1.研究の目的
阪神大震災は様々な社会背景と絡み合い,現在も神戸に影響を残す.そのため,災害復興を考える際は社会的要因に配慮する必要があるといえる.そして社会的要因は様々な要素によって複雑に形成されることから災害を単体の短期的事象でなく,長期的な都市再編の下で捉える必要がある.火災と震災という2つの災害で被災した地域,次いで水害の多発する地域を題材に繰り返す災害による都市の変化・再編の行方を検証,そこから都市再編・都市形成における災害の位置付け,役割の考察を行うと共に,災害と社会的要因の関係に目を向けていく.
2.火災/震災による都市の変遷
神戸市消防局の主要火災(焼損面積・死傷者数・被害額が基準を超える火災)記録より主要火災の集中発生する長田区・中央区で1965〜94年に発生した面積型主要火災を取り上げる.新聞で焼損敷地・周辺状況を,住宅地図で土地利用変化をみていく.また,主要火災被災地の震災前と今の変化も同様に調べていく.
- 結果
長田区は1965〜94年に25地域で主要火災が発生,うち22はゴム工場密集地である.被災敷地における工場の数の変化をみると1965〜74年では被災前と同数かそれ以上の工場が再建・新築された.しかし1975〜84年では工場数減少や暫定利用が発生,1985〜94年では暫定利用化が全ての工場を含む被災地で生じる.震災では25地域中8地域で工場が被災,半数で工場が滅失し,2地域で減少した.時と共に暫定利用の発生割合が増加,震災後もその傾向は続くといえ,全被災地域でも同様の事態が生じる.建物数の変化は火災後に半数の地域で減少,火災前と震災後では大半で減少しているがその変化は小幅である.中央区では1965〜94年に19地域で主要火災が発生,うち17は密集・老朽化等が問題視された店舗・住宅の密集地である.建物数変化では火災前から震災後に建物数が増加する地域はなく,その減少が著しい.また,5地域では火災後の建築活動が皆無である.暫定利用は長田区と違って年ごとに目立つような傾向はない.
- 結論
主要火災について長田区では時と共に被災後の工場数が減少,暫定利用がふえる.これは被災地域の多くが工場を含み,暫定利用が増加,被災後の建物数の減少が小幅なことを考えると,建物の集約化でなく脱工業化による工業の停滞・再建力弱体化の影響といえる.中央区では火災後の建物数減少が著しく,暫定利用化が少ない.これは再建・集約する力とそれに見合う価値の存在を示す.ただし一切の再建がみられない5地域では火災を契機に密集市街地の一掃が行われた.両区の差はインナーシティと都心の格差を反映し,積極的な再編を行う市場価値の有無に地域の復興が左右されている.主要火災による都市再編が上の傾向を持つ中,火災後の積極的な都市再編を経た中央区では震災後も順当に再生・集約化が起こる.長田区では暫定利用の増加等から地域衰退が震災後も継続する.震災による被災敷地の変化はそれまでの主要火災での変化を踏襲している.ここから災害復興は建物密集地の解消・脱工業化・都心化という都市再編のトレンドに沿って進展,都市再編の振興を加速・促進させたといえる.また,両区に生じた違いは被災地域の市場価値に基づき格差を強調した.災害は地域間の際を明確化するように作用する.種類の異なる自然災害であっても被災地は地域の社会背景に左右される.
3.水害と都市の変遷
水害の多発する新湊川と周辺に影響を及ぼした6つの水害の原因・被害・対策や復興事業,社会背景を市史等の記録・新聞等から調べる.
- 考察
水害と復興事業・対策について,M29年の水害は停滞していた湊川付け替え事業実現の,阪神大水害は河川整備・海面埋立等実施の契機を作った.S36年と42年の災害は背山造成地の崩壊多発から傾斜地条例・宅地等造成基準法の改正・施行をもたらした.ここから,災害は都市再編が進行する際の契機となって災害原因の排除に作用するといえる.その影響は河川改修のような「地図に残る」ものから法律・条例の整備等にまで及ぶ.しかしその契機の活用は不十分で,阪神大水害では戦時体制の下,復興計画が都市防衛計画に吸収されて未完に終わった.S42年豪雨ではS36年水害で問題化した傾斜地の宅地造成が再度,被害の要因となり,S36年の教訓が宅地需要の前に生かされなかったといえる.その反省から法規制強化等で背山崩壊が都市部・造成地を襲う被害は減少した.しかし背山開発はS13年から問題視される一方で需要に応じた開発が継続されている.その結果H10・11年水害では水源がさらに荒廃し都市型洪水の危険性が増加,危険の形は変化しても背山開発に伴う問題は変わらず,災害対策は都市の拡大に遅れをとっている.繰り返される災害経験で対策も更新される一方,政治情勢・経済状況等の社会的な要素が作用し復興計画・都市再編・法整備の進展に課題が残る.そして次の災害発生時にその課題が被害の要因として表面化するのである.これらの結果から,水害は都市再編の契機を生み出し,災害の原因となるものを排除する役割を担ってきたと考えられる.しかし,社会的要素は復興の進展を部分的に抑制,次の災害の契機を残存させる場合があるといえる.水害の主要な原因が豪雨であることに疑問の余地はない.しかし,災害の原因や被害程度はその背景の社会的要素によって間接的に規定される.そして社会的要素の影響は災害対策へも波及する.
以上より,災害は都市再編の契機を生み出してそれを促進,災害の原因を排除する役割を担ってきたと考えられる.しかし,社会的要素は復興の進展を部分的に抑制し,時として次の災害の契機を残存させる場合があるといえる.