Vesiculation experiment on the Kikai-Akahoya pumice

Higo Tomohiko and Hiroaki Sato

Department of Earth and Planetary Sciences, Kobe University, Kobe, Japan


We conducted depressurization experiments of rhyolite+water system to quantify vesiculation process of magmas during explosive eruptions. Charges are composed of powder of Kikai-Akahoya pumice (SiO2=70%) and water (3,4,5,6 wt%). They are first melted at 1000℃ for 1 hour and decompressed at 5*10^4 Pa/s and 5*10^3 Pa/s, then quenched at 98, 49 and 20 MPa. The number density of vesicles in the quenched samples are in a range of 1*10^13 - 2*10^14 m^-3, which is 2-3 orders of magnitude larger than those obtained theoretically by Toramaru (1995). The number density of vesicles the Kikai-Akahoya pumice is in a range of 4*10^12-6*10^13 m^-3, and may be affected by coalescence of bubbles during expansion of bubbles at low pressures during eruption.


軽石の発泡組織とその再現実験 

肥後智彦・佐藤博明 (神戸大・理)

Vesicle texture of Kikai-Akahoya pumice: natural samples and experimental products
Tomohiko Higo and Hiroaki Sato
(Faculty of Science, Kobe University)
要旨
 気泡生成過程の定量的把握を試みるために、鬼界アカホヤ噴出物の船倉降下軽石を 用い、溶融減圧実験で得た実験試料及び天然試料の気泡サイズ分布・気泡数密度を計 測し、理論との比較検討を行った。減圧速度・含水量が同一の時、単位マグマ体積当 りの気泡数密度は急冷圧力の減少に伴い減少しており、気泡核形成は主に過飽和にな った時点で大半が生じ、それ以降は気泡の合体が生じたことが示唆される。異なる減 圧速度での気泡数密度の比較を行うと減圧速度が速いほうがやや気泡数密度が大きく なる。気泡数密度は、減圧速度が5*10^4Pa/s時には1*10^13-2*10^14(m-3)、5*10^3Pa /s時には4*10^13(m-3)とToramaru (1995)のモデル計算の値に比べると3-4桁大きい値 となった。また、天然の鬼界アカホヤ噴出物についても同様にして、気泡数密度を計 測したが4*10^12-6*10^13(m-3)の範囲であった.プリニー式噴火の軽石の方が火砕流 中の軽石よりも気泡数密度が高く,プリニー式噴火の方が減圧速度が大きいと考える と実験結果と調和的である.


1、はじめに
 マグマの発泡現象はマグマの上昇・噴火様式に密接に関わっており、噴火のメカニ ズムを理解する上で重要な過程である。今回、含水試料の溶融減圧実験を行い気泡生 成過程の定量的把握を試みた。実験試料及び天然試料の気泡サイズ分布・気泡数密度 を計測し、理論との比較検討を行った。

2、溶融減圧実験

 a,実験試料の準備
 実験の出発試料としては、鬼界アカホヤ噴出物の船倉降下軽石を用いた.鬼界アカ ホヤ噴出物は下位から,船倉降下軽石層,船倉火砕流堆積物,竹島火砕流(幸屋火砕 流),鬼界アカホヤ火山灰層,の層序であるが,船倉降下軽石層は組成的に均質(Si O2=71-72%)であるが,竹島火砕流以降の噴出物は組成が不均質(SiO2=66-72%)で ある.実験に用いた試料は,竹島・籠港で採取した新鮮な軽石の中から粒径が5cm以 上のものを選び調製した.試料の組成をXRFにより測定した(表1).

 溶融実験に用いた粉末試料の調整は,まず、試料を蒸留水で数回洗った後、超音波 洗浄により洗浄し、乾燥機(110℃)で12時間以上乾かした。次に鉄板上で粗砕きし て、自動乳鉢機で1時間程度すりつぶし、乾燥機(110℃)で48時間以上乾燥させ、真 空デシケーターで冷却、保存した。粉末試料を検鏡したところ大半の粒子は数μ以下 の粒径で,一部,20μ程度の粒子が含まれる.

