既婚女性の就労・子育てと住宅事情

辻元 はるな

1-1 研究の目的と方法

 戦後、我が国の住宅政策は中間層の持家取得に援助を集中してきた。1990年代半ばから、政府により、住宅の市場化政策や住宅政策規模の縮小が行われたとはいえ、今でも我が国の持家率は6割を超える。人々は、住宅の質の改善、家賃支出の回避、住まいの安定性の確保、また、不動産資産の形成などを目的として持家を取得する。

 これまで持家取得世帯の中心となってきたのは、男性は就労、女性は家事・育児という性的役割分担による、男性稼ぎ主型の標準世帯である。そのため、持家取得に関する議論は男性の経済力に注目してきた。その中で女性は、男性が主宰する世帯の一員として扱われ、重要視されることはなかった。

 しかし近年、「標準世帯」は揺らぎ始め、女性の就労が増加している。労働市場の流動化に伴い、年功序列制度や生涯雇用制度は崩壊し、男性の雇用・賃金は不安定になった。また、近年のデフレーション経済により、住宅ローンの返済期間を短縮させる必要性が高まっていることも持家取得における女性の就労の役割を増大させ、女性の就労を促進する一因となっている。

 女性の雇用は階層化している。女性の社会進出が進み、男女雇用機会均等法などの法整備が行われ、正規被用者としてキャリアを積む女性が増加した。しかし、女性の大半はパートやアルバイト、契約・派遣社員といった非正規被用者である。所得税制の配偶者控除や社会保険の被扶養者制度があるため、パートで働くことを積極的に選択する者も多く、特に既婚女性において、その傾向は顕著である。正規被用者と非正規被用者、その両者の間には大きな所得の格差がある。女性の働き方が世帯の所得に与える影響は大きい。


 そこで本研究では、既婚女性の就労形態と持家取得の関係を明らかにし、世帯の持家取得における妻の役割を考える。妻を就労形態によって、正規被用者、非正規被用者、家事専業者の3グループに分け、持家取得と就労・子育ての現状を把握し、世帯の住宅事情の今後の課題を探る。また特に、正規被用者の妻に注目し、妻が就労と子育ての両立を実現するために必要な社会的条件や家族のあり方を「住宅選択」に焦点をあてて明らかにする。

 住宅研究の分野では、男性稼ぎ主の経済力を住宅事情の規定要因として重視してきた。これに対して、本研究の独自性は世帯の持家取得における女性の役割に焦点を当てた点にある。今後、持家社会の展望を探るうえで、女性をひとつの指標とすることは必要不可欠となるだろう。

 具体的には、全国消費実態調査のミクロデータ(個票)、国勢調査のオーダーメード集計、を分析、また、独自のインターネット調査を行い、妻の就労形態別に世帯の住宅事情と暮らしの実態をマクロな視点からに明らかにする。さらに、正規被用者の妻へのインタビューを行うことでミクロな視点での事例調査を行い、正規被用者の妻を含む世帯の生活の実態を具体的に把握する。




1-2 論文の構成

 第2章では、全国消費実態調査のミクロデータを使用し、妻の就業労形態別に、妻自身の年収、その夫の年収、また、世帯年収の差異の分析を行う。妻の就労が世帯の経済条件に与える影響を考察、その上で、妻の就業形態が世帯の住宅所有形態に与える影響を明らかにする。

 第3章では、独自のアンケート調査を用い、妻の雇用上の地位の違いによって世帯の持家取得のプロセスに差異があるのか、また、妻が世帯の持家取得にどのように関係するか、を明らかにする。また、家事・育児の側面から持家取得を考えるとき、妻の就業形態の違いが世帯の居住地選択に与える影響を分析する。

 第4章では、首都圏において、妻の労働力状態ごとの世帯の分布を地図上で分析することにより、妻の働き方がどのような地域差をもたらすかを分析する。
 第5章では、第4章までの調査の結果をもとに、最も世帯への影響力の大きい「正規被用者の妻」にインタビュー調査を行うことによって、正規被用者の妻を含む世帯がどのような居住地移動を行っているのかを明らかにし、妻が就労と家事・育児の両立を可能にしている要因を探る。これは、第4章までの統計データやアンケート調査では捉えきれなかった詳細かつ具体的な生活の実態を把握することを目的とする。

 第6章では、本研究の調査で明らかになった妻の就労形態による世帯の住宅事情の階層化について考察するとともに、今後の持家社会の展望を考える。また、今後の都市空間計画のあり方について既婚女性の就労・育児と住宅事情に焦点をあてて提言する。

 なお、本研究では、首都圏の範囲を都道府県単位での東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)とする。



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