セーフティネットとしての公的賃貸住宅の役割

矢野 香織


公的賃貸住宅には、公営住宅・特定優良賃貸住宅・高齢者向け優良賃貸住宅・都市再生機構賃貸住宅・地方住宅供給公社賃貸住宅、また雇用保険の被保険者を対象とした雇用促進住宅などがある。その中でこれまでセーフティネットの役割を担ってきたのは主に公営住宅である。公営住宅は「住宅に困窮する低額所得者」に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的としている(公営住宅法第一条)。公営住宅の施策対象者は一定ではなく、これまで法改正を重ねて変化し、「真に住宅に困窮する低額所得者」に対して公平かつ的確に提供できるよう、より詳細に区別され限定されてきた。1990年以降住宅政策においても市場化がすすみ、自ら市場で住宅を確保できない者に対するセーフティネットの必要性は高まったが、公営住宅をはじめとする公的賃貸住宅の供給戸数は減少しており、十分な住宅セーフティネットが供給されているとは言いがたい。

 かつて公営住宅は、若年世帯が持ち家を取得するまでの低所得である一定期間提供されるという役割を担っていたが、公営住宅入居者の居住年数が大幅に伸びていることは既に明らかである。公営住宅に入居することで低廉な家賃で、民間の低家賃住宅よりも設備の整った住宅で生活することが可能になった時代から、市場と切り離された、セーフティネットとしての役割を多く担うようになった今日の公営住宅へと入居者にとっての役割は変化している。

 公営住宅の住宅数は、2003年の約218万戸をピークに、2008年に約201万戸へと初めて減少した。公営住宅の募集に対する応募倍率は、地域やその募集枠によっては数十倍から数百倍へと非常に高くなっている。特に単身者の応募倍率は著しく高い。公営住宅の入居資格がありながら、申し込みをしても抽選で落選し続ければ、それは住宅セーフティネットとしての役割を十分に果たしているとはいえない。また、近年の経済危機による雇用の不安定化や、それに伴う住居喪失に対応するため、公営住宅、地域優良賃貸住宅、都市再生機構住宅の空戸や、廃止決定した雇用促進住宅が目的外使用されている。公的賃貸住宅が住宅セーフティネットとしての役割を担うとき、その位置づけは一定ではなく、その時々の経済状況や政治体制に左右され、その役割を変化させている。

 本研究では、公的賃貸住宅がセーフティネットとしての役割をどのように位置づけられ、いかにその役割を果たしてきたのかを、政策と実態の両面から明らかにすることを目的とする。



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