ポスト・オープンスペース −都市再編における空間の変質−

森 聖太


1.オープンスペースの変質
都市のオープンスペースはあらゆる人にとってアクセス可能で,文字通り「開かれた」物理的な実在の空間であった.そこでは活動の自由が約束されていた.非営利な空間でもあった.
しかし近年になって,アクセスする人やその行動の特定化,私的部門による営利活動の侵入,実在ではなくイメージや雰囲気に対する重要性の高まり等,オープンスペースの性質に変化が生じている.例えば神戸ハーバーランドのオープンスペースでは,隣接する商業施設に消費者を引きつけるため,実在の神戸とは無関係のノスタルジックなデザインが施されている.それが創り出す独特の雰囲気は,ターゲットとなる若年層,消費力の高い人には肯定的に働くが,それ以外の人には排他性を示すことがある.
この変質の背景にあるのは現在進行中の都市構造再編である.工業は衰退し,サービス経済が成長してきた.産業体制は大規模な資本投下のもとでの大量生産,大量消費を特徴とする「フォーディズム」から,小規模かつフレキシブルな投下資本を短期で回収する「ポスト・フォーディズム」に変わった.消費社会が猛烈な勢いで浸透してきた.経済成長は約束されなくなり,資本と交流人口を都市どうしが奪い合う「都市間競争」が激化している.近代では工場,港湾施設,住宅などが有機的に結びついてひとつの都市を形成していた.しかし,こうした構造再編は都市空間を多数のセグメント(部分)に分割する.セグメント間に相互関係はない.都市は全体としてのつながりを縮小させ,関係のないセグメントの無機的な集まりとしての性格を強めている.
上記のオープンスペースの変質は,この「セグメント化」の中で起こっている.各セグメントがそれぞれの方法でオープンスペースをプランニングする.他のセグメントに対する開放性は少ない.
本研究では以上のようなオープンスペースの変質に関して,神戸市中央区を対象とするケーススタディーをとおした実証的な考察を行う.


2.都市公園,メリケンパーク,市民広場の使用状況分析
<方法>
神戸市中央区の都市公園(東遊園地は除く),メリケンパーク,市民広場の使用許可申請書(平成3年度から平成9年11月まで)より,各公園の使用者と使用内容について分析する.
<結果と考察>
各公園を立地地域別にまとめて集計した結果,公園の使用状況に地域間格差が認められた.使用者,使用内容ともに山の手,ウォーターフロントは中心市街部と大きく異なっている.これは都市公園法上の公園の分類に関係なく存在している.都市空間のセグメント化のあらわれであるといえる.
山の手とウォーターフロントの公園では民間営利団体による使用が多く,オープンスペースのプライバタイズ(私営化)が進行している地域であることがわかる.
同公園の使用内容は過半数が撮影目的であり,メディアとのつながりが強いことを示している.資本と交流人口獲得のため,メディアに都市を広告してもらうという図式をうかがうことができる.


3.雑誌「ぴあ関西版」特集に掲載される空間の分析
<方法>
雑誌「ぴあ関西版」の1988年新年号から1997年年末号までの10年間に掲載された全ての特集ページで,神戸市中央区の空間を扱った記事を対象とする.その記事の紙面面積を目視により算出し,各指標に従いそれぞれの経年変化をみる.
<結果と考察>
特集で多く扱われる空間は,「界隈」,「遊覧船・観光バス・ロープウェー」から「レストラン」等の飲食店に変わった.何らかの料金掲載がある記事,屋内空間を扱う記事が増加した.
「ぴあ」は従来,情報を等価に羅列した雑誌であり,その中から読者自身が必要なものを選んでいた.情報や読者を選ばないオープンなメディアであった.しかし,上記の結果から指摘できるのは「ぴあ」という「メディア空間」におけるターゲットの特定化と消費空間化である.都市を広く全体的に扱う内容が多かったのが,飲食店をはじめとする「屋内」「消費空間」という特定の空間についての情報を重点的に掲載するようになった.都市空間のセグメント化と消費社会化が「メディア空間」にも浸透し,そのオープンスペースとしての性質に変化を与えていることが認められる.


4.「神戸ルミナリエ」にともなうオープンスペースの変容調査
<方法>
ルミナリエ実行委員会へのヒアリング調査,同委員会発行の資料,1997年度開催時の会場内目視調査より収集したデータ,情報から,「神戸ルミナリエ」の会場となるオープンスペースの変化,3回の開催におけるイベントそのものの変化を分析した.
<結果と考察>
3回の開催の間に増加,拡大,新たに登場したものを見ると,「神戸ルミナリエ」が年々「集客イベント化」,「経済目的化」していること,それに合わせ会場のオープンスペースに「私営化」および「規制化」が進行していることが指摘できる.会場に施されるデザインは「ルネサンス時代」の「ヨーロッパ」というイメージを空間に与えている.交流人口を集める際に,オープンスペースに実在の神戸とは無関係のイメージが用いられている.小さな投下資本でイベントを開催し,2週間程の会期でそれを回収する.交流人口を獲得することで経済効果をねらう.「神戸ルミナリエ」は,神戸という都市が構造再編の直中にあることを如実に示している.構造再編を背景にオープンスペースが「私営化」,「規制化」,「イメージ化」される現象を見てとることができる.


5.結論
以上より,以下の3点が実証された.
  1. オープンスペースの「セグメント化」
  2. オープンスペースの「私営化」
  3. オープンスペースの「イメージ・虚構化」
これらは神戸市中央区や「ぴあ」に限られた現象ではなく,よりグローバルな規模でオープンスペースに起こっている変化を示唆しているものと思われる.オープンスペースが変質し,新たに出現してきたポスト・オープンスペースを都市空間の中でどのようなものとして捉えるかが,現在における重要な論点となっている.




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