若年者の住宅条件に関する研究

矢野 香織


戦後の日本において、多くの人々が、企業に就職して安定した収入を得、結婚して標準世帯を形成し、住宅を所有するというライフコースを歩むことで、社会のメインストリームを形成してきた。政府は住宅所有を促進するために、住宅金融公庫、住宅公団、公営住宅などの住宅政策を展開してきた。企業は終身雇用を前提とし、家賃補助や社宅などの福利厚生制度の整備を通じて住宅所有を促した。経済が右肩上がりに成長する中、住宅を所有することはキャピタルゲインの獲得をもたらした。さらに標準世帯を形成した者は、税制や社会保障で優遇された。こうした経済・社会条件のもと、多くの人が「仕事・家族・住宅」という条件を満たし、卒業し、就職し、結婚して標準世帯を形成し、そして住宅を所有するという人生の「梯子」を登ってきた。

しかし、現在その「梯子」は当たり前に登れるものではなくなってきている。「仕事」に関しては、1990年代以降、有期雇用の派遣社員や、契約社員・嘱託などの非正規雇用者が増加している。失業者は減少しつつあるが、非正規雇用者の増加は続いている。年功序列や終身雇用の制度は縮小し、たとえ就職したとしても将来の雇用は約束されるとは限らなくなった。「家族」については、近年の未婚率の上昇や離婚の増加、少子化などの社会変化のもと、夫婦と子という標準世帯は減少している。単身世帯や、独立せずに親の家にとどまるパラサイト・シングルの増加がみられる。

「住宅」においても、「梯子」を登るための条件は大きく変化してきた。住宅価格の変動は不安定化し、住宅の取得はキャピタルゲインを常に生み出すものではなくなった。2007年の住宅金融公庫の廃止をはじめとした住宅政策の変化のもと、住宅供給への国の介入は縮小し、規制緩和による民間市場の拡大が進んだ。また、企業も住宅関連の福利厚生制度を縮小させてきた。

個人がライフコースを形成するにあたって重要な時期となるのが、「梯子」を登りはじめる若年期である。若年期に就職し、安定した所得と雇用を得なければ、その後正規雇用に就くことは難しい。若年期を過ぎてからの標準世帯の形成には、適齢期を過ぎた出産や、教育費の増加と退職の時期が重なるなどの問題をともなう。同時に、住宅購入時期の遅れは、住宅ローンの返済期間が短くなり負担が大きくなることを意味する。若年期にどのような「仕事・家族・住宅」についての選択をするのかは、その個人の将来の暮らしに大きな影響を与える。「梯子」に足をかける時期が遅れるだけでなく、「梯子」の「足がかり」を持たない若年者も増えているのではないだろうか。

そこで本研究では34歳以下の若年者に注目し、「梯子」への「足がかり」の変化がライフコースにおける住宅をどのように変化させているのか、また逆に、若年期の住宅条件が、個人のライフコースの選択にどのような影響を与えているのかを明らかにする。具体的な調査としては、@「住宅・土地統計調査」「国勢調査」などの統計資料を用い、若年者の「住宅・仕事・家族」の実態を把握し、A「梯子」に足をかけられない人びとの一類型である未婚の若年非正規雇用者に対しインタビュー調査を行い、その生活及び住宅の実態を明らかにする。



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