(文部省科学研究費 重点領域研究「蒸気爆発の動力学」1995年度報告書,57-65p,1996年3月)


マグマ水蒸気爆発に於ける破砕エネルギーの推定:
有珠1978年噴火の場合

Fragmentation energy in a phreatomagmatic eruption:
A study of the deposit of the 1978 Usu eruption

浜田 真・佐藤博明・鎌田桂子
神戸大学理学部地球惑星科学科
Shin Hamada, Hiroaki Sato, Keiko Kamata
Department of Earth and Planetary Sciences, Faculty of Science Kobe University


和文要旨
 マグマ水蒸気爆発では,通常のマグマ爆発と比較すると1ー3桁大きな爆発エネルギーが発生することが火口直径の比較から提案されている.一方,マグマ水蒸気爆発により生じる放出物は細粒であることが特徴であり,これは爆発の際の機械的エネルギー(水蒸気の膨張)の一部が破砕エネルギーに消費されているものと考えられる.火口直径から見積もられる爆発エネルギーは大半が岩片放出の運動エネルギーを代表しているものと思われるが,それと粒子破砕エネルギーを合計したものが爆発の際発生する機械的エネルギーを代表するものと考えられる.これまで破砕エネルギーを見積もった研究はないので,噴火経過の詳細に判っている1978年有珠火山のマグマ水蒸気爆発について,噴出物の調査,粒度組成分析,粒子画像解析から全噴出物の破砕エネルギーの見積もりを試みた.このマグマ水蒸気爆発については,熱エネルギー,爆発エネルギー(火口直径から)が推定されており,噴火の際のエネルギー分配状況についての議論が可能である.  1978年マグマ水蒸気爆発の主要な火口である銀沼火口の周囲の5地点で柱状図 を作成し,96試料を採取した.それらのうち48試料についてふるいにより粒度分析をおこなった.いづれも,火砕サージの特徴である,やや淘汰の良い細粒な組成を有する.  つぎに,粒子の円形度を測定し,粒度の関数として求めた.さらに,堆積物の堆積をNiida et al.(1980)から求め,分布面積と層厚の関係,分布面積と粒度の中央値(MdΦ)の関係を関数で求めた.これらから,総堆積物のMdΦを求め2.25の値が得られた.総堆積物について,各粒度の形状と重量%から,堆積物全体の粒子表面積を求め,それとセラミックスの表面エネルギー(300 erg/cm2)を乗じて,総表面エネルギーとして2.8×1018 ergが得られた.この値は爆発エネルギーの1/300程度であるが,計算手法の改善が必要である.


ABSTRACT
We attempted to estimate the fragmentation energy of a phreatomagmatic explosion in the case of Usu 1978 eruption through grain size analyses and grain shape analyses as well as volume estimate of the deposit. Phreatomagmatic explosion cause 1-3 orders of magnitude larger explosion energies as compared with magmatic explosions of the same ejecta volume, and the ejecta are characterized by much finer grain size, suggesting that part of the explosion energy is spent by fragmentation of the ejecta. The 1978 Usu phreatomagmatic eruption is well described giving oppotunity for an attempt of estimating total fragmentation energy of the ejecta. We made detailed columnar section in 5 localities around Gin-numa (explosion crater), and obtained 96 samples. Grain size analyses were made on 48 samples which show rather well sorted fine grained characteristics typical of the deposits of phreatomagmatic explosion. Median size of each layer was used to obtain the average median size of the total deposit of one locality. The average median size is correlated with the thickness and/or the area of the isopach. Grain shape analyses were made on polished thin section of the deposit. Roundness of grains, representing the circumference length of equi-area circle devided by actual circumference length, was shown to be correlated to the grain size. The volume of the deposite is obtained from the isopach map of Niida et al.(1980). The overall median size of the overall Usu 1978 deposite is calculated to be 2.25 in phi scale. From the grain size distribution, shape factor and volume, we obtained the total surface area of the whole deposite to be 9.2*1015 cm2. Multiplying ca. 300 erg/cm2 of the surface energies of glass, we obtained total fragmentation energy to be 2.8*1018 erg. This is about 1/300 of the explosion energy of the phreatomagmatic eruption. Howeever, the above method of calculating the surface area of the total grains of the deposit include rough assumptions which may give lower estimates. So the above value is a provisional one and requir further revision.