 実験のサンプル作製に関しては、まず、パイプ(Pt、銀50-パラジウム50、銀70-パ ラジウム30の3種類を用いた.いづれも外径2.3mm,内径2.0mm,長さ20mm)の片端を溶 接しその重量を計る.つぎに、蒸留水をマイクロシリンジで一定量加え再び重量を秤 り、重量の増加分を水の量とした。次に岩石試料を約20mgを加え、重量の増加分を粉 末試料の量とした。(秤量瓶を用いて粉末試料の含水量を測定したところ,用意した 岩石試料は空気中で約0.15%の水分を含むので,含水量を求めるさいにはこれを加え た.)水と試料を加えた容器の端を電気溶接し、重量を秤ったが、溶接の際の重量減 少は0.1-0.3mg程度であった。乾燥機(110℃)のなかに20分以上いれ、その後、再び 重量を秤ることで水が漏れていない(系が保たれている)ことを確認した。この出発 試料をもちい、神戸大学理学部のガス圧式高温高圧装置(KOBELCO Dr.HIP改造型)に より発泡組織の再現実験を行なった。今回の実験では、噴火前のマグマ溜りに匹敵す る深さとして圧力を196MPaとし、温度は実験試料のリキダス温度より、高い温度の10 00℃を出発とした。実験は、この温度・圧力で1時間保持し、試料を完全に溶融させ 、それから等温等速減圧実験を行なった。減圧速度は5*104Pa/s、5*103Pa/sの2通り の速さで行なった。また、試料の種類(H2O濃度差による)は、斎藤ほか(1996)のメ ルト包有物の分析によると鬼界カルデラ形成時の流紋岩マグマのH2O濃度は3〜5.5wt. %であるので、H2O濃度が3wt.%・4wt.%・5wt.%・6wt.%の4種類とし、蒸留水を 入れる際には、誤差をできるだけなくし、±0.05%以下に抑えた。実験はそれぞれの 速さで減圧した後、98MPa・49MPa・20MPaで試料を炉の低温部(約300℃)に落下させ 、急冷させた。その後、再び重量を秤り、途中で脱水が生じなかったことを確認した 。

 b,実験試料の発泡組織の記載
 実験途中での脱水がなかった試料について、エポキシ樹脂に封入し研磨薄片を用意 した.その反射顕微鏡像をコンピューターに取り込み、気泡組織について画像解析を 行なった。 2値化した画像からコンピューター解析により、計測面積・発泡度・各気泡の等価円 半径をはかり、Gray(1970)の変換式:Z=πN/8b(N;1m2あたりの気泡の個数・b;等 価円半径(m))を用いて、気泡サイズ分布(VSD: vesicle size distribution),およ び,3次元の気泡数密度を次の手順で測定した。
(1)気泡を2のn乗ミクロンの範囲で分類し、それぞれの範囲で個数を計測した。そ の範囲での半径は一律に範囲の中間の値とし、メートル単位に直す(等価円半径b)。
(2)計測範囲を1m2あたりに変換し、各範囲での気泡の個数をNとする。
(3)各気泡範囲でGray(1970)の変換式を用い、その総和を求める。
(4)もとになるメルトの量を同じ1m3にするため、1から発泡度を引き、手順(3) の総和を割る。この数値が気泡数密度(m-3)である。また、各気泡範囲での気泡数密 度を等価円半径の間隔で割った値が気泡サイズ分布(m-4)である。

3、天然試料の発泡組織
 鬼界アカホヤ噴出物の船倉降下軽石と竹島火砕流堆積物の軽石の研磨薄片を作り、 実験試料と同様に画像解析を行い、気泡数密度を求めたところ4*10^12-6*10^13(m-3) の範囲であった。発泡度は73-92%である.プリニー式噴火を代表する船倉降下軽石 の方が,竹島火砕流堆積物中の軽石よりも気泡数密度が高い傾向がある(図1).天 然試料のVSD(図2)の特徴としては,全体として,100μよりも大きなサイズの部分 ではほぼ直線的なVSD分布を示すが,50μよりも小さい部分では下に凸なVSD分布を示 す特徴が共通して認められる.

