住環境改善の可能性を提案し,その妥当性を検証する。

宮城県石巻市半島部における復興の現在—宮城県石巻市十八成浜の復興支援活動を通じて復興計画と復興事業の現況を考える—

東日本大震災による被災地の復興支援において、宮城県石巻市十八成浜における2013年5月から 2014 年 8 月までの活動を報告するとともに、石巻市の半島部である牡鹿半島・雄勝半島での復興 計画および復興事業の現状を紹介し、宅地造成が始まった被災地において、よりよい住環境の実 現のための考察を行う。
2012年度

ペーター・ベーレンスとハインリヒ・デ・フリースの『倹約建設について』にみる低層住宅団地の建設方式「グルッペンバウヴァイゼ」について

山本 一貴・中江 研・足立 裕司

本論考は,ベーレンスとデ・フリースの共著『倹約建設について』(1918)を主たる考察の対象に,その主旨と彼らが「グルッペンバウヴァイゼ」と名付けて提案する低層ジードルンクの建設方式の理念と方法について,その実態の解明を試みるものである。考察の結果,同書は,「低所得者層」の居住環境に対して,良質で安価な住宅を都市近郊に大量に供給することを喫緊の課題と認識し,その解決を図るため,2階建ての低層ジードルンクと3階建ての中層の多層階住宅を混在させることを提案したこと,低層ジードルンクの具体的な定型(タイプ)として,「グルッペンバウヴァイゼ」と名付ける建設方式を提案したこと,そしてこの建設方式は,連続住宅の発展形として,単に横方向に連続させるだけではなく,縦方向に奥行きをもって住戸が連なることで,より多くの住戸が経済的に建設できる上に,各住戸が良質で豊かな住空間と庭を獲得することができるようにデザインされていることが明らかとなった。さらに,ドイツ田園都市運動から第一次世界大戦以降の近代建築運動への転換期にとって重要な位置にあろうことを指摘した。

工業化住宅の形態の変遷に関する研究 —住宅雑誌にみるサンプル事例を用いた形態の計量化による経時変化の考察—

佐川 萌・足立 裕司

本研究で扱う工業化住宅とは,ハウスメーカーの生産するプレハブ住宅のことで,誕生から60年近く経過した現在では全住宅着工戸数の約15%を占める存在である1).戦後の住宅不足解消のために量産を目的として誕生したこの住宅は,プレハブ工法を採用した効率的生産に最大の特徴がある.とはいえ工業化住宅の担い手は一般企業であったために,住宅は商品化され,より多くのニーズに対応するため,近年は多様化の道を歩んできた.既往研究としては,内田2)や松村3)によって1970年代までの工業化住宅史は体系化されている.しかし近年企業の独自開発が進行し,情報がクローズ化されるようになったため,60年の歴史を紐解いた先行研究は概要でしかない.したがって本研究では,1980年以降を補うために,現在もオープンな資料として消費者と企業の媒体となっていた一般刊行物のうち逐次的に発行されてきた住宅雑誌を用いて工業化住宅の形態の変遷を捉える.そしてそこから消費者のニーズやライフスタイルの時代変化との関係を明らかにしたい.

