ファンタジー・ハウスの研究

松本 舞子


1.研究の目的と方法
近年,キャッチ・コピーに異国を想起させる言葉を用いたり,住宅のデザインに外国の要素を取り入れるなど,住宅開発に異国のイメージが使用されるようになった.かつて住宅は雨風をしのぐ,寝食をするなどといった単純に住むための機能にその価値の重心があった.しかし,このような住宅の出現が示すのは,住宅において住むための機能以外の価値が大きくなっている,ということである.
本研究では,このような異国のイメージを利用した住宅開発に着目し,それらを「ファンタジー・ハウスの集団開発」と呼ぶことにする.そして,それらの開発の実態を明らかにし,その意味を考察する.研究の方法は,住宅情報誌の分析と現地踏査による実際に住空間の観察である.


2.ファンタジー・ハウスの集団開発の概要
『住宅情報Style首都圏版(2002年1月23日〜2004年6月16日号)』の中の,「一戸建てレポート」に掲載されている集団開発の中で,販売文句に外国の知名など異国を表す言葉を含むものを検索した結果,全117件の開発をピックアップした.
ファンタジー・ハウスの集団開発は,大小規模は様々あるが,都心に近い方がより小規模,都心から遠ざかるにつれ大規模になる傾向がある.また,都心までの所要時間と住宅価格とに相関がみられ,総戸数が大きいほど,都心までの所要時間が長くなり,住宅価格は低くなる.


3.ファンタジー・ハウスに表現される異国
1宣伝文句に使用される異国
まず,宣伝文句に使用されている異国の分析を行った.調査方法としては,2で取り上げた117件の住宅開発の,大見出し,写真のキャプション,物件の紹介文から異国の国名や地域名を示す言葉136件を抽出し,分析対象とした.なおここでは,“輸入住宅”,“洋館”,“洋”といった言葉も異国を表すとみなし,分析の対象とした.
住宅開発の宣伝文句に用いられる外国の国名や地域名のほとんどは欧米諸国に含まれるものだった.また,それらの国・地域名は,直接的な表現より“○○風”などといった間接的な表現が多く使用されていた.さらに,宣伝文句の中で具体的にその国や地域が修飾している言葉は,多くが住宅の“街並み”や“外観”に関するもので,住宅の内部に関するものは少なかった.住宅には見せるための価値,すなわち展示的価値があると推察する.

2異国の混在
ファンタジー・ハウスの集団開発には,1つの開発の中に住宅のコンセプトを複数混在させているものがある.1つの住宅開発に1つの住宅のコンセプトを用いているものを“一色型”,複数の住宅のコンセプトを用いているものを“多色型”として分類したところ,“一色型”は117件中81件,“多色型”は18件であった.“多色型”には,異なる異国のコンセプトによる住宅を取り入れている開発があり,住宅のデザインを,引用する異国でゾーニングするタイプがある.このとき異国のデザインは,それぞれの住宅を差異化するための差異記号として機能している.外観を差異化することによって住宅の展示的価値は一層強くなる.


4.ファンタジー・ハウスの内部
ここでは,ファンタジー・ハウスの間取り図を分析した.分析対象は本研究でピックアップした117件の住宅開発について,『住宅情報Style首都圏版』に掲載されている住宅の間取り図213件である.
4LDKの間取りが圧倒的に多かったのは,両親と複数の子という核家族を想定しているためであると思われる.また和室を有する間取りが約8割と多かった.実際の生活ではイメージより利便性や習慣が優先されていると考えられる.
間取り図から読み取れる範囲では,ファンタジー・ハウスの内部は,あまり積極的に異国性を取り入れてはいないことがわかった.異国性の重心は住宅の内部よりも外部にあると言える.


5.ファンタジー・ハウスの物語
ここでは,ファンタジー・ハウスの集団開発を具体的に3件取り上げ,これらの住宅開発について,販売資料やホームページで公開されている情報などを用い,また現地踏査を行い,住空間を分析した.
これらの住空間は,「外部」との境界を明確にした上での「内部」の編集,異国の住宅のデザインの引用,物語性という点で,テーマパークの空間に似ているということがわかった.


6.結論
  1. ファンタジー・ハウスの集団開発の宣伝文句に使用される異国は,ほとんどが欧米の国や地域のものである.
  2. ファンタジー・ハウスに用いられる異国性は,住宅の内部よりも外観に多く表される.このとき異国性は差異記号として機能する.住宅には展示的価値がある.
  3. 住空間に物語を取り入れる住宅開発がある.非日常的なテーマパークに似た空間が,日常的な住空間にも出現してきた.


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