1.研究の目的と方法
戦後住宅供給における住宅と世帯の関係を表す概念は「一世帯一住宅」であった.実際に「世帯」と「住宅」は互いを定義しあう一対一の関係とされている.住宅・土地統計調査規則では,「世帯」とは,「住居及び生計を共にするものの集まり又は独立して住宅に居住する単身者である」と定義されている.「住宅」とは,「一つの世帯が独立して家庭生活を営むことができるよう建築され,又は改造された建物又は建物の一部(建築中又は改造中のものを含む)をいう」と定義されている.しかし,現在,住宅ストックの余剰が増加し,複数の住宅を所有・賃借する世帯がみられるようになった.その中には複数の住宅にまたがって住む世帯もみられる.「世帯」と「住宅」は互いに定義しあえる一対一の関係ではなくなり,その関係性は複雑化・多様化している.
本研究では,多様化した世帯と住宅の関係性の中でも,複数の住宅を所有・賃借している場合に着目し,それを複数住宅利用と定義した.複数の住宅にまたがって住んでいる場合に特に注目しながら,複数住宅を利用した住まい方の実態と,発生・変化のメカニズムを明らかにすることを目的とする.
神戸市内の集合住宅型団地であるT団地において,団地に在住の世帯を対象に,アンケート調査と訪問インタビュー調査を行った.近距離内に多くの住戸が集まっているという点で複数住宅利用が起こりやすいと考え,集合住宅型団地を研究対象に選んだ.特にT団地は,日本に多く見られる,老朽化・低廉化に伴う建て替えの議論を有する集合住宅型団地の典型であり,本調査・研究の結果は他の多くの集合住宅型団地にも応用できると考えた.アンケート調査は,T団地に在住の全世帯を対象に,直接訪問して調査票を配布,留守世帯にはポストに調査票を投函し,後日回収する方法をとった.配布票数859,回収票数682,うち有効票数680となっている(有効票回収率79%).調査内容は,世帯構成,入居年,世帯主年齢,住宅の所有形態,複数住戸利用の有無,等である.インタビュー調査では,T 団地で複数の住戸を利用している世帯のうち18世帯を対象に,現在の住まい方,過去の利用変化,評価と将来志向,を聞き,間取り図面をとった.
2.複数住戸利用世帯の特性
アンケート調査より,複数住戸利用世帯の基本属性を,T団地の全世帯と比較しながらみていく.
まず,全世帯の9%にあたる58世帯が団地内で二住戸を利用する複数住戸利用世帯であった.複数住戸利用世帯は,全世帯と比較して,夫婦と子の世帯が多く,入居年数が長く,世帯主年齢が高い傾向が見られた.他に以下のようなこともわかった.まず,複数住戸利用世帯の殆どは,片方の住戸を持ち家として所有していた.次に,単身,夫婦のみなど,人数が少ない世帯も複数の住戸を利用していた.
以上から,複数住戸利用が確かに存在するとわかった.これらの世帯は,入居年が長く片方が持ち家の定住志向世帯である場合が多く,世帯人数が多いとは限らない.
3.複数住戸利用という住まい方
複数の住戸を利用した住まい方をさらに詳しく把握するため,インタビュー調査の中から現在の住まい方に関する事項を分析した.以下にあげる I 〜 V の項目に関して類型化を行い,さらに項目間の相関から,住まい方全体の類型化も行った.
【 I 距離類型(両住戸の位置関係)】
両住戸間の位置関係は,

「隣」

「向かい」

「上下」

「階段室が異なる」

「棟が異なる」の5つの距離類型にわけられた.

はベランダや,室内に開けた通り口の利用により住戸から出ずに移動ができる.

は玄関から住戸外に出なければならないが移動距離は短い.

は,共有階段を移動しなければならない.

は,いったん一階まで降りてふたたび共有階段を上らねばならない.

