1.研究の背景と目的
阪神淡路大震災からの復興のために供給された公営住宅では,著しく高齢化が進んでいる.自力での住宅の確保が不可能であった高齢者を優先的に入居させてきたためである.住み慣れない場所での生活は,高齢者に精神的,肉体的な打撃を与えた.復興公営住宅では彼らの自殺,孤独死,引きこもり等の問題が発生した.
これらの問題を解決するために団地内でコミュニティを作る取り組みが始まった.住民組織である自治会や老人会,ボランティアグループ,行政など多種多様な人が復興公営住宅に住む高齢者の支援活動を行う.彼らは,それぞれの団地で高齢者の支援システムを編成し,率先してコミュニティ作りを行ってきた.
コミュニティは誰が誰をコミュニティの構成員と位置付けているかという問題を常に孕んでいる.復興公営住宅でコミュニティという言葉を使用するのは,高齢者の支援を行っている者である.彼らは,復興公営住宅に住む高齢者と高齢者を支援する者をコミュニティの構成員として捉えている.復興公営住宅で議論されるコミュニティには,支援する/支援される,という関係が常に含まれている.
復興公営住宅のコミュニティや高齢者支援について書かれた既存研究は多い.これら既往研究の議論の進め方には共通点がある.コミュニティを作るということを前提に話を進めている点である.コミュニティの現状を把握した上で,コミュニティを今後どのようにして作っていくべきかということを述べている.しかしこれらの研究の中で,コミュニティとはいったい何なのかという根源的な問いに触れているものはない.コミュニティとは何かという問題を十分に議論しないまま支援システムの組み上げを震災後に急いだ,というのが現状である.よって本稿では,そもそもコミュニティとはどのような性質を持つものかについて考察し,それを通じてコミュニティのあり方を追求するための新しい知見を得ることを目的とする.
2.研究方法
本研究では上記の目的を達するために構築主義アプローチを用い,定性的な手法で研究を進める.復興公営住宅において誰が誰をどのように認識して高齢者支援システムを構築しているのかを把握する,というアプローチである.分析の枠組みは図1に示される通りである.すなわち,初めに復興公営住宅の高齢者支援システムに関わる人を支援者と被支援者に分類する.支援者は他の支援者をどのように捉えているのか,被支援者をどのように位置付けているのか.また,被支援者は支援者をどのように認識しているのか,他の被支援者にどのような意味付けを行っているのか.こうした分析フレームを設定した上で,支援者,被支援者に対してインタビュー調査を行った.彼らの発言の中から,「誰をどのように認識しているのか」ということに言及した言説を収集し,どのような構築が行われているのかを分析した.
3.高齢者支援システムの実態
言説分析に入る前に復興公営住宅の支援システムにはどのようなタイプのものがあるのか,概要を把握しておく.その上で支援システムの異なる神戸市の復興住宅を3つ取り上げ,言説の構築を分析する.
〈調査方法〉
灘区にあるすべての復興公営住宅を対象として,それぞれの団地で支援活動を行うものにヒアリング調査を行い,各々の団地ではどのような人が高齢者の支援にあたっているのかを調査した.
〈結果〉
復興公営住宅における高齢者支援システムの形態には4つのパターンがあることがわかった.

団地内支援中心型,

団地外支援中心型,

団地内団地外両方型,

支援希薄型である.

の支援システムは大規模団地に特有のもので,自治会や団地外から入ってくるボランティアグループが団地内の集会所で活動していた.高齢者は団地の敷地内でのみ支援を受けていた.

