被災市街地の再建と変容
−灘区南東地区のケーススタディを通じて−

木山 幸介


1.研究の目的
震災の発生から4年が経過した.神戸市街地では震災により甚大な被害が発生した.これに対し市街地再建に向けた多数の施策が立案・実施されてきた.
市街地再建の方向性を展望する時,必要とされる基礎的な作業は被災市街地における住宅再建の実態把握である.本研究では市街地の定点観測調査により,1市街地における被害実態,2住宅再建の進捗状況,3再建された住宅ストックの内容の3点を捉えている.また住宅ストックの特性に関連して,新築された一戸建住宅に対しアンケート調査を実施し,新築一戸建住宅の特性の把握を試みている.更に市街地に震災前後で存在した事業所を対象として,1被害実態,2事業所再建の進捗状況,3震災前後での事業所ストックの3点に関する分析をおこなった.以下3つの調査の調査結果を以下に示す.


2.調査結果
2−1.市街地における住宅再建の進捗と住宅ストック変容
調査対象の灘区南東地区はJR線,国道43号線,石屋川,都賀川に囲まれ,都市計画事業が決定された区域を除く77.7haの地域である.上記の3つの調査はすべてこの地区内で実施している.
震災前の灘区南東地区は一戸建を中心とした市街地を形成していた.震災によって全敷地の57.6%に全半壊の被害が生じている.従前に長屋,木造共同,一戸建であった敷地や狭小敷地,接道不良敷地に特に強い被害が発生した.
解体敷地では,一戸建住宅の居室に和室の減少,洋室の増加による“洋風化”が進行している.また住宅の3階建化に伴い,団欒室等の公室が2階部分に配置され,引き戸,縁側,和室の続き間の減少と共に外部への開放性が縮減していることを示唆している.一戸建住宅の外部空間では“駐車場化”,“非緑化”と呼びうる現象が現れている.以上のような傾向は転入世帯の住宅において特に顕著である.こうした一戸建住宅の変容は定住世帯が震災前とは異なる住宅を再建することによってもたらされ,転入世帯が新築した住宅によって傾向が一層促進されていると理解できる.

2−2.市街地における事業所再建の実態
震災前の対象地区内には住宅併用型で2階建・戸建の小売店舗,非木造共同に属するオフィスにといった事業所が主流を占めていた.しかし震災による被害は前者の事業所,長屋,木造共同といった属性の事業所に特に強く発生した.更に,特徴として滅失した事業所数に対する新たに出現した事業所数の比率が低く,震災以後に著しくその数を減少させている.
震災前後での事業所ストックを属性別に比較してみると,震災後において小売店舗,戸建,住宅併用型といった属性の事業所が減少していることがわかる.これには震災前から地区全体で進行していた人口の流失が大きく関係していると推測される.一方でオフィス,非木造共同といった属性を有する事業所が震災後において主流な事業所の類型となりつつある.


3.結論
震災から4年が経過した現在,住宅再建は停滞した状況にあり,再建された住宅ストックにも長屋・木造共同の消滅,非木造共同の激増などの変化がみとめられる.さらに市街地には駐車場が着実に増加しており,固定化された空地と共に今後市街地景観に大きな影響を与えるものと推測される.
新築の一戸建住宅には“スリム化”,“3階建化”,“プレハブ化”,“駐車場化”,“非緑化”といった変容が現れている.事業所においては住宅併用型で戸建の小売店舗が激減し,代わりに非木造共同のオフィスが主流な類型となった.
長屋や木造共同は震災前において,経済原理では説明のつかない低家賃を実現し,単身者,高齢者など多彩な階層に対し,居住場所を提供していた.震災後に大量に現れた非木造のマンションはそれらの階層とは異なる階層に対応している.住宅併用型の小売店舗は,収益性だけでなく近隣住民がコミュニケーションをとるための空間,日常生活の象徴としての経営といった存在理由も含んでいたと考えられる.
震災後の市街地には経済原理が統御する領域が拡大し,多様性,他者への寛容性,不明瞭性といった“都市性”が縮減していることが指摘される.




《メンバー・研究テーマ紹介》へ

-Home-