は,最も移動距離が長くなる.
二戸目には偶然空いた住戸を利用するため,必ずしも必ずしも両住戸間の距離が近いとは限らない.
【 II 居住者類型】

「夫婦」

「夫婦+子」

「夫婦+親(+子)」

「二世帯」の4つの居住者類型にわけられた.本研究では,食事の一部または調理をともに行っている居住者を合わせて一世帯としている.例えば居住者が「夫婦+親」であっても,親の健康状態が悪いなどの理由で夫婦と親が食事の一部または調理をともにしているケースは

とし,夫婦と親が食事や調理を別住戸で行っている場合は,夫婦世帯と親世帯で二世帯と考え

とした.
【 III 食寝類型】
居住者がどちらの住戸で食事と就寝を行っているかに注目し分類を行った.次のような4つの食寝類型にわけられた.

「食寝集中型」:
食事―居住者全員が片方の住戸で行う
就寝―居住者全員が片方の住戸で行う
(食事と就寝を同一住戸で行う)

「食寝区分型」:
食事―居住者全員が片方の住戸で行う
就寝―居住者全員が片方の住戸で行う
(食事と就寝を異なる住戸で行う)

「食事集中就寝分散型」:
食事―居住者全員が片方の住戸で行う
就寝―居住者がそれぞれ両住戸にわかれて行う

「食寝分散型」:
食事―居住者がそれぞれ両住戸にわかれて行う
就寝―居住者がそれぞれ両住戸にわかれて行う
ここで各類型の特徴について述べる.食寝集中型はほとんどすべての生活を一住戸で行っている.食寝区分型は,食事をする住戸を,食事以外にも団欒や接客等「公」的スペースとして利用し,就寝をする住戸を,就寝以外にも入浴など「私」的スペースとして位置づけている.食事集中就寝分散型は,個室に充てるために二戸目を取得しており,二戸目には個室しかない場合が多い.食寝分散型には,2タイプある.1つ目は,基本的には食事を両住戸でとっているが,朝食のみ一住戸でとったり,調理は一住戸で行っていたりと,食事の分散に偏りを持つタイプである.もう1つは,完全にすべての生活を両住戸でわかれて行っているタイプである.
【 IV 家事類型】
ここでは,家事を行う場所に注目した.具体的には,調理,洗濯,洗濯干し,掃除,高齢者のケア,を家事とした.このうち掃除は,すべての世帯で頻度に多少の差はあるものの両住戸で行われていた.高齢者のケアを行っている世帯は3世帯のみで,全て,世帯類型が「夫婦+親(+子)」であった.よって,調理,洗濯,洗濯干しを行う場所に注目した結果,

「それぞれ一住戸で行う」

「洗濯干しのみ両住戸で行う」

「洗濯と洗濯干しを両住戸で行う」

「すべてを両住戸で行う」の4つの家事類型にわけられた.
何らかの家事を両住戸で行っている世帯は18世帯中7世帯であった.「それぞれ一住戸で行っている」世帯は半数以上であったが,これらの世帯は,調理,洗濯,洗濯干しをすべて同一住戸内で行っているとは限らない.例えば,距離類型が「玄関を経ずに移動型」であれば,同一住戸内で行わなくても住戸間の移動は苦にならない.しかし両住戸間の距離が遠くても,片方の住戸の浴室を洗濯機置き場に使う世帯は多く,そのために,洗濯が他の家事と異なる住戸で家事の際の移動負担が大きい.
【 V 理由類型】
二戸目の取得理由は,

「空室が出た」

「子供が成長し手狭になった」

「親を近居させるため」

「その他」の4つの理由類型にわけられた.

は,空室が出たため,差し迫った理由はないが将来役立つと考え取得したものである.

