1.研究の目的と方法
これまで都市の墓地は、近代都市計画の枠組みの中で扱われてきた。政府は、墓地を生者の空間と分離させ郊外に集約し、墳墓・墓地を標準化・画一化し、衛生・美観を重視した環境を整えようとした。地域の習俗や宗教の伝統の中で営まれてきた墓地もその対象となった。
しかし現在、都市の墓地をめぐる状況は変化している。墓地需要のさらなる高まりが予想されている。また個人化・少子化・非婚化という社会変化はイエ制度をゆるがせ、イエ墓の多い墓地空間を変容させていると考えられる。その現れとして無縁墓が増加傾向にあり、それへの対応が課題となっている。都市と墓地の関係のあり方について再考する必要が高まっている。
本研究は東京都の寺院墓地を対象とし、墓地経営者と使用者の関係の変化、経営者側の意識を分析するところから、寺院墓地空間の変容を検討するものである。東京には、主に江戸期に開設された多くの寺院とその墓地がある。それらは人びとの生活圏に長期間存在し、都市空間を構成する一要素として大きな役割を果たしてきた。また近年は人口の都心回帰がみられ、新規墓地使用希望者が都心を中心に増加していると考えられる。そのため、既存の寺院墓地は貴重な墓地供給主体といえる。ここで「寺院墓地」とは、経営主体が仏教系宗教法人である墓地をひろく指し、檀家のみを墓地使用者とする檀家用墓地のみでなく、使用に際して宗旨を問わない、いわゆる霊園も含むこととする。
2.東京都の墓地空間

まず都内の墓地分布をマクロに把握するため「東京都衛生年報(1978〜2005)」を用い、経営主体別墓地及び納骨堂の分布を調べた。法人墓地は区部に圧倒的に多く所在し1,919箇所、一方の多摩地域(市部と郡部の合計)には869箇所であった。区部では江戸期に寺院が増加した港区・台東区などにとくに多く、多摩地域では八王子市に集中し、かつ増加している。個人墓地(専用と共用の合計)は区部では238箇所と少ないのに対し、多摩地域には6,654箇所と多数存在する。納骨堂は少数ながらも都心を中心として増加傾向にある。墓地の開設は歴史的背景や交通利便性、都市計画に左右され、各地域が異なった墓地空間を構成していると考えられる。

多摩地域の墓地台帳(2004.11現在)を用いて高度成長期以降の郊外墓地開発の量的実態を把握した。多摩地域で1960年以降に経営許可された10,000u以上の大規模な墓地は、同地域の墓地総面積に対して大きな割合を占めていることがわかった。それらは檀家用墓地と異なる性質をもち、大規模で都市空間形成や景観に大きな影響を与えていると考えられる。

「平成17年度第4回インターネット都政モニターアンケート 東京都の霊園」の調査結果から墓地使用者の需要を把握した。墓地を必要としている人が多いこと、イエ単位の墳墓の使用という旧来の意識が縮小し、核家族化に伴う「家族」意識がみられること、そのため人びとは墓の承継に対して不安をもち、合葬や墓所使用の有期限化に対して理解を示していることなどがわかった。イエによる墳墓の承継システムに代わるものが必要になってきている。
3.寺院墓地の実態と変容
【調査の手法】
東京の寺院墓地の実態を、空間的変容を中心に明らかにするため、都内(島しょ部を除く)の寺院に対して墓地に関するアンケート調査を行った。2,851件に郵送(宛先不明等57件)し、303票を回収、有効票数は265(都内に寺院があり、墓地を保有している、と回答)であった。
【結果】
面積は小規模の墓地が多く、2,000u未満が69.3%を占める。地域別に観察すると、区部では面積の小さい墓地が多い一方、多摩地域では比較的大きい墓地が多い。墓所一区画当たりの区画も小さく、墓地で最も多い墓所区画の面積を1.00〜1.99uと答えた寺院が32.6%、1u未満も25.3%あった。墓所区画の使用率をみると、全体の76.7%の墓地では全区画の8割以上が使用されている。墓所区画の使用率は全体的に高い中で、区部東部と八王子市において50〜79%という低い使用率の墓地が目立った。
全体の8割近くの寺院が、墓地の敷地に関わるなんらかの変更を経験しており、「拡張」が35.5%、「移転」が27.8%、さらに「墳墓区域の拡張」も21.6%の墓地で行われているとわかった。「移転」では、その契機・理由が明記されていた63件中17件が1923年発生の関東大震災を挙げていた。
墓石形態についてみると、従来の和型以外も使用可能であることが多い。「使用あり」「使用はないが希望があれば認める」をあわせると、洋風・デザイン・自由な言葉を刻字した墓のいずれも70%以上の墓地において使用が可能であった。新しい納骨施設では、寺院が永代供養等の管理を行う「合葬式墓」の設置率が38.7%であったが、その他の設置率は低い割合であった。他方、これらの墓を「現代の墓のあり方としてふさわしいと思うか」との設問では、合葬式墓については59.1%が「そう思う」と答えたのに対し、洋風墓・デザイン墓ではそれぞれ18.1%、18.8%にとどまった。合葬式墓は、イエの変化などを背景として必然性を伴うと判断、受容されていると考えられる。
墓地に関する問題点としては、「新規で貸し付けられる区画が不足している」が約3割と多い一方、15.1%は「使用されていない区画が多い」と回答している。その他、「区画や通路が狭い」「無縁墓が増加している」がそれぞれ2割強となっている。
【考察】

