定年後夫婦の時空間
森田 麻記子
本研究は、定年を迎えた夫婦の暮らしを時間・空間の両面から観察することで、その実態を明らかにするものである。
ゾーニングや近隣住区論といった概念に基づく近代都市計画は、特定の家族とその暮らしのパターンを前提として構想されてきた。郊外のニュータウンをはじめとする住宅地開発の多くにおいて中心的な構成単位として想定されていたのは、夫婦と子から成る標準世帯である。その家族と暮らしの典型的なパターンは、男性が自宅から職場へと通勤し、女性が自宅で家事労働に従事するというものであった。
しかし家族や暮らしのパターンは一定ではない。人々の暮らしの変化に伴い、ふさわしい空間のあり方も変わっていく。例えば夫が定年退職すると、自宅から勤務地へと通勤していた生活が終焉を迎える。活動の場は自然と自宅やその周辺地域へと移るだろう。それに伴い、妻の暮らしも大きく変化することが予想される。定年後の夫婦の暮らしはこれまで想定されてきた空間設計に必ずしもあてはまるとは限らない。特定のモデル像を前提とした都市計画の問題点の一つとして、モデル像と、生活者の実態との「矛盾」が生じるということが挙げられる。
今後増加するであろう家族類型の一つが退職した夫とその妻から成る「定年後夫婦」である。長らく日本の経済発展を支えてきた「団塊の世代」が定年を迎える時期が到来している。最新の国勢調査によると、その総人口は約680万人に及び、彼らが社会に与えるインパクトは非常に大きい。また平均寿命が延びていることから、定年後の生活が長くなることが予想できる。国立社会保障・人口問題研究所は、2050年には65歳以上の高齢者が全人口の約40%を占めると報告している。このように高齢者が主な人口となる時代を前に、大量の人々が退職し、なおかつ退職後の人生が長くなっていることを踏まえた上でどのような都市空間をつくるべきなのかを早急に考える必要があるのではないか。
本研究では定年後における「夫婦」の暮らしの実態を、時間的・空間的側面の双方から観察する。夫と妻は各々、いつ、どこで、誰と、何をして過ごしているのかを明らかにし、彼らの暮らし方を想定したまちづくりや住まいのあり方を検討する。
<調査方法>
- 各種統計の分析により夫の定年前後における夫婦の生活時間、生活行動の全体像を把握する。
- 定年前後における夫婦の暮らしの実態を把握するため、団塊の世代に属する男性とその妻を対象にインタビュー調査を行う。
- まちづくりを計画する公的機関(市役所)にインタビューを行い、都市計画の現状と今後の展望をどう考えているのかを明らかにする