若年層のライフコースの分岐と住宅条件

大西 将人


かつて人々は1960年代から1970年代に、地方から都市へ大量に移住した。結婚して独立した世帯を形成し、雇用と所得を安定させ、持家を取得するという「標準」のライフコースを歩むための足掛かりとして、都市への移動が大きな意味を持っていた。都市とは多種多様な人々を受け入れる空間であり、それゆえに都市では様々なチャンスに出会う機会は必然的に多くなり、ライフチャンスをつかもうと都市への移動が選択された。
ところが、近年では地方から都市へと移動する人の数が減少し、都市部ではそこで生まれ、育った人たちが増加した。また、移動が縮小していく中で、未婚率は上昇し、雇用と所得は不安定化している。これは、「標準」のライフコースが揺らぎ、若い世代のライフコースが変容していることを意味する。若年層は加齢にともなって親の家を出て、結婚し独立した世帯を形成するという、標準的なライフコースを歩もうとする。しかし、未婚率の上昇や初婚年齢の遅れ、単身者数の増加等を背景に、その居住類型は近年大きく変化してきている。かつての「標準」のライフコースを目指す動きは鈍くなり、多様なライフコースを歩むようになってきた。

 しかし、ライフコースが多様化していても、それが選択的に行われず他の要因からの影響によって決定されるならば、積極的な意味での多様化とは言えない。生活の基盤となる住宅の取得は、世帯の形成の足掛かりとなることが多く、住宅はライフコースへ大きな影響を与えている。また、ライフコースは全国一様ではなく地方によってばらつきがある。しかし、その暮らしは完全に選択的ではなく、有配偶/無配偶といった配偶関係、親と同居/別居といった住宅の条件と相関している。

 そこで、本研究では若年層の住宅と居住類型に注目して、ライフコースの変容と地方性、また、そのパターンを考察する。加えて、多種多様な人が集まる首都圏において、地理的な特徴を軸に、どのような人がどこでどのような暮らしをしているのかをより詳細に分析したい。これまでに、若年層のライフコースについては人口学、社会学的視点から論じた研究は多数あるが、本研究は、世帯単位でなく個人単位で都市・住宅との関わりを考察する点、さらに、首都圏において、居住類型別に暮らしの実態を明らかにする点で、他の研究とは異なる。調査には国勢調査、住宅・土地統計調査の統計データを使用する。


 2章では、居住類型の変化について考察する。まず1980年から2005年の居住類型を分析し、かつて大部分の人々が同じライフコースを歩んだという「標準」のライフコースを把握する。また、未婚率の増加や初婚年齢の遅れが見られる現在、そのライフコースがどのように変化しているかを観察する。
 次に、対象を25〜34歳に絞り、若年層の居住類型の変容を探っていく。ライフコースの変化は若年層から起こっており、特にライフコースの分岐点である若年層の変化は著しく、若年層の暮らしの実態を把握することは非常に重要である。

 3章では、ライフコースの地方性を分析する。ライフコースは必ずしも全国一様に分布しておらず、地理的・文化的特徴によって差異が生じると考えるのが普通である。おもに都道府県別の統計データ分析を通じて、居住類型や住宅条件の地方性から、ライフコースの地方性を探っていく。
 また、共通の特徴を持つ地方をまとめ5つのパターンに分類する。そして、地方ごとの特色や、地方差により生じている問題についても吟味する。

 4章では、首都圏における若年層の暮らしを詳細に把握することを目的とする。「標準」のライフコースを歩んだ団塊世代の子どもたちは、現在20歳代から30歳代になり親の世代とは違った動きを見せている。この若年層がどこでどのような暮らしをしているのかをより詳細に分析し、現在起こっている問題や今後の首都圏のあり方について考察する。

 5章では、本研究のテーマであるライフコースが分岐していること、ライフコースと住宅条件の関わりを再度確認する。また、地方差がもたらす問題を整理し、問題解決の提言をもって結論とする。


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