1.研究の目的と方法
阪神・淡路大震災では多くの建物が倒壊し,神戸の市街地は壊滅的な被害を受けた.そこからの復興の取り組みは,震災以前とは異なる空間を市街地に作り出してきた.
震災後に際立って増加した類型の建築がマンションである.震災後に新しく形成された市街地空間の特性を明らかにするに当り,その主要な構成要素であるマンションの特質を理解することは重要な作業である.本研究は,地震発生から9年目を迎える神戸の市街地におけるマンションの空間特性を把握することを目的とするものである.
研究の方法は,@まず,補足的な調査として,住宅の再建実態を把握する.復興の過程で市街地空間がどう変容してきたかについて基礎的なデータを収集した.Aこれを踏まえて,被災市街地に立地するマンションの特性を分析する.ここでは主にマンションのエントランス部に注目した調査を実施している.エントランス部はマンションと市街地空間との接点であり,市街地の中でのマンションの特性を明らにするにあたってはこの部分の空間構成の把握が不可欠である.2つの調査の詳細な手法は各項で説明する.
2.住宅再建実態調査
調査手法
調査対象区域は,南北をJR線と国道43号線,東西を石屋川,都賀川に囲まれた77.7haのエリアである.六甲道駅南側の都市計画区域は住宅再建の条件が原理的に異なるため調査対象外とした.2003年10月,敷地ごとに,従前建築の解体・修繕等の状況,新築される建築の用途・建て方・構造・階数等を目視調査により把握し,これらを従前の建物の特性と比較した.なお,ここでは,調査時点までに解体された建築,完工された建築を,「解体建築」,「新規建築」と定義する.
調査結果
図1は解体建築と新規建築の建築類型を戸数ベースで比べたものである.住宅の総戸数は,解体建築の4465戸に対して新規建築はその95.7%にあたる4273戸となっている.長屋,木造共同は激減した.非木造共同は解体建築の986戸に対して,2743戸と大幅に増加した.住宅総戸数に占める非木造共同の割合は,解体建築の22.1%から新規建築の64.2%へと激増した.図2は,非木造共同住宅の階数別,戸数別の棟数を解体建築と新規建築とで比較したものである.階数では,2階建と5階〜9階建の非木造共同住宅の増加が顕著である.特に戸数では,21戸以上の建築物の増加が特徴的である.エリア全体での住宅総戸数の震災以前の水準への接近は,震災以前に比べて規模の大きい非木造共同住宅の増加による部分が大きい.非木造共同住宅が激増し,中でも大規模なものの増加が著しい.
考察
震災後の市街地では,長屋,木造共同住宅の減少,非木造共同住宅の増加などの傾向がみられる.中でも大規模な非木造共同住宅すなわちマンションは震災後の市街地に著しく増え,住宅の戸数面での復興をもたらすと同時に,新しい市街地空間の主要な構成要素となった.
3.マンションの閉鎖性調査
調査手法
住宅再建実態調査の「新規建築」から非木造共同住宅を抽出し,そこからコンクリート造,住戸数10戸以上,3階建以上,の3つの条件を満たす一定以上の規模のマンションを調査対象とした.エントランス付近における,オートロックの有無,監視カメラの台数,郵便受けとオートロックの位置関係,テレビモニター付きオートロックの有無,管理人室の有無,禁止や警告の張り紙・看板の内容,エントランスの形状などを目視により把握した.
調査結果
オートロックは全体の72.8%に当たる67のマンションにおいて設置されている.設置比率は戸数規模が大きくなるにつれて増大する.郵便受けは,そこに住む住民とそれ以外の人びとが接触しないような設置のされ方をすることがあり,その割合は,規模の大きいマンションほど高い.全体の18.5%に当たる17件のマンションで,エントランス付近において監視カメラの存在が目視により確認され,その台数は若干ながら大規模なマンションほど多い.オートロックの番号パネルにテレビカメラが取り付けられ,マンション住民が住戸内からオートロックの前の訪問者を目視確認できる「テレビモニター付きオートロック」も同様に,戸数の多いマンションほど設置率が高い.管理人室がエントランス近くに設置されているマンションは,10〜14戸では31件中5件のみであったのが,30戸以上では19件中9件と多く,その全てが透過性の窓を装着していた.マンションは外部に対して閉鎖し外部を監視する様々な装置を備えており,その傾向はマンションの規模と相関関係にある.
