1.研究の目的
本研究はかつて「改良」された不良住宅地区が再び問題化したときにどう「再改良」すべきか,改良住宅の物理的再改良と方法論の再改良が求められているという問題意識のもと,和歌山県御坊市における島団地改良住宅再生事業を追跡・分析しその意味を明らかにするものである.
島団地は改良住宅及び同和公営住宅として1959年から1969年の間に建設された集合住宅団地である.同団地は物的な荒廃,居住者の生活困窮など多面的な問題に直面してきた.これを克服するために1990年より「島団地再生事業」が10年に渡り継続的に展開されている.この事業は中層耐火の公営・改良住宅の再改良事業として先駆的であり,同時に多角的・独創的な方法が長期にわたって試行されてきた.そのプロセスは住宅政策,住宅計画,社会福祉,コミュニティ計画など多面的な論点を含んでいる.本研究はこの再生事業を追跡・分析することにより,改良住宅を再改良する手法としてワークショップハウジングが持つ意味を検証する.分析を進めるための資料として,1996年以降再生事業に5年間に渡って継続的に関わってきた過程を通じて実施,記録・保存した各種データを用いる.
2.島団地の概要
島団地は和歌山県御坊市の日高川沿いの同和地区内に位置する.この地区は戦後幾度かの災害に見舞われている.災害に対する応急仮設住宅の供給とそれに対する住宅地区改良事業の適用などが今日の島団地を形成してきた.団地建物は建築後30〜40年が経過し,維持・管理が適切に行われなかったこともあり老朽化が著しい.住戸は30

強と狭小で,設備,間取り等も今日の一般的住宅水準と比較して低劣である.住宅の狭さや浴室がないことに対し,住民は自力での増改築で対処し,行政もそれを黙認してきた.無秩序な増改築は居住空間を混乱させ,現在では増築部分の劣化という問題も発生している.入居者の世帯構成および入居世帯の特性に関して分析すると

単身世帯,高齢単身世帯がそれぞれ約2割を占めること

2人以下の世帯が全体の65%を占めること

高年・高齢世帯が多いことなどがわかる.また

非稼動世帯が4割弱あること

健康に問題を抱える世帯が過半数あること

生活保護受給経験のある世帯が6割にのぼることがわかる.
3.改良住宅の再改良?
このような状況を打破するため,島団地改良住宅再生事業が10年以上にわたって継続的に展開されている.団地建設以前の劣悪な住環境は「標準世帯」のために「標準住宅」を供給することで住環境の向上をはかり住まい方を啓蒙するとした近代住宅計画論の範疇の外にあった.地区改良事業地区指定を受け住環境は近代住宅に「改良」された.改良住宅では就労・納税・養育を果たす標準世帯の完結型生活が想定され,その具現体として画一的住戸群が一方的に供給された.時を経て住宅は老朽・陳腐化した.制度の外側で名義の売買が行われる.経済基盤が脆弱な世帯は生活保護から抜け出せない.狭小な住戸に収まりきらない生活は増改築となってあらわれる.生活基盤は1世帯1住戸に留まらず,多様な連携を見せる.生活は住戸のコンクリート壁とモダニズムの論点を越え,既成理論の外部へと広がっている.外側から内側へ,そして再度外側へ,改良住宅は問題の蓄積と解決を繰り返してきた.再改良では再度内側を目指すための解決策を講じるのか?
再生事業は

個別世帯へのソーシャルワーク・プログラム,建替事業を基軸としたハウジング・プログラム,地域社会形成支援のためのコミュニティ・プログラムを組みあわせた「包括プログラム」を推進すること

そのために団地の問題に専念する「現地立地行政」組織の設置が必要であること

そこに住民参加を巻き込む「アクション・ユニット」を構築することを基本構想とし

周辺地域との融合性を意図したボリューム計画と住棟の分節化

地域性に配慮した景観計画とデザイン

コミュニティ形成に配慮した囲み型配置

立体街路・コモンルーム・屋上庭園など共用空間の三次元的配置などが特色となる基本計画に

ワークショップ(以下WS)方式の建築計画を取り入れ展開してきた.WSはこれまでに100回以上に渡って継続されてきた.WSにおいて住民は住戸を供給される「客体」ではなく住戸設計に積極的に関わる「主体」としての立場を獲得する.
4.ワークショップ・ハウジング
計画の骨格は設計者によって暫定的に準備される.これを題材にWSが行われ,住棟のどの位置に誰が住むのかを決定する「陣取り」,個別世帯が自身で居室部分のプランを自由に設計する「間取りづくり」,上下階の構造壁・台所の位置を揃える「縦列調整」,コモンルーム・立体街路・屋上庭園・外壁色彩・植樹・コミュニティ運営などに関する「共用空間づくり」という手順で設計がなされる.WSはハウジング・プログラムでありながらソーシャルワークプログラム,コミュニティ・プログラムの側面も備えている.自身の生活を見つめ,自分たちが望む住宅を自分たちの手でつくりあげていくという感覚は「住まい」に対する愛着を高め,団地の維持・管理に対する意識の向上につながることで住環境の再生に大きく寄与する.参加し話し合うことはコミュニティ再生の基礎となる.WSは住民に主体性・自律性を持たせるよう働いている.
5.再改良住宅
ワークショップ・ハウジングによって具現化した新団地は住民によって「グリーンハイツ」と命名され,近代住宅計画では想定されなかった住環境が実現している.多様な世帯・住まい方が受容されるプラン,生活が外部に緩やかに接続するプランが実現している.1世帯による複数住戸にわたる生活や単身高齢者による生活時間・場所の一部共同化は,世帯や住戸といった枠組の曖昧化につながる.住民による自然発生的な植栽は,住戸間や共用空間の有機的連続を促進している.
6.住空間の再生
島団地は近代住宅計画論に基づいた「改良住宅」であった.しかし想定された住まい方は主流ではなくなり,住環境全般にわたる「問題」が蓄積・表出するようになった.この状態を解決すべく,「再改良」することとなる.再改良では「参加性」「多様性」に重きをおいたワークショップ・ハウジングが行われた.その成果として,画一的住戸群の一方的供給ではなく,多様な住戸群の集合体としての住空間への参加が実現した.一方で居住者の分割や変化が起こっている.再改良では「問題」とされる状況を一つの解を用いて「改良」するのではなく,「問題」とされる状況の綿密な分析と多様な空間の創出,境界線の曖昧化によってその状況を「是認」し「受容」しようとする試みがなされた.ワークショップ・ハウジングを通じて再改良された住空間は,その多様性の中に様々な可能性を内包し,これまで受容されなかった住まい方,新たな住まい方を実現しながら緩やかな「住まい」として機能している.改良住宅の再改良事業は「改良」ではなく「参加」や「受容」といった要素を採用することによって住環境を「再生」させることを目指している.
島団地再生事業は「改良」の「再改良」である.規範的・啓蒙的目標を設定しそこに世帯・生活を追い込む住宅計画から不確定性を内包し参加・受容するプランニングへと方法論自体を「改良」する試みであるといえる.
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