死別単身高齢者の時空間
久米 慶子
本研究は、配偶者と死別した高齢者の暮らしにおいて、まず、死別前後でその暮らしに変化がみられるのかを調査する。次に、配偶者との死別を経験した高齢者は、誰と過ごし、どこへでかけ、どのような暮らしをしているのかを調査することで、死別単身高齢者の生活実態を明らかにする。これらを通して、今後の日本における、高齢者が住むことを想定したまちのあるべき姿を検討する。
2009年時点における日本の高齢化率は22.8%である。高齢化率とは、65歳以上の高齢者が全人口に占める割合である。今後もこの高齢化率は上昇し続けると予測されており、国立社会保障・人口問題研究所の平成18年12月推計によると、2055年には40%に達する。また、厚生労働省の平成20年簡易生命表によると、現在65歳の日本人の平均余命は男性で18.60年、女性で23.64年と算出されており、高齢期に入ってからの生活は長い。
長い高齢期の生活の中にはさまざまな別れがある。加齢と共に体力が衰えると、今まで自分の思い通りに動いていた体ではなくなる。また、今まで親しくしていた友人との別れも考えられる。さらに、人生の大半を共に過ごしてきた配偶者との別れもある。
配偶者との死別は、残された高齢者の暮らしを大きく変化させる。例えば、独り身となることで、死別以前よりも家事の時間が短くなると予想される。短縮された時間を活かし、趣味や近所づきあいに積極的になる高齢者、もしくは、これまで配偶者と共に出かけていたが、配偶者との死別によって出かける相手がいなくなり、外出に消極的になる高齢者がいると考えられる。家事や近所づきあい、外出などに対する姿勢や時間の使い方は変化すると予想される。また、男性は、家事を妻に任せてきたケースが多く、妻との死別後、それらの作業を円滑に進められないことが予想される。住まいに関して言うと、死別によって空き部屋が増えるなど、単身高齢者が住宅全体を有効に活用できるとはいえない状況が生じると考えられる。
死別に伴って生じるこのような問題は、日本におけるこれまでの住宅や都市計画のあり方が要因の一つだと考えられる。日本の住宅や都市は、夫婦と子という標準世帯を基本単位として設計されてきた。しかし、家族のパタンは変化する。子が成長して家を離れ、長年夫婦で暮らしてきた高齢者が独り身となると、残された高齢者の住生活は大きく変化する。かつて住宅や都市において想定された標準世帯の生活と単身高齢者の実際の生活は異なるのではないだろうか。
高齢化率が21%を超える超高齢社会にある日本で、独り身の高齢者は、今後ますます増加するであろう。しかし、死別した高齢者を医学的・心理学的観点から研究した例は多い。死別前後の生活の変化を住宅や都市との関わり方から研究した例はない。独り身となった高齢者の生活がどのように変化していくのかを明らかにすることは、これからの住宅や都市空間をつくる上で重要になる。
本研究では、まず、配偶者と死別した高齢者の暮らしの実態を時間的・空間的側面の双方から観察する。次に、特性の異なる地域において、配偶者と死別した高齢者がどのような生活を営んでいるのかを観察する。配偶者と死別した単身高齢者が、どこで・誰と・何をして過ごしているのか、また死別前後の住環境の変化や、死別後の暮らし、彼らが都市に望むものを明らかにし、これから独り身となる高齢者を想定した住宅や都市のあり方を検討する。調査方法としては、インタビュー調査を行う。