流動社会の持家所有

小松原 高志


1.研究の目的
バブル崩壊をきっかけに社会構造が転換した.社会は不安定化し,常にリスクが介在する流動社会となった.それが持家所有に影響を及ぼす.本研究ではその影響が「いつ」「どこに」「だれに」「どのように」あらわれているのかを実証的に考察する.


2.キャピタルロスの発生
<手法>
住宅金融公庫発行の『公庫融資利用者調査報告』により,持家を購入した世帯の実態と購入住宅について分析を行う.バブル崩壊後,都市圏を中心に資産価値の下落が起こっており,それによるキャピタルロスがどのように表れているのかを明らかにする.
<結果と考察>
バブルの影響は,戸建住宅よりもマンションにあらわれる.マンションの価格下落は1991年に東京圏に起こり,順に大阪圏,名古屋圏に移行していく.都市圏を中心に価格変動が起こっており,地域によって価格,規模,時期にずれが存在する.
次にマンションに発生したキャピタルロスについて述べる.バブル期の購入価格にはピーク時に1戸あたり約2000万円(全国平均)のキャピタルロスが発生している.平米単価では,バブル崩壊時に東京圏,大阪圏,名古屋圏においてそれぞれ43万円,32万円,34万円のキャピタルロスが生じており,評価額は半額以下となっている.持家にこれだけのキャピタルロスが発生したのは住宅史上初めての現象である.


3.担保割れ
<手法>
不動産経済研究所発行の『不動産経済調査月報近畿版』を用いてバブル期の新築マンションの特性を把握する.そして,リクルート住宅情報部による『週刊住宅情報関西版』でバブル期に新築分譲されたマンションを追跡し,それぞれの価格変動を分析する.
<結果と考察>
バブル崩壊により分譲価格は中心市街地において大きく下落している.一方,郊外ではバブル崩壊による価格の下落は中心市街地ほど大きくないが,1993年には8割以上の大量のマンションが供給されており,資産の下落は広範囲に及ぶ.また,バブル期の新築物件のほとんどが,現在,評価額がローン残高を下回る「担保割れ」を起こしている.
今後,都心のマンション価格が引き下げられ,良質の住宅が供給されることで,郊外のマンションの「担保割れ」が進むことが予想される.それにより持家の売却が妨げられ,住替えの足かせとなる.


4.1000万円未満マンション
<手法>
リクルート住宅情報部発行の『週刊住宅情報関西版』'97〜'99を用いて,1000万円未満のマンションについて分析を行う.
<結果と考察>
神戸市では1000万円未満の物件が'97〜'99に増加している.また,3年分について面積・築年の分析をおこなったところ,80年代から90年代前半の40平米未満の物件と、60年代後半から70年代の40平米以上の住宅に類型化されることがわかった.
それぞれ、バブル期の投資用狭小マンション分譲と,高度経済成長期の住宅政策による山麓開発、郊外の家族用住宅開発によるものと考えられる.住宅ストックが低価格化することで以前よりも持家を取得しやすくなってきているが,同時にスラム化していく可能性を含んでいる.このようなマンションの投売りは,都市空間に大きな問題を投げかけている.


5.不動産競売
<手法>
リクルート住宅情報部発行の『週刊住宅情報関西版』'97〜'99により,神戸市内の競売物件について分析を行う.
<結果と考察>
競売不動産は近年増加している.競売マンションは中央区・兵庫区の60平米未満の狭小住宅が1/4を占めている.それらは80年代以降に建設されたものが多く,8割をこえる.また,多くに占有者や短期賃借権が附属している.競売土地付建物は,北区などの郊外に多く,7割以上は居宅のみの物件である.最低売却価格がかなり高額のものも出てきているが,平米単価ではマンションよりも割安となっている.
それぞれバブル期の投資用狭小マンションと郊外の居宅と考えられる.競売不動産は雇用の不安定化による失業や事業の失敗などにより持家を手放すことで発生した.持家所有が不安定化すると同時に所得も不安定になることで,人々は二重の不安を抱えることになる.社会の不安定化が住宅に反映されている.


6.結論
社会構造の転換が起こり,住宅市場は「不安定化」してきた.住宅の資産価値が下落し,キャピタルロスが発生する.それにより,「担保割れ」が広がってきている.なかには住宅価格が1000万円を下回るものもあらわれる.持家が競売物件となる可能性も大きくなってきた.このように,持家所有に「リスク」が生じている.
また,社会全体が変化の過程にあるときの「リスク」は予測不可能性が高い.バブル前後の急激な資産価値の変動は個人の危険回避範囲を超越している. 新たな社会構造において持家市場がこれからどのようになっていくのかは注目に値する.




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