1.研究の目的
公営住宅の多くは,「夫婦と子」で構成される「標準世帯」を入居世帯として想定した「標準住宅」を供給するという近代住宅計画論によって設計されてきた.それらはDKと家族人員数(n)分の個室から構成される「定型(nDK型)」の住宅であり,そこでは住戸内・世帯内で「完結」した,日々「固定」的な生活が営まれるとされた.親族集住の前近代的な家族型や転用性の高い続き間型の住宅,床座の起居様式などは否定された.それは近代的な住宅の供給による近代的な生活様式の啓蒙であり,外部から居住者の生活を構築するという行為である.
現在「夫婦と子」からなる世帯は総世帯数の3割強である(2000年度国勢調査・第一次基本集計).「標準世帯」は今や「標準」とはいえない.全国的に高齢化が進行しているのは言うまでもないが,とりわけ公営住宅においては,平成8年公営住宅法において高齢者・障害者・単身者の公営住宅への入居規準や年齢規定を緩和しそれ以外の世帯の入居を制限するといった抜本的な改正が行われたこともあり,居住世帯の「高齢・単身化」が著しい.「標準世帯」の居住を前提に計画されている住宅に単身者が居住するとき,そこに摩擦が生じる.これからの公営住宅のありかたを考える上で「高齢・単身世帯の住宅」は大きな課題となる.
以上の点を踏まえ本研究では,ワークショップ方式による住民参加の団地更新を行っている和歌山県御坊市島団地再生事業を取り上げ,新団地「グリーンハイツ」における高齢単身世帯・単身世帯を対象とした分析を行う.一方的に押し付けられる「標準住宅」ではなく単身者が自由に設計した住宅とそこでの住まい方がどのような形で現れるのかを明らかにし,これからの公営住宅のあり方を提案したい.
2.分析
建替え事業はコーポラティブ方式を使用している.この点と,高齢単身世帯・単身世帯の住戸(小住戸)面積は55

と余裕がるあることから,ここで見る住戸は住民の住要求がほぼ直接反映されたものと見ることが可能である.このことをもとに以下の3つの分析を行なった.
2-1.プラン分析
- プランによる分類
小住戸には「公私室型(nDK型)」と「続き間型」と両者の中間である「ミックス型」の3つのプランがある.「nDK」という定型に収束するのではなく複数の類型が存在することがわかる.また,和室は全住戸で最低1室計画されており,続き間を有する住戸は29戸中25戸である.
- 躯体型による分類と居室の構成(図1)
小住戸には3つの躯体型がある.同じ躯体型に属する住戸はさらに居室の構成によって多数のパターンに分けられる.さらに,続き間の存在によって空間の連続・文節が可能となり,更にプランに幅を与えている.
2-2.住まい方分析
- 居室の使い方
続き間が多いことにより,間取り自体が多くの空間パターンを潜在的に有している.居住者はふすまを開閉することで潜在パターンの中から必要に応じて空間を選択するという可変的な住まい方をしている.
- 生活行為の場
居住者の住まい方を生活行為(食事・就寝・接客の3つを指すと定義する)の行なわれる場所について大きく2つに分類することができる.全ての生活行為が別の居室で行なわれている「分離型(4世帯)」と,何らかの生活行為が同じ居室内で行なわれている「重複型(18)」である.後者はその重複の仕方によって更に3つに分類できる.全ての行為を1室で行う「1室内完結タイプ(6)」,食事と接客が同一の居室で行なわれる「食・接タイプ(6)」,就寝と接客を同一の居室で行なう「寝・接タイプ(6)」である.食事と就寝が重なり接客のみ別室で行なうタイプの住まい方は見られなかった.
DKの普及に伴って達成されたと考えられていた「食寝分離」は22世帯中6世帯で行なわれていない.当該世帯には基本的な生活行為に使用されていない居室が存在することから,食寝の未分離は住戸の狭小性によるものではないと考えられる.
また,食事や就寝を行う場が時と場合に応じて変化する世帯が多いことは特徴的である.DKのテーブルで食事をとらない世帯も多い.グリーンハイツでは間取りに固定されない流動的な生活が営まれており,ひとつの住まい方に集約することは不可能ではないかと思われる.