マンションのエントランス付近には,禁止や警告のメッセージが記載された看板,貼り紙,ポスターが掲げられている.それらは,メッセージの対象となる人・その内容によって分類できる.表1はその一部を示したものである.マンションの住民に向けられたメッセージとしては,<空き巣,盗難,不審者への注意喚起>と<扉開放禁止の呼びかけ>がある.マンション内部を閉鎖的にし,そこから外部の人間への監視・警戒を呼びかけるメッセージが多い.マンション住民以外の外部者へのメッセージとしては,<立入禁止>,<チラシ配布禁止>,<セールス禁止>等,排他的なものが多い.「警察」「犯罪」等の用語を用いたメッセージも見られる.マンション住民と外部者の双方に向けたメッセージとしては<監視中・警備中の通知>と<マナーの遵守>がある.マンションは常に監視と警備の下にあることを人びとに知らせるメッセージを出している.
エントランスはその形状で4つに分類できる.@透過扉型(72件):エントランスにガラスを用いた扉を設置している.A不透過扉型(6件):扉の面積の半分以上が不透過性のもの.オートロック,差入口と取出口が分割された郵便受け,監視カメラ,テレビモニター付きオートロック,透過性素材の窓を持った管理人室を装備したマンションの割合が全体に比べ高い.B開放型(9件):オートロックやその他の扉がないもの.管理人室,監視カメラ,差入口と取出口へのアクセスが分割された郵便受け,テレビモニター付きオートロックなどは見られなかった.C門扉型(5件):マンションの敷地の入り口に門扉が設置されているケース.エントランスの形状が示す視覚的な特性は,そのマンションがもつ物理的な閉鎖性と相関している.
マンションの住民に向けられたメッセージ
<空き巣,盗難,不審者への注意喚起>
・WARNING! ご注意! 最近,空き巣被害が増えています.
・速報 防犯ニュース 空き巣被害の発生が増加しています.特に,マンションで発生しています.発生は木・金・土曜日に多発.お出かけは,一声掛けて,鍵掛けて.
<扉開放禁止の呼びかけ>
・開けた扉は,防犯の為必ず閉じて下さい.
・エントランスのドアは用心のため日常的に閉めた状態に!
外部の人間に向けられたメッセージ
<立入り禁止> <チラシ配布禁止> <セールス禁止>
・注意 当マンションに関係なき方の出入りは禁止です. 不法侵入者は警察へ通報します.
・広告類等チラシの投函は一切禁止しております.
・当マンションに立ち入り,物品販売,勧誘,パンフレット投函等を行うことは,禁止する
双方の人間に向けられたメッセージ
<監視中・警備中の通知> <マナーの遵守>
・階段付近でたむろしたり,ゴミを捨てないで下さい.
・防犯カメラ作動中 無断侵入者は住居侵入罪で防犯カメラの画像により警察に通報します.
考察
マンションは様々な装置を用いて,外部の者を監視・排除し,内部の人びとには注意と監視を促す.エントランスのデザインはマンションの閉鎖性を外部の空間に向かって表現している.新しいマンションは市街地空間に対して閉鎖性を保ち,内側に<自閉>する傾向がある.
4.結論
本研究で明らかになったのは,マンションの空間が強い閉鎖性を有していることである.被災市街地における空間変容の特性の1つは,マンションの増加であった.マンションは震災後には市街地の主要な構成要素となった.そのマンションは外部を切り離して内側に向かって<自閉>し,孤立して建つことで,市街地の秩序を変成するとみられる.こうしたマンションを市街地の中でどのように位置づけ,市街地空間の新しい秩序をどのようにつくっていくのか,を考えていく必要がある.