1.研究目的
都市に構造再編が起きている.フォーディズムからポスト・フォーディズムへ.これに伴い,行政の施策にも明らかな変化があった.
70年代以前,都市は地方から流入する労働力を受け入れ,成長を続けていた.工業が都市の繁栄を後押しし,行政は都市の繁栄のため人々の生活を援助する.人々の生活水準は向上し,中産階級が生まれた.
70年代に入り,技術の大幅な進歩によりグローバル化が進展した.資本・労働力・商品・情報・知識のグローバルフローへの流出が始まり,都市間競争は激化した.行政は都市の生き残りをかけ,税制面での優遇措置などを掲げて企業を呼び込もうとする.輸送技術の発達は距離を無効化し,人々の意識は郊外へと向いた.周囲の文脈から切り離された衛星都市が出現し異なるセグメントが出来上がる.都市にはインナーシティが現れる.
大量生産,大量消費の時代が終わり,人びとの関心はモノを消費することから文化・イメージの消費へと向いた.ノスタルジーを引用したテーマパークなどが各地に建設された.こうした空間は若者を対象としており,それ以外の人々を選別・排除する.公共施設においてもそれは同様である.公共空間はもはや全ての人が対象ではなくなった.行政は若者を呼び込むために資金を投入する.
このように,都市の構造再編の進行と行政の取る政策には密接な関わりがある.本研究では,神戸市の施策を通して都市の構造再編,リストラクチャリングを背景とした都市政策の変化を明らかにしていく.
2.予算の配分
2−1.調査方法
調査は神戸市発光の昭和53年から平成9年の年度予算における主要施策を対象とする.ここに記載のある項目別の予算からその合計金額を得,単年度予算合計の50%を占める項目・プロジェクトは何かを調べ,プロジェクトの性格を明らかにする.また,同年間の会計予算別の予算案について経年変化を見る.
2−2.調査結果
全ての項目は,万遍なく多数の局(教育委員会・民政・都市計画局…)にまたがっている.
300〜400存在する項目のうち,約10項目程度で予算の50%を占めている.限られた事業へ予算が集中している.特徴としては,都市計画局や土木局,港湾局等インフラ整備型の局における予算額が大きい.特に近年予算の50%にあたる項目が5〜6項目程度に減少しており,更なる予算の集中化がなされている.これは上位事業の大型化が要因である.バブル崩壊後も更なる大型化がなされており,地価の高騰のみが予算増額の要因とは考えにくいからである.構造再編の過程を,公共事業の予算に見ることができる.また,巨額予算を占める局に偏りがあることも分かる.特にハード系の局に偏りを見せており,構造再編において特定の空間がターゲット化していることが予想される.都市全体の成長から地域のある分野の特化へと重点がシフトしている.
予算の50%に入る項目について,事業が行われた期間を見る.通年で現れる項目と数年間のみ現れる項目とがある.通年の計画はハード系に偏る傾向がある.数年で終了する短期集中型とも言える計画には,六甲アイランドや湾岸部を結ぶ交通網整備などがあり,構造改革においてターゲットとされたセグメント化した地域を結ぶという位置付けにある.また,「アーバンリゾート都市の推進」という項目は,神戸市が創り出したイベントに自ら巨額の予算を投入し,一気に都市の一部を整備するという特異な計画である.神戸市における二重構造化,デュアルシティ化が懸念される.
会計予算を見る.「神戸市株式会社」ともいわれてきたように,開発事業会計の伸びは群を抜いている.バブル崩壊後は伸び幅が小さくなっているものの,ハーバーランドなど若年世代をターゲットにした地域に特化して開発は進められている.一方,開発地域に隣接した港湾労働者の居住地などは開発から取り残されたままである.会計に伸びを見せないのが宅地造成事業である.人口増加政策から一転,神戸市総合基本計画において交流人口の確保への政策の方向性が打ち出されたためである.都市政策におけるリストラクチャリングが進んでいる.
3.通年項目の詳細について
主要施策において見られたリストラは,継続して行われてきた事業に対してはどのように現れるのだろうか.通年で行われている計画が,時代や社会の流れからどのような影響を受けるのかを明らかにする.
3−1.通年項目の比較
再開発事業と産業団地の開発が比較的順調に伸びている.インフラ整備・宅地供給は震災後大きく予算を縮小させている.全体としては,バブル後の景気対策としての予算の増額と,震災の影響が大きいことが指摘される.
3−2.産業団地及び宅地供給事業
産業団地の伸びと宅地供給の行き詰まりは,情報化社会における資本移動のフットルース化と上記のような交流人口確保への政策転換を示すものである.しかし,これに対し神戸市は職住近接のニュータウンを理念として掲げている.こうしたニュータウンは神戸市各地に建設されている.全体としての宅地供給は行き詰まりを見せているが,産業団地と結節した宅地供給はある程度成功しているといえる.
3−3.再開発事業の推進
再開発事業については,公共団体施行と組合施行の事業予算が同程度になりつつあるということがいえる.従来神戸市では公共団体施工の事業の割合が大きかったが,近年それが行き詰まってきたのであろう.都市の開発は市民・行政・事業者が一体になって行うべきという方針へと移行を見せているようである.
開発は,地域的な偏りが激しい.権利関係が複雑な密集市街地などは避けられ,ベッドタウンなどの整備が必要と判断された地区については公共が第2種市街地再開発を行い新たなセグメント創出を目指す.中央区などの商業地区とその周辺に巨大事業が集中する.新たなターゲット創出や,既存のターゲット拡充のために再開発の手法が用いられていることが分かる.
建築物共同化促進事業には,地理的な偏りはあまり見られないが,中央区など,公共の開発が進展している地域には少ない..組合や公共施行の再開発が踏み出せない密集市街地において多く行われているようである.また,事業面積の巨大化も目に付く.全体として,構造再編において取り残された地区が自力で浮上しようとして共同化を推進しているようである.
3−4.道路網の整備
街路築造事業について見る.バブルの影響はほとんど無いが,復興事業として震災後に著しい増加がみられる.地域的に激しい偏りがみられる.全体として事業期間が短く,短期集中というポストフォーディズムの特徴が伺える.土地の買収に時間がかかり,道路の拡張が困難な地域では,道路整備に時間がかかり,構造再編から取り残される傾向がある.ただし,これらの地域においても高額の予算を割いていることから,デュアルシティが行政のみによって作られているのではないことが分かる.
4.結論
以上より明らかになったのは以下の点である.
- 行政はターゲットを絞り,重点的に事業を行っている
- ハード系事業が重視され,空間に対する投資が行われている.
- 都市のセグメント化が進行し,セグメント間の格差が広がっている.
- 多額の予算を投入し短期集中的に行う事業が増加している.
構造再編によって,空間と時間は圧縮されてきた.行政の施策もこれと平行し,全体から特定の箇所に,漸次的から短期集中的に,とその方向性を変化させている.
神戸市の施策を見る限り,今後こうした動きはますます強まるものと予想される.