1.はじめに
 マグマ水蒸気爆発によって生じる堆積物の特徴としては,サージ構造,火山豆石,などとともに,細粒であることがあげられる.Walker (1973) によると,通常のマグマ噴火では粒径1/64mm以下の粒子の重量比は20%以下であるが,マグマ水蒸気噴火の噴出物ではそれが50%以上を占める.粒子の細粒化は爆発の際生じると考えられ,マグマ水蒸気爆発での爆発エネルギーの大きさと関係があるものと思われる.
一方,爆発の際にはクレーターが生じ,Taniguchi(1995) はクレーター直径と爆発エネルギーの関係がほぼ3乗根則に従うことを示した.爆発エネルギーは元々は水蒸気の膨張による機械的エネルギーによって賄われていると考えられるが,その一部は岩石・マグマの破砕に消費され,一部は粒子の放出エネルギーとして利用される.これまでの爆発エネルギーの推定は粒子の初速度や爆風の風圧から推定されてきたが,これは水蒸気の膨張によるエネルギーを直接反映していない可能性がある.この研究では,これまで試みられなかった水蒸気の粒子破砕エネルギーの見積りを,北海道有珠山1978年マグマ水蒸気爆発噴出物について試みた.主な手法は堆積物の粒度分析,粒子の形状解析,堆積物量の推定から,堆積物粒子の総表面積を求め,これまで知られている岩石・ガラスの表面エネルギーからマグマ水蒸気爆発に於ける総破砕エネルギーを見積もるものである.有珠1978年噴火については,これまで詳細な噴火経過 (Niida et al., 1980),堆積物の解析(吉田,1995)が行われ,さらに,Sato and Taniguchi (submitted)により噴火の熱エネルギーと火口形成爆発エネルギーが,Okada et al.(1983) により地震エネルギーが見積もられており,これらと破砕エネルギーの関係を把握することが容易である.

2. 噴火の経過と堆積物の概要
 有珠火山の1977-1978年噴火は2つの時期に区分される(Niida et al., 1980).第1期は1977年8月7日〜14日のサブプリニー式噴火で4回の大規模な,2回の中規模な,10回の小規模な爆発的噴火をおこした.これらの噴火で第1〜4火口が生じた.第2期は94日間休止の後,水蒸気爆発〜マグマ水蒸気爆発で,氈C,。の亜期に区分される.亜期氓ヘ1977年11月16日〜1978年3月13日の期間典型的な水蒸気爆発を生じた.亜期は1978年4月24日〜6月27日の水蒸気〜マグマ水蒸気爆発である.亜期。は1978年7月9日〜10月27日の水蒸気〜マグマ水蒸気〜マグマ爆発である.亜期,。の活動により銀沼火口と呼ばれる直径330mの大きな凹地を形成した.
 試料採取は1995年7月に図1に示す地点でおこなった.A地点は銀沼火口の東壁で第2期の噴出物がおよそ20mの厚さで堆積しており,それを岩相で68層に区分し試料を採取した.B〜D地点は銀沼火口の東方の火口原内に位置しており,堆積物をスコップで堀り観察,試料採取をおこなった.各々の地点で第1期の軽石層に達するまで孔を堀った.B地点は第2期堆積物は215cmの層厚で13層に区分した.この地点は火口原内では地形的に最も低い位置に近い.C地点では110cmの層を9層に区分・試料採取した.D地点は銀沼火口に向かった緩斜面に位置しており,厚さ40cmの層を4層に区分した.E地点は外輪山の北斜面に位置し,厚さ5cmで一層とした.この地点には第1期の軽石は堆積していない.B〜D地点での柱状図を図2に示す.各層の噴火日時に関する同定はNiida (1980) や吉田が試みており噴出物の大半は1978年6月〜9月のものである.ここでは噴火全体のエネルギーの推定を試みるので,堆積物層序の詳細については論じない.

3. 有珠1978年噴出物の粒度分析
 A地点の68試料のうちから20試料と,B〜E地点の全試料27個についてふるいを用いた粒度分析をおこなった.試料は予め110℃で約12時間乾燥させた.ー5Φ〜ー1Φのふるいは5分間手で震盪させ,0Φ〜5Φのふるいは自動震盪機で約30分間ふるった. 図3にA地点での堆積物の粒度組成を示す.今回の実験では5Φ以上(細粒部の分 離が悪いものについては4Φとして纏めた)の細粒部についての粒度分析は一部のものについて沈降法による測定を試みたが,必ずしも十分な結果を得ることができなかった.図3から堆積物粒度の中央値(MdΦ)と分散(σΦ)を次の式から求めた.
   MdΦ=Φ(50)
σΦ=[Φ(84)-Φ(16)]/2
図4にはMdΦとσΦの関係を示した.同図にはWalker(1971)による降下火砕物,火砕流堆積物,サージ堆積物の組成範囲が示されている.今回の分析物のうち,第1期に属する降下軽石についてはWalker(1971) の降下火砕物の組成範囲にあり,一方,第2期のマグマ水蒸気爆発による堆積物はほぼサージ堆積物の組成範囲に入っている.後者について見ると,σΦが2±0.5とほぼ一定で,一方,MdΦはー1から3まで広い組成範囲を示している.これらのことは,平均粒径のいかんにかかわらず粒度分布の形(図3)がほぼ同じであることを示唆している.

