働く女性の暮らしと住まい−女性教員への調査を通して−

瀧浪 紀子


1.研究目的と背景
現在の住宅計画は“標準世帯”−「稼ぎ手の夫+専業主婦+子」−を前提としている.しかし,近年の女性の職場進出,晩婚化,離婚の増加などによって,「専業主婦」は減少している.女性を取り巻く社会環境は変化しているが,人々の意識の中では女性は職を持っている・いないに関らず専業主婦と同様の役割を要求されているし,女性自身もそうした責任意識は根強い.“標準世帯”を居住者として設定し住宅を供給してきた“マス・ハウジング”のシステムは,今その前提をゆるがせている.プランニングにおいても住民参加や地域重視といった動きが現れてきている.しかし政府の住宅政策や住宅市場は,“マスハウジング”から抜け出すことができずにいる.こうした矛盾した状況の中で,“標準世帯”ではない家庭ではどのように生活を成り立たせているのか.また,そこに住まいはどのような役割を果たしているのか.本研究ではこの点を,「働く女性」の住まい方調査を通して明らかにし,その生活を支える住まいのあり方を探ろうとするものである.調査は,労働条件が比較的整備されており職業系族が有利であると考えられる女性教員を対象とし,郵送によるアンケート調査を行った.有効回収総数は310,回収率56.1%であった.


2.属性
調査対象世帯の属性は以下の通りである.
  1. 25歳から55歳までの分布で,35〜39歳,40〜44歳が多い.配偶率は78.8%.
  2. 夫妻が同職種の家庭が多い.ほとんどが典型的な「共働きサラリーマン家庭」である.
  3. 有子率は68.4%.末子が学齢未満及び小学生である家庭が3分の1.長子年齢が18歳以上の世帯は全体の約2割.
  4. 既婚・未婚を問わず,親との同居率は約2割.
  5. 「夫婦+子」の世帯型が半数を占める.
  6. 「三世代率」は全国平均と比較して高い.
  7. 世帯人員数では4人が最も多い.全国平均と比較して単身世帯の少なさと,6人以上世帯の多さが特徴的である.
  8. 分譲マンションを含めた持家が多い.家賃・ローン保有率は7割であるが,親・親族所有の家の場合は家賃・ローンなしがほとんどである.
以上より,「結婚−出産−子供の独立」という女性の基本的なライフサイクルが形成されていること,親への依存率が高いことなどがわかる.
なお,調査結果をまとめるにあたり,対象世帯を8つのグループ「家族周期」に分類した.「未婚40歳未満/以上」「夫婦40歳未満/以上」「長子5歳以下」「長子6〜11歳」「長子12〜17歳」「長子18歳以上」である.


3.生活時間
通勤時間を見る.未婚の場合はほぼ全国平均に近い値になっている.既婚の場合,40歳未満の夫婦世帯以外は全て配偶者より本人の方が通勤時間は短くなっている.子供のいる世帯ではこの傾向へ顕著である.出勤・帰宅では,比較的通勤時間の短い本人の方が,配偶者より遅く出勤して早く帰宅する傾向がある.
家族の形態によって,家事時間は大きく変化する.未婚の場合は日常の家事時間は短いが,既婚の場合は1〜2時間,子供がいる場合は3〜4時間との解答が多くなっている.一方配偶者の家事時間は30分以内が半数以上を占め,配偶者の家事への参加度の低さは明らかである.
自由時間については,子供の有無,年齢が大きな影響を与えている.子供のいる場合の自由時間は1時間以内が多く,まったく無しという回答もある.子供がいない場合には2〜3時間の自由時間を確保する人が多い.子供の年齢が上がるに従い自由時間は増える傾向にある.対して,配偶者の自由時間は2〜3時間が多く,家族形態などによる変動は大きくない.妻は家事・育児によって自由時間が決定されているのに対して配偶者はそうではなく,どちらかというと在宅時間によって決定されているようである.


4.親との関係
4−1.居住関係

親との同居率は,未婚と子供のいる世帯で高くなっている.夫婦のみの世帯では同居率は低い.別居の場合,全体として親の家との時間的距離は「30分以内」が最も多い.「非常に近い」パターンと「非常に遠い」パターンに2分化している.子供が11歳以下の家庭では「30分以内」が多いのに対し,12歳以上では「60分以上」が多くなる.子の成長に従い,本人か配偶者,どちらかの親と同居したため一方の親との距離が離れたと考えられる.