〜

の理由も,空室が出るという条件と重なることで,二戸目の取得に至る.二戸目の取得は,近くに空室が出るという条件の上に居住者の希望が重なって起こる.
【住まい方パタン】
以上5項目の類型の相関から,複数住戸利用という住まい方は次のような4つの「住まい方パタン」にわけられた.
<住まい方パタン(居住者類型:食寝類型:家事類型:理由類型)>

夫婦:食寝集中:各家事一住戸:子供の成長

夫婦+子:食事集中就寝分散:各家事一住戸:子供の成長

夫婦+親(+子):食寝分散(食分散に偏り):各家事両住戸:親との近居

二世帯:食寝分散:各家事両住戸:子供の成長
距離類型については,一戸目との距離に関わらず偶然空いた住戸を二戸目として取得するため,このパタンと相関を持たなかった.
4.住まい方の変容過程
インタビューから,現在までの団地での住まい方の変化を分析し,複数住戸利用の発生,変化のメカニズムを明らかにした.3.で見てきた住まい方の項目の中から I 〜 III の3類型について,その変化に着目した類型化を行った.さらに,各項目の相関から変容過程全体の類型化も行った.
【 I 距離類型(両住戸間の位置関係)の変化】
変化に着目した類型化には,次のような図を用いた(図1).一本の帯がそれぞれ住戸1住戸2を示し,その左端に居住者を記している.世帯主年齢を横軸にとり,世帯と住戸に関わる変化事項を記している.色の濃淡がうすくなる程距離類型が遠くなっている.例えば,図2の世帯は,親が近居のために団地内の遠い住戸から近い住戸に住み替えている.住み替えの際には親自身が費用を負担し,住み替え後の住戸の名義も親になっている.近くから遠くに変化している世帯もあった.近隣世帯の引越しなどをきっかけに住み替えを行っており,複数住戸を利用するにあたり,距離類型が最重要視されるとは限らないことがわかる.
【図1】

【 II 居住者類型の変化】
I と同様の図を用い,居住者類型の変化を分析した.複数住戸の利用を始めた時点では,すべての世帯が「夫婦+子」世帯であった.その後の変化は,

「変化無し」

「子独立」

「親と同世帯化」

「子と二世帯化」

「他世帯に賃貸」の5つに分類された.詳しく述べると,

は子が独立し,夫婦のみの世帯になったものである.

は,世帯主家族と親が各住戸に別れて住んでいたが,親の健康状態悪化により食事や調理をともに行うようになり同世帯化したものである.

は,子が結婚し片方の住戸を利用するようになり,二世帯になったケースである.複数住戸利用世帯における居住者構成は,一世帯から二世帯へ,あるいは二世帯から一世帯へと変化する場合がある.
【 III 食寝類型の変化】
食寝類型の変化は,

「変化無し」

「就寝集中化」

「食事集中化」

「就寝分散化」

「食事分散化」の5つの類型にわけられた.複数住戸利用世帯はその住まい方において,多くの変化を経験している.変化の仕方も世帯により多様である.
【変容過程パタンと複数住戸利用パタン】
以上3つの類型のうち,居住者類型変化と食親類型変化の相互関係から複数住戸利用の住まい方の変化を,下のような5つの「変容過程パタン」にわけることができた.距離類型については,距離類型が近くに変化している世帯はその後,すべて親と同世帯化していた.住み替えを行った段階では近居を目的としており,その後親の健康状態悪化によって同世帯化している.
<変容過程パタン(居住者類型の変化:食寝類型の変化)>

変化なし:変化なし

子独立:就寝集中化

親と同世帯化:食事集中化

子と二世帯化:食事分散化

他世帯に賃貸:変化なし
これらのパタンを具体的に見て行く.居住者類型に変化がないと,食寝類型も変化しない.子が独立転居し,夫婦のみになると,個室が減るため,分散していた就寝が集中する.親の健康状態が悪化すると,親と同世帯となり,調理や食事を親と共に行うようになり食事が集中化する.子が結婚し片方の住戸に住むと,二世帯にわかれ,食事が世帯ごとに分散する.二戸目を取得後一戸目を多世帯に賃貸に出した場合は,食寝類型を含め住まい方の変化はない.
さらにこれを3の「住まい方パタン」と総合して,より総括的な「複数住戸利用パタン」をつくることができた.現在の住まい方パタンが同じ世帯は,過去に同じような変容過程を経てきたことがわかった.
<複数住戸利用パタン(理由類型:居住者類型の変化:食寝類型の変化)>

