1.はじめに
戦後の日本における住宅のほとんどは,いわゆる「標準世帯」を前提としてプランニングされてきた.「標準世帯」においては,「給与所得者の父・専業主婦の母・子,共に健康」という家族構成のもと,全ての生活行為は世帯内の閉じた空間で行われる,完結型の生活が営まれることが想定される.
しかし近年,走した「標準世帯」に対し,単身・高齢・母子世帯といった「非標準世帯」が増えてきている.その割合は,「標準世帯」はもはや「標準」ではないといえるところまで来ている.「非標準世帯」において生活行為が世帯内で完結することは困難であり,外部へと広がりを見せる非完結型の生活が営まれることになる.こうした非完結型の生活を営む非標準世帯に対し,生活の基盤とも言える住宅は完結型の生活を想定してプランニングされた標準プランである.そして標準/完結型プランの典型と言える公営住宅には,その家賃の安さなどから経済的に困窮しがちな非標準世帯が多く暮らしている.ここに,プランナーの描く世帯像と実際の世帯との食い違いが生じている.
本研究では,以上のような問題意識のもと,非標準世帯のための非完結型プラン供給の試みを行うある公営住宅の建替事業を研究対象として選定し,追跡調査及び分析を行った.
2.調査
調査は和歌山県御坊市の市営島団地改良住宅で行われている島団地再生計画の一環である,島団地改良住宅建替事業の第2期Bグループ入居予定30世帯中,既に入居が決定している28世帯を対象に行った.
2−1.住まい方調査
各世帯ごとに,世帯構成員の生活行為・健康状態,世帯外との交流・現住居/新住居での暮らし方,その他についてヒアリングシートを作成,戸別訪問しヒアリングを行った.
2−2.ワークショップ(WS)追跡調査
プランナーによる一方的な既成プランの供給では非標準世帯の非完結型生活には対応できない.このため住民がプランニングに参加することによって,自らの生活型に合ったプランを模索するためにWSという場が設定された.このWSについて,毎回前後の打ち合わせを含めた記録を取り,その経過を分析し,WSによって生じたプランの特性を明らかにする.
3.結果
3−1.世帯構成
単身世帯12世帯・夫婦世帯(子がいる世帯も含む)12世帯・母子世帯4世帯 計28世帯60人中,
- ・健康面での問題を抱える世帯員を含む世帯 21世帯
- ・非稼動世帯 14世帯
- ・社会保障・社会福祉受給世帯 21世帯
3−2.生活行為の世帯外への広がり
団地内親族・団地内友人・市内親族と交流を持っている世帯が多い.基本的な生活行為については,世帯員が自宅外で入浴・食事・就寝などを行うケース,世帯外人員が自宅に入浴・食事・就寝などをしに来るケースが認められた.また,ホームヘルパーが来訪し,家事の介助を行うケースも存在した.
3−3.新住宅の非完結型プラン
新団地のプランにみられる特徴を以下に示す.
- ●単身高齢者のためのコミュニティスペース
- ・4世帯のコレクティブ空間としての機能
- ・住民間の交流/安否確認の機能
- ・ホームヘルパーによるサービスステーションとしての機能
- ⇒住宅と家事援助サービスの結合
- ●住宅のペア配置
- ・親族間で,隣同士・向かい同士の住戸配置
- ⇒交流/互いの生活のサポートの円滑化
- ●単身世帯にみられる余室/続き間
- ・親族のための世室を確保する傾向が強い
- ⇒単身者は「ひとり」ではない
- ・仏間からの続き間を取る傾向が強い
- ⇒盆・正月といった伝統行事の際の親族の集合場所の確保
4.結論
以上より次の4点が明らかになった.
- 非標準世帯において,生活は非完結化し,生活行為は住戸外への空間的広がり/世帯外への人間関係的広がりを見せる.
- WSを通じて「標準/完結型プラン」とは原理的に異なる住空間が計画されている.
- 「標準世帯」の想定が無意味化している現在,「完結型」の住宅はその存在の根拠を失い,それに代わって「非完結型」の住戸,住戸と住戸の関係性,共用空間と住戸群の関係性などに配慮した住宅の計画方法が求められている.
- そうした新しい住空間を構想するために,住まい方調査とWSの組み合わせを基礎とした計画が有効である.
今日,及び今後の日本において,非標準世帯が増えていくことは必至である.同時にそうした非標準化・非完結化した世帯の生活に対応した住宅プランの供給に対するニーズは高まっていくものと思われる.そうした中で,今回の建替え事業及びそれに関する研究が,今後の住宅像を考える際の一つの指標となれば,と考える.