既存戸建住宅を活用した小規模福祉ホームの防火安全に伴う 建築基準法上の用途の取り扱いに関する調査研究

大西 一嘉・岡田 尚子・久保 洋

わが国では高齢者や障害者をはじめ、生活支援を必要とする人々に向けた小規模な居住福祉施設が異なる所轄の元に乱立し、法的な用途区分も曖昧である.一方、火災が起これば行政責任の名の下に後追い的な規制強化が進み、防火体系が肥大化、複雑化するばかりで、必ずしも合理的な仕組みになっていないとの批判は根強い.平成21年4月に施行された消防法改正により、グループホーム等が社会福祉施設並みの規制を受けることになったが、その間の火災の教訓から建築指導と消防との連携強化が指摘され始めた。こうした経緯から、従来は既存戸建住宅を、小規模福祉ホームに転用しても、基準法上は一般住宅の類とされることが多かったが、特殊建築物として取り扱う自治体が増え始めている.住宅火災による死者は火災による死者全体の9割に上るが、戸建住宅の防火対策は個人の責任とされており、住宅用火災警報器の義務化以外に有効な対策は講じられていない.防火研究の取り組みも火災事例や火災実態の分析が中心である、住宅の総合的防火対策が求められる一方、福祉面での脱施設の流れの中で小規模居住福祉施設(グループホーム等)といった「暮らしの場」の多様化が進んでおり、多様化した「住宅」の防火対策も求められている.全国での空き家が
800万戸に上りストック活用が叫ばれる中で、障害者GHや宅老所の多くが既存戸建住宅を転用している現実を踏まえ,小規模福祉ホームにかかわる建築基準法の用途解釈を巡る課題について検討する.

ひとり親世帯と単身高齢者のシェア居住の可能性

近藤 民代・葛西 リサ・澤井 浩臣・室崎 千重

家族の中で住生活を完結するのが困難な世帯たちが住生活を協同化して支え合いながら暮らす『シェア居住』の可能性を構想する。具体的に想定する世帯は、現代社会の中で増加している高齢単身者およびひとり親世帯等である。シェア居住を行う住宅ストックは、高齢単身者や死別母子世帯が所有する戸建住宅を想定しており、彼らのように1 家族=1 住宅では住生活が成り立たない世帯が自らの住宅を他者に開くことによって変容する社会に対して持続可能な住まいが創出できるのではないか。

景観デザイン誘導のための市民参加型協議の効果と課題に関する研究—米国シアトル市のデザインレビュー物件を事例として—

近年景観まちづくり活動がみられ、新規の建築計画について、住民が建築家と議論を行う“協議”という仕組みがあるが、協議では、建築や景観に関する専門知識の少ない市民と知識も実務経験も豊富な専門家の間に、視点の違い等が生じ、共通認識を持つことが困難な状況等が生じている。本研究は、デザイン協議の効果と課題に関する知見を得るために、協議という仕組みを長年運用しているシアトル市のデザインレビュー制度を事例とし、レビューの関係者(レビュー委員・行政・建築家)へのインタビュー調査、協議が円滑に進んだ事例について、竣工後の建物の現地調査、議事録の分析を実施した。2段階協議により、第1回協議は、配置やボリューム等のデザインの大きな枠組みを決定し、修正指示を出す場として機能し、第2回協議は外構のディテール等の議論に加え、修正を確認する場として機能していることが把握でき、協議という仕組みが長期的には一般市民へ建築デザインの見方や景観形成上の重要点を教育する場として機能していることを示した。課題は、2回の公開協議があるにも関わらず、協議後にデザインの大幅な変更がなされてしまうこと等を示した。

持続的農村環境形成に関する計画論的研究

山崎寿一・張京花・ロハスリンダビンティラメリ・馮旭・朴延

本研究は、農村地域の持続的環境形成に関する計画論的研究である。本年度は、日本、マレーシア、中国、韓国の農村集落を対象にしている。持続的な農村地域の環境形成については、住民参加による地域づくり、農村環境の維持・管理、伝統的景観を有する歴史的集落の保全・保護という課題がある。本研究では、日本、マレーシア、中国、韓国というアジア圏における具体事例について、個々の研究成果を報告する。日本の神戸市西区神出地区においては、農村整備事業の展開を行政主導による住民参加から住民主体による地域経営・事業展開へ発展するプロセスを明らかにした。マレーシアのホームステイプログラムの事例から、宿泊ではなく集落の文化活動やコミュニティ活動への参加により、集落の文化やコミュニティへの理解、村の課題解決に至っている実態を明らかにした。中国四川省李荘鎮を事例に歴史文化村鎮の街区制度(核心保護範囲、建設コントロール区、環境調和区)による保護計画と整備実態とその課題を明らかにした。韓国の世界遺産・安東河回村を事例として、その歴史的環境が集落・山林・農地・河川による総合的な景観構造となっていること、民宿や現代的施設による現在の土地利用の実態、保存だけでなく観光や農業振興も含めた保全計画となっていることを明らかにした。

