被災市街地における街区秩序の変容

和志武 直樹


1.研究の目的
神戸市街地の建築物は1995年に起きた阪神・淡路大震災により,壊滅的な状態に陥った.低層の木造住宅や背割りの細街路で形成されていた街区には変化が生じ,震災復興の過程では,高層マンションや均質なプレハブ住宅など震災前とは全く別の要素が街区内に持ち込まれた.
このような急激な変化によって生まれた現在の神戸の都市空間は将来における日本の市街地の様相を表しているのではないだろうか.
本研究では神戸の震災復興における市街地再建の実態を区単位でマクロに把握したうえで,街区単位におけるミクロな視点から分析しそこから見出せる将来の市街地における問題を提起することを目的とする.
そのため本研究では神戸市街地を の3つの視点から分析した.


2.市街地における人口回復率の変化
≪手法≫
分析対象は神戸市東灘区,灘区,中央区,兵庫区,長田区,須磨区のうち震災直前(1995年1月)人口が50人以上の町丁とする.なお,震災復興に関する市街地再開発事業,土地区画整理事業の都市計画の区域は建築再編の条件が異質であることから<都市計画地域(106町丁)>としてまとめ,都市計画以外の地域(1600町丁)と区別する.これらを震災後(2002年1月)人口と比較し,分析を行なう.
≪結果と考察≫
東灘区,灘区の東部では回復傾向にありますが長田区,須磨区などの西部では回復の遅れが目立ち,明らかに東部と西部では差が生じている.さらにそれらの内部では,回復していない町丁の数が圧倒的に多い.
町丁別でみると,それぞれの区において回復率が150%以上の大幅に回復した町丁や回復率が80%未満の大幅に遅れている町丁、などが存在し,強い地域間格差が生じている.
都市計画地域についてみると,計画地域の人口回復率は計画地域以外の地域と比べて顕著に低くなっており内部では8割以上の町丁で回復していない.事業の遂行には大量の時間が必要であり,震災復興に関して都市計画事業は,その効果を発揮できなかったといえる.
市街地は震災前の状態に戻ろうとしているのではなく,別の空間を構成する方向に向かっているといえる.人口が「疎/密」に分極化していく中で両者は同じ割合で存在するのではなく少数の地域にのみに人口が流入していく傾向がある.


3.市街地における建築物の変化
≪手法≫
≪結果と考察≫
震災後,市街地における建築物には変化が認められた.人口の回復している場所では,大型建築物の建設により地割に変化が生じた.回復が遅れている場所では,震災前は長屋住宅などの建築物で埋まっていた土地に空地が散在している.
復興過程において,人口が回復している町丁では主に非木造共同住宅や戸建て住宅が建設された.それらの建築材料は主に「乾式塗装パネル」,「コンクリート」が使用され,震災前に比べて市街地は'硬く,乾いた'様相を呈するものになった.回復が遅れている町丁では戸建て住宅は建設されているものの,閉鎖されたあるいは荒廃した空地により街区が形成されている.
人口回復に相関して,街区を形成する建築物,地割りに違いが生じ,場所による景観の違いが大きいものになっている.


4.市街地における空地・駐車場の変化
≪手法≫
対象は灘区南部の東西を石屋川と都賀川に,南北をJR線と国道43号線に囲まれ,都市計画事業の区域を除く地域に存在する空地・駐車場とする.これらについて震災前後の変化を把握・分析する.
≪結果と考察≫
灘区南東地区における空地・駐車場には,人口回復の速度との相関関係がみられた.
回復の遅れている地域は,空地・駐車場の増加率が高くなっており,敷地面積の小さい「細切れ化」した空地が多く残存している.
また,市街地の中の空地は,「細切れ化」したもの,「閉鎖された」もの,「荒廃化した」ものなどが数多く存在している.都市の中の空隙は高密すぎた建築密度を低下させる有益なものと考えられる場合がある.しかし,このような閉鎖されたもの,荒廃したままの空地が存在する市街地の景観は都市に衰退と荒廃のイメージをもたらしている.


5.結論
従来の低層の木造住宅,背割りの細街路により形成されていた街区の秩序は失われた.それに代わる新たな秩序は形成されず,街区における空間像は不明瞭なものになっている .
神戸市街地でみられた現象にもとづきこれからの街区秩序をめぐる課題を提起する.
  1. マクロ地域においても,ミクロ地域においても進行している「成長/衰退」の分極化をどう緩和するのか,
  2. 成長街区では,新たな空間秩序をどう構想するのか.現在,マンション,パネル住宅により地割りの均質性が失われ,空間秩序が不明瞭になっている.これからは,両者が主流になるトレンドを加味した上で,街区の将来像を考えていく必要がある.
  3. 衰退街区では,増加する空地をどう扱うのか.今までの都市計画は建物に注目してきたが,これからは空隙に注目していく必要がある.
現在神戸市街地でおきている現象を特殊な事例として捉えるのではなく,日本の市街地全体で起こりうる現象として捉え,これからの都市計画に繋げていく必要があると思われる.




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