4. 粒子の分類
 試料はふるった後に,4ー5Φ,2ー3Φ,0ー1Φ,ー2ーー1Φの粒子について薄片を作成し観察をおこなった.試料の研磨薄片について,反射光,透過光(オープンニコル),透過光(クロスニコル)での観察,写真撮影をおこなった.特に,地点A,第15層の0Φー1Φの試料について詳細な検討をした結果次のような粒子が判別,同定された. (1) 本質岩片: 新鮮で,透明なガラス,斜長石を含む.結晶度がかなり高く,不規則な発泡組織が特徴的である.図5に本質岩片の反射顕微鏡像を示す.(2) 外輪山溶岩片: 全体に石基が不透明で黒っぽく,斑晶として斜長石,輝石まれにかんらん石が認められる.一部のものは変質を受けている.(3) 小有珠溶岩片: 小有珠溶岩と同質のものが含まれることは,Niida et al.(1980) により指摘されているので,小有珠溶岩と比較したところ,やや大きめの石基の針状斜長石が数%含まれるのが特徴的である.その他の石基部分は細粒であり,クロスポーラーでやや暗灰色を呈する(4) その他: 上記のもの以外の粒子を一括してその他とする.吉田(1995)の旧火砕流起源の類質デイサイトと分類されているものと思われる.そのほかに由来不明の結晶片もこれに含めた.粒子129個の同定結果では,それぞれの割合は,本質岩片23%,外輪山溶岩片16%,小有珠溶岩片30%,その他31%となった.マグマ水蒸気爆発では基盤の岩片等が多量にとりこまれることがしばしばあるが,有珠1978年噴出物でも,本質物質が1/4弱であり,熱エネルギーの見積りに大きな影響を与える.

4. 粒子の形状解析
 マグマ水蒸気爆発で生じた火砕物は一般にブロック状での形態を示すものが多い.しかし,粒子の総表面積を見積もる場合,粒子の形状の効果を定量的に評価する必要がある.ここでは粒子形状の効果の2つの側面について計測,評価をおこなった.1つめは同じ粒度の粒子(等価球)のもつ表面積との比較であり,これは粒子の2次元像の円形度をもって代表させた.円形度は等価円の周長で実際の粒子の周長を割った値であり円で1,非円では1以下の値をとる.実際の表面積を見積もる時は円形度の逆数を円の場合の表面積に乗じた.円形度と粒径の関係は粒径が細かいほど円形度は低い傾向があり,円形度Rは次の式で表わされる.
 R=0.757+0.018*Φ
 2つめの効果は,同じふるいを通った粒子の平均粒子当り重量を見積もるさい,球と比べて変形した粒子は軽い(体積が小さい)ということを考慮に入れる必要がある.これは,実際の粒子解析をおこなった個々の粒子について,その断面が通る最少ふるい目のサイズについて,そのふるい目の幅を直径とする円の面積で粒子の断面積を割った値で評価した.実際に個々の粒子についてこの作業をおこなうのは容易ではないので,約30個の粒子について,上記の面積比[R(S)] と円形度の相関を求めておき,実際には円形度を用いて評価をおこなった.図6にその関係を示す.面積比は円形度とよい相関を示している.

5. 噴出物の総体積と粒度分布
 噴出物の体積はNiida et al.(1980) の第2期噴出物の等層厚線から見積もった.この等層厚線は噴火直後の調査でえられたもので精度が高い.図7に示すように,層厚の対数とその等層厚線で囲まれる面積の対数はほぼ線形の関係があるので,それを直線回帰してその積分から体積を見積もることができる.銀沼火口内部の層厚を30mで一定として1mm以上の層厚の部分の体積を求めると,1.14*107m3となった.粒度分布は火口からの距離によって変化するものと考えられる.A〜E地点の各々について,各層のMdΦを厚さの重みをつけて各地点での総堆積物の平均MdΦを求めた.次に各地点での平均MdΦと各地点の層厚に対応する等層厚線で囲まれる面積の関係を検討すると(図8)粗い正の相関があることが判る.これらのうち,下方(細粒)にずれた点は地点Bのものであり,この地点が火口原内の低地に位置しているため,小規模なサージの細粒部が堆積したため特にΦの値が大きくなったと考えられる.一方,上方(粗粒)にずれた点は地点Dのものであり,この地点が銀沼に向いた緩斜面に位置することから,比較的大きな噴火の粗粒部が堆積したため粗粒な組成にずれたものと思われる.いづれにしても,これら5点を直線回帰してMdΦと面積の対数の関係を求めた.
 次に全堆積物の平均MdΦを求めるために,層厚30mの銀沼火口内から層厚1mmの領域までについて,層厚に基づいて38に区分し,それぞれの区分内での堆積物体積の重みをつけたMdΦ(図8で得た回帰式から求めた)を計算し,全堆積物のMdΦを2.25と見積もった.