子供の成長:変化なし(夫婦と子):変化なし(食事集中就寝分散型)

子供の成長:子独立(夫婦と子→夫婦):就寝集中化(食事集中就寝分散型→食寝集中型)

親との近居:親と同世帯化(夫婦と子→親と同世帯):食事集中化(食寝分散型→食事の分散緩く)

子供の成長:子と二世帯化:(夫婦と子→二世帯):食事分散化(食事集中就寝分散型→食寝分散型)

子供の成長:他世帯に賃貸(夫婦と子→二世帯):食事分散化(食事集中就寝分散型→食寝分散型)
5.複数住戸利用に関する評価と意識
インタビューから,居住者の複数住戸利用に関する評価と意識を明らかにする.
ほとんどの世帯が,複数住戸を利用した住まい方を「不便な点はあるものの満足」と評価した.満足している理由は,別住戸なので家族内で気兼ねがいらないこと,将来融通が利くこと,両住戸が近いこと,広いこと,などがあった.不便な点は,当番・共益費・光熱費基本料金が二倍になること,入浴後の移動に気を使うこと,鍵の管理が面倒であること,等があった.
また,より広いファミリー向けマンションや一戸建てとの比較評価でも「複数住戸利用の方が良い」と評価する傾向が強かった.その理由として,経済的であること,集合住宅の安心感,環境や交通の便利さなど団地特有の利点,があげられた.
将来志向については,「そのときの状況に合わせて手放すなり賃貸に出すなり対応する」という意識が全体として見られた.しかし,エレベータがないため高齢になれば団地外へ移ると言う意見も数件みられた.
以上から,居住者による複数住戸利用の評価は高いといえる.複数住宅利用が増えるには,集合団地であること,立地条件がいいこと,安いこと,固有の魅力があること,などが条件となる.さらに複数住戸利用を定着させるには,エレベータを設置するなど高齢化への配慮が必要といえる.また,将来志向の分析結果は,様々な変化に対応できるという複数住戸利用の利点を示しているといえる.
6.結論
日本の典型的な集合住宅団地のひとつT団地で一割近くもの世帯が複数住戸を利用していた.そして,その発生,変化には一定のパタンがみられた.発生のメカニズムは,老朽化・低廉化した集合住宅で空室が出,広いスペースを求める居住者が安い値段で購入する,というものであった.住まい方の実態やその変容過程も,一定のパタンにわけることができた.本研究ではサンプル数は少ないものの,各パタンは論理的に説明がつくものであった.複数住戸利用は,特殊なケースではなく,それぞれのパタンごとに合理的な理由をもった住まい方といえる.
次に,今回の調査による発見は,今まで理念とされてきた世帯と住宅の一対一の関係が崩れている,ということを示唆している.これは住宅計画の理論上の論点になり得る.
さらに,複数住戸を利用した住まい方は,集合住宅ストックの活用という実践上の問題に関わっている.複数住戸利用は,空室が出るという条件と広い空間が欲しいという住み手の要望の,二つの要因から起こる.よって,空室が出ることが多く,その空室を所有・賃借する際の負担の少ない,老朽化・低廉化したT団地のような集合住宅団地でこそ起こりやすい.また,複数住戸を利用した住まい方は多様性があり,様々な状況にフレキシブルに対応できる.よって,複数住戸利用は,建て替えを行わずに団地のストックを循環的に利用し,団地の環境と各世帯の快適な住空間を維持する可能性を持つといえる.