花崗岩の研究

 

以前、私は深成岩を無視することにしていました。深成岩は固化・冷却の際に元素の再移動があって、火山岩のマグマ溜りを見ることにはならない⇒従って、火山岩は火山岩に語らせるべきで、深成岩を見ても参考にならない、という姿勢です。最近、若干心境の変化があって、花崗岩に少し手を出しています。火山岩中の斜長石斑晶の累帯構造の成因を考える上で、斜長石のMg,Fe量が手掛かりになることを考えたのですが(PODP,1989、Amer. Min., 1995, 地質論集46,1996など)、しばしば斜長石中でMg,Feは拡散が早くて履歴を残さないのでは、という指摘・質問を受けます(ドイツ、ハノーバー大のセミナーではHarald Behrensに指摘されました。彼はDr論文が斜長石中のMg,Feの拡散がテーマでPhys.Chem.Minerals1989に長い論文を書いている)。最近、Wasserburgの処でMgの拡散係数が計られましたが(EPSL)まあまあ早い、ただしAnorthiteについてです。ここらへんの処は、焼きなまし時間の長い深成岩の斜長石を扱ったら手掛かりが得られるのではと考えたわけで、無視してきた深成岩にお世話になろうという次第です。丁度、神戸大発達科学部の田結庄先生の所で森岡孝三郎さんが、2000年に学位論文として近畿地方の花崗岩の研究をされ、その審査員に当てて頂いた機会があったので、森岡さんと田結庄先生にお願いして、彼の葛城石英閃緑岩の薄片5枚をお借りしてepmaによる斜長石分析をおこなってみました。斜長石のMg含有量が低くてその面ではあまり収穫がなかったのですが、斜長石のK含有量についてはやや面白い結果が出たので、2001年の合同大会にポスターでだしました。斜長石のKの問題は、1999年に高橋正樹が神戸大に集中講義で来られたときに、鳴門の村田さん、三田の先山さん、姫路の後藤さん達と雑談していて、正樹さんが「花崗岩の7つの謎」なるものを考えてくれたうちの一つのテーマでした。たぶん正樹さんは、昔東大岩石で、池田幸夫さん(現茨城大)や福山博之(没)さんが実験をしてAnにKが溶解しないこと、長石温度計を適用してなかなか適当な温度が得られないことを聞いていて、一方、佐藤が1974年に地質学会で斜長石中のK含有量の話をした(1984岩鉱誌)ことを記憶のどこかに持っていて、7つの謎の1つとしてわざと取り上げてくれたのかもしれません。ともかく、葛城石英閃緑岩中の斜長石ではリムの数10ミクロンでKが拡散プロファイルを示しており、それから拡散時間を見積もると100年オーダーで結構早く岩体が冷えたことになります。ここいらは、なかなかまとめにくいのですが、丁度、2003年に岡崎で第5回のHutton Symposium(4年毎の国際花崗岩研究集会)があるので、それに出そうかと思っています。こんなに手を広げているから全体としての研究成果のインパクトが低くなってしまうのでしょうか。