私は1985-1995年に在籍した広島大学では教養的教育担当の総合科学部にいたので,1年生対象の地学概論の授業をおこなっていました.地球史の中で現代が特異な時代であることを実感させるために,次のような例をあげていました.2000年前の弥生時代と現在の生活様式の違いが大きいこと,一世代が25年だとすると,この時間は80世代に相当すること.自分の親,祖父祖母,曾祖父曾祖母と繰り返してたった80回で弥生時代にたどりつくこと.しかし,現代は数年経つと世の中の変化が著しいこと.などなど.
本川達雄「ゾウの時間,ネズミの時間」中公新書によると,生物の体重の対数と生息密度の対数は比例関係にあって,その式を用いると人類の体重の生物は1.4匹/km2となる.実際には世界全体の人口密度は36人/km2であって,食物連鎖で生存可能な人口の26倍の人間が食料増産によって地球上に過剰に存在しており現在も増え続けている.食料増産には限界があるので人口はいつまでも増加し続けることはできないこと.100年先の予測の難しさ.
ところで「80世代の謎」について.今年5月頃,神戸大学の1年生対象の「地球と環境」の授業が当たって思いついたのですが,一人の人間の親(2名),祖父祖母(4名),曾祖父曾祖母(8名)と繰り替えして80世代遡ると,その人数は何と,2^80≒10^24 人という天文学的な数になってしまいます.これまでに地球上に生きた人間は100億人程度(10^10人)でしょうし,だんだん増加してきたことを考えると明瞭に矛盾します.学部の授業(岩石学2)の折に聞いて見たら何人かが答えてくれたように,どうも人間の遺伝子は途中でたいへん混ざりあってきたということになるのでしょうか.感覚的には「人類皆兄弟」とどこかの新興宗教みたいですが,ここらへんの処を簡単な数学で表現できると面白いなと思った次第.多分こんなこと考えた人はたくさんいるのでしょうが,これまで寡聞にして知らなかったので,ここに掲載した次第です.うまいモデルがあったら教えて下さい.賞品? うーん困った.(1999.6.23)