は小規模な復興公営住宅に見られたパターンである.住民は団地の外にある地域福祉センターや自治会館で行われている行事に参加していた.団地の規模や団地が立地する場所によって支援システムに差が生まれていることがわかった.
本研究でインタビュー調査を行ったのは,それぞれに違う支援システムを持つ,以下の3つの復興公営住宅である.
1) 孤立して立地する大型復興公営住宅
2) 周辺地域から支援を受ける大型復興公営住宅
3) 震災以前からの支援システムを継承する復興公営住宅
4.孤立して立地する大型復興公営住宅
〈調査対象団地,インタビュー対象者の概要〉
この復興公営住宅は周辺を幅員の広い道路で囲まれた非常に大規模な団地である.高齢の入居者は敷地内でのみ支援を受けている.図2はインタビュー対象者の位置づけである.この団地には誰からも支援を受けようとしない,支援システムから逃れようとする高齢者がいた.調査対象者は支援者19名,被支援者12名,高齢者支援システムから逃れている高齢者1名である.
〈結果〉
支援者が他の支援者を認識する際には職務規定がある支援者と職務規定のない支援者を区別していた.支援者は被支援者を,努力している高齢者/支援に甘える高齢者,外に出てくる高齢者/外に出てこない高齢者,に分類して捉えていた.被支援者は支援者を,住民による支援者か,団地住民以外の支援者かで比較していた.被支援者は他の被支援者を認識する際に,自分と他の被支援者の区別を行っていた.支援システムから逃れる高齢者は支援を受けないことについて,「のんき」「気楽」と考えていた.
〈考察〉高齢者支援システムの中では,人々は常に誰かと比べられて認識されていることがわかった.このような支援システムは人々の他者との関わり方を複雑にしている.高齢者は他の住民とトラブルを起こさないようにまわりに気を使って生活していた.支援システムは高齢者に安心を与えるものであるが,復興住宅に居住している者の生活を束縛する側面を持っている.
6.震災以前からの支援システムを継承する団地
〈調査対象団地,インタビュー対象者の概要〉
調査対象の団地は既成市街地に立地する再建住宅である.震災以前から建ち,地震で倒壊した一部の棟が再建された.地域の婦人会,老人会が震災前から団地の高齢者の支援にあたっている.この団地には震災前から住む人と震災後に入居した人がいる.インタビュー対象者は被支援者17名である.
〈結果〉
震災後入居した高齢者は,自らと震災前から住んでいる人を区別する.近所づきあいがない自分/近所づきあいがある震災前からの住民,発言力のない自分/発言力のある震災前からの住民,という分け方であった.しかし,孤立して立地する団地に見られたような,被支援者が複数の支援者を比較して捉えている言説はなかった.
〈考察〉
震災後急遽支援システムを作ってきた孤立して立地する団地では同じような活動をする支援者が複数存在し,支援活動が乱立しており,支援者間の対比が行われていた.一方ここで取り上げた団地は長期間かけて支援システムを作ってきたので,同じような活動をする複数の支援者がおらず,支援者同士の比較が行われなかったと考えられる.
7.結論
コミュニティは内と外を区別する境界を持ちそこに関わる人々を分類した上で比較するという性質を持っている.私達は常に物事を相対的に捉える.内と外が対比され,様々な構成員の比較が行われることは必然的である.
被災者のために供給された公営住宅には,2つの特徴がある.@多数の高齢者が入居する,周辺地域とは異質な空間である点,A高齢者の支援システムを短期間で作り上げてきた点,である.大規模な団地に高齢者を集めそこに支援者を集中させてきた復興公営住宅は,コミュニティの持つ性質を必要以上に強調し,凝縮している.コミュニティは高齢者に安心を与えるものであるが,彼らの生活を束縛するという側面を持っている.前者のみを重視する現在のコミュニティの議論は,コミュニティの持つ性質を一面的に捉えているに過ぎない.
一方で,これとは異なる支援システムが2つあることがわかった.@小規模な復興公営住宅に住む高齢者が団地の外で支援を受けるシステム,A長期間かかって作られてきた支援システムである.@では小規模な復興住宅が周辺の住宅地に溶け込んでいる.団地内だけでなく地域の中に支援の資源が多重的に配置され,高齢の入居者はそれを自由に選択できる.Aではそれぞれの支援者が異なる支援活動を行っている.
今後のコミュニティのあり方として提案できるのは,団地の内と外,支援システムに参加している人同士,を比較するための境界が曖昧である,このような仕組みではないか.