生活空間としての学習塾
原 可奈子
本研究は、学習塾に長時間滞在する子どもを時間・空間の両面から観察し、学習塾内での多様な行動の実態を調査する。そして、子どもが学習塾に長時間滞在する理由とその成立条件、学習塾での時空間が子どもに与えた影響を検討し、学習塾の持つ複合機能を明らかとする。空間の複合性が子どもにとってどのような意味を有するのかを探ることが本研究の最終目的である。
公立高校・私立中高一貫校の受験への過熱化やゆとり教育による子どもの学力低下に対する危機感を背景に、学習塾に通う子どもは増加し、学習塾は多くの子どもたちの生活空間となった。近年、少子化によって学習塾の顧客となる人口は減少し続けているが、学習塾に通う子供は依然として多い。文部科学省の『子供の学校外での学習活動に関する実態報告』(平成19年度)によると、学習塾に通う小学生・中学生はそれぞれ全体の25.9%、53.5%であり、中学生の通塾率はピークを過ぎて横ばいの状態が続いているが、小学生の通塾率は増加傾向にある。また、帰宅時間が21時以降となる子どもは、学習塾に通う子どもの53.0%もいる。この事実から、学習塾で長時間を過ごす子どもは多いことがわかる。
子どもが学習塾に長時間拘束することを批判する意見も多い。「帰宅時間が遅くなることで生活リズムが乱れる」「遊びや生活体験を通じて得られる豊かな人間形成の機会や場を制約する」などといった意見を挙げ、学習塾に通うことが子どもの健やかな発育に悪影響を及ぼすと指摘している。一方、学習以外の目的で、自発的に学習塾に長時間滞在する子どもがいる。
先ほどの指摘は、学習塾を一つの機能でしか捉えていない現れではないだろうか。つまり、学習塾内は勉強に終始する場所とし、豊かな人間形成の機会は他の場所に求めている。実際には、学習塾内には、講師や他学校の生徒との交流の為など、多様な機能も存在するのではないか。
近代都市計画や建築に反映されている、機能主義やゾーニングといった空間理論は、空間の有する機能を画一化し、空間における人間の行動を制約した。しかし、空間は複合的な機能を持つ存在である。ゾーニング等で規定された機能以外の多数の機能にも何らかの意味や影響があり、そのことが子どもを自発的に学習塾に長時間滞在することに繋がっているのではないだろうか。
本研究では、まず、各種統計より、学習塾に通う子どもの通塾実態や生活実態、意識を整理する。次に学習塾に通う子どもの生活の実態を時間的・空間的側面の双方から観察する。そして、学習塾に通う子どもたちがいつ・どこで・誰と・何をしているのか、長時間にわたり学習塾に滞在する理由とそれを可能にする条件、学習塾の空間が子どもたちにもたらした影響を検討し、学習塾が有する空間の複合機能、ひいては、空間の複合機能が子どもたちにとってどのような意味を持つのかを明らかとする。なお、調査手法としては、各種統計の分析、及び学習塾に通う子どもへのインタビューで行う。