世界遺産と地域変容力学

竹野 絢也


高度経済成長期、日本では経済性が重視されるあまり、都市において周辺との調和や地域性を無視した無秩序な建設が行われた。建築基準法に違反しない限りいかなる形状の建物も建てられるようになり、さらにその建築基準法でさえも規制緩和が繰り返された。しかし一方で、美しい日本の景観や文化財を保全、形成しようとする意識は高まりを見せた。1970年頃から、緑や歴史的景観を保全するための自主条例を定める自治体が増加し、国もこうした取り組みを支援する体制を徐々に整備し始め、2004年には景観法が制定された。国際的にも、普遍的価値を有する文化遺産や自然遺産を保護しようとする動きが盛んになり、1972年、ユネスコ総会で世界遺産条約が採択された。1992年にこれを批准した日本は、2008年現在、14ヵ所の世界遺産を保有しており、現在もその数を増やしつつある。

しかし、世界遺産の登録は、その土地の社会、空間、経済に様々な影響を及ぼす。例えば、登録によって、空間に「世界遺産」というグローバルなネームバリューが突然付与されることで、国内外からの観光客が急増する。このような急激な観光地化が地域住民に与える影響は大きい。地元経済の活性化が見込める一方、観光公害が発生することも少なくない。遺産保全のための新たな規制が設けられることで、住民の生活や地元産業が圧迫された実例もある。さらに、登録に当たっては、自由な建設のために規制を嫌う開発業者との間で摩擦が生じることもある。以上のことから、世界遺産の登録、その後の保全には行政、開発業者、地域住民など立場を異にする人の様々な思惑が絡み、複雑な力関係が錯綜していると考えられる。
また現在、経済効果や地域のイメージアップを期待して遺産登録を目指す傾向が強くなってきている。世界遺産の本来の意義、すなわち「顕著な普遍的価値を有する遺産の保護」という目的とは異なる、別の目的で「世界遺産」というブランドが利用されているのである。さらに、世界遺産の登録基準には、「人類の創造的才能を表現する」「ひときわすぐれた美的重要性を持つ」等の項目が設けられているが、これらで定義される「普遍的価値」「貴重」という概念は個人により大きく異なるがゆえに、その保全・形成をめぐって多くの人が利害を対立させている。

そこで本研究は、特に関係者の力関係やポリティクスに着目し、日本における世界遺産の実態を把握する。そして、都市計画に付きものである『「開発」対「保護」』の対立関係の中、今後のまちづくりのあり方を検討する。

具体的には以下の調査を行う。



《メンバー・研究テーマ紹介》へ

-Home-