4、結果
 実験結果の一覧表が表2である。図3には,実験試料の発泡組織画像,2値化画像 ,画像解析で求めたVSD図を示した.図4には,発泡度と急冷圧力の関係を各含水量 について計算した値を曲線で,また,実際の実験試料の値を図示した.一部の試料は 理論予測からかなり外れるが,その原因は必ずしも明かではない.全体としては,実 験試料の発泡度と急冷圧力の関係は理論的予測に沿っており,低圧では大きな発泡度 を示す.実験試料を検鏡したところ,ガラス中に結晶は全く含まれていなかった.図 3に示すように,気泡はほぼ均一に分布しており,発泡度が低い試料ではほぼ球形を 呈する.発泡度が高い試料では気泡が一部伸長,あるいは変形して見える場合があっ た.これは,減圧・発泡に伴ってカプセル容器が変形し,それに伴いメルトが流動し て気泡が伸長・変形したことが考えられる.低圧で急冷した発泡度が高い試料では, 気泡が接しているものが多くみられ,気泡が合体しつつあると判断されるものも認め られる.

 気泡数密度について見ると,一定減圧速度で各含水量について,急冷圧力が減少す ると気泡数密度が減少している(図5).一方,同じ含水量の試料について,減圧速 度の違う試料で気泡数密度を比較すると減圧速度が速いほうが気泡数密度が大きくな る(図6)。 実験試料のVSDは,50MPa以上の圧力で急冷した試料については,VSDがほぼ直線か, 上に凸の曲線を呈するが,20MPaで急冷した試料では,天然試料と似て,全体として 下に凸な曲線を呈する.

5、考察
 図4に示したように,実験試料の発泡度と急冷圧力の関係は必ずしも理論予測と一 致しないものが含まれている。このずれについて,考えられる要因としては,(1) 実 験試料の含水量の推定誤差(主に溶接時の脱ガス),(2) 実験試料に水以外の揮発性 成分(特にCO2)が含まれる,(3) カプセル金属の変形への抵抗,(4) 急冷された場 所での発泡,等が考えられる.(1), (3) は,各圧力での発泡度を抑える働きがある .金属はPt,Ag70Pd30 は比較的柔らかく抵抗が大きかったとは考えにくい.但し,A g50Pd50を用いた場合は若干の抵抗が考えられるものの,金属強度からみてMPa以上の 過剰圧を与えるとは思われない.(4)については,急冷場所が約300℃であり,カプセ ル径が2.3mmであることを考えると,メルトは数10秒以内に固化してガラスになり, 減圧速度を考えると殆ど発泡度は変化しないものと考えられる.但し,冷却の際,気 泡が縮小する場合があるかも知れない.

 次に実験結果について,急冷圧力ー気泡数密度の関係(図5)からは、単位マグマ 体積当りの気泡数密度は急冷圧力の減少に伴い減少している.特に,含水量4%の試 料は100MPa で発泡を開始するので,発泡の初期に気泡数密度が最大になっているこ とになる.つまり、気泡核形成は主に過飽和になった時点で大半が生じ、それ以降は 気泡の核生成は殆ど生じていないように見える.この結果は,Toramaru(1989) の計 算機実験での等速減圧の場合に予測されていたもので,今回,実験的に裏付けられた ,といえる.急冷圧力が減少するにつれ,気泡数密度が減少することについては,(a ) 減圧に伴い,気泡が成長・合体して数密度が減少する,(b) 過飽和度が小さい条件 であるので,臨界核サイズが大きくなり,一種のOstwald ripening により小さな気 泡がつぶれ,大きな気泡のみが成長したことが考えられる.20MPaまで減圧した試料 については,実際の気泡組織からみて,気泡合体が生じているので(a) の機構が有効 と考えられるが,50MPaで急冷した試料については必ずしも気泡合体の組織的証拠が ないので,(b)の機構が働いた可能性が大きいように思われる.VSD曲線で,実験試料 の急冷圧力が大きい試料については,VSDの極大が10μ程度のサイズで認められ,そ れより小さな気泡が少なくなっている.このことは,減圧過程で小さなサイズの気泡 がOstwald ripening によりつぶれていったことを示すものかも知れない. VSD曲線で,急冷圧力が低い試料で下に凸の曲線であることは,低圧で気泡の減圧膨 張の効果を見ているものと思われる.急冷圧力が高い段階では気泡の成長は主に水分 子の拡散濃集によりおこるので,VSDは直線,あるいは上に凸の曲線になる.

