1.携帯電話が時空間に与える影響
ここ数年の携帯電話の急速な普及で,コミュニケーション形態は多様化し,時空間は今までにない形となった.コミュニケーションの入り口となる空間が限られていた固定電話に比べ,携帯電話の使用には空間の限定がない.人と人を結ぶ線は自由に伸び縮みするようになった.空間には目に見えるコミュニケーションの他に,多くの目に見えない線が存在する.本論では,携帯電話を使用したコミュニケーションを空間的に捉え,現在の人々と時空間の関係を研究することを目的とする.
2.研究方法
通信機器を使用したコミュニケーション状況を調査することで,人々と時空間の関係を分析する.調査対象に,携帯電話を所有する大学生20人(男女各10人),フリーター10人(男女各5人)を選び,木,金,土曜日の3日間の通信を記録してもらった.
3.電話使用形態の傾向
通信回数は合計1044回であった.調査対象30人の1日を1サンプルとし計90サンプルで分析を行う.全体の88%が携帯電話同士のコミュニケーションで,66%が文字メッセージ交換によるものであった.
- 全体的傾向
同じ空間にコミュニケーションを取っている人がいる時の携帯電話の使用状況を見てみると,文字メッセージの発信数は通話の約2倍であった.誰かと一緒にいる時,携帯電話を使用することに抵抗を感じるのは,通話の時80%,文字メッセージ交換の時67%である.移動中の使用場所を見ると,限られた空間である電車,バスでは文字メッセージ交換が多くなり,路上では通話が多くなる.文字メッセージ機能を使用する時は,自分の存在する時空間と別の空間とのそれぞれのコミュニケーションを並行して行うことができるため,時空間の流れを分断しているという意識が薄れる.
- 通信回数別,男女別傾向
調査対象を通信回数10回未満(グループ1),10回以上20回未満(グループ2),20回以上(グループ3)と分け,文字メッセージ交換,通話における男女別傾向を見ていくと,それぞれに通信回数の多くなる時間帯と空間があることがわかった.グループ1の女性の通話,文字メッセージ交換の多い時間帯は夜だが,グループ2,3になると,それに加え日中にも多くなる.また,家よりも家以外の場所での通信が多くなっていく.男性の文字メッセージ交換も同様だ.男性の通話の時間帯にはこのような傾向は見られない.通話の場所は,これらと逆に,家以外の場所よりも家での通信が多くなっていく.
4.ケーススタディ
グループ3から3人を選び,それぞれの1日の通信時間帯と空間を追った.今まで文字によるコミュニケーションには距離と時間が関係していたが,携帯電話ではリアルタイムに行われる.携帯電話によるコミュニケーションでは,壁一枚隔てて隣の部屋にいる人も,何100km離れたところにいる人も同じ近さである.自分が存在しない場所,感覚外の場所が一瞬にして生活に入り込んでくる.また,相手の場所が不明なままコミュニケーションをとることは,携帯電話が空間から距離だけでなく,空間そのものも消滅させたと感じさせる.
5.結論
携帯電話を持ち歩くということは,たくさんの短いアンテナをだしているということだ.そしてコミュニケーションだけでなく,時空間も断片化している.今までは時間・空間は連続しているという秩序があった.携帯電話は空間から距離,距離に伴う時間を取り除くことに成功した.このような技術の進歩は,今日の物理的な距離の近さを根本にした近隣関係,地域関係に影響を与える.コミュニケーションと距離の関係が薄くなるこれからの空間の変化に注目したい.