東アジア住宅システムの構造再編

日笠 武志


1.研究の目的
東アジアにおける住宅供給システムの特徴の理解を試行すると同時に,グローバル経済の拡張に起因する住宅市場の構造再編に関して分析を行う.


2.手法
研究対象として,経済成長が急激に発展したという類似条件から,日本・韓国・香港・シンガポールの4カ国に絞る.これに関する既存文献を読み,各国関係資料や最新統計を収集,整理し,東アジア住宅市場の特色やその構造再編についての分析をする.


3.住宅供給システムの特徴
各国とも戦後まもなく急激な人口増加と産業の発展に伴う都市化を経験した.膨れ上がった人口は都市内やその近郊を中心に莫大な住宅需要をもたらすことになった.こうした背景から,住宅の大量建設が開始され,住宅産業は次第にマクロ経済を牽引するにまで発展していった.このプロセスの中で,住宅の供給は住宅所有の促進が主眼とされた.継続的で安定的な地価の上昇から,住宅の購入は将来のキャピタルゲインを意味し,多数の世帯がこの利益を享受することにより,中産階級の増大を導いた.またこうした物理的な利益だけではなく,家族や持家を志向する東アジア特有の文化的傾向も,住宅所有を普及させた要因の一つである.以上のように東アジアの住宅市場は,莫大な需要・大量建設・持家所有・キャピタルゲイン・中産階級という要素によって特徴付けられ,住宅それ自体の問題に影響を及ぼすだけではなく,国家・経済・社会の全体的な安定に関する重要な要素としての位置を示してきた.


4.住宅政策の方針
東アジアでは,国家が住宅供給において重要な役割を果たしてきた.住宅供給と住宅所有の促進という点に着目した場合,日本と韓国では,国家は資金供給政策を通じて,住宅所有を促進してきた.一方香港・シンガポールでは,金融政策だけでなく,住宅市場に対して直接的な介入を果たし,住宅の直接供給・販売や公営賃貸住宅の売却などにより,持家所有の普及を実現したことが特徴的である.


5.住宅市場の構造再編
バブル崩壊やアジア通貨危機後,東アジアの住宅システムは構造再編の時期に入った.それは地価の低迷により,東アジア住宅市場を支えてきた要素が従来通りに機能しないことから発生している.しかしながら,東アジア社会には家族や血族などを重要視する文化的な傾向が今なお根付いており,それに関連した持家志向社会が今後も持続する可能性は大いに考えられる.従来の住宅システムの解体と文化的な背景を有する持家志向社会が衝突するとき,グローバル経済からの影響を受けながらも,東アジアの住宅市場は"グローバルな均一市場"という神話の中に吸収されるのではなく,独自の変容に向かうと考えられる.




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