単身者が家事の全てを自分で行い完結した生活を送るのは困難である.調査でも食事・入浴・就寝などを他世帯で行なったり,親族などが来訪し家事や身の周りの世話などを行なうというように,他世帯と相互依存的な生活をを送っている例が見られた.単身者にとって来訪する他者の存在は重要な意味を持つ.
- 共用空間の利用
既存団地はドアによって住戸内の「私的内部」と共用部分の「公的外部」が明確に分けられており,住民は共用空間を「外部」のものとして十分な管理をすることなく放置してきた.グリーンハイツは,住民のコミュニティ意識の強化への建築側からのアプローチとして,共用空間の豊富化という手法を用いている.私的な空間と公的な空間の間の境界を曖昧化する方向性が打ち出され,中庭・空中街路・ピロティ・屋上庭園・コモン・ルーム・だんらん室など多彩な共用空間が計画されている.住戸に近接する空中街路や中庭には,生活用品の溢れ出しや植栽などの表出が見られ,住民がこのような場所を私的な空間の延長線上に捉え,B.タウトのいう「外部の居間」として使用していることがわかる.
2-3.ネットワーク分析
島団地では,歴史的に親戚間の濃密なネットワークが形成されてきており,そうした親戚間の深いかかわりが,1世帯1住戸の完結した生活ではない,流動的で非完結的な住まい方を形作ってきた.新団地であるグリーンハイツでは,粘り強いワークショップと豊富な共用空間などによってコミュニティの活性化が促された結果,住民間にもネットワークが形成されている.高齢単身の男性に料理のおすそ分けをする住民や互いに安否確認を行なう単身者など,家族機能を拡大したような関り方が現れてきている.
また,世帯の結合や分離が繰り返された結果,団地外の市内に親族をもつ世帯が多く,段違いから単身者の身の回りの世話のため来訪するなど,濃密なネットワークは団地内から団地外へと広がりを見せている.
3.結論
3-1.住まいの脱構築
公営住宅における単身者の住宅が有する特徴は,以下キーワードに集約された.
- 「幅」
単身者によってほぼ自由に設計された間取りは,nDKという定型に収斂されず,複数の型に分かれた.続き間の多い間取りは,多様な空間パターンを生み出す.居住者は,間取りが提示する幅のある選択肢の中から時と場合に応じた空間を選択している.
- 「非完結性」
単身者が自立し自世帯のみで完結した生活を送るのは困難である.団地内や近隣地域に住む親族が家事や世話を担っている例や食事や入浴など生活の基本的行為を他世帯で行なう例が見られ,他世帯の存在なしには生活が成立しない「非完結」的な住まい方がなされていることがわかった.
また,共用空間をへの溢れ出しや植栽の表出などが見られ,こうした空間を「外部の居間」と捉える意識が住民の間に芽生えていることがわかる.
空間の捉え方は,「私的内部/公的外部」から「私的外部/公的内部」へと移行している.
- 「可変性」
新住宅での単身者の住まい方は,常に同じ場所で同じ行為を行なうという固定的なものではなく,むしろ続き間の持つ高い転用性を生かした可変性に富むものとなっている.
また,生活の中に他者が深く入り込むことによって,完結した世帯にはない変化に富む住まい方が可能になっている.
こうしたキーワードによって表象される住宅は,近代住宅計画論が構築した「標準」を「脱構築」したものであるといえる.ここに,居住者の生活の構築という行為の不可能性が明らかになった.
3-2.「住宅設計」から「生活空間設計」へ
単身者の生活には,親族や近隣住民などの「世帯外の要素」が深く関係しており,住まいとそれらとの関係性を切り離して考えることはできない.単身者の生活は「住宅」という容器の中には納まらず,住戸外へ,団地全体へ,さらには団地外へと広がりを見せている.
これからの公営住宅設計は,「住宅」というハードの設計のみでなく,居住者の生活の様相や外部要素とのかかわりも含めた「生活空間」の設計へ移行する必要があるのではないだろうか.
| グリーンハイツ外観 |
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| nDK型の間取り |
続き間型の間取り |
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| ミックス型の間取り |
「外部の居間」 |
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| 豊富な共用空間 |
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