ドイツ住宅地における水循環に配慮した技術・デザイン手法に関する一考察—シャーンハウザ―、ウィニンデン、クロンスベルグ住宅地における雨水循環を題材に—

近年気候変動や都市化に伴うゲリラ豪雨やヒートアイランドなどによる影響が増大している。原因の一つに、土や緑による浸透・蒸発散作用、つまり自然の水循環が損なわれたことにあるとされ、都市の大部分を占める住宅地の在り方は大きな責任と可能性を担っている。この状況に対し、住宅地における雨水活用の促進により地域レベルでの健全な水循環の回復に貢献することができる。本研究は雨水活用で先進的なドイツにおける3つの住宅地の水循環に配慮した計画事例を選定し、住宅地内で適用された雨水活用手法の分析を行うことにより住宅地内で適用可能な水循環に配慮した技術手法を抽出した。雨水貯留による洪水防止・飲料水の利用量削減、浸透による地下水涵養といった個別の技術手法から、総合的に水循環を考え、更に微気象調整、生物多様性促進、生活環境の向上へつながる包括的な手法への展開がみられることを把握した。

ガソリンスタンドのコンバージョンによる津波避難タワーコンパウンドの可能性

避難施設は人の命を守るためのものであり、一刻も早く必要地域に設置されることが第一の目標となることは当然であるが、都市は非常時だけでなく平常時のためにも構築されるべきである。東日本大震災からの復興と並行して、将来二度とこのような被害を受けないための避難施設の計画が早急に進められる現代において、本研究は様々な津波避難施設としての要件を満たしつつ、周辺地域の景観へも配慮した新たな津波避難タワーの提案を試みている。具体的には今後数が減少して行くことが予測されるガソリンスタンドに着目し、キャノピー部を避難タワーへ、事務所などの併設施設を管理・経営と避難弱者のための施設へとコンバージョンすることにより、景観的にも機能的にも街の一部として持続的に存在していける津波避難タワーコンパウンドを構想した。まず津波避難タワーとガソリンスタンド、それぞれのビルディングタイプの特徴、問題点、改善すべき点などを分析し、比較・考察することによってそのポテンシャルを示した。次にキャノピー部の構造補強と併設施設へ付加されるべき用途について個々に検討を行い、最後に実存するガソリンスタンドを対象に全体を一つの津波避難コンパウンドとして提案することで、その実現可能性の糸口を示した。

地震火災と津波の複合リスクを考慮した避難性状予測に関する基礎的検討

地震火災と津波の複合リスクを考慮した避難性状の予測手法の検討を行った。ここでは,筆者により開発されてきた地震火災延焼性状・避難性状の統合予測モデルに,津波避難に関するサブモデルを追加することで,両リスクに対応可能な予測モデルへと改良した。改良した予測モデルを南海トラフ巨大地震に適用し,神戸市長田区における人的被害の可能性について分析した。計算にあたっては,出火や気象といった与条件の不確定性を考慮することで200通りのシナリオを想定し,火災と津波による死亡者数を,避難開始時間を10~70分に変化させることで試算した。その結果,火災死亡者数の平均は10.9~16.6人となったものの,最大値は683~1172人となり,避難開始時間が早くとも,火災による大規模な人的被害の可能性が存在する結果となった。一方,津波死亡者数の平均は1.5~172.2人,最大値は65~1317人となり,避難開始時間が40分より遅いと,津波による影響が顕著になる結果が得られた。また,計算結果を時系列に可視化したことで,津波浸水が懸念される沿岸部の密集市街地に特有の避難リスクを明らかにした。

