都市空間におけるホームレスの社会的構築について
北山 拓
【1】研究の目的と方法
都市には多数のホームレスが暮らしている。2005年8月の東京都の調査では、東京23区内には公園に2710人、河川敷に830人、道路沿いに575人、駅に71人、その他77人、合計4263人が、都内全体では合計4447人のホームレスが確認された。ホームレスは生活の起居の場として多くの公共空間を利用している。
公共空間に現れるホームレスを巡って、これまでに多くの摩擦が起こってきた。ホームレスと周辺住民・地方自治体・政府などの間で、様々な議論が交わされ、対策が講じられてきた。
ホームレス「問題」は自明のものではない。ホームレスを取り巻く環境は、ある時は彼らを支援するように動き、ある時は排除の力を強める。ホームレスがどういった人々として認識され、どのような対策の対象となるかは、彼らが出現する時間や場所によって大きく異なる。
本研究は、こうした見方に基づき、ホームレス問題がどのように構築されるのか、それが場所とどのように関係しているのか、を明らかにしようとするものである。
調査の手法は以下のとおりである。
@ 朝日新聞と東京新聞の2紙から、東京都においてホームレスに関係し、かつ公共空間に関係する記事を抽出し、記事中でのホームレスに対する認識・呼び方・出現場所等を分析した。朝日新聞においては朝日新聞記事データベースの検索サービス「DNA」を用い、1984年8月1日から2005年12月31日までの記事を、東京新聞においては「G-search新聞記事検索サービス」を用い、1997年4月1日から2005年12月31日までの記事を抽出して分析対象とした。
A 東京都福祉局生活福祉部による路上生活者概数調査を資料としてホームレスの実態数を把握し、@の記事の分析結果と比較することで、実態としてのホームレスと構築されたホームレスの関係を明らかにする。
【2】新聞記事の推移
年間記事数の推移を見てみると、朝日新聞、東京新聞ともに年間記事数の緩やかな増加が認められる。朝日新聞においては、1993年まで年間記事数は10件前後で推移していたが、1994年の緊急に保護を要する住所不定者に宿泊施設を提供する「緊急越冬対策」が報道され記事数が増加した。1996年には新宿駅西口の「動く歩道」建設計画に伴うダンボール村強制撤去や退去させられたホームレスの収容施設建設の報道により、97件とさらに増加した。その後、記事数は40件前後に減少したが、2002年には、東村山市での少年によるホームレス殺人事件の報道により、99件と再び増加した。ホームレスを巡る事件や出来事がホームレスに対する認識の増加を引き起こす契機となってきた。
【3】ホームレスに対する認識と呼び方
新聞記事におけるホームレスに対する認識は「支援対象」「認知対象」「生活者」「逸脱者」「被害者」「表現素材」「憧憬対象」の7種類、呼び方は「ホームレス」を用いた表現、「野宿」を用いた表現、「路上」を用いた表現、「浮浪者」、「乞食・物乞い・ルンペン」「生活場所を用いた表現」、「その他」の7種類に分類できた。ホームレスに対する認識、呼び方は時代とともに変化してきた。認識の変化を見てみると、1980年代、ホームレスは、主に「認知対象」「逸脱者」と捉えられていた。1990年代に入り、「支援対象」「生活者」として捉えられる割合が増え、全体として認識は多様化してきた。呼び方を見てみると、1980年代は、「浮浪者」や「野宿」を用いた表現が多かったが、1990年代に入り、主に「路上」を用いた表現で呼ばれるようになる。2000年に「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が制定され、政府が呼び方を「ホームレス」に統一した。その過程で「ホームレス」を用いた表現が増加し、1998年頃からは主に「ホームレス」を用いた表現で呼ばれるようになった。ホームレスに対し、国が「ホームレス」という呼び方を完成用語として用い、統一しつつある。
【4】ホームレスが出現する場所と認識の関係
記事中でホームレスが出現した公共空間を「路上・歩道・道路」、「公園」、「駅」をはじめとする16種類に分類できた。ホームレスは、1990年代中頃までは「駅」に多く出現していた。1990年代後半以降は、「公園」での増加が見られる。つまりホームレスの出現場所は、「駅」や「公園」というような日常生活圏へと拡散した。
ホームレスと接触しやすい道路・公園・駅のような場所では、ホームレスに対する認識は多様化し、接触しにくい河川敷のような場所では、「逸脱者」「被害者」といった社会の外縁部に位置づけられるような認識に特化する傾向にある。
次に、新聞記事において、ホームレスの出現する件数が多い「山谷地区」「西新宿」「上野」「池袋」の4つの地区における認識の割合を見てみると、地区ごとに異なった傾向が見てとれる。山谷地区では、「支援対象」の割合が36%と他の地区よりも高く、「逸脱者」「生活者」の割合は10%、8%と低い。また、西新宿や池袋では「被害者」の割合は、12%、16%と他の地区に比べ、高い。山谷地区では、ボランティア団体やNPOによるホームレス支援活動が活発に展開されており、そのことが「支援対象」としての認識を引き起こしたと考えられる。ホームレスに対する活動内容は、彼らに対する認識の仕方により異なる。その場所で行なわれる活動とホームレスに対する認識は互いに影響を与えている。
4つの地区におけるホームレスに対する呼び方は、「ホームレス」を用いた表現が、西新宿や池袋が60%以上であるのに対し、山谷地区や上野は40%前後と低い。一方、「野宿」と「路上」を用いた表現は、山谷地区で約50%、上野30%であるのに比べ、西新宿・池袋では約20%、と少ない。つまり、「支援対象」の認識が多い地区では、「野宿」や「路上」を用いた表現が多く、「ホームレス」を用いた表現が使われにくいことがわかる。
【5】実態と記事内容の比較
都の調査結果を資料としたホームレスの実態数の総数に占める各市区の割合は、多い順に台東区が996人で19%、墨田区が841人で16%、新宿区が826人で15%、渋谷区が550人で10%と続く。これに対し、記事に登場した件数の割合は、台東区14%、墨田区5%、新宿区37%、渋谷区5%であった。ホームレスとの接触頻度、大きな事件・出来事によって、記事中に出現するホームレスの分布と実態数の分布は大きく異なる。
ホームレスが出現した施設を「公園」「道路沿い」「河川敷」「駅舎」「その他」の5種類に分類し、実態数と記事中に出現する件数の構成比を比較したものである。
「公園」に出現するホームレスの割合は、実態数の61%に比べ、記事中の件数では27%と著しく低い。「駅舎」に出現するホームレスの割合は、実態数が5%であるのに対し、記事中では27%と高い。ホームレスの実態数の場所別構成比と、新聞記事に取り上げられる出現場所の構成比は大きく異なる。駅では人通りが多く、ホームレスとそうではない人々の接触が頻繁に起こっていると考えられ、そのことが新聞記事での出現件数の増加を引き起こしていると推察される。
【6】結論
本研究での分析から以下の点が明らかとなった。
- ホームレスに対する認識はホームレスに関する大きな事件・出来事と深く関係している。
- ホームレスが現れる場所が日常生活圏へと拡散してきたことで、認識は多様化した。
- ホームレスに対する呼び方は、「ホームレス」へと統合されようとしている。
- ホームレスが現れる年代・ホームレスに対する活動によって、その場所での認識・呼び方は異なる。特に支援活動が、認識・呼び方に大きな影響を及ぼしている。
- ホームレスの可視性によって、ホームレスに関する言説は、実態とは異なった分布を示す。