多重都市 −現代ベルリンの空間と言説−

一井 里映


1.はじめに
現在,世界で都市の再編成が行われている.世界的な資本の流動は,どの都市にも開発のチャンスを与え都市のグローバル化を促した.しかし一方で,都市にはその都市特有のローカルな空間がある.このような都市のローカルな空間にグローバル化のもとでの開発が行われた時,そこには摩擦が起こる.現在その摩擦が顕著に表れているのがドイツの首都ベルリンである.1990年のドイツ統一後の開発は既存の都市構造との間に摩擦を起こし,激しい論争を生んだ.
本研究ではベルリンに特有の都市構造と統一後の開発について明らかにし,そこでおこった議論を構築主義アプローチを用いて分析する.ここでは,2000年9月・10月のベルリン調査の際に収集した現地新聞と主要英語文献,関連論文より言説を検索して集め,論争の過程を明らかにする.
そしてこのような論争が都市空間に対してどのような意味を持つのかについて考察を行っていく.


2.ベルリンのローカルな空間
<手法>
「Berlin:open city」を用いてベルリンに現在ある建築物を時代別・用途別に分類する.これにより現在の都市構造について分析を行う.
<結果と考察>
ベルリンが20世紀に経験したドイツ帝国,ヴァイマール共和国,ナチス時代,東西ドイツ時代,統一ドイツ時代では,それぞれの時代ごとに異なる都市空間の再編成が行われてきたことがわかった.現在のベルリンは,かつて幾度も経験した再編成の跡が何重にも重なり合って構成されたものである.これはベルリンに特有の都市構造であると言える.


3.統一後のグローバルな開発
<手法>
「NEW ARCHITECTURE BERLIN 1990-2000」を用い,統一後10年間にベルリンに建てられた建築物を規模・用途・建築家について分析し開発の傾向を考察する.
<結果と考察>
ベルリン中心部の統一後の開発は,6つの地域で重点的に行われている.この6つの地区から,統一後の開発の方向性3点が見て取れる.1議会関連の建物・大使館など政府建築の開発2オフィス・商業スペースを中心とした資本主義空間の開発3アミューズメント施設の建設に見られる都市のグローバル化
以上より統一後のベルリンは完全に資本主義化し,さらに都市のグローバリゼーションが進んでいることがわかる.


4.ローカルな空間/グローバルな開発の摩擦
<手法>
統一後の開発が論争を生んだ建築物(地区),ポツダム広場,共和国宮殿,ドイツ帝国議会議事堂の3つを取り上げ,事実と言説を整理する.これにより議論の過程を分析する.
<結果と考察>
3つの建築物での議論の対立軸を以下に示す.
  1. 共和国宮殿【東西ドイツ時代東によって建築された議会建築,娯楽施設・レストランなども含んでいた】
    思い出の場所として保存を支持する東/破壊を支持する西
  2. ポツダム広場【統一後,開発の中心となった広場】
    歴史的街並みに賛成/大規模開発に賛成
  3. ドイツ帝国議会議事堂【統一後,連邦議会の建物になることが決定された建物】
    民主主義の挫折の記憶/統一後の民主主義体制
ベルリンの中で複数の議論の対立軸が存在することがわかる.このように意見の対立が自由に起こることは,都市に未来の可能性を与える.ベルリンをめぐる論争は,今最も注目を浴びていると言える.このことはベルリンが大きな潜在能力を持つ都市であることを示す.


5.結論
過去の時代が幾層にも重なる構造をもつベルリンで開発を行うことは,今後も開発の数だけ論争が発生する可能性を示唆する.ここでは議論の対立軸は全ての場所に存在する.ベルリンは,歴史と対立軸が層となって都市を形成する,多重な都市であると言える.都市空間をめぐる論争は開発を遅らせ,都市を疲弊させる.しかし議論の可能性は都市の可能性につながる.1つの答えに帰結せず,定義付けができない空間こそ都市の魅力であると言えるのではないだろうか.




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