集団移転形態別にみる被災集落の空間変容に関する研究

槻橋 修・友渕 貴之

東日本大震災により多くの建築が流失し沿岸部の景観は大きく変化すると考えられるそこで平成25年12月25日時点で国土交通省が発表を行っている集団移転促進事業計画策定済地区159地区を対象に移転形態別に空間変化を分析することにより、集団移転による空間変化に関する特徴を明らかにすることを目的とする
集団移転別にみる集団移転の空間特徴を明らかにし、結果を次の4点にまとめた. 1)集団移転による移転形態は昭和三陸地震津波における復興時に比べて移転形態が増えており、その要因の一つとして防災集団移転促進事業にある5戸以上のまとまりにのみ制度支援が適用されるということ 2)単数の集落のみで移転を行う際は元の集落の日常生活圏内に留まる割合が高く複数地区が混合する場合は元の集落の日常生活圏から離れる割合が高くなること 3)移転元の海岸部との距離に関して単数地区による移転形態を取る地区は海岸部から近く、複数地区が混合する移転形態を取る地区は海岸部から離れていること 4)移転先の海岸部との距離に関しても単数地区による移転形態を取る地区は海岸部から近く、複数地区が混合する移転形態を取る地区は海岸部から離れていること

宮城県石巻市十八成浜復興計画における防災集団移転の現在―住民が希望するデザイン性のある住宅地創成に向けて―

東日本大震災による被災地の復興支援において、2011年7月から現在まで関わってきた、宮城県石巻市十八成浜における、被災地調査と復興計画の取組を紹介し、新しい住環境となる防災集団移転の宅地造成および災害復興公営住宅の可能性を検証する。

アルゴリズム的手法を用いた地下避難空間の可能性の研究と提案—淡路島福良地区を対象とした玉葱小屋の分布解析をパラメーターとして—

石津 優子・遠藤 秀平

近年にみられる情報技術の発展はコンピュータを利用した建築デザインの新しい時代の到来を示唆している。現在のコンピュータの計算能力は、建築的なスケールにおいて、人間の能力を超えた膨大な量のケーススタディを可能とする。本研究は、既定されたソフトを使って設計するのではなく、設計者の意図を自らデザインツールに加えていくことでコンピュータに自分の意図するデザイン方法を伝え、人間とコンピュータが対話しながら協働して設計していくというアルゴリズム的な手法で建築計画に要求されるシステムを構築をしていく。そのことにより求められる各々の条件に対して結果を最大化することが可能である。今回はその技術を用いて、地下避難空間の計画を行う。兵庫県から南海地震の発生時、津波浸水区域として指定されている兵庫県南あわじ市福良地区において地下避難空間をアルゴリズム的な手法を用いて設計し、その際に良好な環境やプログラム配置、どのような形状が良いかを同列に扱って、それをスタディモデルの設計の各段階で検証・変更可能なシステムを構築することを目的とする。

淡路島福良地区における災害対策住宅の設計—メタボリズム再考による震災復興の可能性についての考察を通して—

角田 博由起・遠藤 秀平

2011年3月11日に発生した東日本大震災により,日本は地震とそれに伴う巨大な津波により甚大な建物,人的被害を受けた。その後,復興が進められているが,仮設住宅の建設や高台移転の計画は用地の確保が非常に困難であり,確保された被災地区からの距離がある地区での分散された生活は,彼らの生業やコミュニティーを喪失しかねないといった問題が挙げられている。さらに,日本国内では今後20~30年以内の発生率が上昇している東海・東南南海・南海連動型地震に対する意識が高まり,地震と津波による被害規模の見直しや,事前の災害対策などが進められている。本論文は,今後連動型地震及び,それに伴う津波により甚大な被害を受けると考えられる,地理的に不利な条件を持つ地域において,事前の災害対策を提案する。災害に対して,被害を受けた同じ場所で生活すること,津波に対し宅地を造成して町から離れた場所に高台移転すること,または堤防などの巨大構造物を整備すること等の代替案として,斜面が多いという不利に捉えられがちな地形特性を逆に活かした,斜面地における震災復興の可能性とその妥当性を検証することを目的とした。