I はじめに


 高松クレーターは,河野・古瀬(1989)による日本列島の重力測定の過程で四国高松市南部で発見されたもので,低密度物質により埋積された,直径4km,深さ1ー2kmの,クレーター状構造である(河野ほか,1994;河野,1996).このクレーターの成因について,河野ら(1996)は,隕石衝突クレーター,コールドロン,構造性陥没,3つの可能性を指摘している.これらのうち,構造性陥没説は,付近に顕著な断層が認められていないこと,周辺が比較的安定な地殻構造を有すること,ほぼ,円形の形状を説明しにくいこと,等から最も可能性が薄いと考えられる.コールドロン説は,瀬戸内地区およびその延長に,中新世の石槌山コールドロン(Yoshida, 1984)や,設楽コールドロン(高田,1987)が知られており,高松地域に存在しても不思議ではないが,この地域にはこれまでコールドロンを生じるような大規模火砕流堆積物は知られていなかった.長谷川・石井(1996)は,高松クレーター内でのボーリングコア(深さ300m)が,厚い火砕流堆積物によって占められていることを主な根拠に,コールドロン説を主張した.一方,Miura et al.(1996)Miura (1997)は高松クレーター南部に分布する火砕堆積物中の新鮮な黒色ガラスに注目し,その中に,高密度石英,ラメラ状石英,Ni-Fe粒の存在の可能性を指摘した.我々も,このガラスが隕石衝突説の根拠になる可能性が大きいと考え,今回,その産状や顕微鏡下での性質の記載,および化学分析をおこなった.今回の分析結果から,隕石衝突説の有力な物的証拠になると予想された高松クレーター南部の火砕流堆積物に含まれるガラス岩片について,化学組成から火山起源である証拠が得られた.