住宅資産形成のライフサイクルモデル
豊田 敏宏
これまでの日本では、多くの人々が30歳代から40歳代までの間に持ち家を取得し、高齢期前までに住宅ローンの返済を終え、老後には多くの資産を形成するといったライフサイクルモデルがあった。常に成長し続ける経済の下で、住宅所有はキャピタルゲインを発生させてきた。人々が住宅資産を形成することは、個人にとって家賃負担がなくなるなどといった一種の老後の生活保障を意味していた。同時に、国家にとって住宅資産形成のライフサイクルモデルは年金をはじめとした社会保障費の軽減の点において、重要な意味を持ってきた。戦後政府は、住宅金融公庫、日本住宅公団、公営住宅の住宅政策の三本柱を設立し、特に住宅金融公庫に資源を集中することで、国民の住宅所有を促進してきた。
現在の日本では、個人の資産形成の重要性がさらに増している。年金の減少のように社会保障が縮小する中、住宅資産を持つことは家賃収入の獲得など今後の生活を支える一手段となり得る。国の財政状況が悪化する状況下において、特に高齢期の生活保障の観点から、個人の資産所有がますます重要視されている。
しかし近年における経済・社会状況の変化の下、住宅所有によって資産を形成するライフサイクルモデルの安定性はすでに揺らぎ始めており、次のような問題が現れてきた。
第一に、不動産所有に伴う経済的なリスクが高まってきている。バブル経済の破綻とその後の長期に渡る不況により、住宅所有はキャピタルロスを発生させる可能性をはらんできた。デフレ経済の下で、住宅ローンを抱えることは返済の負担が増大していくことを意味する。資産形成は以前に比べ、よりリスクの高いものとなってきている。
第二に、高齢期における豊富な住宅資産をどう有効活用するのかという問題がある。例えば、高齢者が複数の住宅を所有しており、それらが空き家と化し、老朽化したまま放置されている、といったことがある。若者を始めとした住宅所有が困難な人たちに対する住宅再分配の方法が求められてきている。また、高齢者の多くは「アセットリッチ・キャッシュプア」であり、資産は多いが、現金は少ない。年金の減少などの社会変化に伴って、今後現金を必要とする場面が増えてくると想定される。
そこで本研究では、国民全体の資産所有の状況と変化を把握し、住宅資産形成を前提としたライフサイクルモデルがどのように移り変わってきたのか、また特に高齢期における住宅資産の実態を把握し、高齢者自身が今後資産形成においてどのような動向を示すのかを明らかにする。
具体的な調査としては、@「全国消費実態調査」のミクロデータを独自に集計し、国民の資産、所得、負債などの実態を分析する。「全国消費実態調査」の公表集計では住宅と資産、所得、負債などの関係について限られた情報しか得られない。ミクロデータを利用することで、様々な指標を用いて、より多面的な分析が可能となる。A65歳以上の高齢者を中心にインタビュー調査を行い、住宅資産に対する意向を把握する。B高齢者の住宅資産の有効利用を目的として、2006年に設立された移住・住みかえ支援機構(JTI)などの実態を把握し、高齢期の住宅資産に対する国の取り組みの展望と課題を明らかにする。