女性のライフコースと住宅履歴

北山 拓


戦後日本の持家社会は「男性稼ぎ主」型の標準世帯を中心として構成されてきた。戦後日本の住宅システムは住宅所有を促進し、それを通じて「夫婦と子」の標準世帯をメインストリームとする社会を形成してきた。「男性稼ぎ主」が住宅所有と資産形成に従事する一方で、女性は男性主宰の世帯のメンバーとしての地位を占め、自身の資産を持たない、もしくは少量の資産しか保有しなかった。しかし、住宅システムを取り巻く環境は1990年代に大きく転換した。バブル経済の破綻とそれに続く長期不況、労働市場の流動化、人口構成の少子・高齢化と標準世帯の減少など、社会・経済変化が住宅所有の伝統的な基盤を変質させ、賃貸住宅から持家へという住まいの「梯子」の安定性は弱まった。女性の暮らしの軌道は、経済力・就労実態・世帯形態・家族観などの変化によって、いっそう多様化している。それにあわせて、住宅所有や住宅資産の取得と女性の関係は変化し、持家社会における女性の位置づけには変化の兆しが見られる。

そこで本研究では社会・経済条件が著しく変化した1990年代に、最初の持家取得の時期である30歳前後を迎えた女性を対象とし、その住宅履歴の分析を進める。男性に比べて女性は、ライフコースの設計に関する選択の幅、あるいは「迷い」が大きいとみられる。「男性稼ぎ主」型の世帯の安定性が弱まる中で、女性個人が働くのかどうか、結婚するのか、子どもを持つのか、出産後に働くのか・・・・・・などの選択の結果が持つ重要性が増大している。換言すれば、女性は社会変化の触媒としての位置を占める。この視点にもとづき、女性の住宅履歴の分析を通じて住宅システムの変容の方向性に関して知見を得ようとする点に本研究の意図がある。

本研究の方法論上の特徴は、女性「個人」に注目し、「世帯」単位の分析が中心であった住宅研究の領域に対して、「個人」単位の分析を導入しようとする点にある。旧来の住宅研究では「世帯」単位の分析が主流を占め、「男性稼ぎ主」の状況に焦点を合わせることが通例の方法であった。しかし、社会・経済変化のもとで女性「個人」のライフコースは、「男性稼ぎ主」のそれと同一ではありえない。「世帯」は「個人」の組み合わせとして成り立っている。住宅を法的に所有するのは「世帯」ではなく「個人」である。単独の「個人」が住宅を持つ、あるいは複数の「個人」が共同して住宅を保有することによって持家という所有形態が成り立っている。そのため、持家社会と女性の関係を捉えるには「世帯」のなかで女性個人がどのような位置を持つのか考察する必要がある。

本研究は、財団法人家計経済研究所の「消費生活に関するパネル調査」の結果を利用し分析を行う。このパネル調査は、全国の1959-1969年生まれの女性1500人(コーホートA)と1970-1973年生まれの女性500人(コーホートB)を対象とし、コーホートAにおいては1993-2002年の10年間、コーホートBにおいては1997-2002年の6年間、毎年行われた。本研究では調査初年度から9年度目であるまでの調査結果を扱い、女性の収入・雇用などの社会経済的地位や世帯形態、結婚・出産・離死別というライフイベントにおける女性の選択が住宅履歴や持家取得に及ぼす影響を明らかにする。



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