6. 破砕エネルギーの見積もり
 この研究では個々の粒子の単位面積当りの破砕エネルギーを求める実験はおこなうことができなかったが,ガラス工学等の分野で知られている物質の表面エネルギーはおよそ300erg/cm2であるので,この値に堆積物粒子の総表面積を乗ずることにより破砕エネルギーの見積もりをおこなった.
 粒子の総表面積を求めるのに,粒度分布がMdΦによらず同じ分散の形をとることを仮定して計算をおこなった.また近似として,総堆積物の平均MdΦを求め,それからそのMdΦに相当する粒度分布を実際の粒度分析の結果から求め,総表面積を計算した.このやり方は分散が実際の噴出物よりも小さく見積もることになり,従って,総表面積や破砕エネルギーについても小さめの見積もりを与えることになる.(この近似の問題点については,現在改良中である). 
 全噴出物の体積からその重量を求めるために,典型的な試料のかさ密度をビーカーを用いて測定したところ1.605gr/cm2となった.これから,総重量は1.84×1019grとなった.次に各粒径の重量%と噴出物の総重量から各粒径の質量を計算した. 表面積を計算するのに円形度を尺度として,球近似からのはづれを定量的に評価した.球を仮定すれば,円相当径から表面積と体積を見積もることができるが,実際の表面積は球よりも大きく,一方,実際の体積は球よりも小さいことが容易に予想される.円形度が粒度に依存するのでその回帰式から各粒径の円形度を求めた.表面積(S)の計算は次の式で計算した.
  S=4×π×(円相当径)2/(円形度)
実際の体積(V)は,粒子の断面における周囲長と等価円周の比である円形度を用いるよりも,通過できる最少ふるい径を直径とする円の面積と断面積の比(cS/fS)を用いる方が適当と考えた.cS/fSと円形度にはよい相関があるので,結局円形度から体積は次の式で求まる.
V=4/3×π×[(円相当径)2×cS/fS]1.5
 粒子の密度は2.6gr/cm3として体積から質量を求めた.各粒度について実際の表面積(S)を質量で割って,単位質量当りの表面積を求め,これに各粒度の総質量を乗じて粒子の総表面積を計算し,その粒度別総表面積の合計として,堆積物全体の表面積を求めた.このようにして求めた粒子の総表面積は9.2×1015 cm2となった.これと単位面積当りの表面エネルギー 300 erg/cm2 から全表面エネルギーは2.8×1018erg となる.
 有珠1977-78年の第2期の噴出物については,熱エネルギーは総質量,本質物質の割合(23%),温度(900℃),比熱から熱エネルギーや約1×1022ergともとめられており,また,爆発エネルギーは火口直径から約7.6×1020ergと求められている.これらと比較すると,破砕で生じた粒子の表面エネルギーは2桁余り小さいことになる.ただし,上記のように,今回の計算の仮定がかなり小さい目の見積もりを与えることから,計算手法の改善を計る予定である.又,この計算を行うさいに気付かれたこととして,粒度4Φ以下の細粒分が粒子表面積の過半を占めることであり,この部分の粒度分析が極めて重要であり,またそのような堆積物が分布する火口原外の薄い部分の体積見積もりが結果に大きな影響をおよぼすことが明らかになった.

文献

Niida, K., Katsui, Y., Suzuki, T., and  Kondo, Y. (1980) The 1977-1978 eruption of Usu volcano. J. Fac. Sci. Hokkaido Univ., Ser, IV, 19, 357-394.
Taniguchi, H. (1993) Present situation and plan for the explosion energy estimation of phreatomagmatic explosion. Proc. International Seminar on the Physics of Vapor explosions, Tomakomai, Hokkaido, 263-269.
Walker, G.P.L. (1971) Grain size characteristics of pyroclastic deposits. J. Geol., 79, 696-714.
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