4−2.家事・育児の分担
本人の家事・育児負担は全体的に高い.配偶者は,夫婦のみの世帯の場合比較的多くの家事を分担しているが,全体として家事・育児の手伝い的な参加にとどまっている.
同居の親の家事負担についてみる.本人が未婚の場合の親の家事負担は大きい.既婚の場合も家事負担は配偶者より親が主体となって行っている.家事の内容は,朝や昼間の就労女性が家事をおろそかにせざるを得ない時間帯の項目が多くなっている.育児への参加度は家事ほど高くはない.
別居の親についてみる.別居の場合,ほとんどの場面で参加度は低いが,育児に関しては「留守時に預かる」などの面で参加している.どちらかというと何かあったときに頼ることのできる存在として位置付けられているようである.


5.生活のパターン化
前章では,家事・育児を誰が担っているかについてみた.本章では,生活が何によって成り立っているか,すなわち「本人」,配偶者や同居の親という「世帯」,近所の親・保育所などの「地域」が相互にどのような関係を持って生活を成立させているか(生活型)を明らかにする.表1に生活型から見た該当数・構成比,表2に生活型から見た生活のパターン化をまとめる.

<表1>
本人 世帯 地域 該当数 構成比
全て 51 19.1
× 本人+世帯 10 3.7
× 本人+地域 59 22.1
× 世帯+地域 8 3.0
× × 本人のみ 15 5.6
× × 世帯のみ 67 25.1
× × 地域のみ 32 12.0
× × × 全てなし 25 9.4

<表2>
生活型 家族周期 特徴 「本人」 「世帯」 「地域」
○○○ 長子11歳以下 ・家事・育児負担大 本人 同居の親 保育所
本人
本人 保育所
○○× さまざま ・必ず親と同居 本人 同居の親
○×○ 夫婦40歳未満 ・夫の通勤時間重視
・妻の時間的負担大
本人 近居の親
長子11歳以下 ・妻の通勤時間を考慮 本人 近居の親
本人 保育所
×○○ さまざま ・時間的に余裕がある・ない
 に二分される
同居の親 保育所
近居の親
保育所
○×× 未婚40歳以上 ・単身 本人
長子12歳以上 ・家事・育児負担の縮小 本人
×○× 未婚40歳未満 ・親との同居が多い 同居の親
長子12歳以上 ・親が「専業主婦」の“標準世帯”
・家事・育児負担の縮小 同居の親
夫婦40歳以上 ・家事負担少
・夫の通勤時間短縮
××○ 夫婦のみ世帯
長子12歳以上
・世帯内で事足りる
・手の行き届かない部分を親に依存
近居の親
××× 長子11歳以下を除く
家族周期
・家事・育児負担自体が少ない


6.住まいの意味
生活のシステムが成立する上で,「住まい」の持つ意味を住まいの選択理由から明らかにする.
家族周期ごとに住まいの選択理由を見る.夫婦のみの場合は年齢に関らず「本人の通勤時間」を選択理由に挙げている.子供のいる世帯では「地域の設備」や「親との距離」を重視している.ただし,子が18歳以上の場合は「住環境のよさ」を重視する割合が高い.未婚の世帯では,40歳未満の場合は「元から住んでいた」,40歳以上の場合は「住環境のよさ」が重視されている.
生活型ごとに見る.全体において家事を担う程度が高い人の負担を減らす目的で住まいを選択している.ただし,×○○型と××○型では「本人」の便利さを重視して選択するパターンが多い.また,これらは「配偶者の通勤時間」「親との距離」も重視しており,依存度合いが高いことが伺える.
以上のように,現在の家族周期や生活型と住まいの選択理由は大きく相関する.住まいの選択にはそれぞれの世帯に取って望ましい生活のあり方が反映されている.また,住まいの選択によって生活のシステムが形成されているとも言える.


7.結論
以上より明らかになった点は,以下の2点である.
就労女性の世帯が営む生活は,世帯のみで完結せず,「世帯」や「地域」を巻き込んで営まれる「多様」な生活である.特に,親の近居や保育所など「地域」を含めた住まい方が重視されているのは特徴的である.就労女性のいる世帯だけでなく,高齢世帯・単身世帯など,“標準世帯”から外れた世帯はこれからますます増加すると考えられる.これからの住宅計画は「地域」を含めた住まい方を重視していく必要があるだろう.




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