III ガラスおよび全岩化学組成


1 ガラスの化学分析
 隕石クレーターが生じると,瞬間的に超高圧・高温が生じ,一般に隕石のサイズに応じて一定の割合でメルトが生じ(Melosh, 1989),放出物としてテクタイトやスーエバイト,あるいは溶岩プールのようなガラスを含む堆積物が形成される.これらのガラスは一般に衝突対象物質および隕石自体に由来するが,通常の火山岩と異なった組成のものがしばしば認められる.つまり,極めて高いSiO2, FeO, NiO, 低いNa2O量,組成の多様性などが衝撃メルトについて知られている(Koeberl, 1990; Koeberl et al., 1997; Engelhardt et al., 1987). そのようなガラスが見い出されれば隕石衝突の有力な証拠となる.高松クレーターには,上記のように赤色の縞模様を持ち見かけ上不均質がガラスが含まれ,衝撃ガラスである可能性が指摘されてきたが,今回その化学分析をおこなった.

 ガラスの化学分析は,神戸大学理学部のエネルギー分散型X線分析装置(JEOL JSM-840 with LINK Oxford EDS system)でおこなった.励起電圧15kV,試料電流0.5nA,ビーム照射領域10×8μm2の条件で実効時間100秒で分析をおこなった.標準試料として,SiO2, TiO2, Al2O3, Fe2O3, MnO, MgO, CaSiO3, Albite, Orthoclase を用い,ZAF法による補正計算で重量%を求めた.Naの揮発について,この条件で分析対象試料について十分無視できることを,10秒分析を同一領域について約20回繰り返すことで確認した.分析の信頼度を確認するため,地質調査所標準岩石粉末試料の火成岩シリーズ(JB-1, JB-2, JB-3, JA-1, JA-2, JA-3, JR-1, JR-2, JGb-1)をめのう乳鉢で細粒にし,加圧成型した試料を大気雰囲気の電気炉で1370℃,30分溶融・落下急冷して作成したガラスを同じ条件で分析したところ,ほぼ推奨値(Imai et al., 1994)を満足する結果を得た(標準試料および高松試料の分析表の入手は著者まで連絡下さい).

 Table1,Fig.4に,実相寺山南麓露頭で採取したガラス試料の分析結果を示す.分析の酸化物重量合計は91〜100%に渡り,平均は92-97wt.%である.Table1は,それぞれのガラス岩片内のガラスの分析値のうち,光学的に等方なもので変質の影響を受けていない組成の平均を示している.分析は各ガラス片内の組織的に均質な部分について50〜60点の分析をおこなった.Fig. 4には総重量100%に換算した組成を示した.Fig.4では,個々の岩片内で組成のばらつきが認められる.しかし,大半の分析点はきわめてよく集中しており,次のような組成を有する:SiO2=75,TiO2=0.07, Al2O3=14.6, FeO*=1.1, MgO=0.03, CaO=1.1, Na2O =4.3, K2O=3.8 wt.%. SiO2=75±1wt.%の範囲に入らないものについて,鏡下で観察すると,ガラスが変質した部分でであった.SiO2=75±1wt.%の範囲の分析点でも,アルカリがデータの集中部分から外れるものは,鏡下で弱い複屈折を呈す部分であったり,ガラス片の表面付近でかつ酸化物合計が95%以下であり,二次的な組成変化を受けたと思われる.つまり,高松クレーターの火砕流中のガラスについて,変質を受けないガラスの組成は,見かけの組織の多様性にもかかわらず,きわめて一定の化学組成を有している.


2 全岩化学分析

 上記ガラスが他の岩片等とどのような関係にあるかを検討するために,代表的な試料について全岩化学分析をおこなった.分析機器は神戸大学大学院自然科学研究科の全自動蛍光X線分析装置リガク3270E である.分析用岩石粉末は,岩石試料を厚さ1cm程度の板に切りだし,まづ純鉄板と純鉄ハンマーを用いで1mm径以下に粗砕きし,それを自動乳鉢で細粒に粉砕し,さらに乾燥機で110℃,約12時間乾燥し試料を準備した.主成分については,試料と融剤(4ホウ化リチウム)を1:10に秤りとり,誘導炉で融解しペレットを作成した.また,微量成分については,試料と融剤を1:2に秤りとり,誘導炉で融解した.分析の主な手順は三宅ほか(1996),山本・森下(1997)に従っている.分析精度の確認のため,地質調査所岩石粉末標準試料から同様にしてペレットを作成,分析し,推奨値をほぼ満足することを確認した.

 Table 2およびFig.5に全岩分析結果を,その他の岩石組成とともに示した.まづ注目される点は,火砕流を構成する,ガラス岩片,流紋岩岩片,および基質部の分析値が非常に似通っていることである.Na2O量だけは基質部が低い値であるが,これは基質部が殆ど沸石に変質しているため,変質の際組成が変化したことが考えられる.その他の元素については,若干のずれはあるものの,SiO2で75±1%,FeO*量で1.5±0.5%,等強く変質を受けているにもかかわらず,極めて類似した化学組成である.黒雲母デイサイト溶岩の全岩組成は,火砕流堆積物中のガラスの値と比べて,ややSiO2に乏しく,Na/K比はやや低く,TiO2, MgOに富む,等の違いが認められる.