 今回の溶融実験結果をToramaru(1995)の計算機実験での予測と比較したところ,溶 融実験結果の方が計算機実験結果よりも3ー4桁大きな気泡数密度を与えた(図7) .この違いの原因として考えられることは,計算機実験で用いられているパラメータ の値の不確かさ,溶融実験での核形成機構が不明であること,などが挙げられるが, 現時点ではその詳細は明かでない.

 一方,溶融実験と天然試料の気泡数密度とVSDについての比較すると,ほぼ同じ気 泡数密度を与えている.溶融実験では急冷圧力が最低でも20MPaであるが,天然の噴 火過程では軽石の発泡はほぼ大気圧まで進行すると考えられる.実際,天然軽石の発 泡組織の解析では,気泡の合体がかなり進行していることが考えられる.ただ,天然 軽石の気泡数密度について,プリニー式噴火の軽石の方が,火砕流噴火で生じた軽石 よりも気泡数密度が大きい(図2).溶融実験の結果では,減圧速度が大きい方が気 泡数密度が大きく(図6),気泡数密度からみて,プリニー式噴火の方がマグマの上 昇・減圧速度が大きいことになる.これまでの噴火モデルでも,火砕流噴火よりもプ リニー式噴火の方がマグマの上昇速度が大きいことが予測されていたが,今回の実験 と天然試料の気泡数密度の測定結果からこの予測が裏付けられたことになる.
6、まとめ
(1) 単位マグマ体積当りの気泡数密度は急冷圧力の減少に伴い減少しており、気泡 核形成は主に過飽和になった時点で大半が生じ,Toramaru(1989) の計算機実験での 予測を裏付けた.
(2) 異なる減圧速度での気泡数密度の比較を行うと減圧速度が速いほうが気泡数密 度が大きくなる.天然の試料について,プリニー式噴火の軽石の方が,火砕流噴火の 軽石よりも気泡数密度が大きく,このことは,プリニー式噴火の方がマグマの上昇・ 減圧速度が大きかったことを示すと考えられる. 謝辞
 本研究の一部に工藤唯志氏(現,日本工営(株))の神戸大学卒業研究で収集され た資料を一部使わせて頂いた.また,神戸大学火山グループの皆様には議論して頂い た.1998年5月の地球惑星科学関連学会合同大会では,寅丸敦志博士,萬年一剛博士 ,宮城磯治博士,ほか多くの方から建設的な議論をして頂いた.記して感謝いたしま す.


引用文献

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高橋栄一・宮城磯治・東宮昭彦・G.Caprarelli・中村美千彦(1993)落下急冷式内熱式ガス 圧装置(マグマ溜りシミュレーターSMC-2000)による噴火マグマ溜まりの再現実験.日下部実編「自然災害の予測と社会の防災力」,26-48.
Toramaru, A. (1989) Vesiculation process and bubble size distributions in ascending magmas with constant velocities. J. Geophys. Res.,94, 17523-17542.
Toramaru, A. (1995) Numerical study of nucleation and growth of bubbles in viscous magmas. J. Geophys. Res., 100, 1913-1931.
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