高齢者の転居・居住環境変化と療養環境

田中 淑恵

  身体機能の低下した高齢者が暮らす空間として、自宅の重要性が高まってきている。平均寿命は上昇し、75歳における平均余命は男性11.58歳、女性15.38歳と高齢者が自宅で過ごす期間は長期化している。また、DPC制度(入院医療費の包括支払い制度)の導入により、急性期病院における入院期間の短縮が進むとともに、厚生労働省は在宅医療連携拠点をおき在宅医療体制の整備を重点的に行っている。こうした社会変化は、高齢者が自宅で過ごす期間の増大をもたらし、自宅の療養空間としての役割を強めるよう作用してきた。
 しかし、自宅を療養の場として医療を継続するには多くの問題がある。健常者の暮らしを想定して設計された住宅が、身体機能の低下した高齢者にとって住みよい空間を構成するとは限らない。身体機能に適さない住まいは、ADLの低下や転倒による骨折など、新たな疾患にもつながる恐れがある。また、介護を前提として設計されていない従来の住宅は十分なスペースや設備が不足しているため、介護する側の負担を増大させ、介護そのものを困難にしてしまう場合も生じる。よりよい空間を求めて転居を選択するとしても、適応能力の低下する高齢者にとって環境の急激な変化は大きな負担となり、精神的、身体的影響を生じる。療養の場としての自宅の役割が強まる中、高齢者の住まいとそこでの暮らしのあり方を考えることの重要性が増している
本研究では、高齢者を取り巻く居住環境に着目する。転居や住まい方など高齢期に起こった居住環境の変化から、高齢者が身体機能の低下にどのように対応しようとしているのかを明らかにする。また、居住環境が変化していない高齢者の住まい方から、従来の住宅に住み続けることによる影響について考察する。高齢者の選択した変化から、求められる生活環境のあり方を考える。

  本研究は、高齢者の住宅・住まい方・家族の変化とその履歴に着目し、在宅医療の受け皿としての生活環境との関係を明らかにする。
まず、厚生労働省による各種統計調査の結果を用いて、高齢者の置かれている現状を把握する。具体的には、高齢期の身体的特徴と介護保険の利用状況、高齢者の居住する住宅の特徴について行う。
次に、身体機能の低下を経験した高齢者が、高齢期に入った後に住宅・住まい方をどのように変化させてきたのかをインタビュー調査より明らかにする。インタビュー調査は、現在居住している住宅と住まい方、60歳以降の転居や住宅改修・住まい方の変化について実施する。




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