墓地需要の地域差がみとめられる。墓地が足りないと感じている寺院は多いが、一方で、余っているという寺院もある。需給関係には、墓地の立地、交通利便性などが影響していると考えられる。

墓地の規模や形態は固定的ではない。多くの墓地は、移転、拡張などを行ってきた。新しい形態の墓は多くの墓地に設けられており、和型のイエ墓のみという旧来の寺院墓地は減少している。無縁墓の増加が意識され始めており、今後、墓所区画の使用の短期間化、合葬式墓の設置等が進み、寺院墓地空間はさらに変容していくと推測される。
東京の寺院墓地は、高まる墓地需要や墳墓の承継問題などの社会変化に対応し、規模・形態・祭祀供養の面で変容し、新たな墓地空間を生み出しているといえる。
4.墓地に関わる現代的変化 ―寺院の対応と意識
【調査の手法】
寺院と墓地使用者との関係における変化、それへの寺院の対応と意識を把握するため、53件(区部40件、多摩地域13件)の寺院に対し、面接によるインタビュー調査を実施した。回答者は主に住職である。
【結果と考察】

寺院は、墓地を使用する人びとの生活と意識は変容していると捉えている。核家族化、少子化によりイエが変化している。地域や親類との関係も希薄化し、葬儀や法要は小規模なものとなった。

寺院と墓地使用者の関係に変化が生じている。古い檀家は遠方へ転居し、近隣からは新しい使用者があり、家族・個人単位での使用希望が増えている。イエを軸とした旧来の墓地運営を続ける寺院がある一方、家族・個人単位の新しい関係を取り入れる寺院がある。

寺院墓地空間は様々な供養形式・墓石形態の墓をもつようになった。イエ墓の承継は困難になりつつある。寺院はその対応策として合葬式墓を用意し、通常の墳墓の使用においてもイエによらない共有を認め始めている。墓石は、使用者の趣味を反映したデザイン型が増えた。さらに、都心の墓地需要への対応としては納骨堂が採用されている。
都市の寺院とその墓地は、伝統と変化を兼ね備えることで使用者のあらゆる需要に対応している。
5.結論
都市計画・墓地に関連する制度は、これまで都市の墓地を抑制・規制してきた。他方で、特定の寺院の檀家になることを避ける風潮や、伝統的な枠組みの中で営まれる寺院と墓地は現代の社会・家族の変化には対応できないとの認識が一般にあるように思われる。
しかし、人口が都心に回帰し、墓を近距離にもちたいという志向が高まっている点からすれば、都市の寺院墓地は墓地のこれからを考える上で注目すべき素材である。また、現代の寺院は、伝統的枠組みを踏まえると同時に、イエ制度のゆらぎをはじめとする社会・家族の変化に対応し、合葬式墓の建立やイエを基準としない墳墓の共同使用などを導入し始めている。ここには、画一的な枠組みに収まらず、伝統と変化のせめぎあいの中から新しい方向を見いだそうとする寺院の指向性がみとめられる。寺院墓地は、都市の墓地を考える上で重要な存在であり、近代都市計画における墓地の処遇についての再考を促している。